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冥界と現世の狭間で

先日、私の作品を好んでお気に入り登録してくださっている方から、もう一つの連載作品にレビューをいただきました。

人生初のレビューはそりゃあもう嬉しかったですね。いや、二回目や三回目となってももちろん嬉しいですけどね。

こう、なんというか、紹介に値するような作品を書いていきたいものですよね。

 ロウは聖騎士たちを回復させることにした。

 ミラが出た時点で自分たちの出番が終わったと思ったのだ。この状況でミラの邪魔をするような愚か者がいるなら先に死んでも構わない。そんな冷酷な判断に基づく行動であったことを聖騎士たちは知らない。


 ただ、ロウの予想通り再び不死王リッチーに挑んでいく輩は皆無であった。

 決してそれは、突然現れた少女に任せて傍観していれば大丈夫だといった怠け心からくるものではない。だが真実はそれ以上に無様なものであった。


「何者だ……」


 その圧倒的強者の存在感と、辺りを支配した殺気に誰一人動くことができなかったのだ。

 まるで影を縫い付けられたかのように、その場でなされるがままに回復されていく。回復をやめたロウに対する疑問や非難もない。

 透き通るような白い肌、紫水晶アメジストのような暗い瞳に似合うはずもない巨大な鎌。しかしそれは彼女の雰囲気と重ねれば似つかわしすぎて恐怖を煽る。


 ロウはこれまでの戦いで得られた情報をミラに伝えた。

 ミラは一言、「ご苦労」といってロウの前に立つ。


「まさか……こんなところに……いや。現世に顕現したことで、力は落ちているはず。みたところ半分ほどしか出ていないのではないか?」


 狼狽えているのを隠すように指で指し示しながら尋ねた。


「なるほど。そうやもしれんな。試してみるといい。ちょうどよく、使ってもよい魂が手に入ったことだしの」


 それは先ほどまでこの場にいた大量のアンデッドのことであろう。

 実はロウたちの知らぬところで、ゴースト系統のアンデッドも消し飛んで魂に還元されていた。

 そしてその魂の全てがミラの手中にあった。


 ミラは自然のエネルギーに干渉できない。だからこそ、戦う時は魂を使わないといけない。魂は冥府の管理下にあるため、事前に許可を取るか、正当な理由がないとエネルギーとして使えないのだ。

 そして今回は緊急事態ということでミラはその許可を得ていたし、目の前の相手の使う魂も、冥府の法律を犯している死者なので何の問題も無い。


 不死王リッチーが手を掲げた瞬間、ふわりとミラの髪が浮いた。空中に飛び上がったミラは前方に傾き、足を軽く曲げる。足元に魔法陣が浮かび、ドン!と音がしてロウの前からその姿を消した。

