表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/200

カグヤ側の戦局、終了

遅くなりました。

模試が悪いんですよ!九時半から八時とか鬼畜日程でボロボロですよ!と逆ギレしてみます。

 

 そもそも戦う前にへし折るのが得意なレイルは、結果は出せても過程は結構ワンパターンな空間術と波魔法、前世の科学知識や物語を参考にしたもので立ち回る方だ。

 彼がもしも一人で旅をしていれば、ゴブリンの死骸を盗賊団の根城に放り込み、おびき寄せた魔物で壊滅したそこから金目のものを奪いながら旅をしていたかもしれない。楽しくお金を使って各地の観光をしていただろう。


 殺すか生かすかの二択しかない歪で両極端な暗殺者ロウ。彼は一見器用に思えて、四人の中では最も不器用であったりする。

 彼がもしも一人で旅をしていたら、狩人のような冒険者となっていたのかもしれない。斥候、僧侶のどちらもこなせて対人戦が得意な彼ならばどこでもやっていけただろう。


 アイラが一人で旅をしていたら、強い相手になればなるほど気に入られ、雑魚相手には無双するという冒険になっていたはずだ。

 龍も、機械族マシンナーズも、魔王も他の勇者さえも。全てをあまねく惹きつけるだけの何かが今のアイラにはあった。

 持ちうる近代兵器はレイルの発案ではあるものの、その構造の工夫から製造の技術までのほとんどがアイラ自身のものである。レイルがあっての彼女をレイルのいない場合を考えたところでナンセンスなのかもしれないが。


 カグヤこそは完成された魔法剣士になる。やや好戦的な性格に聡明さ、そして溢れんばかりの戦闘の才能が合わさった戦士だ。これまでの冒険で足りないのは強者との真剣勝負の経験であり、その潜在能力ポテンシャルは魔王姉やアランなどの絶対的強者にも劣らない。

 もしも一人で旅をしていたならば、強い敵を覚悟と工夫をもって立ち向かい、時には敗北したり、認め合いながら前に進めただろう。民衆を守るために魔物の群れに突っ込んだり、偶然どこかの国の王族を助けたり、古の遺跡で巨人と対峙したりなど剣と魔法の冒険になっていたのだろう。



 結局のところ、レイルたち四人の戦闘技術の相性はさほど良くなかったりする。

 冷静さからくる合理的な判断と戦闘の技量によってお互いが邪魔にならないようにしているだけで、お互いを高めあったりすることはできない。

 連携能力はあれど、シナジーはない。

 性格的には恐ろしいほどに相性が良いからここまでやってこれたのだ。

 もちろん、一人よりも四人の方が強い敵を倒せるようになるのは事実だ。だがそれと同じぐらい、互いの特性を融合させた結果、それぞれの持ち味を半分にまで殺していたりする。


 レイル本人は自重しているつもりはないが、仲間がいることでできることの幅は増えた代わりに実行量は自然と減少している。

 ロウは自身よりも隠密に向かない仲間がいることでそれに合わせて動くことを要求されている。

 アイラは仲間がいるので強者の助力をほとんど受けない。その力をレイルに使い、魅力を全てレイルに向ける。

 カグヤはレイルやロウの行動スタイルに合わせることで、強者との戦いの機会が潰されていた。



 仲間は助け合い、互いを高めあうもの。そんな夢物語を否定するように、互いの力を活かしあいながら封じあってきた四人。


 互いの本気を、全力を封じた状態で最善の結果を自身に要求し続けた結果として四人の技量は旅の間に見られた能力よりさらに高くなっていた。そういう意味では互いを高めあっていた。


 そう、どこまでも四人は単独主義ソロスタイルであった。


 そんな四人が今、仲間という枷を外されて自重なしの戦闘を強いられている。

 特にカグヤは、これまで足りなかった集団との戦闘、強者との真剣勝負の二つの経験を短時間で得た。


 原因の自覚こそないものの、カグヤは自分が強くなっていることに気がついていた。


「誰にも負ける気がしないわ」


 魔法を解除した愛刀はしっかりとその重みを両手に伝える。

 カグヤを囲む月之民ルナリアは七人。それ以外は上空にて待機していた。蛍や行燈のような風情ある薄ぼんやりとした淡い光を放って、戦場にいてなお演舞を見ているかのような幻想的な光景を作り出している。

