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勇者、覚醒?

 ◇

 ここはどこだろうか。

 先ほどまでも鮮やかとはいいがたい天界(ばしょ)ではあったが、それでもこの場所よりは殺風景ではなかった。

 何もない。どこまでいっても終わりもなければ、どこまで見渡しても色もない。

 真っ白で、まっさらな原風景に呆然と立ち尽くした。


 三時間ぐらい経っただろうか。

 キーンという音が頭の中に響いた。ずっと耳鳴りしているようだ。

 途端、頭の中に、そして体に膨大な量の情報が流れ込んだ。


「な、っなんだよ、こ、れは!?」


 その場で頭を抱えてうずくまる。

 ぐるんぐるんと視界が回り、ぐらんぐらんと揺さぶられる。

 後ろ、前、左、右。上下に斜めとわけのわからない情報が自分にかろうじて意味だけが理解できるように脳内で表示される。

 罫線のようなものが見え、肌で歪みが感じられる。


「くっそ……」


 何かをこじ開けられるような恐怖で足が竦んだ。

 同時に体を痛みが襲った。まるで見えない手に引っ張られるようにひきつり、いじくりまわされるように軋む。

 成長痛をはるかに強くした、そんな痛み。

 その間も頭痛と吐き気は続いている。

 ガンガンと脳を揺らされ、まわされる。

 何かの奔流に自我というものが飲み込まれそうになる。


 ヘルメスやアルテミスさんを批難する余裕さえない。

 これは何かの罰だろうかとも思ったが、それは違うはずだ。

 俺があの時意識を失う直前、三人の神が俺を見るその目には悪意が微塵もなかった。

 俺は俺自身の人を見る目を信じる。

 これはきっと、害をなそうとして起こされたことではないのだ。


 かといって、この痛みをどうにかする方法が思いついたわけでもない。


 吐きたくても吐けない。

 殴る壁も床もない。


 のたうちまわり、そこらを転げまわって誰にともつかない呪詛の言葉を吐く。

 目を瞑っても、直接脳内に様々な映像が浮かぶ。

 周りには何もないはずなのに、何かがあるような気がする。幻覚などではない。


 体の方は成長痛のような痛みから筋肉痛のようなものに変わってきている。

 あ、左足のふくらはぎが攣った。


「いでででで」


 ふくらはぎを伸ばしつつ、温めるものも冷やすものもないのでひたすら耐える。


 なんだろうか、この痛みの正体は。

 メガネの度があってないときのようで、慣れないものに酔ったような。

 気持ち悪い。眼球の奥までズキズキと突き抜けて気持ち悪い。



 頭の割れそうなほどの痛みが何時間続いただろうか。十、二十と体感にすれば数日にもなりそうなほど長い痛み。

 息も絶え絶えに寝っ転がって上を見上げる。

 だんだん、その何かにも慣れてきたころ、考えるのも嫌だった頭にも冷静さが戻ってきた。


 この苦痛に感じた共通点、それは外部からというよりは内部からにある。

 メガネの度があわないのも、成長痛も、画面酔いも。変化に対応しきれないから起こることだ。


 そうか、これは変化だ。


 そう考えると、目の前が明るく広がった。

 だんだんと輪郭しか見えなかったそれらの正体が判明していく。


 受け入れろ。

 変化を、そして成長を受け入れるんだ。

 本能が警鐘を鳴らす。これ以上は人間の領域ではないとでも言うかのように。

 だが全てを逆に呑み込め。

 そうしなければ何もわからない。


「これ、だ。み、つけ、た」


 途切れ途切れではあるが自分の言葉であった。

 思考の中にかかっていた白い靄が晴れた。


 世界が──────変わっていった。









 ◇

 やはりこれは成長痛のようなものなのだろう。

 すっかり来た時とは別の世界にしたうちをした。


「ケッ。まだ見つからねえ」


 軽くやさぐれ風味の演技で今の不安を表明してみる。

 そう、あれから数日、痛みのなくなったことにより、脱出に向けて探索していた。

 何もないと思われた周囲には所狭しと様々なものが並んでおり、よくこんなところで転がりまわっていたものだと感心する。

 脱出に向けての探索は変化した肉体をならすのにも一役買っている。

 感覚を研ぎ澄ませることで周りにあるものがわかるのだ。


「で、これなんだよな」


 それは明らかに空間が歪んでいたところにあったものだ。

 周りの物の中でも一際強いオーラを放っていたので、特別な物には違いない。

 手の上でその金色の鍵を転がした。


「これが元に戻る鍵だとするなら、これを使うための扉があるはずなんだよな」


 しかし感覚を研ぎ澄ませば周りがごちゃごちゃしていて扉は見つからない。かといって感覚を鈍らせば周りには何もないように見える。


