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転生したようです、劣悪環境に

弱者とかいて勇者と読みたい今日この頃。

あまりに話がわからないので冒頭だけハイペースで投稿してみました


俺の両親がこんなにクズなわけがない

 暗闇で意識が覚醒した。


 そうだ、俺は生まれ変わる前の記憶を持って転生したんだったっけ。

 神と名乗る存在にそんな風に言われたことを思い出した。

 死因はあまり覚えていない。ただ、死んだということだけをぼんやりと覚えている。


 死ぬ前は高校生だった。

 そこそこ勉強して、部活にもほぼ毎日参加していた。真面目、と言うにはやや熱心さは足りなかったか。友達もいた。親は放任主義で、飯は美味しかった。何より日本は理不尽な戦争に駆り出されるような国ではなかった。

 こうして振り返ると、自分はとても恵まれていたのだということに気がつく。少なくとも身体面では何不自由なく過ごしていた。


 もしかして俺は生前、この上なく幸せな人間だったのではないか?

 そう思うと死んでしまったことが惜しまれる…………なんてことは何故かなかった。


 生前の俺は少しばかり変な人間だった。

 否、思春期としてはあんなものだろう。いわゆる厨二病を引きずっていたにすぎない。

 いつかこの代わり映えしない平凡な日常が変わらないかと心の何処かで思っていた。

 ある日突然、未知の存在に認められたり、超能力に目覚めたり、そんなことはないだろうか、と。実に凡庸ありきたりな願望だ。

 記憶を持って赤ん坊からスタートというこの状態はある意味それを実現している。否、これから実現できる。


 自分の過去は掛け替えのないものだから否定をする気はない。

  前世は前世で頑張ったし、生きることに真面目だった。

 あの時の自分は確かに人生を楽しんでいた。


 しかしだ。

 今の自分のスペックを司るほとんどは生まれてからわずか数年の間に決まると言っても過言ではない。

 身体能力は幼少期の運動量で。

 頭の賢さの限界は遺伝子と教育で。

 その証拠に、運動選手のほとんどは小さな頃から親がそのスポーツを教えていたりする。

 その事実は「もう手遅れだ」と言われているようで腹立たしいものだったのだ。

 前のことも含めてこれからまた頑張ろう。

 それは実にありきたりな決意だった。


 周りの状況を探る。

 かろうじてこの世に生を受けることに成功した俺は、両親が妙な顔をして見ていることがわかった。

 目は見えてないが、先ほどから喜びの声も上がらないのだからおそらくそういうことだろう。

 ……もしかして耳も全然聞こえないのか?

 少し考えて、理由に思い当たる。

 確か新生児は産声をあげなければならないんだったか。泣かない赤ん坊か、それはまずい。それに気がつくと、叫べと体が訴えている。

 こみ上げてくる本能に任せて、初めて叫んだ。


「おぎゃぁぁぁぁっ!!」


 すると、両親は「なんだ、泣けるじゃないか」と俺を妙な顔で見つめるのをやめたのがわかった。




 ◇


 半年がすぎた。

 新生児生活もすぐに終わり、乳児期に突入した。

 なるほど、赤ん坊とは不便なものだった。思うように声が出ない。体の自由も全然きかない。力なんか蚊ほどもでない。

 これでは泣くしかないだろう。


 試しに寝返りをうつも息ができない。慌ててもう一度寝返りをうつ。発声の練習もしておくが、親がいない時だけだ。

 赤ん坊がいきなり言葉を話してどこかの国の研究所に売られたりしても困るからだ。

 売れるほどの知能や伝手もあるとは思えなかったが、殺されるかもしれないしな。自分の中での親の信用の無さに笑うしかなかった。

 仕方もない。

 まだ俺にとって親とは、産んでくれた相手ってだけだ。ここから見ていくのだ。


 体を動かすトレーニングを行いながら生と死の狭間で出会った神と名乗る存在のことを思い返す。

 記憶を持って生まれ変わらせてくれる、と言われたとき最初に浮かんだのは言語の問題だった。

 同じ日本に生まれ変わられるとは限らないし、元の日本語が邪魔をして言語の習得が遅れるのではないかと心配したのだ。

 神はこともなげに否定した。

『そんな心配は杞憂だ。行ってみればわかる』

 そのことは確かに両親が話している言葉を聞いて理解した。


「チッ……また酒がなくなっちまった」


 父親と思われる男が腹立ち紛れに酒瓶を投げた。安酒用に作られた小さなそれは木の壁に当たって粉々に割れた。粗雑な作りの歪んだガラスがバラバラになって床に散らばる。


 危ないな、こちらにはいたいけな乳児がいるんだぞ。

 自分で言うのもなんだが、乳児って可愛くないですか? 守りたくなるような容姿をしているものではないんですか?

 ベビーほにゃららとか言ったな。

 無力な赤ん坊は守られるために本能に訴えかける容姿をしているって聞いたことがある。キ○ィちゃんはそれだとか。だから是非守って育てていただきたい。

 ほら、赤ちゃんだぜ?