 辺りはすっかり暗くなっていた。彼らが来たという月は暗雲立ち込めるその隙間から顔を覗かせる。風で流れる雲が隠したり、さらけ出したりとしていて感傷に浸れるような美しさではなかった。

 それでもカグヤは時折見える月に昔を思い出していた。


「あの日と同じ。あのふざけた嘘を本当にした時の、ロウと二人で旅立った全ての始まりの日と」


 月之民ルナリアは音もなくカグヤに迫る。

 視覚と気配だけを頼りに、その奇妙な動きを追い続ける。


「嫌になるわ。本当に月から来てた、なんてね。潜在意識のどこかで自覚していたのかしら」


 カグヤは焦れったくて仕方がなかった。

 いくら攻撃しても通らないのだ。まるで暖簾に腕押し、糠に釘である。

 ひらりひらりと攻撃は受け流され、カグヤが一歩でも踏み込むと別の民が襲う。

 雲を掴むようなふわふわとした戦い。彼女の王道だと思う、刀と刀の鍔迫り合い、力と力の激突はそこには見られない。

 炎の絨毯も、水の柱も、大きな落とし穴も、搦め手を混ぜながら誘導し、そしてじりじりと互いの呼吸を読みあっている。


「私たちの星は重さがほとんどなくてね」


 月之民の一人がこんなことを言った。


「なんのことかしら?」


 突然の投げかけられた言葉に思わず返事をするカグヤ。


「体を鍛えるために、常時重さを増やしているんだよ」


 カグヤはレイルから聞いたことがある。

 重力という力は、物体と物体の間に働く引力であると。それは距離の二乗に反比例し、星と物体の質量の積によって決まるのだとか。

 月は地球よりも小さいため、質量は変わらずとも重さは六分の一なのだという。

 そんな話を知っているカグヤとしては、筋力を鍛えるために重力魔法を自身に使っていたことはなんらおかしなことはない。重さを自身にかけて過ごすのは一般的な鍛錬方法だ。問題は、難易度の高い重力魔法を日常的に(・・・・)使っていたという事実である。


 先ほどから感じられる不規則な加速、手応えのなさは重力魔法によるものであったのだ。

 以前カグヤが使ったその手法を一つの戦闘スタイルとして昇華させた彼ら。

 このままでは決着がつかない。時間が経てば体力の問題で七対一だと不利だ。攻撃を当てなければと焦るも、決してそれを表には出さない。

 ─────月に住むウサギはこんな感じに跳ねるのだろうか。

 たわいもない疑問さえ浮かべられるぐらいには余裕があったともいえる。


 いつしか月がその姿を完全に隠してしまっていた。

 おどろおどろしい灰色のはずの雲は夜になったことでその色が全くわからない。

 ここで感慨深く呟くならば、仲間も同じ月を見ているのだろうか、である。

 ただ、レイルの伝えた知識が「距離が遠すぎるから向こうは夜ではない」と皮肉にもそんなつぶやきを否定する。


「あるじゃない。私にも使える武器が」


 いくら体を鍛えても、いくら感覚を研ぎ澄ませようとも追いつけない境地がある。

 心理戦に持ち込んでもよいが、いつまでも戦いに酔いしれている場合ではないのだ。

 カグヤは相手が攻めてこないのをいいことに、ぱん、と頬を両手で叩いて仕切り直した。


 そして今まで攻撃に向けていた神経をあることに絞った。

 突然攻め方をガラリと変えたカグヤに七人は戸惑う。

 やはりそこは感情に支配された生物。相手が出方を変えたからといって、自身の調子まで狂わせることはない。相手の思うツボだとわかっていてもなお、どこかで慢心する。

 相手が本来の戦いをしなくなった、それは弱くなったと同義だと勘違いして、そして功を焦る。


 カグヤは七人の動きの誘導と妨害に専念していた。

 風でバランスを崩し、重力を乱れさせながら水の柱を放つ。

 水飛沫で濡れて少し鈍くなったところにカグヤはときたま斬撃を混ぜる。炎で周囲を熱し、濡れた地面が乾いていく。


 そして月之民は苛立ち始めた。それを見てカグヤはほくそ笑む。感情のない、まるで無機質な人形のような彼女たちにも感情があるのだ。それを揺さぶれたならば、後は仕上げに入るだけ。


