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邪悪(笑)な会合

神に会うっていうから、もっと神々しい旅を想像していたのですが、いざ冒険が始まるとどんどんメンバーが神々しさからは程遠いものに。

しばらくは三人称視点でいくやもしれません。

 レイルたち四人の周りには少し離れて人だかりができていた。

 無理もないだろう。歴史上の人物にも等しいような死神と、話題には事欠かないホームレス。その二人と親しい人間など怪しすぎるのだ。


「なあ、ここは騒がしいし、俺たちの宿に来ないか」

「そうじゃな。五月蝿いの」

「そうか?」


 ただホームレスだけはあまり気にならないようで、良くも悪くも鈍感である。こういう奴は学校の教室で女子生徒に見つめられていても気づかないタイプだ。

 レイルはいいからいいからと2人の背中を押してギルドから外へと出た。

 六人────特にミラが近づくと人混みが見事に割れた。

 随分怖がられているなあ、なんて呑気なことをぼやきながら六人は宿屋へと向かうのであった。





 総勢六人。随分と狭くなってしまった宿屋の一室にてこれまた人口密度以上にキャラの濃いメンバーはレイルを中心として集まっていた。

 誤魔化しと後始末を終えてようやく人心地ついた。


「で、お前ら何であんな騒ぎになってたんだよ」

「それはこいつが!」


 ミラとホームレスが同時にお互いを指差す。

 ホームレスだけでも十分な騒ぎではあったが、今回は何よりミラの存在が大きかった。


「あのさあ。アニマがこちらでは有名なのは知ってるんだからよ。偽名使うなりなんなりできただろうが」


 ホームレスが有名であったことを知らないレイルはミラにたいして諭すように言った。


「ふふん。我が名には一片も恥じる部分などないわ。名乗れぬことなどあるはずもあるまい」

「それにしてもミラヴェールだけ名乗るとかさ」

「ぬう、善処する」


 レイルはすっかりしょげてしまったミラの頭をぽんぽんと撫でて励ます。

 彼女が死神だということは頭から抜けており、見た目の年齢に引きずられてしまっているレイル。

 ミラもまんざらそうではなさそうに、きゅっと目を細めた後に出されたお菓子を食べ出した。


「レイルはなんか面白いことがあったか?」

「面白いこと? ああ、悪魔と契約したかな」

「悪魔? それは本当か?!」


 悪魔という単語に隣でお菓子を食べていたミラがくわっと反応した。


「悪魔じゃと? どこの淫魔に誑かされたのじゃ? やはり巨乳なのか? デカイのがよいのか? ええい。儂だってその気になればすごいんじゃからな……おのれ……どんな手を使ってレイルを誘惑したのじゃ! いうてみよ! どんな契約をしたのだ!」


 いっきにまくしたてる暴走ミラに「何を言ってるんだこいつは?」とぬるい眼差しでレイルは答えた。


「何言ってるんだ? アークディアは男だぞ」

「なんじゃと……隠すということはやましいことがあるのじゃな。何をされた? ほれ! まさか……貞操を捧げて契約したのではあるまいな?」


 言っても全く信じないミラ。こいつこんなキャラだったっけ? とどこでキャラ崩壊したのだろうか、どうしようかと考えること数拍。

 レイルはいきなり胸元をはだけさせた。


「レ、レイルくん?」

「おおう。眼福ではあるがちと時期が早いのじゃ。まさかこんなところで見られながらなど……」

「違うわ! ちょっと待ってろ」


 胸元には紫色の魔法陣が浮かび上がっている。

 これはアークディアの魔力と技術によって作られているので、レイルが魔力を込めなくともレイルの魂の呼びかけに応じて何の代償もなく悪魔を呼び寄せる。

 瘴気が吹き荒れ、冥界への入り口を開いたレイル。その胸元からはアークディアが飛び出してきた。


「これで信じられるか?」

「我が君。招聘に応じて今馳せ参じました。仰せのままに」

「もっと普通にしてろよ」


 レイルは跪いて恭しく参上したアークディアにこそばゆいのを抑えられなかった。

 半信半疑であったホームレスも何も無い所からいきなり人が出てくれば信じざるをえなかった。


「契約したのか……」

「ちょっと待てレイル! 悪魔とは契約の代償が大きかったはずじゃぞ! それを従属契約なんぞ結んだ日には幾つ命があっても足りん。……単刀直入に聞く。何を代償にした?」


