どんな拷問?
拷問回と思いきや。
名前だけは出しますが
牢屋に繋がれているだけの貴族は四人。
素性については王様から聞いて名前とそれぞれの関係は知っている。
まずは真ん中で今も俺たちを睨んでいる恰幅のいい男。こいつはニダ・オーエンと言い、教会関係者とのパイプがある主犯と予想されていた人物だ。四十を過ぎたほどで、ヒゲを整えたその姿は威厳があると言えないこともない。
その左にいるのが彼の甥に当たる人物で、さすがに俺よりは年上だがまだ若い。なんというか放蕩息子というのがしっくりとくる。覇気のない目でダラリと座っている。
右側にはいかにも気楽に足を投げ出してここが牢屋であることを忘れているかのような男がいた。
まともにこれからのことについて怯えていたのは四人目だけだった。冴えない感じのしょぼしょぼとした目つきで、小柄なその感じは一農民と言われても疑わないだろう。
で、そいつらと今からお話しようってわけだ。
「今回あなた達の戦争を撹乱し、魔族の軍にぶつけて負けさせたレイルと言います」
やっぱり何事も自己紹介から入らないとね。
「俺はロウだ」
ここにはアイラとカグヤを連れてきてはいない。
まあこれは男のエゴみたいなもんでだな。
女の子に醜い世界を見せたくないっていうね。
まあそれを言うなら今までのはどうなんだよと聞かれれば弱い。
プライドやエゴってのは時として矛盾するもんだ。
俺たちなんて見続けていたら毒されてしまうだろう?
「で、聞かせてもらえる?」
「どこに唆されてギャクラに反乱しようとしたんだ?」
にこやかに、それはもう怖いほどに猫なで声で問いかけた。甘くしたのが悪かったのかもしれない。
今の俺たちは見た目だけなら十五ほどのガキだ。ちょっとすごめばいけると思われたのだろうか。
「なめおって! 貴様らが戦争の計画者? 冗談もいい加減にしておけ。今なら許してやる」
はあ…………超心外。
こいつ相手を見た目でしか判断できないのだろうか。
そもそも一度立場をわからしてやらなければいけないようだ。
「とりあえず自分の手首足首につけられた枷を見つめなおすことから始めたらどうかな。ちょっとばかり現状把握能力が低いみたいだからさ」
現在の立場を象徴している鉄製の器具には細やかに魔法陣がかき込まれ、魔法の発動を阻害するようにできている。
これが一流の剣士だったりすると魔法陣よりも丈夫さと拘束力に重点を置いて作った手錠をつける。
まあこいつら程度にそんな上等なものはいらないけどな。奴隷を廃止したので余った手錠を使わせてもらった。
「はっ! 誰が話すものか!」
鼻で笑われた。
とーっても穏便にことを済ませたいところなんだけど、しょうがないなあ。
「何がいいかなあ? 目に割ったガラス入れるのはすぐにダメになりそうだしねえ」
「確かあっちに猫の爪があったぞ」
「弱めのアイアンメイデンとか三角木馬ないかな」
「まずは定番のムチからか?」
わざわざ目の前でどれにしようかと楽しそうに相談してみる。
生前ネットでみた鏡に向かって「お前は誰だ!」と言わせたり、水を垂らし続けるのもいいなあ。
タイヤネックレスとかもあったな。
体のどこかを傷つけて、そこに塩水を塗ってヤギとかの目の前に連れていくのも聞いたことがある。
歴史上のサディストにはメイドを裸に剥いて蜂蜜つけて一晩放置ってのがあったな。
めっちゃエロいななんて当時は思ったもんだ。
こんなおっさんどもでやったって全然エロくない。
せめて美少年できれば美少女じゃないと誰得だよな。
あーあ。生前だったらもっといろいろあるのに。
一番簡単なのは、シャーペンに芯を入れずに耳の穴の手前に持ってきて、ノックし続けるのが楽しそうだった。カチカチカチカチカチカチと耳の横で鳴らし続けて、その横で囁くんだ。「お前の耳の穴にシャー芯が伸びていってるから動くなよ」ってな。
もちろん動けない状態にはするんだけど、鼓膜まで届くかもなんていう恐怖をじわじわと味合わせるんだ。
できればゆっくりの方がいい。
もしも奥さんとかを連れてきていたら部屋を隔離して「今部屋の向こうではお前を助けるために奥さんが抱かれているよ」とか囁くことも考えたんだけど。
