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プバグフェア鉱山③

 幸い、その巨体の先にある頭部は俺たちから逆を向いており、なおかつあの頭の垂れ方は寝ているのではなかろうか。

 アイラを下がらせたのにはもう一つ理由がある。気配を消すのが最も苦手だからだ。普段から距離を離して狙撃することで戦ってきたアイラにとって、気配は察知されるほど近寄るものではなかったのだ。

 俺は強さだけではパーティーを組んでおらず、一に性格二に精神、三に知能で四でようやく戦闘センスがやってくる。

 だからアイラが気配を消せなくてもさほど問題はない。

 そんなのはロウに任せておけばいいのだ。


 そんな采配はさほど意味を成さなかったようで、バシリスクが目覚める気配は未だない。

 ただ単に鈍感なのか、それとも自身が強すぎて(・・・・)俺たちごとき雑魚を感知する必要さえないというのか。

 暗い洞窟の中にぼんやりと奴のシルエットが見えている。


 舐めやがって。

 俺たちだってそこそこ強くなってるんだからな。


「砂漠にいるはずなのに……どうして……?」


 やはりカグヤは知っていたか。

 この世界の知識に関してはアイラよりもカグヤの方がやや詳しい。

 まあ貴族の屋敷とかでどっぷり幼少期を過ごした俺ほどではないかもしれんが。

 バシリスクは砂漠にいると言われる。こんな山の中で出会うのは予想外ではあった。

 だが俺は一つの推測を持っていた。そしてそれは今回の遭遇で確信へと変わった。


「…………いや、違う」

「どういうこと?」

「奴が砂漠にいるんじゃない……奴が周囲の環境を砂漠へと変えてるんだ」


 バシリスク。全ての生命を灰燼に帰す石化能力を持つ。おそらくそれにも魔法を使ったトリックがあるのだろうが。

 そしてその凶悪すぎる能力こそが自らの周囲の草木を石に、そして砂にまで変えて不毛地帯を形成したのだ。

 奴は肉食。本来周りの草木に配慮はしないのだろう。それではいつかは獲物がいなくなる。きっとバシリスクがあまり多くないのはそのせいもあるのだろう。

 だがこいつはまだ知能が高い方だ。

 こうして無闇に石化能力を使わず、洞窟の中で獲物を待ち構えているのだから。


 もしかして夜行性なのだろうか。


 ならば日没までに攻め込む方がいいかもしれない。

 俺は作戦とも言えない指示を出した。


「カグヤは炎属性を出来るだけ使うこと。その際は炎よりも吹雪の方を使うように」

「それは…….トカゲだから?」

「ああ。ウロコがあってヘビみたいな姿をしている以上、変温動物だろう。なら効くかどうかわからない上に相手を活発化させる可能性のある炎よりも吹雪で低体温にしてやった方がいい」