「ちょっと待てよ」


 俺はあることを思いついて、鍵をいつでも見つけられる場所において少し離れた。


「やっぱりそうか」


 鍵のある場所が一番わかりやすい。

 感覚には濃淡と範囲があるのだ。

 狭くすればより鮮明に。

 広くすればぼんやりと。


 それは無意識のうちに感覚の総和を一定に保ってしまっていたのだ。

 そうとわかれば特訓だ。

 範囲を狭めつつ情報量を少なくする。

 範囲を広げつつ情報を詳細にする。

 強弱や条件指定など、様々なことを試してみる。

 思いつく限りの特訓は試しただろう。

 できたり、できそうになかったり。できそうだけどまだできなかったり。


 そうするうちにこの能力がなんなのかわかってきた。

 これは空間把握だ。周囲三百六十度の様子を空間に干渉して脳内に直接伝える技能だ。

 これは反則的だ。この能力だけでもお釣りがきそうなぐらいには。

 それと同時にどうして鍵が他のものよりわかりやすいかがわかった。

 これがこの空間内で特異点となっているのだ。

 何かの強力な空間術をかけられているのかもしれない。


 そうか、これが空間を司る四術式の一つ、空術における初歩なのか。


 随分と使い勝手の良さそうな、と思ったが、これが魔法や術の使える奴らの見る景色なのかとも思えば少しがっかりである。

 これでようやくスタートラインに立てたようなものだ。


 試しに目の前の空間を見えない手で掴むようなイメージをしてみる。

 すると確かに手応えがあるような気がする。

 ぐっと力を込めるとねじ曲がったり、穴があいたりする。


 ヘルメスの言っていたように、魂と体が同調することによって使えなかった魔法が使えるようになったのだ。


 俺は空間術が使えるようになったのだ。


 俺はそれから、取り憑かれたように特訓した。

 いや、特訓というのにはやや語弊があるかもしれない。

 もはやそれは研究と呼べるものであった。


 それは生前からの性であったのかもしれない。

 生前から馬鹿なことばかり考えている男だった。

 ゲーム世界の設定について、生物学的な観点から友達と議論してみたり。

 どうして光の速さで動けるとかいいながら勝てないなんてことが起こるんだよ、とか言ってみたり。


 今回も変なことばっかり考えていた。

 生前は空間というものは縦、横、奥行きの三つの要素で構成される、だから三次元だと聞いていた。

 そのことから座標はどうのだと小難しいことを考えていたのだ。

 そして、その本質を見極めようとした。

 炎属性、地属性、水属性、風属性のその真髄を理解しようとしたように。

 今回も空間を操るということを理解しようとしたのだ。


 普通、空間術の特訓と言えば、よりたくさんのものを転移させられるかとか、より遠くまで正確に運べるかとかを訓練するものだろう。

 だが俺はひたすらに幅ばかりを増やそうと努力したのだ。

 転移を何パターンできるかとか、空間を歪めてどこまで複雑にできるかとかだ。


 試行錯誤を繰り返し、やりたいことのほとんどができるようになったころに体感時間で一週間ほどが過ぎていた。

 あくまで体感時間なので一日ぐらいは誤差があるかもしれない。


 そしてもう出ようと思った。


 手足のように使いこなせるようになったこの術を発動する。

 周囲が手に取るようにわかる。まるで後ろにも目があるかのようだ。

 いや、もっと詳細にわかる。

 大きなタンスの中も、木のような植物の葉の向こう側も、全部わかる、


 これが空間把握か。


 その中に歪んで霞んで感知できるものがある。


 これだ。


 それは扉であった。

 鍵穴があったが、以前見つけた鍵を指すとすんなりと開いた。

 ひねりもなにもない。

 扉は空間の中にぽつりとあったのに、扉を開けると部屋があった。


 その中には隠すこともなくベッドと机など、一人部屋として落ち着くようにデザインされたような構成で調度品が置いてあった。


 俺は強烈な眠気に誘われた。

 甘い誘惑に引きずり込まれ、ふらふらとそのベッドに近づいた。

 整えられたシーツも、ベッドカバーも全てが俺に寝ろと言っているかのようだ。

 ひねくれがちな俺でもさすがにこの誘惑には逆らえなかった。

 だって三大欲求だもの。食、寝、性の一つ、睡眠欲なんだもの。


 俺はそのまま、気絶するように眠りこけた。






ようやくレイルが最強となりました。

いつか主人公最強に追いつきました。


まだ付属要素はありますが。

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