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新たなる大陸へ

 エルフにしても、人間にしても日本語を使っているにもかかわらず名前は日本語でないものも多い。


 それはひとえに母語や歴史上の偉人などに影響を受けていると言える。

 日本語さえ使えれば、言葉を話せるほとんどの種族と会話できるため、生活では困らない。

 だから現在、多くの種族は日本語だけは必ず子供に教えている。

 だがその裏には、その種族の言葉や、その国の言葉が残っているのだ。

 名前をつけるときだけはその国の言葉を使っているのだ。


 それが意味することとは、この世界にも日本語のなかった時代があったということだ。

 何を今更という感じではあるが、今回古代の巨人と言葉が通じなかったのにはそこにも原因があったのだ。

 長命の種族、エルフ。その何世代か前というと、まだ魔族と人間との大戦争において初代勇者が召喚されていない時代である可能性があった。


 事実、巨人が話していた言葉は俺たちには全くわからなかった。


 巨人からすればひどいものだろう。

 戦争で頑張ったのに裏切られ、封印されて目が覚めれば目の前には言葉の通じない異種族。

 それも集団で取り囲んで攻撃してくるのだ。

 エルフには自衛という理由があるし、それが悪だと断ずることはできない。


 だが、それと同時に、俺たちに正義があったなどとは口が裂けても言えない。

 俺たちは俺たちの都合で巨人を殺したといえる。

 それは歴史上の英雄譚において、敵を滅ぼせばめでたしめでたし、と締めくくられる裏側に隠された醜い部分である。

 いつだって相手を敵だと決めた瞬間、相手を殺して終わらせた結末は後味の悪いものになるのだ。

 それを見て見ぬふりをしている。


 俺が宴会の中で黄昏れていたのには、自らの無力を呪うのもあったが、巨人への追悼の想いもあったのだ。

 それを知らずに無邪気に慰め、元気付けてくれたエルフの人には不誠実でさえあったかもしれない。


 いつだって自分の弱さを見つめて生きる弱者おれは正義を語らない。語れるはずもない。





 見事無事に平和を取り戻したエルフたちに見送られ、エルフの里を後にする。

 別れ際に俺が派遣の仕事を任せているシンヤのことや、ギャクラのことを話した。

 すると、また会いたいから、とエルフのみんながつけていた耳飾りと寸分違わぬものを手渡された。


「これさえあればエルフと一緒でなくてもいつでもここに入れるようになります。本来ならばエルフしか使えないのを人間にも使えるように改造しました」


 元はエルフしか使えなかったのか。そりゃあそうか。力ずくで奪われたら危ないもんな。


「これをもってあなた達をこのエルフの里の英雄として、そしてエルフの友として認める証としましょう」


 いつでも来てくださいね。と微笑む姿に思わずつられて笑いかえす。

 まああれだけ魔法の真骨頂に対しての理解が進んでなければ、巨人を倒すのは大変だったろうからな。

 それでもきっと、こいつらなら倒していたと思う。

 戦う前のあの目を見た俺としては、そう思わされてしまうのだった。




 ◇


 それからは何事もなくガラスに戻ることができた。

 魔族国家ノーマのある大陸に通じる転移門ゲートの使用許可を得るための試験は依頼としては扱われない。それは期間に制限がないということだ。期間に制限がないというのは、実力不足で投げ出して二度と戻ってこないこともできるということだ。

