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反魔法団体

 おっさんはレイルたちといる間も、どの子も美味しそうだとか思いながら舌なめずりしているのですが、レイルはその現実から目をそらしています。

 変態に協力して、反魔法団体の問題解決に向けて動くことになった俺たち。

 そのためには情報収集が必須だとは当然の摂理である。


「名乗ってなかったな。俺はレイル。横からアイラ、ロウ、カグヤだ。で、情報を集めると言ったが、そのためには最初にしとかなくてはならないことがある。わかるよな?」


 変態と四人の冒険者は魔導具屋の一室にて作戦会議のようなことをしていた。

 おっさんはゲイザーと名乗った。


「そう、おっさん。あんたに話を聞くことだ」

「いや、この情報が真実かどうかは……」

「いいんだ。本当かどうかなんて。奴らが住人にどのように思われているか、どのように思ってもらおうとしているか、が知れたらいいんだ」


 おっさんの目が泳ぐ。


「そのことなんだが……何を隠しているんだ? さっき俺が人質を救出したら建物を壊しても構わないなと言ったときに慌てていたよな」


 いや、建物壊されたら嫌だってのはわかるんだが。

 どうしてそれに対して、どこか後ろめたい何かを隠したような反応をしたのか。

 ややあって気まずそうにゲイザーは言った。


「…………奴らが魔導具に関する物の買い占めを行っていると言ったよな。奴らが解体されたときはそれらの回収をしたい」


 なんだ、そんなことか。

 どうしてそんなことを隠すというのだ。


「そうだな。俺としたことが。俺たちに報酬として製品の1割貰えればいいな。じゃあ商品をできるだけ傷つけないように作戦をたてよう」

「えっ? こんな状況で利益の心配かよとか軽蔑しねえのか?」

「は? 何を言ってるんだ? 商人なら利益を求めて当然だし、大量の魔導具を破棄するのはもったいないと思うのも道具屋として普通のことだろう?」


 俺たちにも旨味があるのにな。

 あれか? 俺が「いざとなれば手段は問わない。商品は諦めてもらおうか。その覚悟があるか?」とか言うような無能だと思ったのか?

