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戦争への作戦 ②

 橋を壊したのにも理由がある。

 魔族軍、人間軍の両方の行軍ルートを制限するためだ。

 この橋を崩せば、重要な経路の一つであるこの道が使えなくなる。

 自然と通る道が限られてくるということだ。

 人間軍は退却路を一つ失い、ギャクラへと攻め込む作戦を練り直さねばならなくなる。

 ま、普通に考えれば魔族の軍と衝突しかねないのにギャクラに突撃するなんてバカのやることだけどな。

 それにあいつらは魔族を敵視している。

 どうしてそこでギャクラに反旗を翻したのかはわからないところもあるが、わかりたくもない。

 ギャクラは人間絶対主義ではないからなあ。

 折り合いが悪いことだけはわかる。

 でも布教は許されてるんだからのんびりと布教してれば良かったのに。


「本当に良いのか?」


 グランが確認してくる。あれ? そんなキャラだったっけ? 必要とあれば仲間でも討つような冷徹なイメージがあったんだけどな。

 俺が今からしようとしていることは見ようによっては人間という種族に害をなそうとしているかのように見える。害をなすか、ではなく、俺が害をなしたように見える、ということが問題なのだ。

 その後の俺の評判だとか、そんなことを気にしているのかもしれない。でも今更なんだよなあ。だって俺は魔族と友好を結び、貿易までしようとしている男なんだから。




 ◇

 人間の軍が管理している食料庫を発見した。

 レンガでできているとか、大きさはどのぐらいだとかはこの際あまり関係がない。どこに、どれだけ人が配備されているのか。知りたいのはそれだけだ。

 空間把握を研ぎ澄ませば隅々まで見渡せるとはいえ油断してはならない。分裂する奴とかいたら嫌だもんな。そう言うとグランから、お叱りの言葉をいただいた。


「貴様は魔族をなんだと思ってる」


 呆れているのがわかる。


「うん。大丈夫。分裂しても嫌いになる理由にはならないから」

「いい、早くしろ」


 グランは諦めたようにため息をついて、俺に作戦の続きを促した。


 グランに冗談は通じたのか。通じたからこそ、こんなときによくふざけていられるなとツッコまれたのか。

 俺が珍しく働くことにしたんだ。きっちりこなさなきゃな。


 空間把握を発動した。

 ブウンと羽音のような音が耳というか脳内に響く。視界が一瞬で無彩色モノクロに変わり、広がる。あの空間で何度も見た、真後ろまで見えるというか感知できるようになった奇妙な風景。色はわからないものの、質感も大きさも、下手すれば重さまでわかりそうなほどに情報の洪水が押し寄せる。それをぎゅっと制御して絞った。


 食料庫の入り口に二人、中に五人。随分お粗末な警備だな。襲われないと舐めているのか。これなら気づかれずに全部奪えそうだ。

 だがそうはしない。魔族からパンドラの鍵を奪い返したときと同じように、今度は魔族がしたと思わせる。

 そのために……グランに出てもらおうかと思ったのだが、こそ泥とかには向いていなさすぎる。(主に顔が)

