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ある男との邂逅

ターニングポイントってなんだろう

 クラーケンを配下にして何ができるのかと言われれば、まずは航海だろう。


 は? 航海? それでどうしたんだ?

 などとは言ってはいけない。


 今まで大規模な移動には転移門ゲートを使用するのに休憩を挟むのでやたら時間がかかった。

 しかし世界地図こそ立派にできているこの世界でクラーケンという護衛兼案内をつけて安全な航海ができるようになれば、世界のグローバル化が進む。


 たかがクラーケンを配下にするだけでえらいことだ。


 いや、たかがクラーケン、されどクラーケンだ。

 俺たちは無理矢理陸に引きずりだしたからこそ楽に屈服させられたが、国で討伐隊が組まれたり、英雄と呼ばれるような冒険者が死闘を演じて滅ぼすような怪物である。

 少年少女が釣りで大物釣れたーぐらいのノリで捕まえるものではない。


「なんでもお命じください」


 すっかり敬語まで使いこなしているこいつの知能の高さに舌を巻きつつも、単純な命令を幾つかだしておく。

 漁師とか一般人を無闇に襲わないようにと言い聞かせた。手を出されたときだけ反撃を許し、出来るだけ殺さないようにと。


「承知しました」


 それと俺の名前を使っていいから、無害であることも主張するように言っておいた。


「またなにか頼むかもしれない。そのときはよろしくな」


 俺たちはクラーケンを残して旅立った。






 俺たちは南へ向かっていた。次の国が南にあるからだが。

 その道中、偶然にもギャクラ国の騎士団と出会うこととなった。

 彼らは休憩中だった。馬車に積んでいた荷物から食事を取り出して辺りに広げていた。

 そこに近づいたところで、

「よければ君たちもどうかね」

 と誘われて俺たちもちょうど昼食をとろうとしていたので、そのままともに食事を取ることになった。

 食料は自前で用意したがな。


「お仕事お疲れ様です」


 簡単な挨拶とともににこやかに話しかける。

 自己紹介を終えると、団長らしき──しかし団長にしては若い男性の眉がピクリとあがる。


「レイル……君はもしかしてレイル・グレイかい?」

「え、ええ。そうですけど。どこかでお会いしましたか?」


 三十ぐらいだが、その表情にはまだまだ若々しさが残っており、人懐っこい雰囲気のするその表情と涼しげな瞳はさそがしモテるだろうと思われた。

 口調も決して年上とは思えない、爽やかでありながら熱い男性だった。

 精神年齢的には二歳ほどしか変わらないが、俺の方がじじくさいのではないかとさえ思う。

 今でこそやや渋みが出たナイスミドルに近づいているが、若い頃は超イケメンだったに違いない。

 彼はシルバ・ドーランドと名乗った。


「そうか……こんなところで会うとはね。いつか会いたいと思っていたんだけど、君の噂からそのうち城に仕えることになるかと思ってそのときに会おうと思ってたんだ」


 まさか旅立っているも思わなかったと言う。

 目の前の人は俺の何を知っているというのだろう。

 二人で話がしたいと言われた。


「話は変わるんだけどね。今から十年ほど前のことだ。僕はある貧民街に訪れた」


 貧民街と聞いて、生後三年間の嫌な記憶が蘇る。


「そこで僕は奇妙なものを見た。全焼した家屋の跡地なんだけどね」


 嫌な予感がする。シルバさんはじりじりと確かめるように話を続ける。


「周りの住民は野盗にでも襲われたんだろうって話していた。でもおかしなことが一つだけあった。焼死体は二つ。おそらく夫婦のものだろう。何度も刺された痕や頭を殴ったような痕があった。そして、周囲には────子供の生活していた痕跡があった」


 間違いない、それは俺の生まれた家だ。この人は確信こそ持てないまでも、俺の過去に気づいている。

 どうする? とぼけた方がいいのか?

 混乱している俺に追撃をかけるようにシルバさんは言った。


「それがあったほぼ直後、奥方が亡くなってしばらく経っているグレイ家に隠し子がいたことが判明した。しかも隠し子だとジュリアス様は言っているが、血は繋がっていないことがまことしやかに囁かれていた。学園で異常な学才を見せつけながら。それが君だ」


 突拍子もないことを思いつく奴がいたものだ。あんな手がかりから浮浪児と俺をつなげるなんて、な。ここまでバレていては、とぼけたって無駄だろう。

 一体何が目的なんだろうか。全然読めないのが苛立たしい。


「お察しの通りです。僕はその家で生まれました。当時は二歳です。そして俺は──」


 虐待の復讐に親を殺した、と言おうとしたら不意に抱きしめられた。

 えっ? 抱きしめられた?

 わからない。事情があったんだろうって同情でもしているのか?

 殺すほど思いつめることがあったんだろうってか?


「よかった……本当によかった」


 よかった?