「アイラは……」


 一番どぎついのを撃ってもらうことも考えたが、洞窟の崩壊の危険を考えて少し怖くなった。

 もちろん貫通力のあるロングバレルは使えない。


「今持ってる六連リボルバーでいいや。狙う時は目にして欲しいけど、目が合いそうになったら必死にそらせよ」

「レイルくんは……」


 おずおずと尋ねるその様子は明らかに一つのことを懸念していることを表していた。


「ああ。一番前でアークディアと囮になるよ」

「危ないじゃん!」

「でも俺が一番防げそうなんだよ」


 自身の防御が高すぎて基本五属性の魔法をあまり防御に使わないアークディアにバシリスクの能力を防ぐのを任せるのはいささか不安があった。

 それにバシリスクは伝承が派生して様々なことが言われているが、共通する記述が二つある。


 一、バシリスクは強力な毒を持つ。

 二、その目を見たものは石になる。


 二の描写は数多くあれど、目が能力のキーになっていることは明らかであった。

 それを信じるとするならば、俺しか防ぐことはできないだろう。




 と、バシリスクが目を覚ましたようだ。

 重い気配がのっしのっしと動き出すのがわかる。

 俺は空間把握のタイプを変えた。魔力と光をより正確に把握できるように。


「くくっ、始めようか」


 どう見ても悪役のソレである。

 嗜虐的に口元を歪め、生粋のバトルジャンキーのように言った。

 ダメだ。俺が目指して……いるようなキャラこそないが、あまりにもアレなセリフだ。


「かかってこいよ、でかぶつ。数の暴力で蹴散らしてやんよ」


 数というほど数もいないが。

 巨体はこちらにやってくることはなく、慎重にこちらを窺っている。

 洞窟から這い出してきたことで最大火力が使えたらいいな、と思ったが無駄だったようだ。

 俺たちの方から行ってやることになった。


「逃げるっつー選択肢はないのかよ」


 ロウのセリフは悲観的なものではなく、どちらかというと最後に(笑)がつく程度には軽いものだった。


「あれが暴れちゃヤバいだろ?」

「まあな」


 他の人たちが、などとは思っちゃいない。

 どちらかというと自然に対する敬意の方が大きいか。

 せっかく豊かな土地なんだから不毛地帯に変えられるのは御免である。


「ぎしゃぁぁぁぁぁっ!!」


 その牙がずらりと並ぶ肉食な顎を開き、そして魔力が一点に集中するのがわかった。その瞬間、俺たちがいる洞窟内が明るくなったのがわかった。

 なるほど、そういうことか。

 俺は咄嗟に俺たちが受けた光の反射する方向を捻じ曲げ、バシリスクに届かないようにした。同時にバシリスクの目から俺たちに光が届かないようにした。するとバシリスクは俺たちを見失い、俺たちはバシリスクの目が見れないこととなる。

 波属性光魔法を空間把握と融合させた高等術式。

 場の全ての光を支配した俺にそれは効かない。


 バシリスクの視線が捻じ曲げられて隣の岩に当たる。

 すると岩がバシュゥと音を立ててヒビが入り、崩壊していく。


 と、ここでバシリスクの能力を理解した。

 サブカルチャーにややハマり気味だった俺だ。こういった無駄な想像力と観察力だけはあったのだ。


「これは……石化じゃない。風化だ……!」


 岩に石化ってなんだよ、石化が効かないから洞窟にいたんじゃねえのかよ、と思っていたのは大きな間違いだった。

 奴は暗いから(・・・・)洞窟にいたのだ。

 普段から周囲を滅ぼしていたら自分の寝床がなくなるから、できるだけ無闇に発動しないように光の少ない洞窟にいたのだ。

 風化というのは岩石が長い時間と太陽光や風にさらされた結果、ヒビが入ったりして崩壊する現象だったはず。

 そう、長い時間が必要なはずなのだ。


「奴の能力は光を媒体にした時術だ!」


 目から放たれるのは先ほど洞窟の外から集めた光で、それを目から放つことにより、視線の先に存在する敵に強力な時術をかけるのが奴の特性というべきか。

 何百年、もしくは何千年と無理やりに経過させられた生物は当然のことながらその命を終えて肉体を崩壊させる。

 その様子を砂のようになったとして石化と呼んだのだとしたら。

 なるほど……最悪ではないけど限りなく最悪に近い能力じゃねえか。


「ほほう。なら私にも効くかもしれませんね」


 アークディアの言葉にギョッとする。

 未知の魔法や自然に強い悪魔がこんな形で効くとは思わなかった。


「と言ってもちょっぴりですけどね。食らったところで魂一個分もないでしょうか」


 そう、悪魔は寿命も、そして魔力も全てを持っている他者の魂に左右される。

 長い時間を過ごすことができるのはゆっくりと魂をエネルギーとして自らに強力な時術をかけているからなのだとか。

 人の魂一個で何千年と生きられる悪魔にとってほんの少しの損害らしい。

 だがアークディアは人の魂にあまり興味がないとも言っていた。

 たまに気まぐれで呼ばれて願いを叶えてはその対価として魂は受け取っていたが、積極的に貯めることも使うこともなかった彼にとって初めての感情かもしれない。


 次々と俺たちに視線を介して、光を介して術をかけようとするが悉く俺が退ける。


「最悪あの術にかかったとしても、かけられている最中に止めてロウに頼めば治るかもしれない。だから大丈夫だ」


 できるだけ安心させられるように冷静を装ってみんなに呼びかける。

 ホームレスはこんなときでも気楽そうだ。

 どうなってるんだ、あいつは。

 でもさすがにこの場においてまでバシリスクを捕まえようなどとは言わなかった。


 アイラが銃を使うも、その弾丸は眼球に届く前によけられ、防がれる。

 目以外の部分であれば銃弾は弾かれてしまうようだ。

 このままでは重火器類の火力は頼りにならないかもしれないな。


 さあ、根比べだ。

 お前の視線を逸らし続ける俺の精神力か。

 それともお前の体格を活かした攻撃によって視線を避けられないほどに痛めつけられるか。


 バシリスクとの戦いは始まったばかりだ。

おや……バシリスクの様子が……


どうしてでしょうか。あまり危機感がないのですが。

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