「これで終わりよ!」


 カグヤは遥か高くへと飛び上がった。

 ここでようやく完全に月之民が吹っ切れた。

 月という過酷な環境下でその地下に完全自給自足基地を作りあげ、重力魔法を使いこなして過ごしてきた彼らにとって空中戦は最も馴染み深い。ましてや刀を収められては、絶好の機会である。

 飛び上がったカグヤの周囲を囲むように一糸乱れぬ動きで七人は続いて飛び上がった。


 それぞれが小刀であったり、風属性の魔法であったりと攻撃をする準備をしている。

 カグヤの全力の攻撃であっても、七人ならば防げるとたかをくくっていた。


 だが直後、カグヤの発言が文字通りだとしても、その飛び上がった場所から攻撃するわけではないのだと七人は思い知らされた。


 カグヤは魔法で地面に向かって(・・・・・・・)加速したのだ。


「何を……!」


 この時代は戦闘においての制空権という概念は希薄だが、それでも上にいる方が有利だという考え方がある。

 ましてや魔法で空中での移動が可能な者ならばなおさらだ。

 その利点をあっさりと捨て、地上に戻ったカグヤを見下ろした時に七人の背中がぞわりと総毛立つ。

 本能による危険が警鐘を鳴らすも、その正体がわからなかった。


「天誅」


 カグヤがぼそりと魔法の名を口にする。

 ケヤキの登場によってこの場の天候は雷雲が立ち込めている。七人は現在濡れており、空中にいる。

 条件は揃った。

 カグヤは地上に降りた一瞬で水と風の魔法で雷の通り道を作る。

 空から巨大な閃光がジグザグと空気の塊を壊しながら走ってきた。

 荒れ狂う雷撃を完全に制御し、途中で月之民の乗り物を壊しながら七人へと誘導した。

 七人をまとめてか順番かは人間の視力では確認不可能だったが、七人は確かに雷撃を受けて黒焦げになって墜落した。


「さすがに雷は防げないしかわせないよね」


 魔法でコンディションを整えてドヤ顔で刀を再び引き抜いた。







 ◇


 気がつけば、全ての戦いが終わっていた。

 元剣聖(おじいさん)は手にサイクロプスの首を幾つも持ってどこから取り出したのか盃で酒を呷っていた。

 ベヒモスはその巨体を横たえてピクリとも動かない。ところどころに穴があいていて、そこから生々しく臓腑を撒き散らせているので異臭が酷い。独特の獣臭さと、血とでむせかえるような空気が漂っている。

 そこにまるで示し合わせたかのように雨が降ってきた。豪雨ではない。しとしとと、地面を染めるような雨だ。カグヤの炎魔法に触発されたのかもしれない。


「全部洗い流してくれればいいのに。私も

 レイル(ひと)のこと、言えないわね」


 カグヤは好戦的ではあるが、殺人狂というわけではない。

 邪魔だからという理由で片付けるレイルとは違い、供養の意味を込めて丁寧に黒焦げの死体を埋葬していく。

 月之民の言を信じるならば、初の同族殺しである。レイルが見れば「赤飯でも炊こうか?」とでもなるのだろうか。


「そういえば他にも戦場があるんだけど大丈夫かしら」


 カグヤはついこの間知り合ったばかりの勇者候補の一人が指揮する、モルデックやローマニア、アクエリウム混成軍のことを思い浮かべた。

 あそこは確か空や海を戦場にしていたはず。厄介さで言えばこちらと勝るとも劣らない。


「ははっ。そこは心配いらねえぜ、カグヤちゃんよお」


 やけに自信たっぷりに言ってのけるケヤキに、カグヤはその理由を尋ねた。


「そりゃあ、俺より強いあいつが行ってるんだからよ。魔物の千や二千で落とされるわけがねえ」


 カグヤはその言葉に、そちらに向かった相手を察してむしろ敵側に同情したのであった。

なんだかポケモンみたいですね(ポケモンしたことどころか携帯ゲーム機を持ったことないとか言えない)


やっと二つ目の戦局が終わりました……

200話ぐらいでって言ったけど、これ、200話で終わるのでしょうか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