表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/200

裏切りの夜明け

個性豊かな勇者候補たち。

続々と終結する魔物たち。


人は、そしてレイルたちの行く末は。

 勇者たちによる作戦会議が終わった。

 本人の希望というか、冷静な自己判断の結果としてジェンヌは軍を率いて魔物の軍勢に挑む役割となった。


「私は、象徴としての勇者ですから」


 去り際の一言が切実で、そこに儚げながらも強く気高い意思を見た勇者たちの誰もが臆病といって罵ることはなかった。


 邪神は全世界に向けて宣戦布告した。

 そして配下に下る者は受け入れるということも言った。

 今までなりを潜めていた邪神を信仰する集団が一斉に押し寄せた。

 そして世界中の魔物という魔物がほとんど邪神への恭順を示したのだ。


 邪神は全勢力を城に集めるかと思われたが、各場所に幹部ともいえる配下を送り込んで統率させた。

 おそらくはそんなに大勢の魔物を密集させて養うのは無理だと判断したのだろう。そして自身が全力で戦うなら下手な配下がいくらいたところで足手まといだ、という自信の表れだろうか。これでは邪神を殺した途端に魔物が以前の状態に戻るとは限らない上、複数の場所を同時に襲撃される可能性があるので集まるよりもむしろ危険な状態になったと言える。

 邪神は破壊衝動だけにとらわれているわけではないようだ、というのが国々や勇者候補たちの共通の見解である。



 そして俺は、邪神討伐の全体の指揮をとることになった。

 邪神と対峙する役目でありながら作戦立案といった形だ。

 理由としては、パワーやスピードはともかくとして最も機動力があるのが俺だからというのがある。

 あー面倒くさそうだな、とは思うけど他の甘っちょろい青臭い勇者たちに作戦立案なんかさせたら宣戦布告とかしそうだし。

 俺は邪神を消すにあたって、一つの指針を示した。

 それは巧遅よりも拙速ということだ。


 邪神と戦うのに気を急くのはどうだろうか、というかもしれないが、ここはゲームではない。

 邪神が倒されるまでのんびりと城で待つとは思えないし、持久戦に持ち込まれれば一定以上の戦力が足りていないところからじわじわと落とされていく可能性がある。

 つまりはのんびりと修行パートで魔物を倒していればレベルが上がるわけではない。数ヶ月やそこら期間を延ばしたところで劇的に強くなるわけではないのだ。

 全戦力をもってこちらからしかけにいく。

 野蛮で、短絡的かもしれないが被害を減らすためだということで概ね賛成意見が多かった。



 ◇


 俺たちは今、仲間と共にガラスに逗留している。

 いくら拙速だからと言って、会議の直後に飛び出すわけではない。

 銃を量産して配ることも考えたが、今から作り、存在を認めさせ、使い方を教えるまでにはあまりに時間がない。慣れないものを使わせてもうまくはいくまい。それこそ歴史の火縄銃が交代式でつよかったぐらいのものだ。銃が通じない敵が予想される以上、今まで通り軍隊の方々には武器と魔法で頑張ってもらうことになる。

 泊まっている宿屋の食堂で仲間と朝食をとっていた。


「おい、お前が指揮するなんて認めないぞ」


 ただ名誉のためにやってきたような現状の分かっていない貴族のボンボンらしき人物がやってきた。まだこんなのが残っていたのか。

 こんな小物、親近感と同族嫌悪しかわかないので平常時ならぽっきんするところだけどなんだかなー。

 こんな無駄な小競り合いで戦力減らしても。いや、そもそもこいつ戦力なのか?


「あーはいはい。認めてくれなくていいから現場では最低限指示には従ってねー。できないなら邪神討伐隊からは外れてくれてもいいから」


 ひらひらと手を振って追いやる。

 こいつ、現状わかってるのか?

 今も魔物が集まって拠点を作って人間を滅ぼそうとしてるんだぞ。

 ただの野生生物でしかなかった魔物が今や一つの敵対戦力と化している。

 邪神の他にすでに四ヶ所。邪神が全て指示を出しているようで、こういう時に君主制は早くて良い。

 敵を褒めてどうするんだか。


 去る気配がないので、肩にポンと手を置く。

 そのまま黙って空間転移でちょっと離れた噴水に突っ込ませてやった。

 このままいればしばらくすればずぶ濡れの誰かさんがここにやってくる。

 迷惑料といって袖の下……ゲフンゲフン、ちょっとチップを渡して俺たちは店を出た。


「あんなのもまだいるのね」


「レイル見てつっかかってこれるだけマシじゃね?」


 どういう意味だ。

 カグヤもロウも失礼だなあ全く。俺がグレてもいいのか?

