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2人きりの迷宮探索

視点がお嬢様に変わります

 私は幼馴染にバカにされてムキになっていたのかもしれない。

 彼の言うとおり、私にツテなどあるはずもない。

 素直に彼とその専属の部下を連れて迷宮に入れば、おそらく当主の証は持ってかえってこれるだろう。


 だが、そんなことをわかったって、私にも意地というものがある。


 ツテはなくとも当てはある。

 サーシャお姉様は私の親戚に当たる人で、ギルドの冒険者からも、お城の人からも一目置かれている凄い魔法使いだ。お姉様に頼もうかとも思った。

 だがそんなお姉様を倒した人物がいるという。


 それが信じられない話だった。


 お姉様を倒したというのが、私と同い年ぐらいの少年少女の四人組だという。

 しかもほとんど攻撃を行わず、お姉様の対軍魔法、水龍を打ち破ったというのだ。

 そして、そんな彼らに私は偶然出会ったのだ。

 見た瞬間にわかった。サーシャお姉様から聞いていた特徴的な組み合わせ。彼らに違いないと確信した。

 そしてこれは運命だと思った。

 私は彼らを当てにして、急遽持っていた印鑑を預けた。


 そして、交渉の場だ。


 私は幼馴染が憧れていて、よく話すせいで場所を覚えてしまっている冒険者ギルドの酒場で待ち合わせをした。

 だけど、彼らには約束を守る義務はない。

 お金を渡してもらえるといっても、口約束。私が男たちに追われていたことを考えると、もうあの印鑑が渡っているかもしれない。


 これは賭けだった。


 私の人を見る目と、その四人の人格に対する賭けだったのだ。


 私は賭けに勝った。

 出会った四人のまとめ役はレイルさんと言う少年だった。

 顔つきこそ平凡で、少しだけ整った程度であったが、単に善良な少年だとは思えなかった。

 私は約束の報酬を渡した。金貨とは平民からすればかなりの大金だという。ならば私ぐらいの年の子がこれを手にすれば浮かれた様子の一つでも見せるのではないかと思った。


 彼は実にあっさりしたものだった。


 まるで金貨など見慣れていると言わんばかりに、隣にいた紅い髪の少女に「しまっておいてくれ」と渡してしまった。

 隣にいた少女も、さも当たり前とばかりにどこから出したのかわからない大きな容れ物に入れてしまった。

 それをみて私は絶句した。


 中には金貨どころか、白金貨まで小銭のように放り込まれていたのだから。

 私が口をぱくぱくしているのに気づいた彼は気まずそうに私に頼んだ。


「あ、これ内緒にしてくれよ」


 一体どこでそんなに稼いだのかと聞くと、どうやら新しい医術を確立してその論文を国に提出したのだとか。

 それは聞きなれない単語でした。新しい医術なのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

 「ヨボウセッシュ」というものを発明したそうだ。「ヨボウセッシュ」というのは、生物は元々、一度かかった病魔に耐性を持つのだそうだ。それを利用して、死んだ病気の元を体にいれて、それを倒して無力化することによって、その病気の耐性を得る方法のことだそうだ。一度死体と戦って殺せる武器を作る、みたいな。

