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カグヤだって頭脳派……のはず

 おまわりさん、こちらです。

 いたいけな少年少女を決闘で打ち負かして、あんなことやこんなことをしようとする大人気ない男性がいます。

 陵辱するんでしょう、エロ同人みたいに!

 いえいえ。目の前にいる男性は単なるバトルジャンキーでしょうな。


 朝から決闘があると聞いて、俺たちの周りは人のいない空間が出来上がっている。

 同時にそれは、周りに一定数の人だかりが出来ているということでもあった。


「逃げ出さなかったか。噂だけではないところを見せてもらえるのだろうな」

「噂がどんなものかは知らないけれど、俺自身の強さなんてしれてますよ」


 俺は弱い。

 それは現在の揺るぎない事実だ。

 というかこの人なんでこんなに自信満々なの。負けるとか考えてないの?

 その気になれば遠距離からアイラがばーんすれば、決闘が始まる前に謎の変死死体が出来上がっていたというのにな。それが楽だったかもしれない。

 俺が物騒なことを考えている当のアイラはというと。


「ねーえー。カグヤちゃんの決闘まだー?」

「なあアイラ、少しは空気読もうぜ」


 ロウ、少しそいつ縛って転がしといてくんないかな。


「はあ……レイルの頼みだから相手してあげるけど、どうしてこんなの相手に」


 普段から情報も強さの理由も隠すべきだというのが俺たちの共通の認識である。

 そんな中、自分の実力を垣間見であってもバラすようなことは不本意だろう。


 ごめんなカグヤ。


 また今度なんかアイラに頼んで面白いもの作ってもらうからな。自転車とか。

 人任せかよ、とか言わないでほしい。不器用な俺としてはできるものなんてたかがしれてる。

 あ、ルービッ○キューブでも作るか。

 中二病を患っていたときに、解体してみたことがあるから作れるかもしれない。

 木製で色を塗ればいいだろう。


「相手を舐めていると痛い目に遭うぞ。我はそちらが子供であっても全力で挑ませてもらう!」


 舐めてなんかないさ。

 なんならまた今度スライムで実験して生態でも解明してきてあげようか。

 というか舐めているのはそちらだ。

 何が子供でも、だ。

 槍をこちらに向けるのをやめてほしい。


「さっさと始めましょうか」


 槍使いの人が待ったをかける。


「決め事の確認だ。相手が降参するか、戦闘不能になったら勝ちだ。それ以上の攻撃は失格としてみなす」

「魔法の使用は大丈夫か?」

「もちろんだ。我も多少は使えるし、魔法もまた実力の範囲だ」


 純粋な剣技だけでもカグヤなら勝てるかもしれないが、カグヤのすごいところは魔法との並列使用だからな。

 本気が見たいならそちらの方がいいだろう。

 カグヤがいいの?という目で見てくる。黙って頷くと通じたようで、男の方に目を戻した。


 カグヤは剣を上段に、男は槍を下段に構えて相対した。

 なんとも言えない殺気と緊張が場を支配した。

 誰かがゴクリとつばを飲む音が聞こえた。


「それでは、始め!」


 開始の合図とともに、槍使いの背後が爆発した、かのように見えた。

 ゆらりと空気が歪んで見えて、凄まじい速度で彼はカグヤに真っ直ぐに突っ込んできた。


「爆炎の槍使いハンスとは我のことよ!」


 鋭い突きがカグヤに迫る。

 カグヤはそれを軌道を逸らすように受け流し、攻撃を弾く。

