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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
最終章、争乱編

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二つの戦局

 ロウたちが向かったのは、命無き魔物の群れる遺跡であった。

 既にあった遺跡を改修し、今は邪神の腹心である不死王リッチーが大勢のゾンビにスケルトン、リビングデッドなど大量のアンデッドを従えている。


「ははっ。こりゃあ豪勢だなあ。それにしても」


 人の骨が散らばる、いかにもな床を無造作に歩く。パキ、ペキと足の裏で乾いた破砕音が鳴る。

 この地点での指揮権はヒジリアへと任せてあり、あくまでも遊撃手としての役割を持つロウは自律行動するようにと言われてある。時術の使い手が多いので各地点に派遣された回復役としての人間以外は概ねこちらに聖騎士を回してあるのだ。その他には炎の魔術師なども多くこちらに回されている。

 ゾンビとスケルトンの混成物理攻撃隊を一般兵士が引きつけている間に背後から襲撃しようとしているのだ。

 もちろん、全てをそこに投入するほど相手の指揮官も馬鹿ではない。むしろ向こうがあちらを目くらましとさえ思っているかもしれないことを考えるとこちらの方が断然危険度が高い。


「命を奪うのが得意な俺が、命がない奴らの相手、なんてな」

「レイルどのから優秀な方だとお聞きしています。きっとロウどのこそが相応しいと思ってのことでしょう」

「まったく、忌々しい。どうして私がレイルの仲間なんぞに協力せねばならん」


 舌打ちをしたのはいつぞやの聖騎士の一人、イシュエルであった。

 アランによって引き起こされた決闘で無様に敗北してからレイルたちを敵視し、鍛錬に励んできた。以前よりも確実に強くなっている。


 先ほどから雑魚とは思えない鎧を装備した大きなスケルトンや、ミイラなどがロウたちに襲いかかる。

 眉一つ動かさず、歩みを止めることなくロウは通りすがりざまに亡者たちを攻撃する。武器が接する瞬間に時術を込めた。


 亡者アンデッドを倒すには三つの方法がある。

 一つは肉体そのものを構造的に動かなくすることだ。四肢を切断して頭を砕くのもいい、燃やして灰にするのでも構わない。

 二つ目はかけられた魂術を解除すること。簡単なのは術者を倒すなどである。


 そして三つ目、死者たちが死んだ体を動かせるようにと、魂が擦り切れてしまわないようにとかけられた時術を乱すことだ。

 その術は他の時術の上書きによって解除され、それまで停止していた時間をいっきに解放する。時間を止めていた、というよりは貯めていた、という術である。より簡易に大量にかけられるようにと貯める方式をとった結果の脆弱さである。

 これこそ回復術が亡者アンデッドによくきくと言われる所以である。


 かといって、アンデッドが弱いというわけではない。

 人型というのはそれだけで剣を鈍らせる結果になる。それが恐怖を煽るようなら尚更である。

 中には生前の技量を一部受け継ぐ者もおり、それでいて人間にあるべき恐怖などの感情のない文字通りの死兵となって突っ込んでくる大軍というのは厄介なことこの上ない。

 疲れを知らず、食料などもいらない。傷ついても無視して突っ込んでくる。そんな厄介な軍隊なのである。


 ロウの素早さと確実に攻撃を当てていく技量、そして陰陽師の血の異形の存在への深い理解は死者との戦いを一方的なものへとしていた。魂のない武器での物理攻撃がきかないゴーストでさえも、魂を武器に込めるという反則的な技で対応するようになっていた。いつの間にか習得していたのだ。

