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 あんなに不安だったコドモドラゴン退治も、魔人という衝撃の出会いのせいで霞んでしまった。

 苦労したかと言われればそうでもない。

 いや、苦労はした。


「いいじゃん。ド派手なのを一発かましてあげれば」


 手伝うなどと言い出したホームレスが強すぎる大魔法を使うのを止めることに苦労した。

 討伐証拠を消し炭や粉々にされるのが困るのもあるが、あまりにボロボロのコドモドラゴンを持ってかえってギルドの買取で事情を聞かれるのも困る。


「まあまあ、そういや俺たちにあった時、どうやって飛んでたんだ? 風魔法じゃ効率が悪いし危ないだろ? 地属性の重力魔法か? それに世界の理ってなんだよ」


「なるほどな。風より地、か。全く世界の理を知らないってわけでもないんだな」


 じゃあやはり世界の理ってのは科学のことか?


「さっきの答えだが、先に僕が言ったことから話そう。世界の理っていうのは魔法のことだ。君たちは魔法は基本4属性に闇光の上位2属性と思っているようだがそれは間違いだ」


 俺は頭の中で正八面体の頂点を属性に見たてていたんだが、違うのか。


「光と闇は同じで、本当の属性としては波にあたる。波を加えた5属性は現象魔法と呼ばれ、使える術の中では最も下位に属する。空間魔法を光魔法というのも勘違いだ。あれは別の術だ」


「魔族はやっぱり魔法に関して進んでいるんだな」


「お前たちが魔法を利用して生活を豊かにすることしか考えていないから、わからなくても使えるならそれでいいと本質から目を背けているんだ」


 それは違うだろう。


「より深く現象について理解していれば簡単に魔法は発動する。魔法とは理解する学問の一つだろう?」


 今までの魔法にたいする解釈を尋ねると、ホームレスは眉をひそめて信じられないといった顔をした。


「……その解釈で間違ってはいない。その年で魔導の深淵に近づく、か。さぞかし優秀な魔術師なんだろうな」

「いや、俺は特訓はしてるんだけどこれっぽっちも魔法が使えない」

「嘘だろ?」

「いやほんと」


 そうか、理解に関してはなんの問題もないんだな。

 じゃあなんかの拍子に使えるかもしれないし気長に待つか。


「さっきの話に戻るが、空を飛んでいたのは波属性の魔法で重力波を作って下向きに放つことで浮いていたんだ」


 なんだったっけ。

 前世のSFでそんなのを見たことがあるな。重力波で重力を打ち消すんだったっけ? さすがは異世界、魔法でオーバーテクノロジーを再現とは。反重力とか説明されてたな。

 それより重力魔法で重力操った方が楽なんじゃね?


「みんな俺が魔法使えないっていうと驚くよな。そんな珍しかったっけ?」

「いや、たまにはいるんだよ。でもその半分ぐらいは幼少期に魔力を浴びすぎたりして魔力を使う器官がおかしくなってたりするんだけどね」


 俺はそんな風には見えないとのこと。

 異常が見られないのに使えないのが不思議なんだとか。


「ま、それも旅の間にわかるかもしれないしな。気にすんなよ」


 ロウの慰めがありがたい。

 俺たちは再会の約束をしてホームレスと別れた。だって街に連れ込むわけにもいかないし。

 帰り道は行きと同じ道を通る。

 道草してみたいというわがままもあったが、帰るまでが依頼ですからね。






 今日も今日とて、賑やかさの失われていない冒険者ギルド本部。

 せわしない人の出入りをすりぬけて、依頼受付の隣の完了報告所に行く。

 もしかして初めて依頼達成なんじゃね? だって以前のゴブリン退治はうやむやになったし。


「お疲れ様です」

「あ、証拠品のコドモドラゴンの角と牙です。これで依頼達成ですね」


 持ってきたものを見せると何故か慌て出す受付さん。


「し、少々お待ちくださいぃ」


 整理していた書類をうっかりぶちまけてしまい、同僚に手伝われながら片付けていた。

 それが済むと奥に人を呼びにいった。取り次いだらいいのに。どうしてすぱっと終わらせてくれないんだ。毎回待たせるのをやめようよ。


「お待たせしました。こちらが報酬と依頼達成書です」


「ありがとうございました」


 内心どうであれ、あくまで表面上は丁寧に礼儀正しく。こちらが客であれ、向こうが雇い主であれ、横柄な態度をとる奴なんてロクな奴じゃない。


「本当に狩ってくるとは……」


 本当にってなんだよ。

 俺たちの戦死でも望んでたのか?