 驚いた彼の隙をついて、肩口に斬りかかった。

 まさに日本刀の攻防一体といえる優雅さだった。


「なにっ?!」


 彼は空いている左手で小さな爆発を起こし、大きく横にとんだ。

 躱された斬撃は空をきるかと思われたが、彼の鎧の肩を掠って鈍い金属音をたてた。

 一方、カグヤは鎧をつけてはいない。

 冒険者の前衛というものは、肩や胸当てなど、重要な部位には防具をつけるものだ。

 カグヤがつけていないのはその体格と戦い方によるものだ。

 子供の体格では、鎧をつけていても重い一撃をもらえば吹き飛んでしまうため、それなら最初から動きの鈍る鎧などつけずに攻撃を受けないようにしてしまえばいいというのだ。

 俺としては危ないから何度もつけろと言っているのだがな。


 実際、彼女は今までの旅で一度も攻撃をくらったことがない。

 そうするだけの技量があったのだ。

 そもそも、勝てない命の危険があって逃げられない相手に俺が挑まないようにしている。

 大物相手にはアイラの火力や策を弄して、剣で挑むような真似はしていないのだ。


 そして、かすれば危険な攻撃などは一部分だけ守ってもしょうがない。

 それなら魔法で遠距離から仕留めてしまえというのがカグヤの戦い方だ。

 剣と魔法、バランスよく使いこなせるカグヤならではだ。


 そしてその技量と戦い方というのは、対人戦において体格差や筋力の差を補って余りあるものだった。


 ハンスの魔法は、本人は火属性の魔法としか思っていないが、おそらく風属性の魔力が混ざっている。

 複数の属性を一人が持つことは珍しくないし、何より魔法というのは本人のイメージに引きずられる。

 だがそれ以外の魔法を使ってこないところを見ると、あれが十八番で、使い慣れているのだろう。


「はーあ、拍子抜け」

「こんなものではない!」


 槍使いの槍はパルチザンというもので、先端に重量が置かれている。

 切る、突くことに特化している。

 突貫力よりも精密な攻撃に向いているといえる。

 一点での攻撃というのは有効なのだが、カグヤとの体格差と技量差を考えると、力押しの方が良いと判断したのか切る攻撃が多くなってきている。槍のリーチ差はそれだけでも剣とやりあうのに有利と言えようか。

 だがそこはさすがカグヤ。ハンスが振り抜いた槍を叩き伏せ、振りかぶった槍を円の運動で受け流す。流れるようなワザに見惚れそうになる。

 どうして斥力で押し負けないのかというと、技術だけではなかった。


「あなたは魔法を現象を起こすことしか考えていない。だからそんな体に負担をかけてまで、単純で単細胞な使い方しかできないのよ」


 所々に爆炎魔法を使い、爆風で距離をとってみたりと、ハンスは魔法戦士としてはまあ、普通かそれ以上の実力者なのかもしれない。

 だが、それでは足りない。


「すごいな。お互い一歩も引かない」

「おお……あの彼もすごい攻めだな。爆風をあんな風に使うか」

「あの剣戟の合間に、あの精度で発動できるならたいしたもんだ」

「だけどもっとすごいのはお嬢ちゃんのほうよ」


 気がつけば見物人の半分ほどは冒険者が混ざっている。宴会のときに見かけた顔もいる。魔法を使う者と、戦士としての人では着眼点も違うようだ。

 最後のお姉さんは宴会のときに話しかけてきた人だ。


「私は魔力が感じられるからわかるわ。あのお嬢さんは魔法を使っているんだけど、それが表面に出ていないのよ。それがどれだけ異常なことかわかる? 魔法使いが、魔法を見て、わからないのよ」


