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エルフの里まで

読んでいただきありがとうございます。

お気に入りが3桁になりました。


これからもちまちまと更新してくのでのんびりと見守りいただければ幸いです。


 そもそもエルフの里はいくつかの魔法と術式によって隠蔽されていて、単なる人間程度や上級魔族程度では入るどころか見つけることもできない。

 最初からそんなに厳重だったわけではなくて、歴史とともに強力な術や魔法の使い手が現れ、重ねてかけていくことで増えていったのである。

 例えば最初の防御隠蔽魔法は霧の魔法で、辺りを霧で包み込むことにより侵入を阻害していた。その後、時術の使い手が現れ、強力な時間操作の術式を条件指定で組んでいった。その術はエルフの里の境界線を起点とし、そこに向かって近づく者の時間を永遠に区切るというものである。

 わかりやすいのはアキレスと亀やゼノンの矢のパラドックスだろうか。時間は無限に区切ることができる。一瞬を永遠に積み重ねてこそ時間は連続する。

 本来ならばあり得ないその状況を、理屈を時術で擬似的に再現にしたのだ。

 他には空間を捻じ曲げて、目的の方向を狂わせる術や、結界において他種族が入れないようにしてあったりするのだ。



 侵入者を殺すのではなく、そこに何かがあったと思わせないのが目的であると答えられた。だから空間を捻じ曲げたりはあるかもしれないが、そこまで危険なものでもない。


 そんなことをぺらぺらと会ったばかりのレイル達に話してしまったのは術式と魔法の重ねがけに対する自信というものだろう。


「ですので護衛をしていただけるというなら、好きなところまでいいですよ。お言葉に甘えさせていただきます」


 すっかり人間である四人に対する警戒心というものが和らいでしまったフォレスター。

 彼女の様子に何か不安さえ感じながらカグヤはレイルに耳打ちするのだ。


「で、ここまで計算通りってわけ?」


 ここで無理にでもエルフの里へ連れていってくれとレイルが言っていればフォレスターにとってどれだけ話は簡単だっただろう。

 それは無理なんです、代わりにあれこれをあげますから、などと言えば諦めるかフォレスターを捕まえようとするかであるし、フォレスターもそれなら逃げるなり戦うなりすればよいのだから。


「まあな」


 物語の主人公が行っている自由を与える優しさによる束縛。レイルが前世で読んできた物語の人たらしで人好きのする主人公が行っていることの一つだ。

 レイルからすれば、主人公あいつらは無自覚でするから余計に性質タチが悪いとさえ思っている。自分は自覚しているだけマシだとも。


「じゃあ術のかかっていないぎりぎりまでは送るよ」


 レイルはにこやかに、まるでエルフの里なんて入れなくても、あなたの安全さえ保証できればいあんですよと言わんばかりにのたまった。

 それが信頼を得るための腹黒い策略だと知らなければ、なんと爽やかな光景であったろうか。

 レイルがまだ若い青年一歩手前の姿だったのも大きい。

 助けられた恩もあいまってフォレスターはちゃくちゃくと骨抜きにされていったのだ。

 どうしてだろうか、エルフを助けて安全に家に送るだけであるのに、何か悪巧みをしているような気にしかならないのは、と唯一幅広く常識人なカグヤとしてはレイルの後ろ頭を刀の柄で殴ってやりたくなるのだった。


