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またかよ!

 

 また決闘を挑まれた。


「決闘だ! 俺とお前が。メリカとそこの赤いのが戦え!」


 だからさ、強さで有用性を測るのどうかと思うよ?だって俺があげた功績ではほとんど戦ってないんだからさ。知らないの?


 だけど以前とは全然状況が違う。今度は身代わり(カグヤ)がおらず、ミラはこんなことで出したら相手が死ぬし、レオナは戦いに出すわけにはいかない。


 そう、俺が逃げるわけにはいかないわけだ。


 それに加えて前よりは強くなっているからなんとかすれば勝てるだろうし、負けたところであまり痛くもないんだよなあ。


「アイラ、いけるか?」

「殺していいなら簡単」

「良くねえよ」


 そりゃあね。

 お前の近代兵器もどきの魔導具の数々があれば、試合開始と同時に相手が死ぬよな。


「じゃあ……」

「無理っぽいか?」

「めんどくさい」

「だよな」


 俺はトーリと呼ばれた勇者もどきとメリカと呼ばれた魔法使いに向き合った。


「つーわけで俺対お前ら二人じゃダメなわけ?」

「そんなことで勝っても納得できるか!」


 ああめんどくさい。

 何故勝てることを前提に話を進めるのか。

 仕方なく代替案を出してみる。


「じゃあ同時に行うってことでどうだ? 俺、アイラ対お前ら二人」

「それなら……」


 納得しかけた二人にまったをかける者がいた。


「私がいく。あの女、任せて」

「お、おお。いくか?」

「めんどくさいって言ったけど、あんな程度だったら両手両足封じればなんとかなるでしょ」


 思わず周囲を見渡す。

 よかった。ちゃんと回復が使えそうな人がいる。


「すいませーん、皆さんの中に治癒術を使える方はいますか?」


 おずおずと一人の女性が手を挙げた。

 白を基調としたゆったりとした生地に青の筋が入った上着を着ている。

 修道服というのだろうか。


「じゃあ戦いが終われば治癒の方お願いしても構いませんか? お金がお入りようでしたら用意しますので」

「い、いえ。神に仕える身としてここに籍を置かせていただいているので、こういった場合は勇者候補の方とそのお仲間の方ですので……」


 そうか。

 魔族と魔物を敵視する宗教の関係者からすれば、そういったことに力を尽くす役目の勇者候補は本来尽くすべき相手。

 お金など取らないから宣伝に一躍かってくれってか。

 いや、そこまで考えちゃあいなさそうだが、とにかくお金はいらないようだ。


「ははっ。軟弱な勇者様は戦う前から怪我の心配か? よかったな。それとも口説いてるのか? 負けた時に同情を引こうたって無駄だぞ?」


 どうやらこいつは俺がとんだナンパ野郎に見えるらしい。

 この濁った目に性格を良く見せようともしない対応、どうすればそう見えるのか。


「おう。心配だな。ただ、怪我は怪我でもお前らの怪我の心配だけどな」

「ふざけやがって……」


 どうやらおバカさんというのは怒れば怒るほど語彙が貧弱になっていくようで、セリフのレパートリーも少なくなってきている。

 というか元々こいつのセリフが三流のそれだからなあ。

 そろそろフラグ立てるのやめないとそのうち酷い死に方しそうだ。


「決闘方法は?」

「どちらかが戦闘不能となるか降参するかが条件だ。今からでも遅くはないぞ」

「じゃあその方法で。魔法も武器も制限はなしか?」

「当たり前だ」


 言ったな?

 言質はとった。俺たち相手に魔法と道具の制限無しで戦う愚かさを刻みつけてやろう。


「じゃあ最初の宣言通り、俺があんたと。アイラがそっちの姉ちゃんの相手をしよう」


 俺が戦いを避けてきたのは勝てないからであって、戦うことが苦手だと臆面もなく言えるほど人畜無害な性格はしていないつもりだ。

 戦いにおいて強さにさえ慢心しなければ、ある程度実力を見せないと冒険者としてもやっていけないというのもある。

 この世界はゲームじゃないんだから、チートを使って勝ってくることができない。それでもなお、勝ってきたという事実を否定されるなら目の前で見せるのもやぶさかではないと思ったのだ。