 そして壊れた倫理観にレイルとの旅の経験が融合し、人型ならむしろ壊せやすそうだ、などと考えてしまうに至っている。

 ロウは奇しくも、生者と死者、どちらも得意な殺戮者となっていたのである。


 この程度なら何匹に囲まれようが、攻撃を当てられる前に壊せる。そんな軽い調子で歩いていくロウの後を慌てて他の奴が追いかけた。


「随分と雑魚ばっかだな……」


 あまりに余裕な戦いにむしろ不安が募るロウであった。

 淡々と錫杖を振るうたびに、ぐしゃり、ぐしゃりと原型をとどめることもかなわず崩壊への末路を辿る亡者たちは確かに雑魚といって差し支えなかった。

 そんな静寂を壊す者がいた。


「良い……下がれ」


 カツ、カツと歩いてきたのは法衣のようなゆったりとした服に身を包んだ元は貴族のようなアンデッドであった。

 痩せこけた頬にはほとんど肉がついておらず、骨と皮ばかりの痩せぎすの腕には魔石を使った杖が握られている。

 下級ゾンビどもが、ゴーストどもが波が引くように遠ざかった。

 残ったのは鎧騎士スケルトンなどの上級アンデッドばかりだった。


「あんたがここの責任者かい」

「責任者……? まあいい。余がこの場で最も貴き存在であることは認めよう。脆弱なる人間どもが。今までのように我らに時術が通じるとは思うな」

「お前が不死王リッチーってことで間違いないみたいだな」


 遊撃部隊の目標が目の前にある。

 全員の神経が不死王リッチーに注がれる。

 不死王リッチーに時術がきかないのには幾つか理由がある。

 一つは彼らが上級のアンデッドだというところにある。知性を持ち、魔力に溢れる彼らは自身の意思で時術に抵抗が可能である。かつてバジリスクが体内への転移を阻害したのと同じ原理である。

 もう一つが、不死王リッチー自身が特別製のアンデッドだというところにある。


「余は邪神陛下ほどではないが、中に核を持つ。よって、時術で肉体の時間を貯めてはおらん」


 びきびきびき、と辺りにひび割れるような気配がする。

 何人かの頬に赤い線が走る。


「最後に聞かせてやろう。邪神様は完全無欠ではあるが、我らはそれぞれに邪神様の特性を与えられている。余の場合は──────類稀なる魔術適性だ」


 つまりは魔法の腕だけならば邪神に匹敵する、と宣言した。

 その言葉に強張る周りとうってかわってロウは満面の笑みで言った。


「なあんだ、よかったぜ。魔法適性以外は邪神以下なのか!」


 不死王リッチーはキレた。







 ◇



 一方、カグヤの方は大規模な正面衝突となっていた。というのも、幾つかある戦線の中で最も数も、規模も大きいのがここであった。小細工など必要ない、というよりはできないぐらいに大量の敵と味方がおり、後は純粋な用兵と戦術しかなかった。

 ガラスが代表して全体の指揮をとっており、一部をレオナが任されていた。

 次々とレオナの下に連絡がやってくる。


「西からゴブリンが数千体来ました!」

「コボルトの群れが回り込もうとしてます!」

「ノアウルフが中央を突破しようとしています!」


 そう、こちらは魔獣、魔物の群れであった。

 ほとんどが陸上を走る獣型や不定形のスライム、中にはオークや大鬼オーガなどもいる。

 邪神が立案したのか、フェロモニアやアギトカゲのように他の魔物を従えて群れを作るような魔物を小隊長とした部隊も見られる。

 魔物が確固とした軍隊としての形をとって向かってきているのだ。


「きりがないわね!」


 カグヤはというと、先陣をきっての切り込み隊長的な役割を与えられていた。

 地属性の魔法で穴をあけ、中に落ちた大鬼オーガの首を斬る。

 周りに群がるコボルトやゴブリンを風魔法で蹴散らしながら先に進む。

 背後では討ちもらした魔物をきっちり一体一体と兵士が仕留めていく。


 カグヤは勢い付けと撹乱が目的である。


 戦況はただの力押しではこちらが有利であった。

 集団戦においては人間に勝る種族はいない。そこに他種族も含めての能力が合わさり、かつてない進撃を可能としている。

 獣人が前衛に多く、魔族が後衛に多い。

 人間が半々で、指揮官は人間が多くなっている。


 何十万対何万という数の上ではかなり不利に見える戦況もゆっくりと縮まり、こちらの被害は少なく魔物の被害は甚大であった。


 ガラス、ノーマ、サバンを代表とする連合軍は順調に見えた。


 だがおかしくなってきたのは、霧が出てきたところからであった。

 向こうの魔物軍を指揮する魔術師の一人が水属性霧魔法を使ったようだ。

 霧が晴れた時、その戦況をガラリとひっくり返す怪物が現れたのだ。


「うわぁぁっ!」

「なんだあれは!」

「逃げろ! 退避!」

「ぐわぁっ!」


 兵士がまるでゴミのように蹴散らされる。

 現れたのは何十メートルという小山のような怪獣であった。

 ゾウのような分厚い表皮、巨大な牙が口から見えている。動物を表す悪魔とも言われる存在。

 指揮官が高らかに叫んだ。


「リヴァイアサンのような失敗作とは違う! これこそが成功作の神話級怪物、ベヒモスだ!」


 リヴァイアサンと対をなす、巨大すぎて共存さえも許されなかった神話級怪物、ベヒモスが現れた。

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