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帰省、目覚め

ジュリアス様は渋いので書いてて好きです。

というかみんな性格が良すぎて困ります。

いつまでたっても主人公より嫌な性格の奴が出てこないっていう。

 家を旅立ったときと寸分変わらぬ我が家は少数精鋭の使用人の人たちによってまめに手入れが行われているようで。

 俺の顔を数年見なくてもあっさりと見分けてくれたのは僥倖と言うべきだった。

 父親にまで忘れられていたらなんと言おうか激しく迷う。


「久しぶりだな。レイル。つもる話もあるが、とりあえずそいつを寝かしてこい」


 ジュリアス父上は現状把握能力が高い。いや、俺が何をしても動じない。息子が意識のない女の子を連れてきてるんだぜ。もうちょっと反応してくださいよ。

 無事だったことを喜んでくれているのはわかるけどさ。

 メイドさん方も特に反応を見せずに獣人の女の子を客室へと運んでいった。


 相変わらずのいかめしい表情は他の人が見れば機嫌が悪いようにしか見えないだろう。


「お義父さん、機嫌いいね」


 俺にアイラがこそっと耳打ちした。

 いや、アイラ、確かにその通りなんだけどあの顔を見て家族と使用人以外でそんな風に言えるのはお前ぐらいだよ。

 あとお父さんの響きが妙じゃなかったか。


「無事目的の一つである神との再会を果たせました。これからはとある事情でいつでもすぐに戻ってこられるようになりました」


 俺の言葉に合わせて三人がぺこりと頭を下げる。


「ああ、息子の友人だろう。畏まらなくてもいい」

「じゃあ、私たちはこれで」


 カグヤが気を使って出ていった。親子水入らずで話しなさいよ、とウインクしていく様はやや似合わない。

 ロウはこういう大人と触れ合うのは苦手なのかやや嬉しげに退散していった。

 自慢の仲間を紹介したかったんだけどなあ。凄さを見せようにも相手がいないんじゃあ仕方ないか。ロウの凄さとかホイホイと見せられるもんでもないし。


 二人残されて気まずいというほどでもないが、微妙な沈黙が室内を支配した。

 もしかしたら緊張しているのは俺だけとか?

 生前の記憶分合わせてもこの人には経験値で勝てないんだよなあ。


 俺は父上の前にある客椅子に腰掛けた。

 座れと言われたわけではないが息子だしそれぐらいの礼儀は勘弁してもらえるだろう。


「あいつらが俺の仲間です。他にも部下やら友達が何人もできました」


 死神とか悪魔とか妖精とかクラーケンに魔王、エルフとかお姫様とか元奴隷商とかな。

 あの変態魔導具屋は友達にカウントしたくない。

 こうして見るとロクなメンバーがいないことがわかる。

 あ、冒険者組合ギルドの先輩方は人格者だったわ。

 みんないい奴なんだけどな。字面だけ見るとまるで世界征服でも目論んでいそうなメンバーなんだよな。


 魔王たちの友好範囲が魔族と俺たちに限ったところを見ると俺の方がファンタジー的イメージにおける魔王に近い。


「いろいろ見てきたようだな」

「ええ。魔法が使えない理由もわかって解決しましたし」


 おかげで下手な雑魚に押し負けることはなくなったかな。


「楽しいです」


 真心からの真実であった。

 邪神復活の生贄にされかけようが、冒険者が挑んでこようが楽しかった。

 まだまだたいした酷い目にはあってないとも言える。


「お前は最初から妙な子供だった」


 いつになく真剣な表情で父上は語る。


「流暢に話し、判断力も自制心も大人と遜色ない人間だった。そう、本来人格とは歳が一桁のうちにゆっくりとつくられるもののはずが、お前は最初から完成していた。いや、完結していたというべきか」


 そうかな。旅に出てからもちょっとずつは変わってるつもりなんだけど。まあ普通の子供に比べればそうかもな。だって精神年齢は高かったし。とはいえ精神年齢だけが全てじゃない。体に引っ張られているところもあったはずだ。


「お前は全てを知っているかのような顔をしていた。この世界で強く生きる術も、人の顔色をうかがう能力も」

「買いかぶりですよ。俺はあの時は弱者だった。そして今も」


 腕っぷしじゃない、知識じゃない。

 覚悟とか、性格とか、そういう存在的な意味でだ。


「子供が興味を示す多くのものに全くといって無関心だった。書斎にこもって本を読み、たまに体を動かすかと思えば鍛錬だった。謎だったよ。そこまでしていてどうして魔法が使えず、剣の上達も人並みだったのかもな」