 レイルから何が失われたのか不安で仕方が無いミラは飲み物をこぼしそうになりながらレイルに詰め寄った。

 やたらミラからは気に入られていることに、俺、何かしたっけ? と思わないでもないレイル。

 そこはいたずらっ子の微笑みで口に人差し指を当てながら。


「それは秘密ってもんだ」

「ええい。お主はいつもそうだ! 秘密秘密と。気になるじゃろうが!」

「ふふふふ。契約した悪魔の特権ですよ。嗚呼、素晴らしい時間でした」


 大人気ないアークディアがここぞとばかりに煽る。

 意味深に含みを持たせて想像する余地を残しまくることで尚更ミラの不満は募った。


「ううう……レイル! この胡散臭い男と可憐な美少女ミラちゃんとどちらが大切なのじゃ!」


 老練した言葉遣いながら、その様は駄々をこねる子供そのものだ。というか見た目がもっと年上で男であれば残念すぎる。

 こんなときにこそ美少女は有利だとレイルは突きつけられるのだった。


「ああ、わかったわかった。いつもってなんだよ。これまでの総会話時間が二日を超えてないのに」


 これはアイラやレオナとミラとの最大の違いであった。

 前者はやたらと聞き分けがよい。それは2人がまだ年も若く、レイルの異常性を間近で見続けていたことが大きい。自分でもわからないことぐらいあるだろう、レイルは何かを考えているのだろう、と不都合のない限りはあまりいろいろと理由を問い詰めることなく過ごしてきた。


 ミラはなまじ知識と経験がある。大抵のことは予測がついてしまう。だからこそ、レイルの前世の知識のように自分の思考の範囲外の存在には対応が追いつかずに混乱してしまうのだ。

 レイルはそれを知ってか知らずか、ミラに話すことを決めた。

 神の行動である限りは、知られても困るほどのことでもあるまいと軽んじているのもある。

 秘匿主義が強いレイルも、国や組織のしがらみに囚われることなく自分の味方をしてくれるミラにぐらいは真実を伝えておきたかったのもある。

 この知識は人間だからこそ悪用できるという部分もある。


「変な奴だ変な奴だとは思っておったが、まさか異世界転生者だったとはの」


 全てを一から十まで話したわけではないが、そこは本来は聡明な死の君。

 与えられた情報からこれまでの発言や出来事をパズルを組むようにカチリカチリとはめていく。

 そこから導き出された結論はおそらく限りなく真実に近いものであっただろう。


「私たちはもう聞いてたけどね」


 クッキーのカケラを口の端につけたままのアイラがやや意地の悪いことを言う。

 アークディアとミラのやりとりに触発されたのか。これはとどのつまりは牽制というところだろう。


「ま、そのお初は譲っておくさ。なんせ過ごした時間が違うからの」


 誰よりも見た目は年下ながらその貫禄は誰よりも歳上であった。


「かかっ。これで儂も契約成立かの? レイルの秘密を知ったしの。儂も使うか?」

「何言ってるの」


 アイラがしてやられたと止めにかかる。

 レイルは慌てた風でもなく


「ん? 友達だし、本当に困まったら頼むさ。ものによっては手伝ってぐらいはくれるんだろ?」


 何も契約で縛らなくてもいいんだぞ、と信頼の表明をしたレイルにミラはやられた。

 それさえもがレイルの計算のうちではあるのだが、そこまでの腹黒さを見抜けてはいない。

 人の感情に敏いカグヤでさえも何かあるか、ぐらいにしか感じ取れなかった。

 ロウだけはその胸中を察してニヤリと笑って目配せした。レイルはそれに同じくニヤリと笑って返し、黙ってろよと男と男の約束を交わすのであった。





 話は戻り、レイルは真面目な議題をあげた。


「なあ、お前ら。神に会う方法って見つかったか?」


 二人にはあれから何か進展はないかと、アークディアには神に会うことが目的の一つだと伝えるためである。

 アークディアの顔色を窺うレイルではあるが、何も思うところはないようで


「いえ。我々悪魔は天界にはあまり行かないし行けないので」


 滅多なことでは天界に行かないのだそうだ。

 それに悪魔は古の盟約によって天界に入ることさえかなわない悪魔も多いとか。


「三百年前には千年に一度の会合で天界に行ったの。それぐらいしか扉が開かん。七百年ぐらい待ってみるか?」

「勘弁してくれ」

「前は神に会いたいって聞いた時は不思議だったがそんな理由があったんだな」


 ホームレスもレイルが転生者であることを知っている。

 帰ったらレオナとレオンにも話してやろうかなどと思いつつそれぞれの情報をまとめてみたものの……


「収穫はなし、か」


 このメンツで知らないものを他の中級魔族が知っているような気はしない。

 レイルは万事休すかと手元の剣を見た。


「そうだな…………」


 この旅でずっと使ってきた、という割には傷んでいないのはレイルが使ってこなかったからか。

 レイルは剣を強く握りしめて決意を皆に示した。


「魔王城にでも行くか」

よくあるじゃないですか。強大な敵を倒した後に神様が降臨してお礼を述べたりだとか。レイルもそんなことを期待……って感じでもなさそうな……

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