 だとすればこのギルド爆発しろ、と叫ばねばならない。

 叫ぶだけで、あとはスルーだが。


「いえ! 実は副ギルド長が貴方達にコドモドラゴン討伐依頼を出したときいて信じてなかったんです。偵察とかその辺だろうと」


「いやいるのはすでにわかってましたし」


 まあ俺たちはよく考えたら依頼を受ける意味ってあまりないんだよな。

 勇者候補資格があれば国からの信頼は得られるし、金はあまりいらないしな。あって困るものじゃないから寄付とかしないけど。だから危険な依頼なんて受けるとは思われてなかったのかもしれない。

 いや違うな。単に子供だから舐められてただけだな。


「お前ら、コドモドラゴンを狩ったのか。これで一人前だな!」


 周りの冒険者の声援が暖かい。

 この間の宴会によって好印象を持たれているのもあるだろう。

 今回の報酬はそこまで高くないし、二回も宴会するほど俺も暇じゃない。

 だから期待には添えられないが、お礼だけ言っておく。


「ありがとうございます。また何かございましたらご指導などをお願いするかもしれません」


「ははっ。お前ら大成するぜ。最近の初心者冒険者なんて実力を過信した馬鹿ばっかりでな。その点お前らはできることをしている。少なくとも長生きはしそうだ」


 できることばかり? 何を言ってるんだ。

 できるかどうかわからないことばっかりだぞ。

 何があるかわからないのだから。

 無理だったら撤退できるだけだよ。




 コドモドラゴン討伐からしばらく。

 俺たちはガラス観光に勤しんでいた。

 おしゃれな店で四人で昼食を食べていたときのこと、槍を持って軽い鎧に身を包んだ男が近づいてきた。

 ロウが一番に気づき、幻影の錫杖を小刀に変えて懐で具合を確かめている。

 アイラが銃の引き金に指をかけ、カグヤは剣にこそ手をかけていないのもあるが、いつでも抜ける状態だ。


「食事中失礼。貴殿らがコドモドラゴンと砂塵蟲竜を討伐したという子供だけの四人組か?」

「はい。そうですがなにか?」


 隠すこともあるまい。

 個人情報保護の観念がないこの社会において、目立つ者はすぐに噂になる。

 冒険者は噂になってこそともいう。


「冒険者になってから二年も経たぬうちにこの二匹を僅か四人で討伐とは。よほどの手練れと見た」


 そんなことはない。

 むしろ攻撃力と知恵があるだけで、ルールの元で対人戦なんかだとかなり弱いだろう。

 そりゃあ同年代に比べれば強いよ。

 アイラは武器ならまんべんなく使えるが、刃物よりも銃の方が強いし。

 俺なんか言わずもがな。


「この中で一番強いのは誰だ?」


 そりゃあ当然カグヤだろ、と言おうとすると、他の三人が異口同音に


「レイルよ」

「レイルくん!」

「レイルだな」


「おい!」


 いやいやいやいや。おかしいだろ。

 なんでいつも俺なんだよ。確かにリーダーだけどさ。一番弱いの間違いだろ。口を揃えて俺を人身御供にすんじゃねえよ。


「砂塵蟲竜を倒したのもほとんどレイルくんだし、クラーケンだってレイルくんでしょ」

「なに? クラーケンだと」

「なんでもないです忘れてください」


 この上クラーケンを配下につけているなんて知られたらなにを要求されるかわからん。

 やってられるか。


「ぜひ我と手合わせ願いたい!」

「断る!」


 いつかのフォルスくんのときのようになんの迷いもなく断った。


「どうしてだ!」

「俺が勝ったらなにかいいことがあるんですか?」

「それは冒険者としての名誉が……」


 正直個人討伐の名誉とかいらない。実力の名誉じゃなくって結果の名声が欲しい。

 というか無理だから。


「じゃあこうしましょう。ここにいるカグヤに勝てたら俺と勝負しましょう」

「なに? まあいい」


 もしカグヤの方が強いなら、強い方と戦いたいのだからいいだろう。俺の方が強いなら、結局カグヤに勝たなきゃ意味がない。

 まあカグヤが勝つって信じてるけどな。


「なに勝手に私を出して話を進めてんのよ」


 もしもカグヤが負けるような手練れなら、アイラに銃でも借りて風穴開けてやらあ。


「三日後の朝九時、この先の広場で待っているぞ!」


 どうして朝からなんだか。

 まあいいや。それだけ時間があれば、カグヤが負けてもいろいろ仕掛けておけるからなんとかなるだろう。

魔法の上位というものの本質はゆっくりと明かされていくでしょう

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