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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
最終章、争乱編

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VS邪神 その1

 冗談はさておき、みなさんお気づきの通り邪神があれで死ぬわけがない。

 あれってやっぱりアイラかな。アイラだよな。中にいる邪神以外は死んでそうだな。


「おい、みんな! 警戒を怠るな!」


 アランの発破によって、放心しかけていた勇者たちも気を取り直す。各々の武器を構え、精神を城の中心へと集中させた。

 するとそこから、城だったものがぼこりと跳ね上がり、そして邪神が現れた。

 うーむ。

「よく来たな勇者たちよ!」

「今こそ倒してくれる! 平和のために死ね!」

 みたいな会話を想像していたとすれば、砂埃を払い飛ばして苛立ちを隠さないあの大男が邪神だとかあまり信じたくはないよな。

 瓦礫が吹き飛び、四方八方に飛び散った。


 岩石落とし!みたいな全体攻撃だ。

 俺たちの頭上、前方から人間ほどの大きさがある瓦礫が隕石のように降り注ぐ。全てをかわすのは無理そうだった。


「狼狽えるな。作戦通りやればいいんだ」


 俺はそう言って剣を構える。

 降り注いだ瓦礫を、(俺以外)全員が避けることなく迎え撃つ態勢だ。

 というのも、あらかじめこうした避けようのない全体攻撃で物理的なものが来た場合は行動を二択に絞るように言ってあるのだ。


 一つは自分で撃退する。

 これは全体攻撃に逃げ場がなく、その全てを防ぐのは不可能だったとしても、その全てが防ぎようのない攻撃だとは限らないからだ。

 岩石が大量に降り注ぐからといって、その全てが自分に当たるわけではない。弾幕の一部を防いでできた場所に逃げ込めば当たらずに済む。

 つまりは自分だけで防げそうな攻撃ならば、自分に向かってきた攻撃だけを忠実に防ぐことで耐え切る戦法だ。


 二つは全員で集まって、俺の空間転移かセティエの結界で防ぐ。

 これはどの部分もぶち破ることができないぐらいに強力な攻撃だった場合、回避が得意な俺か、防御に特化したセティエに任せることで一度で全員を守る方法である。


 今回は自分たちで防げる程度、邪神も挨拶代わりの祝砲みたいなものだろうと全員一致の判断のもと、自身で撃退し始めたのだ。

 俺はというと、五、六発目ぐらいで大変そうだったので、キリアとカレンを回収して空へと転移、座標固定でそのまま見下ろしていた。

 空間把握なら撃退するまでもなく避けられそうだったが、誰かを連れて転移して逃げるのに慣れておきたかったので練習台というのもある。まあ作戦を聞いてないのに、周りと同じ判断をくだしたことと、二、三発ぐらいはきっちりと防いでいたからまあ合格か、という二人への賞賛もある。