 魔法を使おうとするその手を鎌で払い、追撃を加えようとする。


「魔法の併用で速度を……いや、違うな。俺たちに被害が出ないように衝撃を防ぐ壁の意味でしか使ってねえんだ……」


 素の能力であの速度なのだと理解し身震いするロウ。


「最近書類仕事ばかりでの。なまっておるのじゃ。慣らすのに付き合え」


 そう言うと冗談のような速度で鎌が不死王リッチーに叩きつけられる。

 自分の身長よりも大きい鎌だというのに、まるで短剣か何かのように扱うミラを見て聖騎士たちは自分たちの目を疑った。


 まさに次元の違う戦いであった。

 ウォーミングアップでさえもが、不死王リッチーを防戦一方に追いやる。


「おお、これを受けるか。だが────拙いのう」


 時には刃を、時には柄まで使って鮮やかに対応するミラに余裕があるのは一目瞭然であった。

 口元には笑みを絶やさず、余裕の表情で弄んでくるミラに不死王リッチーが絶叫した。


「ふっざけるなぁぁぁ!!」


 ミラから離れ、そして聖騎士の一人を狙おうとする。

 しかしロウにその手を遮られる。


「俺もミラも個人的にはどーでもいいんだけどよー」


 錫杖から持ち替えていた短刀で手首を斬りつける。


「人質を見殺しにすると後々レイルを含めて俺らの立場も悪くなるだろうしな。つーかミラ、余裕かましすぎだろ」


 ミラにやや非難まがいのことを言った。

 ミラはというと、飄々とそれを受け流した。


「悪い悪い。体を久々に動かしたものでなあ。調子も戻さねばならぬのじゃ」

「単に仕事で溜まった鬱憤を晴らしたかっただけじゃねえのか?」

「いやいや、そんなことはないぞ。だってわし、神様じゃし?」

「怪しいんだよ」


 ロウの鋭い指摘を受けて、慌てて支離滅裂な弁解をするミラ。

 そしてその間はずっと不死王リッチーは無視されていた。

 不死王リッチーはそこですぐにキレることなく、落ち着いて最上級魔法の詠唱をしていたのだ。


「はーはっはっは! これで貴様も終わりだぁ!」


 濃密な魔力から光が漏れていた。それだけで使われる魔法の大きさもわかろうというものである。風が集まり、熱が、圧力が高まるのがわかる。おそらく発動すればここら一帯にクレーターができるであろう。

 しかしミラは余裕どころか呆れたように片目を瞑った。


「……遅いの。その程度の魔法を行使するのにどれほどの呪文を使っておるのやら」


 最強の呪文を唱えてなお、自分の方を見ようともしない敵に不死王リッチーは。


「貴様……そのようにしてられるのも今のうちだ。喰らえ!」


 魔法が発動する瞬間、ミラは軽く手を振った。


「霊葬────送り火」


 足元からぶわぁっと何かの圧力を感じ、思わず不死王リッチーは下を見た。

 彼が最後に見たのは竜の顎のように死の象徴のような光だった。

 魔力も、魔法も、そして不死王リッチー自身も青白い炎に包まれた。


「うわっ、危ねえ……って熱くねえな」

「当然じゃ。この炎は魂を燃やして作っておる。魔力と、そして魂だけを燃やす地獄の業火じゃ。範囲内でなく、そしてわしが決めた相手でもなければちり一つ燃えやせん」


 精神生命体にも効くぞ、とニヤリと笑う。


「最初から出してくれよ……」


 とロウは悪態をつく。助けてもらっておいてなんという言い草か、とミラは反論するも、「もともと魂の管理制度がなってねえからポンポンと動く死体を量産されるんだろうが」と言われて押し黙った。


 ミイラよりもボロボロな不死王リッチーはもう動くことはなかった。




 ◇


 聖騎士たちは戦いの終わりを告げるといって、遺跡の外へと出ていった。ロウはミラと二人で後始末をしていた。


「ところでミラはどうしてここに来れたんだ?」


 ロウはふと気になったことを聞いてみた。


「それには二つ理由があるじゃろうな」


 そしてミラが理由を説明した。

 一つ目は、もともと冥界と現世の狭間には中心から外側へ向かって弾き出す力が働くとのこと。そしてそれを超えるための速度が音なのだという。つまり、不死王リッチーが現世と冥界をつなぐ穴をあけ、そこに向かって中心からの斥力のようなものが働くことで穴に吸い寄せられるような結果になったという。

 水を張ったタライに穴をあけたらそこに向かって水中のものが流れていくようなものか、とロウは勝手に納得した。


 二つ目が、ミラがしばらく問題があって現世にこれなかったというのに関係があるという。ミラが現世にやってこれたのは、休暇が半分、そして死者と魂の問題の原因を突き止めて排除する目的が半分であった。一番たくさんの魂が異常な状態にあるここに来てしまうことは必然だったと締めくくった。