 そう、俺は別に関わりたくない、強さを隠したいという感じはない。

 ひけらかす感じでもないが、自分の力には自覚を持つべきだと思うんだよな。

 未だに俺の力がどんなものかわからないし。

 事件があれば自分の利益になるように解決しようとするし、困った人がいれば恩を売れるようにと手伝ったり助けることもある。


 今回の利益は実力を見せる、か。


 物語の主人公がこぞって嫌いそうな報酬だよな。

 物語の主人公どもはイライラする。できることをせず、隠したがるか、力に溺れて調子に乗ったり。

 武器だけ隠せばいいじゃないか。俺の場合はどうしてそうなったのか、それを裏付ける現代日本で得た概念や知識さえ、そして記憶を保持したまま生まれ変わったという事実さえ隠せばいいのだ。

 いや、人というのは他の人に感情移入すればするほどイライラするものなのかもしれない。俺だって多分心情の中までじっくりと見られていればイライラされることだろう。


 というわけで決闘開始だ。


 とっておきは最後だ、と本人が言うかと突っ込むべき残念さを発揮してくれた相手方の勇者様(笑)の意見によって先にアイラとメリカの対戦を行うこととなった。


「行こう」

「ちょっと待て」


 俺はアイラにあることを耳打ちした。俺が二人を見て思ったことを。


 当事者は戦う場を探して町の外まできた。

 後ろからぞろぞろと野次馬がついてきた。

 周囲は野次馬が集まっていて、彼らが一定以上に近づかないことで円形の場が出来上がっていた。


「せいぜい顔だけは庇いなさいよ。女の命だから」


 不敵に笑うメリカさん。

 自己顕示欲の強いこの相手たちがまさか年下相手の決闘で負けることを想定して野次馬を蹴散らしたりはしなかった。


「はあ……勇者候補って馬鹿ばっかりなの? みんなレイルくんみたいだったら……いや、レイルくんは一人だからいいんだよね」


 なんじゃそりゃ。勇者候補が俺みたいなのばっかりって。国を滅ぼす気か? 考えるだけでも悪夢じゃねーか。


「ところで」


 俺は気になっていたことを聞いた。


「この決闘に勝った方は負けたほうにどういうことをさせるんだ?」

「ふん。そんなの決まってる。お前は勇者に相応しくない。勇者候補をやめてもらう!」


「えっ。じゃあ俺が勝てばお前を勇者候補から外すの?」

「ああ!」


 ええー。そんなの損じゃねえか。

 人間以外への対応能力が高い奴が勇者ってことはこいつを減らすことは人間の平和から遠ざかるってことだろ。

 いや、正直こいつが勇者候補であろうがなかろうがどうでもいいけど、こいつを勇者候補じゃなくした、っつー評判が立つのがダメだ。


「じゃあこれでどうだ? お前らが負ければ勇者候補じゃなくって俺の下につくってことで。シンヤに任せている自治区の用心棒でもやってもらおうかな」


 正直こいつなんか面倒くさそうだし、シンヤと違って全然役にも立たなさそうだからいらないんだけど。

 はあ……とうとう無能な部下を抱える上司の気持ちを十代のうちに味わうことになるかもしれないなんてなあ。

 あそこで育てれば多少はマシになるかな。

 結構強ければホームレスの遊び相手になるかもしれないし。

 もともと遊び人として飽きっぽいあいつは魔獣を捕まえるのにも飽きたみたいだからちょうどいいか。


「では。決闘開始!」


 アイラは鉱山の時と同じ六連式リボルバーを二丁持って対峙している。

 いちいち弾を装填する手間が面倒くさいといって、同じ銃がもう二つ腕輪の中に仕込まれていることは俺しか知らない。

 そもそもあいつ相手に十二発も使うのか。


 開始と同時に魔法使いはその職業に似つかわしく両手を前に魔法を発動する。いきなり大技を使うのではなく、小技で撹乱するつもりなのが目に見えている。

 岩でできた弾丸を空中に二発ほど生成し、それをそのまま打ち出す。

 拳ほどの大きさのそれは狙いを過たずアイラに向かって飛んでいく。


 まるでコンクリートのようにツルツルとした滑らかな岩石の弾丸にしたのが間違いだったのかもしれない。

 アイラは何の感情もないままにその銃口を弾丸に向けた。

 右、左の順番で打ち出された鉄の弾丸は岩石の弾丸を砕くことはなかった。

 横から、もう一つは下から当たったのだ。

 すると弾丸はその軌道を変え、アイラに当たることなく背後へと飛んでいった。


「ぐほぉっ!」


 観客の一人が後ろで岩をくらって吹っ飛んだ。

 自業自得だ馬鹿野郎。


 そしてアイラの放ったそれは見事に跳弾し、相手の腕と頬をかすった。

 ぱっくりと細く赤い線ができて、そこから一筋の血が流れた。


「のうレイル。アイラはあそこまで強かったんじゃのう」


「誰が教えてきたと思っている」


 反射の法則は教えたが、まさか弾丸を目視してから反射が可能と判断してしかもそれを狙って撃つとは思わなかった。が、アイラが不本意そうな顔をしているのを見るにはおそらく狙ったのはかすらせるのではなくて直撃だったんだろうな。