 それもしょうがないよな。冒険者とはいえ、新米丸出しの子供だしな。

 そういう問題じゃない? いやいや、人間頑張ればなんとかなるって。

 おっさんがほっと胸を撫で下ろしたのを見て俺は話を戻した。


「で、情報集めだ。俺たちでも動こうと思うが、おっさんは近日中に被害にあっている店の代表者を集めてくれないか?」

「あ、ああ。魔法協会と商会に依頼すれば内容が内容だしいけるだろう」


 真面目な話をしているが、あくまで目の前にいるのはガチムチのウサ耳仮面、素面でマイエンジェルなどとほざく変態だ。

 名前は知っているが、おっさんで十分だ。


「じゃあ次に俺たちの勝利条件を設定しよう。まず、人質の解放。次点で組織の解体。最終、魔導具の回収。これでいいな?」

「組織が解体されなくっても、動けなくしちゃえばいいんじゃない? それに私たちが解体しなくても、国が動ける状態に持っていけば勝ちでしょ?」


 アイラはやはり頭がいい。

 俺が一から教えたとはいえ、年齢や経験で補っている俺たちについてきているのだから。


「お前ら、見た目通りの子供じゃねえみたいだな」

「そこはとっぷしーくれっとですよ」

「なんだそりゃ?」


 しまった。固有名詞以外は日本語しか通用しないんだったな。このネタも通じるわけがない。

 ロウに聞かれる分には構わないか。


「じゃあ──────」


 俺は各自に指示を出して、単独潜入のために動き出した。







 ◇


 敵の情報を知る手段についてだが、全くといって問題がなかった。

 普段ならば情報収集はロウやカグヤに任せることも多い。

 レイルだって人より分別わきまえちゃいるし、中学のときに使っていた大人相手の猫かぶりなどを駆使すれば楽勝だと踏んでいる。

 そもそもおばちゃんなんておしゃべり好きだし、子供好きも多い。客商売ともなればなおさらだ。

 気難しい年頃の男の子が愛想良く話しかけてきたらそれだけでほいほいと世話を焼き、いろいろと教えてくれる。


 だが今回は相手が相手だ。


 表の情報は今度の会合でも十分集まる。欲しいのは裏の情報なのだ。

 都合の良いことに、レイルは全くといって魔法が使えない。いや、魔力すら使えない。

 だから裏の情報を得るために、逆に町の人に嫌われる行動をとるのだ。


 別の魔導具屋では


「ねえ、おばちゃん。魔力の使えない人でも使えるのってない?」


 ここで本来ならば、おばちゃんではなく、お姉さんと呼びかけるべきだ。

 あえてセオリーをガン無視。


 とある店では


「おじさん、僕全く魔法が使えなくってね。魔法が上手くなる道具とかないかなあ?」


 そんなものがあれば、魔法の使えない奴らに買い占められているだろう。


 挙句のはてには


「魔法なんか使えなくたっていいじゃないか!」


 そう、レイルが全く魔力が使えないことを街の人に知らしめたのだ。

 ガラにもなくあざとい子供の演技でもしつつ、魔法への心証が悪いことを広めながら。

 そんなことをすれば、魔法至上主義のこの国では子供でも白い目で見られる。

 魔法至上主義の奴ら側に協力しているのだが、協力している味方に白い目で見られて、やる気もなくしそうなものだ。

 だがレイルはそんなことを全く気にしなかった。




 そんなことを繰り返していくうちに、本命の男が現れた。






 魔力の使えないことに逆ギレして涙目で走るフリをしているレイルを呼び止めるものがいた。

 レイルは走っている間もわざとらしく、


「魔法なんか……魔法なんか……っ!」


 とこぼしながら走っていた。

 あまりに不審人物であり、レイルの見た目が少年でなかったら兵士が出てきてもおかしくはなかった。

 レイルは久々に自分の容姿に感謝していた。

 そんなレイルを呼び止める者がいたのだ。


「そこのボウズ!」


 レイルは今にも泣きそうな顔で内心うまくいったとほくそ笑んでいた。


「なんでしょうか?」

「この国を、魔法が使える奴らばかり優遇されるこの現状を、変えたいとは思わないか?」


 演技さえしていなければレイルはこのセリフを鼻で笑っただろう。

 チンピラに毛の生えた程度のことしかできない集団が国を変える?

 具体案でも出してみろと問い詰めてそれこそ男の方が涙目になっていただろう。

 レイルが演技をしていたのはこの男にとって幸か不幸かはわからない。

 ただ、レイルは単独捜査のために男についていった。








 ◇


 知らない人にはついていくなとは言うけれど、わざと不審者についていくなんて皮肉な話だよな。


「これから行くところは、魔法に頼らない世界を作る先駆けとなる組織だ」

「へえ。明確な目的があるんですね、すごいなあ」


 うわあ、白々しい。

 男はそんなお世辞にも気をよくしたようで、これから行く場所のことや、組織の活動などについて得意げに話してくれた。

 その内容によって、おっさんの話に嘘や勘違いがなかったことが証明された。

 彼らは犯罪行為に手を染めていたのだ。



 組織の建物に着いた。場所はしっかりと覚えておかないとな。

 最初に魔法が本当に使えないか調べる道具を使われた。

 もしかして少しは魔法が使えるのかと淡い期待もあったのだが、無惨に打ち砕かれた。

 示された反応はこの組織でも半分もいない、資質皆無であった。

 一つの部屋に案内されて、そこで組織の説明を受けた。

 男は組織のスローガン的なものを最後に説明してこう締めくくった。


「生まれたときの資質で全てが決まるなんて馬鹿げている。だから魔法は排除しなくてはならないんだ」


 どうして「だから」なのかはわからないし、その手段が間違っていると気づけないという点で彼らに与するという選択肢はなかった。

 俺も魔法は使えないが、使えないからといって困るほどではないぞ。

 そう言えるのは俺が魔法のない世界に住んでいたからだろうか。





 それから数日かけて、俺は彼らの心証をよくするために動いた。

 掃除などの雑用をこまめにうけ、あれこれと気を回して愛想を振りまいた。

 あまりやりすぎると怪しまれるかと思ったが、気づいた様子は全然なかった。

 掃除などの雑用を受けるのには理由が心証の他にもある。

 噂話などから情報を集めるためだ。掃除をしている相手などは意識の外に外れやすいのだ。

 身内同士の会話の栓も緩みやすくなる。

 その過程で、地下室に食事が運ばれていくのを確認した。

 人質の居場所はおそらくそこだろう。


 少しずつ隠れて建物の見取り図や、人員の数、武装具合などをメモしていく。

 これがバレると失敗だ。


 俺はここに案内された男が専属の世話係みたいになった。

 あれこれと説明するのはだいたいこの男だ。

 今日も組織のことについて話していた。


「というわけで、邪悪な奴らの手に渡る前に俺らが魔導具や魔石、杖などを回収しているわけだ」

「じゃあみんなから没収したものが倉庫とかにあるんですかね」

「あー、どうだろうな。でも大量の荷物を持った奴らが親分の部屋に入っていくのは見たことがあるぞ」

「親分なんているんですか?」

「ああ。親分とその取り巻き数人によってこの組織は発足されたんだ……ん? 何がおかしいんだ?」


 俺は無意識の内に笑っていたらしい。

 危ない危ない。演技がバレるところだった。

 そうかボスか……ボスなんているのか。新興宗教のような匂いがあるからもしかしてと思ったが、違ったようだ。

 この組織の本当の目的がわかってきたぞ。


「もしかして親分はたまに出かけていていなかったり、親分の部屋には決められた人しか入れないとかあります?」

「ああ。それに親分はこの国の出身じゃあないらしいな。この国にきて、酷い現状に呆れて変えようとしたのが始まりだってよ」


 そういうことか。はははは、どうしてこんな簡単なオチに気がつかなかったのだろうか。

 被害があるが、国が動けない。人質がとられている。気づく要素などいくらでもあったのに。

 これで壊滅させる方法なんていくらでも出るだろう。

 というか倒さなければならない人数が減って助かるな。

 俺は誰にも気づかれないように声を殺して笑っていた。


 さあ、始めようか。

 楽しい楽しい、阿鼻叫喚の宴を。

ご指摘や誤字などあれば教えてくださると助かります。

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