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ただ奪うだけではない

 俺はあの後、なんとかしてボスの顔やその取り巻きの特徴などを調べて覚えた。


 ボスの名前はデイといった。おそらくは偽名だろう。これから逃げるというのに本名を使うわけもない。





 変態の部屋はすっきりと整頓されているが、近くにある引き出しを開ければ怪しげな道具やコスプレ衣装のようなものがわんさかとあるのを俺は知っている。

 見つけてしまったときはアイラから隠すのに必死になった。

 俺もまだまだ青少年だな。いや、まだ体はそこまですらいってないんだが。


「あいつらは魔法の根絶なんか求めちゃいない」


 この部屋で集まるのに慣れてしまい、目の前の変態の姿にも慣れてしまった今日この頃。

 俺たちは集まって、お互いに得た情報の交換をしていた。

 三日後には被害者の会が開かれる。

 それまでに手ぶらというわけにもいかないのだ。


「どういうことだよ」

「言い方が悪かったかな。俺だって直接聞いたわけじゃないよ。推測でしかない」

「で、どういうことなの?」

「あいつらには裏で手を引いている盗賊がいるんだ。言葉巧みに国民を誘導し、魔導具や魔石を強盗させている奴らがな」

「つまり表向きは魔法の根絶を目的とする組織で、それを隠れ蓑に盗賊行為を働いているってわけか」


 となれば本当にあの組織を潰そうと思う場合、倒さなければならないのは国民側ではなく盗賊の一味である数人でしかないということだ。人数が減ればやりやすいというものでもないが、わかりやすくはなっただろう。


「まずは盗賊の顔がわれているかだよな」


 犯罪者には階級がある。

 S級からE級までのクラス分けをされている。

 それは指名手配されるときに一度決まるが、捕まえられたあとに判明した罪状などで変化することがある。

 とはいえ、実際に指名手配されるのはC級以上の犯罪者である。

 D級以下は犯罪に関わっている者や、故意的ではないが罪を犯した者となる。その程度の末端組織の構成員などになると指名手配するのが大変なのだ。

 指名手配されると、他の国にも通達される。だがその全てが公開されているわけではない。

 中には危険すぎたり、指名手配しているという情報が相手に渡ること自体が状況を悪化させると判断された場合、秘匿されることもあるのだ。

 もちろん多くの犯罪者は特徴と名前などが公開され、冒険者ギルドなどに手配書が貼られている。

 殺した証拠や生かして捕らえれば賞金も出る。


「逃げる気なのはわかっているから、どうにかして捕らえたい。捕らえられなくてもせめて情報は得ないとな」


 人質がいるので捕まえるのは困難だろう。

 上等な酒に毒でも仕込むか。

 いやいや、人質に毒味をさせている可能性を考えるとこの手は危ない。


 あれこれと考えていると、カグヤから提案された。


「案ずるより産むが易しって言うじゃない。王城に行って犯罪者資料の閲覧許可を貰いにいかない?」


 そうだな。勇者候補は他国との友好関係にも動ける。ならば犯罪者の資料ぐらい見せてもらえるかもしれないしな。




 ◇


 どこの国の王城もさほど変わらない。

 といっても特徴はあるようで、リューカはやや竜を意識したデザインで、赤を基調としていたが、魔導国家ウィザリアは至るところに魔法陣や魔石があしらわれていた。

 おそらく侵入者を撃退するために使われるのだろう。

 逆にいうなら、この国の城は絶対に見取り図などの情報を奪われてはならないということだ。


 謁見許可はあっさりとおりた。

 つくづく勇者候補という肩書きの便利さは重い。

 見た目や実績に関係なく王に会えるのだから。

 後から知ったことだが、ギャクラで勇者候補は軽いといった俺の言葉については間違いがあった。

 最終項目の"王族二人以上の承認"というものがあり、これがとても難易度の高い項目だったらしい。

 だからこそ他国は勇者候補という肩書きの子供を軽んじなかったのだ。

 俺は王様とレオナにもらったが、レオンも頼めばくれただろう。

 俺からすればあまりにも軽い項目だったので失念していたのだ。

 もちろんその引き換えとして旅の報告をする義務が課せられるが、どちらにせよ双子には手紙を送るので関係なかった。


 あ、そうだ。俺、この事件を解決したら父上に手紙を書くんだ。これは死亡フラグか?