「あの時は奴隷商に売られたのかと思ったんだ。どうにか無事を確認できないかと」


 俺が殺したことはわかってないのか。


「すまない。取り乱してしまったな。また何かあれば連絡してくれ。できる限りのことはしよう」


 そう言うと彼は颯爽と立ち去っていった。

 どうやらシルバ・ドーランドという人物は底抜けのお人好しであったようだ。

 たった一度、見てすらいない幼子に感情移入して、その安否を十年も心配していたなんて。

 疑ってばかりいる俺が馬鹿みたいじゃないか。


 騎士団はどうやらこの先にある『自由の街』の治安維持のために行くらしい。

『自由の街』というのは国家に所属しない自治区として機能している街の一つだ。

 税金や規則がないために自由がきくということでそう呼ばれている。

 当然悪事も蔓延りやすく、その余波をギャクラが受けないように定期的に粛清しにいくのだと教えてくれた。


「結局なんだったのー?」


 アイラは俺が一人連れ出されたことに心配していた。


「俺が生まれた場所を知っている人だったよ」

「じゃあ──」

「いや、俺が親を殺してまで逃げたとは思ってなかったよ」

「なーんだ、よかった」


 前世なら十年も経てば時効だとは思う。

 まあ、時効はあくまで法律上でのものだから、それで罪が消えるわけでもないのだけど。


 







 『自由の街』に行く道と、そうでない道、二つに分かれた道の後者はとある建物に繋がっていた。

 木造の立派な建物が一つにその周りを簡素なテントや小屋が囲んでいる。

 集まったそれらは一つの集落のようにさえ見える。


「なんだと思う?」

「サーカスかな?」


 そんな平和なものであればいいけどな。

 先ほど聞いた『自由の街』のその現状と照らし合わせると、あまりアイラが期待するようなものではないと思う。


 二人の男が入り口を見張っていた。

 片方は帯剣しており、もう一人は斧を担いでいた。

 斧というと短く太い柄に大きな刃のついたものを思い浮かべるかもしれない。だがこの男が担いでいたのは細長い柄に小さな刃の斧であった。

 手軽に振り回せそうで、俺の思う斧の戦い方とは違うのだろう。


 話しかけたとたんにグサリとかやられないよな……?

 一応話しかけてみた。


「すいません、ここ、入っても構いませんか?」

「ぎゃははは。入ってもいいがお前らが買える値段のがあるかはわからんぜ」


 買えるもの?

 つまりここは賭博場などではないということだ。

 最悪のパターンである盗賊団の根城という線がなくなってほっと胸を撫で下ろした。


「あ、お金なら大丈夫ですので」


 こんな怪しいところではあまり使う気はないが、学校時代に稼いだ貯金はまだまだ残っている。

 それこそ家族一組が何年も遊んで暮らせるぐらいには残っている。


「へえそうかい。せいぜい下手なのを掴まさせられないよう気をつけな」


 男の忠告を受け、建物が立ち並ぶ市場のような場所へと入っていく。


 テントや小屋にはほとんど人がいない。いや、人はいるのだが、その誰もが手錠や縄で拘束されていたり、檻の中に囚われていた。

 そして一番大きな木造の建物を目指して歩くうちにここがどういう場所であるかわかってしまった。

 なるほど、悪い予想とはよく当たるものだ。


 ここは奴隷市場であった。


 奴隷の売買は多くの国において認められてはいない。

 非合法であっても、あくまで認められないのは売買であって所持ではない。その法律の穴をついて、貴族などの支配階級にある人間の一部は奴隷を使う。

 ではどこから買うのか。その疑問を解消してくれるのがこの国外にある非領土内の奴隷市場だ。

 国の中で行えば見つかって解体される奴隷商も、外で行えば関係ない。

 金のある人間は護衛でも雇いながらここに買い付けにくればいい。


「あまり気分のいい場所ではないわね」

「そういや親父たちは殺さなくてもいいけど無力化したい奴とかはこんなところに流してたな」


 ちょっと待て、ロウの両親の仕事は何をしていたんだ。かなり物騒な言葉が聞こえてきたんだが。小一時間ほど問い詰めたい。

 ここがまだなんの場所かわかっていないのはアイラだけであった。

 それは思考力というよりは人生経験からくる洞察力の差だ。


 唯一自由に動ける人間が警備している屋敷を訪ねた。

 どうやら買い物をするのに客は最初にあそこを訪ねていろいろと話を伺うらしい。

 常連客やお得意様にもなると、買う予定の奴隷を拘束されたまま連れていって金を払って向こうで手錠などを外してもらうのだという。


 そんな事情はさておき、俺はこの場所を見て実に面白いことを思いついた。


「またなんか企んでんな」

「悪い顔してるわよ」

「レイルくんはなにするの?」


 いかんいかん。どうやらにやけていたらしい。にやけるというか某死のノートの持ち主の顔芸である「計画通り」の顔と似たような感じではないだろうか。

 自分でいっておいてなんだが酷いな。


「いやいや、ちょっと考え事をな」

「なに? ここを潰す計画でも思いついたの?」


 潰すってそんな簡単に言ってくれるなよ。

 奴隷っていうのは人権的には許されないことかもしれないが、死ぬよりはましだということで一つの就職先でもあるんだぞ、とは建前だ。

 よくないものなのは確かだし、それで損得が生まれるのも事実だ。


「そんな勿体無いことするかよ。俺は今からここの首領にとある話を持ちかける。お前らには迷惑はかけないが、感情的に受け入れられないかもしれないから聞いてくれ」


 俺はそう前置きしておいてから、今からしようと思うことを話し始めた。

お察しの通り、この男性は閑話で登場した騎士です。

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