「ふーん。だからか、以前レイルが冥界からの召喚術には音を超える速度が必要だとか言ったのは」

「じゃな。冥界から現世にいこうと狭間の中心に近づこうとすると送り返されるが、そこさえ越えれば逆に現世に向かって弾き出されるのじゃ」


 たわいない、というにはややオカルトな話をしながらロウとミラはゾンビたちの死体を処理していく。

 鎧を剥ぎ取り、肉は燃やして骨を地面に埋めていく。


「ん? なんだこれ」


 ロウは燃え尽きた不死王リッチーの亡骸からあるものを拾い上げた。

 それは以前、レイルが擬神との戦いで持って帰ってきたあるもの(・・・・)と酷似していた。


「これってまさか……確かレイルはこれを……ははっ、俺にも運が回ってきたのかもな。いや、わからねえな」


 手の上でそれを弄ぶ。クヌギのドングリか、それより少し大きいぐらいか。


「何をブツブツ言っておるのじゃ。なんじゃ? そのけったいなシロモノは」

「くくく。鬼がでるか蛇が出るか。いや、鬼族に悪いな。一か八か。迷うわけねえだろ」

「な、何をしておる!」


 ロウはそれを人差し指と親指でつまむと、ゴクンと丸呑みにしてしまった。

 ドクン、と鼓動が一段と大きくなる。動悸が激しくなり、少し目眩さえ覚える。

 明らかに異常な症状に確信する。


 これは、擬神の中にあった核と同じものだ。


 魂を封じ込め、その場にとどめる役目と中に情報を刻んで共有できる力を持つ今回の邪神復活にも一枚噛んだ怪しげな発明品。

 そして以前、レイルはこれを飲み込んだ。

 レイルの空間術が規模を増して、より複雑に扱えるようになったのはそれからのことだ。


 ガクンと膝をついたロウに心配そうにミラが駆け寄る。


「ばばばば馬鹿もん! 拾ったものは食ってはならんと教わらなかったのか!?」


 意外と庶民的な教育方針を知っていたミラに、ロウは冷や汗を流しながら心配ないと答える。

 しかし未だ両手は交差させられて、逆の腕を抱えている。


「はは、ははは。さすがだな、レイル。こんなもんに耐えたのか。いや、空間術の時の方が一度に来たから大変だったのかもな」


 それから数分、ロウは遺跡の石床にへたりこんでいた。

 そしてロウは震えがおさまったのか、立ち上がった。


「なるほどな。俺の場合は時術と魂術かよ」


 ロウは自らの中にある感覚が芽生えたのを確認する。

 時術はこれまでの感覚が研ぎ澄まされて、より複雑に、大規模に。

 魂術はこれまでほとんど使えなかったのが、基本ぐらいはできるようになっていた。


「本当に、大丈夫なのじゃな?」

「ああ。むしろバッチリだと思ってくれ」


 そう言って、アイラから譲渡された権限を使って自分の食料と水を少し出した。

 ミラはいちいち食料がいるとは難儀なものだ、と思いながらそれを待った。


「で、お主はどうする気なのじゃ?」

「うーん、ここにいてても仕方ないけど、どうせ戦いが終わっちまったからなあ」

「ではすることはないのじゃな」

「そりゃあ他の奴らの戦いに参戦できりゃあいいけどよ。レイルもいねえしちょっと無理だろ」

「連れていってやろうか?」


 ミラの願ってもいない申し出に、疑いと期待が三と七ぐらいの割合で聞き返した。


「できるのか?」

「ただし、誰の場所かまでは選べんがの」

「どういうことだよ」

「なあに。あやつがあけた穴の跡を利用してもう一度冥界と現世の狭間に潜る。そして次に魂が異常を起こしている場所に向かって流れる。その場所まできたらわしが穴をあけてそこに飛び出るのじゃ」

「それってかなり危険なんじゃ……」

「いや。お主なら大丈夫じゃろ。半分不老不死じゃし、魂術と時術の心得があるなら死にはせんよ。それに危なげがなければその場で穴をあけて出ても良いしな」


 ロウはある予想を立てていた。

 魂の異常、というものがその者の持つ存在的な力で言うのであれば、大量のアンデッドが蔓延るこの場所の次に異常なのは邪神の元ではないだろうか、と。

 邪神はレイルとアイラたちのいる場所で、おそらくは最も危険にして最も激戦区であると言える。

 回復役にしろ、ミラにしろもしも参戦できれば心強いのではないか、と。

 もちろん、カグヤなども心配だ。しかしカグヤがいるのは魔獣軍団で、さほど妙なところへは行かないだろうと判断した。

 ならばこのままここで燻っているよりも、ミラ任せで余裕がある自分が参戦した方が良いだろう。

 ロウはそんな甘い見通しで、ミラの言葉を承諾した。


「ああ。じゃあ俺も行くから連れていってくれ」


 こうしてミラとロウの異次元の旅が始まる。

 とある激戦地到着まで数十分。

また伏線が二つほど回収できてほっとしております。

これでもかなりのペースで回収しているつもりですが、かなり張っているので大変です。

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