 そんな願いも虚しく両親は最低限のものすら与えてはくれない。


「最近魔物が活発化してるから商人も酒より武器だの仕入れてんのよ」


 答えたのはくたびれた感じのする女。おそらく俺を産んだ母親に当たる。細身だが、目だけがギラギラとしている。


「しけてやがるぜ」

「ま、酒がきたからって金のないやつに売る酒はないでしょうけど」

「飲まずにやってられるかよ」


 そう、日本語だったのである。

 しかしここは日本ではなかった。

 なぜわかるかと言われれば、未だに黒目黒髪の人間がいない。

 かろうじて家の窓から見ていると、金髪や茶髪、赤髪に橙など、暖色系が多い。

 ――なにより、魔獣の目撃談などが耳に入ってくる。

 ある日には存在しなかったような生物や魔法の話が。まるで存在するものとして語られている。


 日本、どころか元いた世界ですらないか。はるか未来や過去の可能性も捨てずにはおくが。


 ……だが今はそんなことよりも重大な問題があった。


「あんたいい加減仕事しなさいよ。酒ばっかり飲んでないでさ」

「うるっせぇ! 俺が俺の酒飲んで何が悪い」

「このまんまだと倒れるだけよ」

「それにしても気味の悪いガキだよな……本当に俺らの息子かよ」

「あんたしか相手なんていないでしょ。……何見てんのよ、気持ち悪い!」


 そう、劣悪な家庭環境である。


 まずは住んでいる場所だ。

 この部屋は雨が降れば雨漏りし、風が吹く度にどこかが壊れる。腐りかけた柱には虫がわいている。

 噂の魔物とやらが現れれば、あっという間に一家全滅だ。

 腐敗臭と埃にまみれ、淀んだ空気に侵されたそんな家だった。

 元の世界では見た事がなかったが、スラム街とはこんなものだろうか。

 そして両親である。

 そんな場所に住んでいると心も貧しくなるのか、俺の両親は俺を愛してはいなかった。それどころか。


「あんたなんか産まなければよかった」

「だから言っただろ? 殺しちまえって。食い扶持に困るだけじゃねえか」


 虫の居所が悪いと生まれて一年も経たない自分に八つ当たりをした。

 ろくに食事も与えられないこともあった。そんな時はやってくる違う女の人がきた。彼女が俺に授乳してなければ、死んでいただろう。


「あんたたち、いつまでそんな生活する気?」


 いつも説教だけして帰る女性だった。

 この女性以外、この家に来る者はいなかった。

 どうやらこの家は貧民街の中でも外れにあり、うちの両親はそのコミュニティから外にいるようだった。


 簡潔に言うなら虐待を受けていた。


 転生すると裕福な貴族の家や素朴な農家に生まれ変わると信じていた時期が俺にもありました。


 どこで間違えたのか。記憶を持って転生できた代償だろうか。そうと考えなければやってられない。

 元の世界の日本ならば、児童相談所に行って保護してもらえれば生活ぐらいはなんとかなったのだろうに。幼児が言っても怪しまれるだけかもしれないけどな。


 しかしこの国にはまともな政府があるかさえ疑わしい。

 なにせ全く知識がないのだ。元の世界でも虐待にあった子供が正常な判断ができないのがよくわかる。


 とにかく生き残ることに腐心しよう。

 そしていつかこの家を出るんだ。

 神とやらにもう一度会おう。

 これは決意ではない。約束したのだ。


 転生前、神とした会話を思い出す。



 ◇


 死んだことを知らされた後、神と名乗る存在に転生の説明を受けた。といっても本当に異世界に転生します、記憶は残しておいてあげます、ぐらいのものだったけれど。

 さあ転生しようかという時分になって、こう挨拶したのだ。


『じゃあ、またな』

『お前、また死ぬ気か。確かにいつかは死ぬだろうが、今からそれを言うのはどうかと思うぞ』

『違うわ。生きている間にもう一度会いにいくよ』

『どうしてそんなことを言う』

『なんとなく、かな。約束みたいなものだよ』


 こんな感じだった。

 そこからはたいした会話ではない。

 俺の意識は途絶えて、気がつけば母親の股から生まれてたってわけだ。


 そういえば自分がどんな容姿をしているかがわからない。こういうのってもっと最初にわかるものかと思っていたのだが。あの両親から生まれたのならあまり期待はできまい。


 名前もない、健康な体もない。親の愛情もない。神の加護も……おそらくない。ないないづくしである。今ならないものだけで歌が歌えそうだ。

 両親が俺にくれたのは体と生きる機会だけである。そこに生きていく理由でもないとやってられんな。


 裸一貫で、この身一つでどこまでいけるというのか。


 そもそも俺、三歳まで生きてるだろうか。











 ◇


 俺が生まれて二年になる。

 体が思い通りに動くようになるまで随分時間がかかった。もう二足歩行は大丈夫だ。思考速度も十分、手先は生前とほぼ同じ程度まで器用になった。

 無事ここまで生きてこれたのが奇跡である。本当、よく生きてこれたな、俺。

 転生前の記憶があったからこそ、スムーズにいったのだろう。

 手探りで初めてのことに挑むよりも、以前はできていた感覚を身体に合わせる方が早いに決まっている。リハビリみたいなものなのだから。自分の中にある肉体を動かすイメージそのままに合わせるようにして訓練をする。