「へえ、皆さんは勇者候補なんですか」


 尊敬のような、そして誰も気づけないほどに微量の呆れのようなものの合わさった声音でフォレスターが言った。


「みんなじゃなくってレイルくんだけだよ。私たちはそれについてきてるだけ」

「じゃあ魔族を倒したりするんですか?」

「いや? しないけど」


 四人としては魔族の国には行くけれど、魔族の虐殺劇がしたいわけではなかった。

 勇者候補の仕事は勇者候補の適性によって変化する。

 少なくとも対集団戦向けの戦闘力がないレイルが魔族との戦争の前線に立って無双するなんてことはあり得なかった。


「俺は魔法も使えないのにできることっつったら魔王暗殺とかその程度だろ?」


 魔王暗殺をその程度、といってしまうあたり、どこかズレているレイルであった。


 レイル一行はガラスの西から北を回って東に向かった。

 その道中にも魔物は出たが、フォレスターの魔法は意外にも役には立たなかった。

 といってもレイルたちにとって一人足手まといを連れたところで、ここの魔物たちに苦戦するほどではなかった。


「フォレスターさん、魔法使えなかったんだな」


 すっかり打ち解け、口調も砕けてしまったレイルはフォレスターの意外な一面について尋ねた。


「ええ、だからこそあの程度の魔物に囲まれて手こずっていたんです。こんなこと知られたら長老にどやされちゃいますよ」

「そもそもどうやってあそこまで来たんだ?」

「実はお恥ずかしいことに奴隷商に捕まっておりまして、そこからなんとかして逃げ出してきたところだったんですよ」


 フォレスターは魔法が使えない。だがそれを補って余りある身体能力の高さがあった。エルフはもともと貧弱なイメージこそあるものの、人間よりも身体が強靭だ。その中でも強いというのだから、フォレスターの強さはそこらの冒険者よりも強い。

 おっとりとした雰囲気に似合わぬ豪傑と呼ばれる類の人物であったのだ。


「そんなフォレスターが何故捕まってしまったの?」


 カグヤの疑問ももっともだ。


 フォレスターはその時の経緯を話しだした。


 フォレスターはエルフの里から出て仲間数人と狩りをしていた。そのとき魔法が使いづらい距離まで盗賊に近づかれてしまったのだ。一緒の仲間というのが、フォレスターよりも年下だったという。

 フォレスターはその子たちを庇い、逃がすために盗賊たちと戦った。

 そこは多勢に無勢、弓や魔法などの連携によってあえなくフォレスターは捕まり、奴隷商に売られてしまったのだ。


「奴隷印を押される前で良かったです」

「そんな……じゃあ人間を憎んでいてもおかしくないのに……」

「エルフにだって排他的だったり、他の種族を見下す傲慢な人だったりはいます。人間だって同じでしょう?」


 フォレスターは屈託無く笑った。酷い目に遭わされてもなおそんな風に笑えるのだと、レイルは感心した。

 ガラスの東に歩くこと数時間、レイルたちは地元では迷いの森と称される毎年行方不明者が絶えない森に来ていた。

 もちろん行方不明者とはエルフの里にかけられた様々な術や魔法にとらわれ、逃げるという選択肢をとれなかった哀れな人たちのことである。

 それを知る身としては、怖くもなんともなかった。迷うのは魔物も同じで、この霧の中にいる以上は魔物に襲われないのだから。しかも逃げられることがわかっている。


「あ、もうすぐ里につきますね」


 森の中をずいずいと進み、さあ里はどこだろうかという場所まで来た時、レイルたちの行く手を阻む者がいた。

 茂みの中から魔物のエンカウントのように飛び出してきた。


「お待ちください!」


 それはエルフの若い男性であった。

 ちょっとつり目で、鼻がしゅっと伸びた彼はレイルたちの前に立って両手を広げていた。


「ツウリ! この人たちは私を助けてくれた人で……別に悪い人じゃ……」


 そしてレイルたちだけに聞こえるように、申し訳なさそうな表情で言った。


「私の幼馴染なんです」


 悪い人ではない、という部分に反応し、ツウリと呼ばれた青年は慌てて首を横に振った。


「そんなことはわかっている! そうじゃなくって……あなた達に恥を忍んで頼みたいことがある!」


 そう言うと彼は話だけでも、と一行の前で見事な土下座を披露した。

 両手を地につけ、膝をたたんで頭をこすりつけていた。


「我らの里を……救ってはくれないか!?」

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