「爪でも剥がす?」
椅子に縛り付けて延々と同じ音楽とかを聞かせ続けるとか。箱に閉じ込めて上からずっと水を入れ続けるのもありか。
うーむ……これというものがなかなか思いつかないなあ。
どれも死んだらおしまいだし。
あ、そうだ。
俺は爪を剥がしながらロウに話しかけた。
「いいことを思いついた」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」
「ぐわぁぁぁぁぁっ!!!」
大のおっさんたちが痛みに耐えかねて叫ぶ。体を丸めて痛みを和らげようとうずくまる。暴れたせいで後ろの壁で背中を打った。ざまぁ。
せっかく波魔法と空間術が使えるんだ。それを利用しない手はない。
俺は捕らえた四人に向かって言った。
「じゃあお前らには今から何もあげない」
「それじゃあ拷問にならねえじゃねえか」
「あげるのは生きるのに最低限の水とパン。後は時間かな」
そう聞いて貴族どもはホッとしたように顔を緩めた。
何もあげない、を餓死寸前まで追い込むことかと思ったのだろう。
それは違うな。
そうだな……でもパンは水に浸して渡してあげよう。拷問中にうまいもん食ってどうするんだよ。ふやけたパンで十分だ。
「まあレイルがいいならいいけどよ」
ロウは楽しみを奪われて残念そうだ。
まあまあ。これは一つのお楽しみだよ。
のんびりと説明しながら待つとしよう。
そうすると俺は奴らに一つの術をかけた。
波魔法の応用だ。前回遠くの音や光を認識するために使ったのと全く逆の使い方をするのだ。
一切の光と音を遮断する術だ。
振動なくしては情報は得られない。
今こいつらは全く何もないような状況に置かれている。
自害を防ぐために猿轡をし、俺の声だけ遮断を解除した。
『聞こえているか。今から俺はお前らには何もしない。苦痛も与えないし、情報も聞かせない。完全とはいかずとも全く娯楽のない世界でいったいどれほど精神が持つかな。まあ頑張ってくれよ』
そう言うと空間術で作った異空間に奴らを放り込んだ。
二日分のパンを一緒に渡して、手のひら以外の全身に衝撃波さえ伝わらないように魔法をかけた。
これでパンを手探りで探すことはできてもそれだけだ。
すると「猿轡してたらパン食べれなくね?」と言われたので、猿轡を外そうか迷った。
舌を噛んでも出血多量によっては死ねないって聞いたことあるしな……あれって噛み切った舌による窒息死だったっけ?
猿轡してても水ぐらいは飲めるだろうと思うんだけどなー。自害できないように口を縛って、パンがかろうじて食べられるぐらいに緩める。
ようやく自分たちの行く末を想像することができたのだろうか。四人とも顔が真っ青だ。
青い空も、吹き抜ける風も、日の光も見えない。
鳥のさえずりも隣にいるはずの仲間の声も聞こえない。
そんな風に設定した魔法の牢獄で過ごしてもらおう。
某まとめサイトの名前にもあるように、暇は無味無臭の劇薬である。
人間の精神は何もない場所で正気を保ち続けてはいられないとよく聞くけれど本当だろうか。
さあ──────まずは二日。
と意気込みだけは良かったのだけど、実に残念なことにあっという間にねをあげた。
後から聞いた話によれば、最初のでこれだとこれから話さなければどんどんエスカレートしそうだし、飽きたら簡単に殺されそうな気がしたのだとか。
ストレスで吐いたのか吐瀉物と涙やよだれに塗れて出てきた。
おっさんどもの悲鳴と嗚咽に涙も全体的に汚らしかったので、とりあえずカグヤに水魔法で無理やり流させた。
なんだかさっぱりさせられた後も、何かを食べたり見たりするにつれてボロボロと泣いていた。
予想通りヒジリアに唆されていたようで、彼らが熱心な教徒だったことはわかっているので意外でもなんでもない。
まあ信仰の結果として魔族にボコボコにされてガキに拷問されてるんじゃあそっちの『神様』とやらは随分頼りないらしい。
俺の知る神どもは手助けなんざ微塵もしないけどな。
この力はどうやら俺が訓練していたのが体か魂に馴染んでなかっただけらしいし。
とにかく、他国の弱みも一つ握れたことだし、一件落着といったところか。