 やっぱりここでも報告に来てくれた部下の方に矢面に立ってもらうこととしよう。

 すぐに戻ってきてもらえるから据え置きとならないだけマシだ。


 今回はアイラが手を出さないことになっている。

 アイラに俺とロウ、カグヤは顔を隠して、そして伝令くんに顔出ししてもらおう。

 真正面から突撃した。何の策もない。ゴリゴリの力押しである。

 いつもなら安全をとりまくる俺なので、いろいろと策を講じていてもおかしくはない。

 だがカグヤに言わせれば。


「あんな雑魚ども私一人でも制圧できるわ」


 とのこと。正直過剰戦力なのだとか。

 俺もこの体になってから戦闘を行っていないので、試してみたいなーなんて思いもあったりする。

 そんなわけで顔出しだけの伝令くんがまるで首謀者か何かのような陣形で真正面からの突撃である。


「貴様らなんだ! 止まれ!」


 とか言われても無視無視。誰が高らかに自分の正義や名前を語りながら突撃するんだよ。時間の無駄でしかないだろう。

 お前らも「止まれ!」とか言ってる暇があったら問答無用で取り押さえにかかれよ。

 こんなときに顔を隠して食料庫に来る奴が味方なわけがないだろう。


「ぐはっ」


 カグヤが見張りの一人の腹を剣の柄で殴り飛ばした。長い黒髪がたなびく。カグヤは戦う姿さえ美しいと思う。

 吹っ飛ばされて背中をしたたかにうちつけた見張りに追いつき、今度は思いっきり踏みつける。カエルのような呻き声をあげて門番の一人は気絶した。


「貴様っ!」


 ようやく敵だと認識できた哀れなもう一人が後ろからカグヤに迫る。

 後ろから卑怯? そんなことは言うわけがない。むしろ立派だと褒めてやりたいぐらいだ。

 やっぱりそうでなきゃな。

 その程度のことは完全に想定内で、想定外であっても短距離転移ショートワープならタイムラグがないので余裕だと俺は二人の間に割り込んだ。

 動体視力もよくなってるんだと感心しつつ空喰らいで彼の振りかぶった剣を止めて弾きとばす。

 なんだか軽いな。剣ってこんなにかるかったっけ。

 そのまま二、三打ち合えばあっさりと勝負が決まった。

 後からカグヤにこんなことを言われた。


「さっきはありがと。レイル、なんだか動きが変わったわね。なんていうか……ズレていたものが合わさったというか、足りないものが埋まった?っていうか」


 そう言えば俺が体を鍛えても人並みにしかならなかったことについてヘルメスがそんなことを言っていたような。

 そうか、これが肉体と魂の同調というやつか。

 祝福?というには結構苦しかったが、あれもなかなかよかったということだろう。あの苦しみもむくわれるってもんだ。

 あのときヘルメスに言われたことがある。

 君の得た力はどこからか降って湧いたものじゃない。今まで努力してきて出なかった成果が今出たに過ぎない。何も負い目を感じず使っていいんだよ。

 そんな言葉だった気がする。


 食料庫の中に入った瞬間、ロウが駆け出した。まるで残りは俺の獲物だとでも言うかのように。

 こんなときにはロウが強い。結構な速さなのに全く足音がしない。いくつかの暗器も仕込んでいるはずの服からも金属音どころか衣擦れの音さえしない。


「後ろがガラ空きだぜ?」


 俺たちがロウに追いついたときは既にロウが背後から見張りの一人を捕らえていたところだった。


「ククッ。隊長やりましたよ。やっぱり人間ってのは鈍くてノロマな生き物だよなあ」


 ロウが演技で伝令くんに報告した。

 そして興味ないとばかりに痛みで動けなくさせられた見張りを床に転がした。

 ロウ、一つ言っておくことがある。

 そのセリフは完全に咬ませフラグだ。



 食料のある場所はさほど探さなくとも見つかった。この建物の空間の大半が食料庫として使われているのだから当然だ。

 ここでようやくアイラの出番である。ぎっしりと並べられた食料を次から次へとアイラの腕輪にしまいこむ。小麦に大豆、干し肉に酒。保存のきく栄養価の高いものばかりだ。海藻やキノコなど、生き残るのには不便なカロリーの低いものはあまり置いていない。

 そりゃあそうか。


 半分ぐらいしまい終わった後で、残りの半分を適度に散らかす。袋に穴があいたりして食べられなくなったりしないようにあくまで軽くだ。

 食料を粗末にするなという道徳心が働いたのもあるが、最大の理由は食料の枯渇によって軍が退却することを恐れてのことである。

 全て奪われれば退却せざるを得なくなるが、半分ならば怒りが先にくるかもしれない。

 ヒジリアから援助を受けている可能性を考慮すれば杞憂なのかもしれないが。


 本来ならば食料庫の中の食料を短時間で目立たずに運び出すことは不可能だ。

 ほんの少し食料がほしいだけならここを襲うのはリスクが高いし効率も悪い。

 だがアイラの無限収納が可能となる腕輪があれば、その盲点をつくことができるのだ。

 運び出さずとも、腕輪にしまえば目立たずに隠せる。隠したまま外に出てもバレにくい。


 こうして魔族軍、人間軍、両方の反乱軍よりお互いに向けて架空の宣戦布告がなされた。

 戦いの火蓋が切られる日は近い。

どうやら主人公が一人で無双するのはもうしばらく先になりそうですね。

どうにもレイルが安全策を取りすぎて、事件の起きすぎもあって訓練に手が回らないです。

もう少ししたら日常に突入したいというのに

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