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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
自治区発展編

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92/200

クラーケンの拾いもの

 アイラ、ロウ、カグヤの三人とともにギャクラに向けて発った。

 アークディアはまた魔法陣の中に入ってもらった。ホームレスは残ってシンヤの手伝いをしてくれるようだ。


「ちょっと寄りたいところがあるんだ」


 と言うと三人は特に何も言わずに頷いた。



 あの日までは一度行ったことのある場所でも戻るだけで随分と時間がかかった。だが今はそんな時間も短縮可能になって嬉しいかぎりだ。

 空間転移でこの大陸の西に位置するある海岸へと来た。

 そこにはあの日と変わらぬ様子で……ちょっと見た目は変わったヤツの巨体を見ることになるのであった。


 俺たちが海岸に近づくと、ザバンと水柱をたててぬめりとした胴が現れた。続いて長い二本の足が陸地を掴み、体の下半分にある顔を水上へと浮上させた。


「久しぶりだな、クラーケン」


 巨体の主に話しかける。

 魔物でありながら話すことのできる数少ない存在。旅の中でも二度しか見たことがなかったぐらいだ。


「やっほー」

「会いに来たぞ」

「いい子にしてた?」


 三人を順に見てクラーケンの顔がパッと楽しそうな色を浮かべた(ような気がした)。

 クラーケンの表情なんざわかるわけねえだろ。そんなツッコミさえゴミ箱に捨ててしまえば次の言葉で確かに嬉しかったのだとわかった。


「久しぶりでございます! ずっとお待ちしておりました!」


 こいつは人懐っこいクラーケンだよな。イカかタコかわからないのにイヌみたいって。

 こいつはどうやら海の中にいてもテリトリーの中に人が入ればわかるらしい。

 なんつー聴覚をしてるんだか。思わずそう言った俺にクラーケンは聴く、ということはわからないが音は肌で感じているのだとかいうことを言った。

 こいつ……肌で感じた音を言語処理できるのか。


「我が腕を磨いておりましたが、主はそれ以上に強くなられたようですな」


 クラーケンはそんなこともわかるのか。


「おう。もう一対一でも負けねえぜ」


 ちょっとかっこつけすぎたか。

 そういうのは大事なときにとっておくもんだっつーのに。


「だが珍しいな。シンヤからよく外洋に出ていると聞いてたから会えるかどうかは博打だったんだがな」


「ええ。それがですね」


 クラーケンは長い二本の手代わりの足以外の二本の足であるものを俺たちの前に出してきた。

 クラーケンの大きさからすれば随分小さく、気になって拾ってきたというには光物でもないし……あれ、人じゃね?


「ちょっと、あんたなに持って来てんのよ! どこから攫ってきたの!」

「うわあ、誰なの? ワラビーちゃん?」


 なんでワラビーなんだよ。ああ、俺が教えたからか。でもそいつはどうしたってワラビーじゃない。よく見ろ。俺はシルエットしか見えん。

 目のいい女性陣はそれを女の子だと判別したようだ。

 だけどそのわりにはなんだかふさふさしてるような。


「外洋に出ているときに流されているのを見つけましてね。まだ息があるみたいなので連れてかえってきたってところです」


 クラーケンはその子を陸地に置いた。

 水でビショビショの薄着はやや目の毒ではあるが、そんなことを気にしている場合でもない。

 どうして海を流されていたのかとか聞きたいことはいくつかあるが、なによりその耳に目を奪われた。


「耳が……」


 ああ、それでアイラは最初に動物の名前を出したのか。

 確かに普通の"人"じゃあなかったようだ。


 可愛らしいその耳は霊長類以外の哺乳類、つまりは獣人によくあるタイプの猫耳だったのだ。








 四人は未知の獣人を前に戸惑っていた。

 獣人についての情報は真偽のさだかでないものが多く、その多くが差別的に書かれていることから俺たちは自分の目で見てから判断しようなんて呑気なことを言っていた。

 だが実際にこうして目にするとなんとも言い難い。

 いや、俺自身は前世の影響でケモ耳っ娘とか萌えるわーって流せるんだけど、彼女がこっちをどう捉えているかなんだよな。


「じゃあこいつの処遇は俺らに任せてくれ」


 いや、クラーケンの手柄を横取りしようってわけじゃあないんだよ。

 ただ目が覚めたときに助けてくれたのが軟体動物ってのもショックが強いかななんて思ってさ。

 流れ着いたところを人間に介抱されましたって方がいいだろ。

 明らかに遠くに流れ着きすぎているのは別として。


「で、連れてきちゃったわけだけどどうするの?」


 カグヤが俺の背中を見ながら言った。

 名前も知らぬ猫耳っ娘は現在俺の背中に背負われている。

 ちょっと爪が猫っぽかったり、ヒゲや耳を除けばあまり人と変わりばえしない。

 こうして寝てるところを見るとまるっきり普通の子である。


「元気になるまで面倒見た後は本人の意思に任せよう。うちのクラーケンが拾ってきちゃったんだから最後まで面倒は見るよ」


「はあ……お前ってなんだかそういう面倒事好きだよな」


 ロウは俺のことをそんな風に言った。そうかもな。

 結構首は突っ込むほうだ。

 人を助けたいとかそういう高尚な理由じゃあないけれど、これだけ金があってしたいこともないと面白そうなことに首でも突っ込まないとやってられないってのもあるかもな。


「じゃあ連れていってって言われたら連れていくの?」


 アイラは微妙な顔をしている。

 反対するべきか、それともしないべきか迷っているのか。


「おう」


「今度は獣人の国か……」


 かつて読んだ書物の記憶を手繰り寄せるようにアイラは遠くを見つめた。


「みんな耳が犬や猫なのかなあ」


「かもな」


「ワラビーはいないの?」


 そこかよ。

 憂いに満ちた顔はなんだったんだよ。


「知らねえよ」


 どうしてワラビーにこだわるんだよ。そんなにワラビーが好きか。一度そういう動物がいるって話をしただけなのによ。


「いいんじゃない? その子の家族も心配してるだろうし」


 カグヤがやっぱり一番まともな人間だな。人間かどうは別として。

 やっぱこいつが勇者やればいいんじゃね?

 手っ取り早く平和になりそうだ。


「ま、その前にギャクラの自宅で面倒見るからどっちしろギャクラに行くんだけどな」


「そうね。一度挨拶しといた方がいいものね」


「俺らんちはどうなってるだろうな。旅立つときに畑は諦めたけど家はまだ売ってないし」


「諦めなさい。レイルやアイラと違って家族が待っていてくれるわけでもしっかりとした家でもないんだから。あんなの小屋よ小屋」


 カグヤの方がサバサバとしている。

 ロウが惜しんでいるのはどちらかというとカグヤと過ごした場所を思い出ごと懐かしむような感じだと思う。


「もし潰されてたらまた建てればいいだろ。それに家がなくなっても過ごした時間はなくならねえよ」


 そう言いながら空間転移で道を繋げる。

 いつものように亜空間に穴が開き、向こうには歪んだ風景が見える。

 あまり騒ぎになりたくないので目的の場所から離れた、人のいない地点へと繋げている。


「行くぞー」


 久しぶりのギャクラである。

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