 瓦礫を吹き飛ばしたのは本当に埃を払った程度の感覚らしい。

 邪神は何も気負うことなく瓦礫の山から下りて、俺たちに向かって近づいてきた。


「煩わしいネズミどもめ……貴様らが勇者どもか」


「いいや、ただの寄せ集めだ」


 あ、しまった。その通りだ、お前を倒す!とかアランとかカイとカイいかにも勇者みたいなのに言わせる予定だったのに。ついうっかり本当のことを。


「敵であることには変わりなかろう……いいだろう。まとめてかかってこい」


「世界をお前の好き勝手にさせてたまるか!」

「俺は、俺の大切な者のために戦う!」

「楽しみだ。やっと本気が出せるぜ!」


 邪神の言葉に勇者とかが反応する。

 クイドや魔王たちは依然としてしかめっ面のままだ。

 どうやらこいつらは虚勢ならぬ威勢で士気を高めたりはしないらしい。


「五月蝿い失敗作(むしけら)どもが。ここで片付けてやろう」


 邪神が地属性の魔法を発動した。地面が隆起し、俺たちと邪神を半球ドームに包む。

 逃がす気はない、ということだろうか。結界はらないと無駄なのにな。


「なあ邪神。まさか雑魚の人間の寄せ集めにビビって転移で逃げたりしないよなあ?」


 俺は邪神を煽る。煽りはデフォルトで備え付けられているので、これこそ戦いの前の挨拶代わりだ。

 そしてセティエに結界で逃がさないように耳打ちした。条件指定で俺たちが逃げられるようにしてもらった。

 邪神は俺たちを鼻で笑う。口内は真っ赤で、鮮やかだった。笑うだけで大気が揺れるような錯覚さえ覚えるほどの大男である。


「大言壮語を吐ける者もいたのだな。評価を改めよう。そしてかかってこい、叩き潰してやる」

「……流石だな」


 グランが忌々しげにこぼす。他の勇者たちとは違って勇猛や楽観だけではダメだと言うのだろう。

 グローサが一番楽しそうだ。大柄な美女であるため、口角が最大まで上がるとなんとも言えぬ迫力がある。

 二人はよく似た大剣を担いで、邪神を真っ直ぐに見据えている。


 とまあ、俺がそんな風に魔王の方まで見てられるのは空間把握で邪神からは意識を逸らさずにいられるからだったりする。

 決して目の前の敵から注意を逸らせるほどに余裕があるわけではないのだ。


 邪神は亜空間作成もできるようだ。空中にこじ開けた穴から自身の武器を取り出す。透き通るような黒の剣は、大きさこそ邪神に見合った細身だが、それでも俺たちからすれば十分な大剣だ。そして邪神との比率にそぐわぬ、禍々しい邪気まりょくを撒き散らす。おそらくはあれでも抑えているのだろう。威嚇行為でなければ、無駄に魔力などを放出する意味がない。


 邪神の姿がブレる。空間把握か、経験による反射でのみ対応できるような速度で真っ先に狙われたのはメイド長だった。


「随分となめられたものですね」


 メイド服にかすらせることもなく、緩やかにその剣先から逃れた。

 上から剣の腹を抑えて、剣の上に逆立ちするように舞い上がる。スカートは一切めくれ上がらない。あの中には針金でも入っているのか。


「なに、小手調べというものだ」


 邪神が言い終わるまでもなく、メイド長の蹴りが邪神の頭蓋に激突する。蹴りを受けてなお、微動だにしないままにセリフを言い切った邪神は確かに化け物だ。


「でしょうね」


 何の動揺も見せないままに、メイド長はひらりと舞い降りた。あの人に護衛はいらない。確信した。

 俺はそんな戦いの真っ最中に空間を捻じ曲げて邪神の首めがけて剣先を突き出す。

 いきなり背後より現れた剣先を邪神が掴んだ。あいつは後ろに目でもあるのか。……いや、俺だって空間把握があるんだ。人?のことは言うまい。


「おりゃぁぁっ!」


 作成通りにトーリやアランなどの攻撃力の高い勇者が突っ込む。

 その剣身に炎やら光やらをまとわせて派手派手しく繰り出される剛速の剣にて邪神を相手取る。

 剣術はあいつらの方が上だった。だがそれ以上に基本の身体能力がバカみたいに差がある。

 おそらくは勇者候補の中で身体能力最強のアランでさえもが、両手剣で相対して片手に押し負けている。

 トーリと二人、いいようにあしらわれている。


「がっ!」


 二人が同時に膝をついた。重力魔法で何倍もの負荷をかけられたのだ。

 みんなが助けようとボンボン魔法を撃ち込む。トーリを巻き込むとか、アランを巻き添えにするとかお構いなしだ。俺がそうするように言った。当たりそうなものは空間を捻じ曲げたり転移させたりして全て邪神に向かうように調整した。