「ま、マグレで当たったからって調子にのらないでくれる!」


 あれをマグレだと勘違いするか。

 いや、そう思わないとやってられないんだろうな。

 だから負けるんだよ。これが最後のチャンスでまだ警告に済んでいるうちに降参しておけばよかったのにな。


 岩石を受けて気絶した観客以外が何が起こったのかわからないままにアイラの銃を穴が空くほど見つめた。


 アイラの辞書には様子見の二文字はない。

 全てが狙った一撃で、もちろん外すことさえも想定していたのだろう。


 無駄口を叩く彼女を無視して、もう二発、そして一発を打ち込んだ。

 一発は肩に。二発目がもう片方の腕に。最後が足に当たった。

 随分と優しいじゃないか。


「きゃぁぁぁっ!」


 魔法使いは悲鳴をあげた。

 近接戦闘の得意ではない職業にある彼女は今までに重傷を負ったことがないはずだ。

 しかも攻撃は未知の攻撃。この世界では実現していない六連式リボルバーは魔術とも武器とも違う異形の傷跡を残した。


 アイラは動きを止めない。

 撃った直後に一気に距離をつめた。そのまま彼女の目前まで来ると、腕輪の中のとある武器と銃の一つを交換した。長い棍を取り出したのだ。

 棍で彼女の足をはらうと彼女はバランスを崩した。

 ぐらりと傾く彼女を掴んで押し倒し、その眼前に銃口を突きつけた。


「はい。終わり。この武器の仕組みがわからなくても結果だけは見たでしょ? 選んで」


「ふふっ。選ぶって何を」


 強がりなのがバレバレである。

 足は震え、声にも力がない。

 アイラは無表情で続けた。


「死ぬか。降参するか」


 死ねば当然戦闘不能である。

 というかもうすでに戦闘不能と判断してもおかしくないまでに追い込まれている。

 これは相手に言い訳させないために完膚無きまで叩きのめす戦法であろう。

 よくわかる。だって俺が教えたことだから。


「あんたは……魔法使いじゃないの?!」


「どうして私が魔法使い的後方支援係だと勘違いしてたのか知らないけど、私の仲間が前衛が多すぎて前線に出るとき邪魔になるから後ろから狙撃してるだけなんだよ」


 多分アイラが魔法使いだと、または弓矢で戦うようなサポートだと思われたのは彼女がそう扱われているからだろう。

 彼女のパートナーである勇者、彼はおそらく彼女にこんなことを言っているはずだ。

 君を危ない目には遭わせたくない。血なまぐさい戦いも似合わない。

 どうか俺を支えてくれないか。

 とこんな感じのことを。


 危険を、邪悪を、不条理を。

 悪意を、攻撃を、残酷さを。

 彼女をあらゆる負の側面から遠ざけようとしたのだ。

 男に大切にされることに慣れている彼女は、当然アイラも後方支援だと勘違いしていた。

 アイラは見たところ武器を何も持っていない。肉体も鍛えているかのようには見えない。多くが後方支援の魔法使いだと勘違いするし、普段は後方支援なのは間違いない。


 俺が試合の前に耳打ちしたことはそのことだ。

 あいつ、後ろで魔法をぶっ放す支援役だぞ。近接に持ち込めばやれるし、そもそもお前を魔法使いだと勘違いしているかもしれない。と。

 アイラはそれに対して痛烈な皮肉を言ったのだ。

 後ろで守られているだけの可愛いだけの役立たず、と。

 決闘は一瞬だったけど、それが始まる前に読み合いが始まっていた。


 ギャクラは貴族や騎士だけではなく、多くの人間に自衛として最低限の体の動きは教えてある。

 普段あまり近接戦闘こそしないものの、旅で多くを経験してきたアイラがこんな甘ちゃんに負けるはずがない。


「降、参……よ」


 メリカは歯ぎしりしながら銃口の向こうのアイラの顔を見つめた。


「降参よ! 降参!」


 決闘、一回目が終わった。

 アイラの圧勝である。

次回、レイルの決闘!


この世界では冒険者、勇者などは力で語れ、などという格言があり、決闘とは自らの意思を貫く手っ取り早い方法でもあります。

馬鹿ですね。

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