 それを含めても前世より明らかに発育が早い。両親曰く存在するという魔法とかが関係しているのだろうか。それとも純粋に身体が脳に引っ張られているのだろうか。前世の肉体を脳が覚えているからそれに近づけようとしているとか、そういう可能性もある。

 とにかく運動能力は生前で知る二歳児よりは高い。



 不幸中の幸い、両親が育児放棄しているので何をしていても不審がられることはない。

 本来、二歳にもならない赤ん坊があっちこっちいったり、刃物に手を出したりしていたら止められるものだ。

 周りは危険だらけ。もしも俺が記憶を持っていなかったらあっという間に死んでいたに違いない。

 だが生き残ったからといって褒められるほどのことではない。ほとんどの人間は生まれて何年も経つうちに自然としている行動なのだから。当たり前のことを当たり前にしているだけだ。


 歩く時には前と足元を見る

 落ちそうなところには近づかない


 幼児はそんな当たり前のこともできない。

 それを放置することの危うさを普通は周りが知っている。

 だから俺のような幼児がいれば親バカならば大喜びし、乳母などがいれば気持ち悪がるはず……なんだがな。


 俺の両親は話しかけてすらこない。

 たまに忌々しそうに睨んでくる。

 そして虫の居所が悪いと暴力を振るう。


 記憶持ち転生におけるお決まりともいえる反応は見れないのだ。

 それをいいことに情報収集と体を動かすことを日課としている。

 もしかしたら魔法が使えるかもしれないと魔力トレーニングをイメージだけでしているが、我流ではよくないのだろうか火種の一つもでない。腹の底から力を出そうとしても光りも動きもしない。

 ……なんだか馬鹿みたいだ。

 そのうち魔法が本当にあるのかも調べたい。両親の言葉がどこまで真実かもわからないし。




 周りの様子がわかったのは大きい。

 家のある場所から少し行くと草原があり、その奥には森が広がっている。

 魔獣と普通の獣の区別は曖昧だが、おそらくここでたまに見る動物達は後者だろう。


「とりあえず今日も野草と野うさぎか」


 捨てられていたゴミから罠を作り野うさぎを仕留める。知っているウサギと同じ容姿のウサギだった。

 親に見つかる前に焼いて食べた。取り上げられても困るしな。

 香辛料どころか、塩もない。本当に焼いただけの野うさぎは硬くてまずかった。まずいけれど、体が欲していた。生前の食事に比べれば貧相極まりなかったが、腹ペコの俺にはご馳走だったのだ。

 ウサギがとれなければネズミなどになる。ウサギよりはずっと取りやすい。伝染病とかが怖いが、仕方あるまい。


 腹を満たせば次は睡眠である。人間の三大欲求、うち二つ目だ。


「やっぱ安全なのはここかなぁ」


 近くに今は使われていない馬小屋があった。この住んでいる地域は貧しく、廃れているため、まともに機能している建物の方が少ない。

 我が家こそ他の家と少し離れているが、基本的に貧困地域の家屋というものは密集している。それは大きな家を建てる余裕がないからである。もし農村地帯とかであれば話は少し変わるのだが。


 寝る時は藁にくるまって寝た。


 昔は馬がいたのかもしれないボロい小屋は月明かりが差し込んでいた。僅かな光さえ眩しい夜空に目を細める。

 独特の匂いには慣れてしまい、むしろ落ち着くぐらいだ。

 少なくともここにいる間は両親の元にいるよりは安全だった。ここにいる間は、と付くところが残念だが。


「風呂に入りたい……」


 薄汚れた体でそんな不満を呟いた。

 転生前、高速道路の下にぽっかりとコンクリートと砂地の空間が広がっているのを見たことがある。その中にはゴミか荷物かわからないモノにくるまって寝ているみすぼらしい中年がいた。

 あそこで寝ていた親父は何を考えて、感じていたのだろうか。


 今の俺のような気持ちだろうか。


 ◇


 次の日、また俺は醜悪な我が家に戻っていた。

 帰れば決まって母親が目を釣り上げている。


「本当生意気な子、死ねばいいのに」


 鈍い音が響いた。

 口の中に鉄の匂いが広がる。

 体の痣を数えるのはもうやめた。


 俺は家に戻るたびに殴られていた。

 逃げ出しては殴られ、殴られては逃げ出した。

 小さな体躯が軋むような音がした。


 いつか家を出る、と言っていたが叶うのだろうか。いつも不安に駆られていた。このままだと自分は死ぬかもしれないという恐怖がこみ上げてくる。

 そんな思いを裏切るように、一つの答えにたどり着く。全てを壊して終わる、安易な選択肢。だが誰もが本能のうちに拒み、実行されることのない決断。






 俺は――――両親を殺した。

酷いものです


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