 ただ、そんなことをすれば二度とこの試験を受けられないであろうことは確かだがな。


 当然、多少遅く帰っても咎められることはないだろうと思っていた。

 しかし俺たちは冒険者ギルドへ帰ってきたときの反応に違和感を覚えた。

 なんだかどこか嘲りを含むような視線と、感心しているような視線とが混ざっているのだ。


 依頼として扱われなくとも、表向きは依頼業務の管轄にあたるので、受付も同じ場所になる。

 どういうことだ?と訝しげに依頼完了報告に向かうと、先程の視線の正体が明らかになった。


「完了報告ですか? 随分とお早いんですね」


「はあ? 早い?」


 つい聞き返してしまった。

 あれだけ寄り道しても早いとはどういうことか。

 だがさっきの答えはわかった。俺たちが依頼も達成できずにのこのこと逃げ帰ってきたと予想した奴らと、もう達成したのかと理解した奴らだ。


「いや、だってあなた方は回復術を使える人がいないでしょう? そういう人たちがこの依頼を達成するには一ヶ月から二ヶ月はかかりますよ」


 たかが死体処理にどれだけかかってるんだと言いたいが、これが世間一般の認識なのだろう。

 だって不完全とはいえ不死身だもんな。

 どうやら一般の冒険者は、前衛がゾンビたちを食い止め、魔法使いの火炎魔法によって焼き払うのがセオリーらしい。

 俺たちの中で、純粋な後衛はアイラだけで、カグヤがオールラウンダーに当たる。しかも火炎魔法が使えるのはカグヤだけ。

 そりゃあ時間がかかると思われてもしょうがないか。移動の時間も含まれているしな。

 俺たちは城に突入したその日に、当主の間まで辿り着き、ミラの協力によって僅か2日のうちに鎮静化させてしまったのだから。

 多少の寄り道ではむしろ早かったのだ。


「そうですか。まあ方法は企業秘密ってことで」


「へ? 企業?」


 ああ、この世界では企業なんて言葉はなかったか。面倒くさい。


「お気になさらず」


 受付を済ませてギルド長の元へと向かった。

 ケリーさんは今日はギルドにいたのでスムーズにことが進んだ。

 一通りマニュアル通りの流れを踏襲するかのようなやりとりをして転移門ゲートの使用許可証を発行してもらった。

 この使用許可証は基本的に何度でも使える。基本的に、と前置きされるのは、魔族に関することでなくともその冒険者が問題を起こせば差し止められるからだ。過去には多くの勇者候補や冒険者が差し止めをくらっている。

 まさか俺たちはそんなことにはなるまい、とベタなフラグを立てるのはやめておこう。

 この場合はこう言うべきだ。

 絶対に俺たちはそんなことにはなるまい。このなるまい、は否定推量ではなく否定意思としての用法である。




 俺たちはガラスで一度、休息をとり、旅の準備を整えた。

 それこそ貴族のボンボンらしく、金に任せて消費した分の食料や新たに買える毒から薬までを買い漁った。

 それぞれに武器の手入れは怠っておらず、なおかつ武器の傷むような相手に正面からはあまりぶつからないので、武器については誰もが必要はなかった。

 もちろん念には念をというのが俺たちの旅のモットーであるため、最低限の長剣から短剣、斧など初心者にも使える基本武器の数々は予備として持ち歩いている。

 やはりアイラの腕輪は便利だ。空術における空間無限拡張の他にも、時間停止がかかっており、中に入れた消費品の劣化を防げる上にいくらでも入る。俺たちの旅で最もチートというならばアイラの腕輪ではないだろうか。

 旅の途中で使う調理用品はまだ使えるので据え置きで、そろそろ布団がボロくなってきていたので買いかえた。

 ここまでお金にだけは困っていないと楽なものだ。やはりギャクラで十分に稼いでおいて正解だったな。オセロとチェスだけでは不安だったから予防接種についてもレポートまとめといて良かったぜ。

 レポートといっても、一度その病気にかかったものはその病気に罹りにくいというのを利用すれば、弱らせた病気の元となるものを使うことで感染者を減らせる、だがそれは数年しか効果がない、程度のことしか書いていないので後はギャクラの医者たちが研究して発展させていくことだろう。



 全ての旅の準備を終え、俺たちは転移門ゲートの前に立っていた。

 思えばここまで長かった……かな。うん、長かった。


 俺がノーマに行こうと思ったのには理由がある。

 それはホームレスとの出会いだ。

 それまでいくつかの国を回っても、神に関する情報どころか、魔法についてさえ本当のことがわからなかった。

 にもかかわらず、ホームレスは中級魔族でしかないと言っていたくせして、俺が探していた情報の一部をあっさりと教えてくれた。空間術や波魔法のことだ。

 今までの努力はなんだったのかとは思わないでもなかったが、それ以上に期待したのだ。

 中級魔族でそうなら、上級魔族やその先にいる奴らに会えば、神に会う手がかりになるのではないか。そうでなくとも、世界の本質とやらに近づくことができるのではないか、と。


 やっとだ、やっと行けるのだ。


 ファンタジー世界だとかなんだとか言いながらも、俺たちは今までの旅で人間の国ばかり巡っていた。

 俺は神に会うのも旅の目的ではあるが、その過程でこの世界のことをもっと知りたかった。


 今までに見た他種族というと、妖精、エルフ、魔族が1人、機械族マシンナーズ、死神ぐらいのものだ。

 人間が多くを占めるこの大陸を旅したにしてはえらい収穫ではあるのだが、この世界にはまだ他の種族がいる。

 そういう奴らに会うための第一歩として、他の大陸に行けるのだ。


 俺たちは魔族が住む大陸への門をくぐったのだった。

人間国家冒険編、終了です。

次回から魔族大陸編がスタート。

そして主人公が最強になるまで秒読み段階。

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