 詳しい方法は隣のギャクラが持っているそうなので、私ごときが聞きかじった知識程度ではどうしようもないだろう。

 そうでもなければそんなにあっさりと重要な情報を漏らすこともない。


 どうしてこんな人間が冒険者をしているのだろうか。


 彼は予想以上に、大人びていて、穏やかな人だった。

 お姉様の魔法を破るぐらいなら、もっと自分に自信のある傲慢さのある人物かと思っていた。


 しかし困った。


 目の前の彼の正義感に頼るわけにもいかない。

 ならば貴族らしくお金に頼ろうと思っていた。

 なのに彼はお金になんか困っていないといった感じだ。

 もしもキリアなら「見ろよ! これが俺の力だ! 金貨を手に入れてやったぜ!」と大はしゃぎしているだろう。その様子が目に浮かぶようだ。

 もしかして彼は王族の末席とかで、道楽として密かに護衛でも雇っているのだろうか。


 ただ、幸運なことに彼らは目配せしたあと、あっさりと私の頼みを受けてくれた。

 彼らには彼らの都合があるのだろう。

 レイルさんは何故か要求の一つに、彼との仲直りをあげた。








「はあ? 地下?」


 レイルさんは……いや、呼び捨てするように言われたので、レイルと呼ぼう。レイルは当主の迷宮は屋敷の地下にあると言うと驚いていた。


 五人で私の屋敷の門前まで来たとき、私を呼ぶ声がした。


「おい、カレン! なんだよそいつらは!」


 私の生意気で憎たらしい幼馴染、キリアだ。

 キリアは今日も一人だった。いつも何処かに行く時は専属のメイドや護衛の人といるくせして、私のところに来る時は一人なのだ。


「あんたには関係ないじゃない」


 私は冷たく言い放つ。

 本来ならば彼の家の方が家格が上なので、こういう対応はまずい。

 しかし彼の両親と私の両親は幸か不幸か仲が良かった。

 彼の両親は私に、


「この子に気を使う必要はないからね。どんどん思ったこと言ったげてちょうだい」


 と言ってくれた。実際そうしていて、少し言い過ぎたこともあった。彼は両親に言いつけたが、


「貴方も男の子なら自分の力でなんとかしなさい」


 ととりあってもらえなかったそうだ。

 だから私はキリアには一切気兼ねしない。

 言いたいことは全部言っている。その中には悪口も入っているのだが、彼はそんなことを一向に気にせず、いや気にはしているがめげずに私を構う。


「なんでこいつらなんだよ。俺よりも今日昨日会ったような奴らのことを選ぶっていうのかよ!」


「なんであんたが私に信頼されてると思うのよ!」


 思わず素の口調が出ている。


「俺にもその口調でいいのに」


 レイルが横でそんなことを言っている。その口元は何故かにやけていて、何が楽しいのかわからない。


「くそっ。俺は認めないからな!」


「認めるのは私。ほら、依頼書」


 私の直筆で判子の押された紙をみたら諦めてもくれるかと思ったのに、拳を握りしめて泣きそうな顔でこっちを見ている。

 レイルは困ったようにこちらを見ているが、気にしない。無視だ無視。

 私たちは屋敷に入った。







 お母様までもが、私が最終的にキリアに頼むと思っていたみたい。

 本当、失礼しちゃうわ。

 お母様は迷宮には当主候補の他に一人しか入れないと言った。

 それを聞いたレイルは、視線を彷徨わせて


「じゃあ……カグヤ────」

「レイルが行くべきね」

「ロウは──」

「レイルだろ」


 と二人に断られ、アイラちゃんに目をやったあと、アイラちゃんに何?という目で見つめられて断念した。


「俺、この四人で一番弱いのに……魔法でいろんな敵に対応できるカグヤや、隠密が得意なロウならともかく……アイラは銃を含めたいろんな道具を使えるし……」


 ぶつぶつと呟いていたが、観念したようだ。

 アイラちゃんは心配などしていない様子で、自分のつけていた腕輪を外してレイルに渡した。


「貸してあげる」


「だから俺、銃は使えないって……まあマシンガンならなんとか……便利なことには変わりないか」


 マシンガンとはなんだろう。

 ともかく私とレイルが迷宮に入る間、他の三人は屋敷で待ってもらうことになった。










 迷宮の入り口には執事さんが案内してくれた。

 レイルに会うまでは、幼馴染の行動のクロマクとかいうやつだと疑っていたのだが、そんなことは本当になかったようだ。

 何の妨害をするどころか、丁寧にレイルと私を案内した。

 妙な飾りのついた物々しい扉の前にくると、レイルにこそっと耳打ちした。


「レイル様、依頼を受けてくださってありがとうございます」


 え? どういうことなのかしら。

 気になるけど今は考えないでおこう。

 レイルと一緒に迷宮を歩く前にこんなことを言われた。


「カレンは天井とかに気をつけて。それと足元に罠があるかもしれないから、そっちは俺が警戒しておく。だから俺が歩いた場所以外は踏まないように」


 とても手慣れた様子だったので、迷宮探索の経験でもあるのかと思い聞いてみた。


「レイルって迷宮はよく探索するの?」


「いや、初めてだ。カレンには悪いけど、今回受けたのはそういう理由もあるんだ」


 彼によると、当主のための迷宮で致死率の高い罠や、強力すぎる魔物は配置されていないだろうとのことだ。

 だからぶっつけ本番で迷宮に挑むよりも、こっちで経験を積んだ方がいいだろうと考えたらしい。

 私としては、何も対価を受けないでついてきてくれただけでも十分なので何も言わない。

 というかむしろ、私がついていっているだけにしかなっていない。


「俺は自己中心的な人間でな。だいたい俺を中心に旅の計画を組んでいる。あいつらだけならもっと違う旅もできただろうけどな」


 そんな自虐は単なる冗談なのだろう。

 彼が弱いなら彼に合わせて当然だし、彼は結局ここに他の人を送り込んではこなかった。

 仲間を危険に遭わせたくなかったのだろう。

 だからこそ、普段は自分ですら安全な道を選ぶのだ。


 実際、彼が冒険者としてはどうなのかはわからないけど、私にとってはとても頼りがいがあった。

 段差があれば教えてくれるし、少しでも無理そうな道は選ばない。

 足元に罠があればなんとか気づいて、外したり自分で作動させたりしている。


 でもどうしてかな。


 この迷宮の罠は確かに危険なものはほとんどない。

 だけど精神的にはかなり嫌なものが多い。

 スライムの溜まった落とし穴だとか、上から水の降る罠……とにかく私たちの心を折りにかかってくる。


 レイルが注意深いので、一度も罠にはかかっていない。

 というかどの罠も、素人でも注意深く見れば見つけられる程度のものだ。

 それぞれの罠は簡単で、見つけるのも解除するのもできたが、その組み合わせが相手の心理を逆手にとるような配置になっている。


「よく見つけられるね」


「俺が配置するならこうするからな」


 なるほど、自分でも性格が悪いといっていたのはあながち自虐ではないらしい。

 でも、冷静にかつ私への気遣いも忘れずに攻略してくれているレイルは頼もしくて、かっこよかった。


 でもこの罠を見ると、キリアを連れてくるのも良かったのではないかとも思う。

 無謀にぐんぐん前に突撃して、無様に罠にかかって精神的にボロボロのキリアを見て笑うのだ。


 ……私も性格悪いとか言えないな。

 それにキリアを連れてはダメだ。

 キリアと二人きりであんな罠にかかった醜態を曝すなんて考えられない。

 中には服だけを溶かすようなスライムの罠まであった。ダメだ、思い出したら顔が赤くなってきた。




 私たちは五階ほど地下へ降りた。

 魔法で無理やり強化された建造物なので、一階ごとにそこまで広い空間はなかった。

 だが最後の階は今までとは雰囲気も、広さも違った。

 まるで空間ごと変わったかのようだった。

 そしてとうとう最後の部屋に辿りついた。

 今までの途中には魔物が現れなかった。途中には、だが。


 最後の部屋には、クマのような大型の魔物が待ち構えていたのだった。


次はレイルの視点に変わりながら、迷宮探索編終わりです。

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