 俺が転生したことを話すべきだろうか。

 信じてもらえる、もらえないはあまり関係ない。それに元々血さえ繋がっていないのだ。中身が異世界の人間でもそんなに問題ないかと思った。

 だが言う必要はないかと思った。

 それを不誠実と言う人もいるかもしれない。

 これはジュリアス・グレイとレイル・グレイの問題である。

 話す必要に駆られてからでも遅くはあるまい。


「だがお前の異常さを見るにつれ、きっとこの子は"それ"と引き換えにそういった能力を捨てたのかと思っていたよ。いつも外れた発想で自身の価値さえ隠そうとしたお前を見たらな」


 隠すつもりはなかったが、なんというか……お披露目する機会がなかっただけだよ。

 どうやら俺という人間は暖かな王道日常ストーリー展開ではあまり役に立てない人間みたいでな。

 どちらかというと研究と戦闘を組み合わせて相手の弱さをついたり、展開を読むということにだけ長けていたようだ。

 それでも間違えたり負けたりするのだから大変なものではある。

 なんとか死なずに戻ってきたのだからいいだろう。


「レイル。お前が何を見ているのかはわからん。だが、怖がられていたな……」


 怖がられていた? 誰が?

 まああまり子供らしくない子供であったことは認めよう。でもそんなに子供のころは何もしてないだろ?


「お前も自分の能力だけを見るのではなく、その魔性の脳とそれを支える人格が生み出す覇気のようなものを自覚した方がいいぞ」


 やや忠告するように、どこか誇らしげに諭す父親に何も言えなくなった。


「ええ。またあの子の様子を見てきます」


 いつの間にか手を強く握りしめていたらしい。やや汗のかいた手を拭って客室へと向かった。





 ◇

 客室にはメイドによって獣人の子の分と三人の分の紅茶、菓子に獣人の子の介抱用の諸々が用意されてあった。

 俺が来ることがわかったのか、すぐに俺の分まで用意された。明らかに俺が来る前から用意していないと間に合わないタイミングだった。


「容体はどうだ?」


 真っ青な顔をして寝台に横たわる女の子は呼吸をしているのかとさえ疑ってしまえる。


「ときおりぴくりと動くし心臓も動いてるわ。生きてる」

「じゃあ大丈夫だな」


 水にもまれて衰弱しているからだろう。

 酸素不足などはとうに解決してるだろうし、うっ血とか危険な症状も見られない。


「とりあえず冷えた体を温めておこう」


 クラーケンはさすがにバカじゃあないので、彼女を運ぶときは空中に出していたはずだ。

 だが長い間海水に浸かって、かつ風に当たり続けた彼女の体は冷えきっていた。


「起きるかなあ」


 アイラの心配は心からのもので、そこらへんはまともに育ったようで嬉しいとどこか頑固親父のような感情を振り払いながらその横顔を見つめた。

 メイドさんはひとしきり世話を終えたあと、用があれば申しつけくださいと部屋の外へと引っ込んでしまった。

 代わりに執事のゲンダさんが入ってきて座った。


「お久しぶりでございますな」

「ゲンダさん……」

「旦那様もレイル様に会いたがっておられましたよ。王城でレオナ様とご一緒に不満を漏らすぐらいには」


 ちょっと。何やってんだよ親父!

 と思春期真っ盛りの男の子ならば父親の親バカぶりを恥ずかしがって叫んでいるところだ。

 俺? まあ永遠の思春期ではあるが……そんな初々しい青臭い感じじゃあないかな。


 それから小一時間、彼女の横でたわいない話をしながら待った。







 と、その子のまぶたが微かに揺れた。


「ん…………」


 まぶたはゆっくりと開き、彼女はごろりと寝返りをうった。


 謎の少女が目を覚ました。


 縦に伸びた瞳、ややうっすらと生えた産毛がどことなく桃を思わせる彼女はきょろきょろと自分の周囲を見渡して叫んだ。


「ニャ……なんなのっ!!」

ここで一筋縄でいかない子が登場。

猫耳ってあまり触ったことないけど、やっぱり柔らかいのかな……

とりあえず撫で心地については普通の人もかわいいってことで決着がつきます。

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