 肉体的には青年だからな。ちょっとハメを外して邪神殺すとか言っちゃってるけど、生暖かく支えてくれるのが仲間ってもんじゃないのか。

 いや、命の危険があるから強制はしないけどさ。

 とまあこんな無駄なことを考えられるぐらいの余裕があるぐらいなので少しは落ち着いたと思う。

 目の前で邪神降臨したら発狂してもおかしくはないからね。




 ◇


 レイルたちが集まった会議から一週間が過ぎた。

 邪神と呼ばれる存在は、自ら造った城の最も豪奢な部屋で一人、肘をついて玉座にいた。

 現在、魔物と呼ばれる存在の実に八割近くが邪神の配下となっていた。人間や魔族などの配下も数百人に及ぶ。

 その中にはかつて違う神を信仰していた者や、神など信じていなかった者もいた。


 だがここに全員はいない。

 現在は各地に飛び交っていて、八名の幹部と十数名の準幹部がここにはいた。

 幹部の数は全員で三十、その中には現世に降臨してから呼び寄せた悪魔などもいる。準幹部は約百名。幹部には戦闘力や知力、経験で劣るものの、一体で軍隊を歯牙にも掛けない怪物揃いである。


 そしてそんな邪神に近寄る者はいなかった。

 邪神が一度戦闘に入れば、そこにあるのは暴虐の嵐。純粋なる力の塊のような邪神をして支援だのは邪魔でしかなかった。邪神は戦いになれば城を離れるようにと言ってあった。


 だがそんな邪神に客人が訪れた。


「何者だ」


 深い、地の底から響くようだ。

 聞くもの全てに恐怖を与えるような絶対性がそこにはあった。


「はっ。お目通り有り難き幸せ。私、ドレイクと申します。この通り真祖の純潔吸血鬼です。この度配下に加えていただきたくてやってまいりました」


 それは普段のドレイクからは考えられないほどに畏まった態度だった。


「ふん……なるほど。使い物にはなるか。だが我とて今の今まで寝ていたわけではないぞ。あれほど目立つ男の側にいて、どうして今の立場が知られていないと思った?」


 そう。ドレイクは現在レイル・グレイの配下という扱いである。

 邪神が人間の配下を使って行なったのは、人間を含む全ての種族の実力者と勇者たちの情報収集である。

 その中には当然レイルがおり、最近吸血鬼さえも配下に加えたという情報があった。

 真祖の吸血鬼などそうそういるはずがなく、今の時期に邪神の元にまで来れるようなのは自然とその吸血鬼であろうという推測がたつ。


「そう言われると思いました。ですのでこちらに手土産を持ってまいりました」


 そう言って背中に担いだ麻袋を下ろした。

 中からは一人の縛られた少女が出てきた。銀色の腕輪に真紅の髪がこぼれ落ちる。

 猿轡をかまされ、喋ることさえできない少女は苦しそうにもがいた。


「────! ────!」


 声にならない叫びをあげてはドレイクと邪神を睨む。


「こちらがその勇者、レイル・グレイの一番の同胞。さらには魔物の大量殺戮さえ可能な少女です」


「そんなものを持ち込みおって。そんな少女が魔物を殺戮可能とは本当か?」


「ええ。武器があれば、ですけどね。大きな武器ですよ。彼女自身は強くありません。どうせなら武器も出せればよかったのですけどね……。道具のない彼女は少し賢いだけのただの少女です」


「面白い! そいつは牢屋に入れておけ! 窮地に陥ったときに、連れ出して目の前で嬲り殺してやろう。レイルとやらの絶望の顔が楽しみだ!」


「はっ。仰せのままに」


 完全には信頼がされていないのか、二人の幹部に見張られるようにしてドレイクは地下牢に向かった。

 重くのしかかるような石と鉄、そして魔石がふんだんに使用された牢屋は銃弾ですら破ることは不可能だろう。

 アイラは途中で猿轡を外された。


「こんなことしてタダで済むと思ってるの?」


 アイラが凄むも、幹部とドレイクは鼻で笑う。


「さっさと入れ!」


 半ば放り投げるようにしてアイラは地下牢に入れられた。壁にぶつかり、鈍い音がする。石床の冷たさがはっきりと肌に伝わっていた。

 手錠がつけられ、部屋の中ギリギリまでは動ける程度に束縛された。力もさほどないということで、単なる鉄の手錠と鎖であった。だが人間の力で引きちぎろうとすれば、それこそ鍛え上げた肉体が必要だろう。アイラには無理そうだった。それに、今この状態で牢屋を出れたとしても幹部が駆けつけてきてすぐに敗北する公算が高い。

 無機質な音をたてて牢屋が閉められる。鍵が閉められるのをアイラは黙って見ていた。


アイラ投獄される

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