妨害
「うん。やっぱり建物を外から爆撃しようか」
「だからやめなさいって」
うーん。地下にいるなら多少荒くしても助かるかなって思ったんだけどなー。
騒ぎになりすぎるのも良くないか。
「やっぱりここは兵糧攻めかな」
逃げられないように警備を強化して、盗賊行為を徹底的に取り締まる。
すこく定番の王道的戦法だな。
「相変わらず考えることがおかしいわね」
盗賊に兵糧攻めはマイナーなのか?
それともこの年齢で、または戦争もない国に生きていて兵糧攻めなんてするところか?
「今回枯渇させるのは人材だよ」
作戦の解説はおいおい、実行とともに解説するとしよう。
各役職を分断し、事情を説明しながらこちらへ引き抜く。それが今回の作戦の基本だ。
その為には魔法の使えないレイルから説得する必要があった。
「カグヤは盗賊の一味とデイザスを見張っておいてくれ。ロウは人質の救出に当たってくれ」
二人はメインウェポンでありながら隠れ蓑でもある。
ロウを連れて見つからないように地下入り口まで連れていく。
カグヤは外で待機してもらった。
「アイラは城の一室を借りたから、そこからスナイパーライフルで監視して、逃げ出そうとした盗賊がいたら足を撃ち抜いてくれ」
アイラが隠し玉にして最終兵器となる。
「了解」
「科学魔法使用許可ちょうだいよね」
科学魔法というのは、俺が教えた物理や科学によって新たな形態を見せるカグヤの魔法を俺がそう呼んだのだ。
魔法関連の人たちには、回収した盗難品の運搬のために、馬車や荷車で待機してもらっている。
そして俺の出番が来た。
まずは俺をここに案内してくれた人だ。
「先輩、大事なお話があります」
真剣な顔でいきなり切り出した俺に怪しみながらも話を受けてくれた。
ボスやその一味が付近にいないことは確認している。
「どうしたんだよ。かしこまって」
「先輩はこの組織が本当に、魔法を根絶するためだけの組織だと思っているのですか?」
「いきなり何を言い出すかと思えば……確かに最近の活動に疑いを持つやつもいるだろうよ。だがそれがどうした? お前もその一人だってのか?」
そうか、そんな人たちがいるならば話は早い。
「じゃあこの組織を仕切っているデイさん。その正体を話すことで信じてはもらえないでしょうか」
俺はそう言うと、城で借りてきた資料を机に出す。
デイザス・ワースの情報が記されたその紙は、先輩が見れば同一人物だとわかるだろう。
彼にこれまでの出来事と推測を照らし合わせて話した。
「こりゃあ……俺たちは騙されていたっていうのかよ!」
「他にもいくつも証拠はあります。おかしいとは思わなかったんですか? 魔法を根絶すると謳いながら、やっていることは盗賊行為」
「だがこの前はこの組織を国に知らしめる、その為の祭典を行うって言ってやがったのに……」
その日を狙って何らかのアクションを起こし、国を混乱に陥れてその隙に国外へ逃げる気なのだろう。
「最近、親分とその幹部が没収品をお金に替えています。その理由も逃げるためのものでしょう」
自分の利益さえあれば、国のことなんてどうでもいい。
わかりやすいくらいにシンプルで、身勝手な考え方だ。
「実は盗賊行為だったことも許せないが、何より俺たちの気持ちを利用して国を潰そうってのが気に食わないな」
そう言うと先輩は俺の手をとった。
「詳しく聞かせてくれ」
こうして先輩を味方につけた俺はボスの部屋に行った。
そこで俺の支払いで宴会をすることの許可を得るために。
先輩にいって人を一箇所に集めてもらっている。
「宴会を開く許可をもらえませんか?」
俺はいきなりそう告げた。
「どうしてだ?」
「士気を高めるためですよ」
もちろん嘘だ。
「俺が支払い持ちますんで」
「そうだな……」
迷う素振りを見せるボスに俺は一つの策を練ってある。
というかこの話は断ってもらっても全然困らない。
「これは、ほんの気持ちですが……」
そう言って恭しく差し出した賄賂はお酒だった。
赤い色が透き通り、まるでルビーや薔薇のような輝きを見せている。
紅泉と呼ばれるそのお酒は、一本で町民の稼ぎが一年ほどとんでいくような酒だった。
俺が潜入捜査にあたって買い込んだのだ。
「なんだこりゃあ」
滅多に手に入らない高級酒を目の前に、デイザスは興奮し、そして判断力を鈍らせていた。
「一杯どうですか」
いつもなら後だなとだけ残して、その瓶をしまっていたことだろう。
だが、賄賂ということと、カグヤとロウに一人ずつ減らされている部下がまだ全員いるという勘違いからくる安心感もまた、彼を蝕んでいた。
「ああ、もらおうか」
彼はその酒を一杯軽くあおった。
俺はその時、とても悪い笑顔だったのではないかと思う。
許可を受けることではなく、このお酒を飲んでもらうことこそが俺の目的だったのだから。
酒に魔物用の睡眠薬を仕込んだのだ。
そして彼は決して安くはないガラスのコップをその場に落としてしまった。
彼は寝息をたてて、机に突っ伏していた。極悪非道の重罪人でも、寝顔だけは普通の人間だった。
俺はボスが起きないことを確認して、許可が出た部屋に向かった。
部屋には三十人ほどが集まっていた。
今はロウが人質の救出に向かっている。
カグヤに囮になってもらい、盗賊の一味は正体不明の侵入者の撃退に建物の中を走り回っている。
この部屋は建物の離れにあるので、警備がくる心配もない。
「お集まりくださり、ありがとうございます!」
彼らが一斉に俺を見る。
「親分デイさんの許可の元、宴会を開催する、というのは集めた建前です」
周囲がざわつく。
「この組織の、本当の目的をあなたたちは知らない」
どういうことだと騒ぎ出す者がいた。
斜め前の女性は不安そうに隣の人と顔を見合わせている。
収拾をつけなければならない。
「この組織を仕切るデイさんは──────」
言いかけたところで、ここに来るはずのない人物が現れた。
「おい、お前ら! この建物が国の兵士に囲まれてやがる!」
それは盗賊幹部の一人だった。肩から斜めにかけた紐で後ろに剣の鞘を縛っている。
「国の兵士だと……」
「まさか、こいつ……」
団体の中に動揺が走る。
俺は疑いの目を向けられることとなった。
このままでは説得なんてできるはずがない。
盗賊は俺たちを見渡して違和感に気づく。カグヤとロウで撹乱して隠してもらっていた真実に。
「……ってなんでこんなにここに集まってやがるんだお前ら…………?」
目の前には俺に疑いをかける盗賊、説得のしようがない集団。
俺たちの計画は、他でもない味方であるはずの国の手出しによって妨害され、取り返しのつかないところまできてしまったのだった。
俺は王へ計画を話しておかなかったことへの後悔をしながら考えていた。
次の一手を。
そしてこの状況から逃げ出す手段を。
うわあ、どうしよう