 邪神は次々と飛んでくる魔法を片手で受け流しながら、その剣を上に掲げる。

 俺が空間転移で近くに引き寄せた。ドクターストップならぬレイルストップである。


「ロクなのがおらんようだな」


 急激に抑えていた魔力が高まった。

 瞬時に危険だと悟った。聖女セティエの結界で防ぎきれるかわからない。

 俺はグランに目配せした。グランはグローサとメイド長を、そして三人以外を俺が連れて空間転移でドームの外に脱出した。


 俺たちは外からドームを確認できる場所にいた。

 それはもうとんでもないことになった。

 火柱が上がったのだ。濃密で、青白い炎が天に向けて数十メートルに及んだ。

 ドームの横側は何もなかった。ただドームの天井だけが穴があいた。


「危ねえ……」


 この世界でも物理法則が通じている。

 もしもあれがこの世界の特殊な金属による炎色反応とかでないのならば、温度は太陽の表面さえも超えている。

 邪神が側面の一角を壊して出てきた。ボロボロと崩れる壁をはねのける。そのままのっしのっしと歩いてくる。


 俺はあることを思いついた。

 エネルギーがないなら借りればいい。

 強さが足りないなら合わせればいい。


 片手を天に掲げる。みんなに出ないようにと言い聞かせた。


 すぅぅっ、と息を吸い込み遥か上空に把握を巡らせる。

 体の中に魔力の流れを感じ、大きなレンズを想像した。


虫眼鏡ソーラーパネル


 一瞬空が真っ暗になる。

 理論上は直後、いや、もう同時といって差し支えないほどの時間差で邪神がいる場所に光がはしる。


「うわっ!」


 制御して和らげていたとはいえ、大量の日光に目が眩んだ。

 静かに、それでいて光速で邪神のいる一帯を焼き尽くして焦土に変えた。


「レイル、何をしたんだ?」


 クイドが見慣れぬその光景に思わず尋ねた。

 また後でな、と返した。どうせ今説明したところでどれほど理解してもらえるか。使うなどは夢のまた夢だ。


 俺がしたことは、前世の記憶からすれば至極ありふれた、単純なことだ。


 太陽の光を集めたのだ。


 そもそも太陽光線とは太陽と地球の大きさに差がありすぎて、ほぼ平行に入ってきている。

 凸レンズに平行に入った光は焦点へと集まる。おそらく多くの人が一度は体験したことがあるのではないだろうか。虫眼鏡で太陽の光を集めて黒い紙などを燃やす実験を。

 たった手のひらほどしかないレンズでさえ、数百度を超えるのだ。それを何百倍にするのを考えてもらえればわかりやすい。


 屈折した光は一点に集まり、その瞬間は光が消えて空が暗くなる。

 そして攻撃を受けた土地もまた、真っ黒に焦げ付く。

 

 実のところを言うと、俺は俺自身に枷をつけていた。

 あるものしか使えない、という固定概念が、前世の物理科学の概念が、魔法の威力を抑えてしまうのだ。

 ならば、その物理科学で威力を補助してやればいい。

 俺は知っているではないか。この世界にはエネルギーが溢れていることを。この星に、まるで抗うことのできない莫大な力があるのを。


 通常の生物ならば消し炭になっていてもおかしくはない。

 通常の生物ならば(・・・・・・・・)だが。



 俺はその瞬間を脳裏に焼き付けていた。

 邪神は俺の魔力操作を感じた瞬間に防御の態勢に入った。

 全身を土で多い、硬化させた。硬化そのものには意味がなかったが、光沢が出たのだ。その光沢がある程度和らげた。

 そして自身の体温を常に一定に保とうとする防衛本能のようなものが働いた。

 恒温動物の中でも魔力が高い生物に見られがちな、生態と魔力の融合した特性の一つだ。

 邪神がその膨大な魔力と繊細な操作をもってそれを行えば、いかにタンパク質の変性温度が低かろうとギリギリ耐え切ることが可能であった。


 表面が黒焦げの体を時術と水属性の体液活性化で治しながら立ち上がった。


「まだ立つのか……」


 みんなは絶句していた。

 もしかしてまずかったかな。あまりに敵が強いことを演出してしまったら、戦意が削がれたりするのかな。

 と、思っていたらこの中で誰よりも戦いが弱いはずのキリアとカレンが叫んだ。


「なによ!」

「なんだよ!」


 似たもの二人は同じことを感じたのか。


「もともと絶望的な実力差だってわかってたさ!」

「足手まといにならなきゃ、相手の強さなんてどうでも良いんだから! こっちにはレイルがいるのよ!」


 そうか。こいつらは最も弱いから。最初から自分たちが敵わないことを想定して来たから、相手の実力に呑まれないのか。

 ここにいるのはほとんどがおそらく敗北を経験したことのない勝ち組野郎どもだ。トーリやメリカは一度俺たちに負けてはいるが、アランも負けとは言えない負けだ。こうも実力差で真正面からねじ伏せられたのは初めてなのだろう。

 だがこの二人は、その意味では本当に勇者なのだ。

 勝てない相手に、世界を救う為かもしれないし、俺と並ぶためかもしれないけどとにかく挑んでいるのだ。

 臭いセリフをはくのも、勇者らしく格好つけるのも嫌いだけど今だけはこいつらに応えてあげたい。


「そうだな。あんなのすぐに倒しちまおうぜ。各地でもみんな頑張ってんだ。あんなの、力の塊だろ」


 後ろから二人の肩に手を置いた。

 二人の肩は震えていた。そして空間把握で二人のそんな様子さえわからないほどには俺も取り乱していたのだろう。


「虫ケラにしてはやるではないか。現世でこうも傷を負うとはな……」

「傷を負う? なにいってんだ。これから消えゆくやつが。戦いはここからだぜ」


 はっきりと宣戦布告し、仕切り直しとなった。

ちょくちょく各地の中継も挟んでいきます

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