危険生物との遭遇
今回はちょっと短めです
バカな子ほど可愛いとは言うが、実際は友達程度なら十分楽しめる。
だが信頼を寄せる仲間として共に活動するのは大変だ。
役に立たない人間などいない。役に立たないとすれば上司が無能なだけだ。とはよく言うが、俺は別に社会人としての経験があるわけでもない。
一般高校生なのだ。
だから目の前の妖精を御する自信がない。
御する以前に、別に友達全員を旅に連れる必要もない。
「ふふん。もっと私を褒め称えなさい。偉大なる妖精の私にかかれば、どんな魔物も水魔法の一撃でばぼーんよ」
あまりにチョロイ妖精様(笑)を見ているとなんだか不安に駆られた。
「友達だし……これがあれば離れていても話せるから……」
おずおずとウタが差し出したのは小さな手鏡だった。
「魔力を込めれば対になってる鏡を持ってる相手に話しかけられるから」
そういうのだよ。そういうの。
俺が求めているファンタジーなものだよな。
「俺、魔力使えないんだよ。全く」
「え、ウソ」
危ない危ない。
やっぱりこいつに剣を任せなくてよかった。
どんな魔改造されるかわかったもんじゃないな。
「まあそれでも嬉しいよ。使うときは他の奴に頼むこともあるかもしれないしな」
役には立つからな。
それに純粋に鏡としても使える。
というかそういうものは好きだ。
ぶっちゃけるとアイラは羨ましい。
「じゃあまたね!」
「またねー」
「あんまりバカばっかりやってっと、上司に愛想尽かされるぞ」
ロウはなんでそんな渋いんだよ。
俺は俺なりの挨拶で別れようか。
「次来るときは妖精の砂糖漬けをお土産に持ってくるよ」
「ええっ!」
冗談だよ、冗談。
砂糖漬けになんてできないだろ。
やるとしても人の魂が込められた呪いの口縄で縛って連れてくるぐらいだよ。
俺は人の魂は縄に込められないけどな。どこかに売ってるかもしれないし。
…………妖精って美味しいのかな。
◇
元気印のおバカ妖精と別れて旅は続く。
コドモドラゴンがいるという場所から少し離れた高台までやってきた。
先は切り立った崖になっており、眼下には草原が広がっている。
「ここからなら周辺が見渡せるな」
いきなりいる場所まで突っ込むなんてするわけがないだろう?
コドモドラゴンは決して弱くはない。
砂塵蟲竜の方が防御力と殺傷力が高いために危険生物として認定されているが、その大きな体躯から繰り出される攻撃は十分に脅威だ。あくまで大人が何人も協力して討伐する獲物だ。何の策もなく挑むわけにはいかない。とりあえず見つけるところから始めなければ。
「じゃあ、はい」
アイラはよくわかっている。
腕輪から双眼鏡を取り出した。双眼鏡はこの世界には存在しない。アイラに情報を教えて自作してもらったのだ。
腕利きの魔術師は魔法で似たようなことができる。腕利きじゃなくても、原理を正確に理解していればできるのだが。少なくともカグヤはできる。
相変わらず俺の仲間がハイスペックすぎて辛い。
「じゃあ交代で見張るか」
しばらく生活できるように場を整えていく。
その間も双眼鏡を持って見張りが一人ついている。
それから俺たちは数日ほど見張りをしていた。
森や洞窟、川など、この地域の地理情報を描き留めておくことも忘れない。
とりあえずコドモドラゴンがどこにいるかはわかった。
行動パターンを調べることで、罠も仕掛けやすくなる。
どんなものを好んで食べているか、活動時間帯など、欲しい情報のほとんどが手に入った。
俺とロウは顔を見合わせてニヤリと笑う。
「もうそろそろだな」
「じゃあ仕掛けますか」
俺たちはコドモドラゴン狩りのために準備を始めた。
幾重にも張り巡らせた罠や、有利に戦闘を運ぶための仕掛けを完成させていった。
そんな日の昼ごろのことだった。
「ねえレイルくん。なんだろうね、あれ」
監視していたアイラの方に変化があった。
それは一つの異物。コドモドラゴンを観察する一人の異種族だった。
ここら周辺で最も高い丘に構えている俺たちよりも更に高い場所、空中に漆黒の羽を羽ばたかせてそれはいた。
片手には長い剣を持っていて、肌の色が普通の人間とは違っていた。
俺が幼少期に読み漁った本の中にあったある種族の特徴と一致していた。
認めたくない事実を口にすることで現実になるのを恐れてはいられない。
三人に言い聞かせるように言った。
「中級魔族、通称魔人、だな」
コドモドラゴンなんて比べ物にならない脅威の接近であった。
◇
そいつがこちらが見ていることに気づいた。
視線とかに敏感なのだろう。
空中に静止したままこちらを向いた。
同じ獲物を追う者としての直感でも働いたのだろうか。
優雅に飛行してこちらに向かってくる。
アイラは最大の警戒としていくつかの銃を出してそのうちの一つを構えている。
カグヤとロウも準備万端だ。
「これを出す時がくるとはな……」
ロウが出したのは錫杖のような武器だった。
「お前そんなの持ってたの?」
「普段はナイフとかにしてるだろ?」
「形状を変えられるのか?」
「いや、変わるのは見た目だけで重さも性質も変わらねえよ」
名前は幻影の錫杖というのだそうだ。
なんだその厨二武器。俺も欲しいぞ。
家の関係で持ってたのかな。
頭からすっかり魔人のことが消えていた。
気がつけば目の前に魔人が降り立った。
「御機嫌よう、人間のガキども。なんかようか?」
俺たちなどなんの脅威だとも思わない様子で彼は尋ねた。
気負いも、緊張もない。軽い調子に思わずこちらもつられそうになる。
だがわかる。こいつは強い。
パワーも、スピードもコドモドラゴンより確実に強い。
警戒など解けるはずもなかった。
「そちらこそ。俺たちになんのようだよ」
ぴりぴりとした空気の中、彼は笑った。まるで友人がジョークを言ったかのように。
「なんのようもなにも。お前らがあのトカゲを監視していたみたいだから来たんだよ」
俺たちが観察していたコドモドラゴンがのしのしと遥か遠くを歩いている。
魔人はそれを指差して言った。
「あいつを飼いたいんだ。だから邪魔されたくなくって」
なるほど。そりゃあ俺たちとは相容れないよな。
さて、どうしようか。