「犯罪者資料の閲覧許可か……もちろんそれは構わんのだが、少々見られたくないものもあるのでな……」

「城の見取り図と魔法の研究資料でしょう?」


 いくら対魔族、魔物協定によって禁止されているとはいえ、俺たちがスパイをしないとは限らないのだ。

 特に後者なんかは、魔物に対しての武力の共有である、などといってゴリ押しされてしまう可能性だってある。

 そうなれば他の国も、魔法研究の成果は気になるし、それを建前にギャクラにつくかもしれない。

 そんなことがないように警戒もしないようでは王失格だろう。


「察してくれて助かるな……だがあの噂は本当だったのだな……」


 噂? なんのことだろうか。


「ギャクラに魔性の頭脳を持った子供がいると。ここまでとは……」


 魔性の頭脳って(笑)

 ちょっと前世の知識があって早熟なだけで、ちょっと性格が悪いだけじゃないか。

 こんな一般人捕まえてまるで魔王かなんかみたいに言うのやめてほしいよな。

 脆弱なしがない冒険者だし、たいしたことしてないしな。


「こちらから資料をまとめたものを出すので、部屋を貸すからそこで好きなだけ見るがよい」

「ははっ。ありがたき幸せ」


 形だけ礼儀正しく述べて退室したのだった。









 ◇


 このとき、レイルは気づくことがなかった。ウィザリアの国王の心配は単なる杞憂であったことに。

 レイルは魔法陣こそ専門ではないが、単に魔法というものへの理解だけならばこの国の研究者よりも上であったことに。

 それはレイルが前世で読んだファンタジーや、学んできた物理、科学の知識などから自然と生まれた解釈でしかなかったが、この世界の住人からすれば何百年と文明を進める概念であった。

 彼に魔法の研究資料を渡して、そのときに仲間に話すことや独り言を部下に記録させるだけで、この国の魔導学が一気に発展していただろう。

 その選択はリスクこそ高いものの、それで得られる利益は大きい。


 ギャクラの王があっさりと自国の利益になる可能性があるレイルを手放した理由の一つもここにある。


 ギャクラ国は魔族、魔物に対して積極的ではなかった。

 ましてや魔王討伐のための勇者派遣などはほとんど力を入れていなかった。

 勇者関係の活動はレイルが旅立ったのが数十年ぶりである。

 そんなギャクラはこんな隠し玉を持っていたのだと各国に知らしめるためであった。

 実際、ウィザリアはこの件が終わると、ギャクラに持ちかけられていた貿易の話を受けることになるのだが、それはまた今後の話。










 ◇


 あーあ。やっぱりそんなにうまくはいかないか。

 神様に会いたい俺としては、世界を越えられるような魔法がないかとこの国に捜しにきた部分もあったから、ちょっと残念。

 まあ幸い俺はまだ少年。魔物の攻撃で死んでしまいそうな貧弱なこの身だけど、時間だけはまだある。

 それに他の種族も見てみたいしな。


「なにぼーっとしてるの?」


 アイラから心配されてしまった。

 今は奴らの情報の取捨選択に集中しようか。

 広げた紙の中から、一枚の紙に目がいった。

 それはA級犯罪者の指名手配リストだった。

 A級犯罪者とは国家反逆罪など、国に追われるレベルの犯罪者のことだ。

 S級が人類滅亡を企てたなどといった歴史級の犯罪者であり、数百年に一度などしか出ないことを考えると、実質最高と言える。


「こいつは……」


 そこに載っていたのはデイザス・ワースという男だった。

 その特徴は俺が組織に潜入しているときに見た人間と酷似していた。


 十年前、ギャクラの隣国が魔物に襲われて滅亡した。

 だが後からその襲撃は人為的なものだと判明した。

 数年の間にギャクラに魔物の活発化の情報を流し、ギャクラに隣国から武器を買い集めさせた。

 そして逆にその隣国へは美味しい依頼で腕利きの冒険者を呼び寄せることにより、警備への警戒心を薄れさせた。

 油断してきたところに国の周囲に魔物が好む血や肉をばらまいておびきよせたのだ。

 魔物がうろついて、集団での遠征依頼をして冒険者がいなくなった隣国。国の祭日、首謀者は少数の盗賊を使い、国のあちこちに火を放った。

 その騒ぎに乗じて王族を殺害。混乱した国から有力な貴族だけを逃がすことで、その国は統治能力を失い、国としての形を保てなくなったのだ。


 



 今でも首謀者の目的はわからないし、その国に放たれた間者がいなければ今頃、特徴もわからないまま首謀者は逃げられていたことだろう。

 間者のおかげで今もここに情報があるといえる。当時の詳しい状況までは記されていなかった。

 まさかこんな遠い国まで……いや、むしろギャクラ付近の転移門ゲートから近くてなおかつ距離は遠い。

 格好の隠れ場所だったのだろう。

 それが今更、また何故?

 また今度はこの国を滅ぼすつもりなのだろうか。



 その首謀者が当時の国の貴族が一人、デイザス・ワースだったというのだ。


 デイザス・ワースとは、国家反逆なんて未遂じみたものではない、正真正銘の国家転覆罪の戦犯の名前だった。



 これは……やばいな。

 思っていた以上に大物だったようだ。

あれ……?

最初はここまで話が大きくなるとは思ってませんでした。

書いているうちにいつの間にか……


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