 カグヤの剣戟は不規則に強さや速さに歪みが出る。

 俺は魔力なんてこれっぽっちもわからないが、何をしているかはだいたい想像がつく。

 だってな、カグヤに魔法の強化と応用を教えたのは他でもない俺だから。

 あれはおそらく、属性魔法の応用で自身の身体能力を上げている。


「まだまだっ!」

「もうそろそろばててきたんじゃない?」


 そうだ。カグヤは圧倒的な力の差と、敗北感を植え付けて二度と挑んでこないようにする気だ。


「なっ?!」


 5分もしないうちに彼の槍が弾きとばされた。

 カグヤは刀をハンスの首に突きつけた。

 ハンスの攻撃をいなし続けて、へばったところで終わらせる。

 これ以上ない敗北だ。悔しそうな顔が実にいい。もしも俺が強ければ俺自身の手で這いつくばらせてやりたかったのだがな。


「我の…………負けだ」


 周囲がいっきに盛り上がった。

 どちらが勝つか予想をしていた者たちもいたようで、予想が外れた者が悔しそうに当たった者に文句を言っていた。

 例のお姉さんは当然、カグヤ側だった。





 ◇

 カグヤの祝勝会と、迷惑をかけたというお詫びに、普段は四人の共通生活費として支払う夕食代は俺が持つことになった。

 いや、パーティーなんだから一蓮托生だろ、とはいいたいが、パーティーのリーダーである俺が受けた決闘を、結果としてカグヤに任せてしまったわけだしな。


「いやーよかったよ」

「あれぐらいは勝って当然よ。レイルだって勝てたんじゃない?」

「いやいや、強そうだったよ」

「ところで、カグヤは何をしてたんだ?」


 ロウが尋ねた。

 カグヤの不自然なほどの身体能力だろう。

 若返る前の全盛期並みの力があったらしい。

 ロウは普段からカグヤの練習相手になっているだけあって、実力はよくわかっている。

 そりゃあ気づくか。


「レイルくんも不思議だったよね?」

「レイルはわかってそうだけどね」

「んー……多分だけど」


 確信ではない前置きをしてから話しだした。


「どの属性かがわからないんだよな。候補としてはまずは火属性、体温を常に一定に保っていたよな」

「まあね」


 運動というのは体内のエネルギーの燃焼にある。それならば、熱エネルギーの操作とは純粋な運動能力の向上に繋がるだろう。


「次に考えられるのが水属性、これはかなり危ないと思うんだが、血液とかの体液の巡りをよくしていたとか?」

「さすがにそこまではしてないわ」


 そりゃあよかった。

 怖いもんな。


「後考えられるのは……地属性かな。重力魔法を相手にかけるんじゃなくって、自分にかけてただろ?」


 相手は爆風を突進などに使っていたが、それだと直進的な動きしかできないし、何より負担が大きい。

 その点、重力魔法の逆操作、重力軽減は自分の純粋な速度を上げる。

 仕事量は重さで決まるというのなら、重さが少なくなれば自然と速度はあがる。

 逆に、相手に刀を振るうときや、攻撃を受けるときは自分を重くしていた。

 体格差による軽さを補うためだな。


「よくそこまでわかるな」


 音が違ったからな。

 それに、地面を蹴ったときの音が普段より軽かったし。


「まあ最後は簡単だが、風魔法だよな。空気抵抗を減らすように、自分の動きに合わせて魔法をかけてたよな」


 とまあ簡単に説明してみたが、改めてカグヤの人外ぶりに驚愕した。

 3属性を同時使用ってなんだよ。個人が複数の属性を持つことそのものは珍しくないが、それを戦闘で実用可能な魔法として使えるのは優秀な証拠である。それを同時に、という点でカグヤの研鑽が見える。

 炎は無意識だったのかもしれないが、地属性の重力は意識しないと無理だろ。

 風は条件指定の魔法陣でも組んで事前に発動したのか?

 科学と魔法が出会えばここまでになるというお手本だな。科学という概念はやはり魔法と相性がいい。知れば知るほど、自分の望む結果を出せる。

 魔力すら使えない俺からすれば、羨ましいだけだがな。


「はあ……なんだかなあ。レイルは私の先生だし、多少はわかってるとは思ったけど……」

「何を憂いてるんだよ。というかお前ならあそこまで複合使用しなくても勝てただろう? 距離をとられても普通に魔法使ってもさ」

「何が普通なのかあんたといるとわからなくなるのよ」


 カグヤはどうやら、自分の魔法に使っている知識がこの世界ではおかしいことはわかるらしい。

 だが、4人ともなんとなく受け入れてしまっているため、何が普通で何がおかしいのかがわからないと。


 おかしい魔法を使っていたのがバレると、怪しまれたり、狙われたりするからいつものように実力を隠したかったのだ。


「で、はためにはわかりにくい自分に魔法をかけて誤魔化したり、短期決戦で解析の暇もなくしたっていうのにね」


 俺はあっさり見抜いてしまったと。

 あれなら武術の素養がないと不自然さには気づけないし、魔法の素質が高くないと魔法の解析まではできない。

 実際ほとんどの人が単純にカグヤが刀で強いと思っていたようだ。


「なんかあんたを見てると、自分がすごく馬鹿なのか、レイルの頭がおかしいかと思ってしまうのよね。まあ後者だけど」

「失礼な。至って普通だ」

「レイル君が普通?」

「はあ?」


 黙って感心しながら話を聴いていた2人から何言ってんだこいつ?みたいな目で見られた。


「だからよ。レイルならもっと相手に酷い勝ち方をするのかなって思うと、溜息の一つもでるわよ」


 まあ俺が出てたら、もっとせせこましくって残念な勝ち方にはなるかもな。

 それでいて、あいつに無様で屈辱的な敗北を味合わせていたのかもしれない。

 もしも、とかたらればを語ってもしょうがないだろう。

 カグヤが勝った。

 それこそが全てだ。

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