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大戦の幕開け

いやー、同時応募可能な「なろうコン」とか「モンスター文庫大賞」っていいですよね。タグつけるだけで見てもらえる機会が増えますし。

しかも感想ももらえるんですって。応募しなきゃ。

 ずば抜けて強かった首領があっけなく殺されたことで、盗賊団は完全に戦意を喪失していた。

 粗末な小屋でロウと俺が話を聞き出したところによると、彼らは何か不都合があって逃げ出してきたわけではないという。

 こんな奴ら相手にするぐらいなら、以前の国に戻った方がマシだというのはやや引っかかる言い方ではあるが。


「本当だ! 信じてくれ!」


 信じるもなにも、判断材料がないからな。


「首領の知り合いで腕の立つ占星術師に『近々、良くないモノが現れる』って言われたから? 盗賊団とあろうものがそんな漠然としたものに動かされてよく去ったな。もしもそいつがお前らを遠ざけるための嘘だったらどうすんだよ」

「いや……兄貴も俺たちもあいつには何度も助けられてて……それにあいつは全ての客に平等な対応を、だからな」

「そうだぜ。……まあ少々変わってるがな」


 首領が空間術を使ったことで、どうやって盗賊稼業を安全にこなしてきたかはわかった。

 ただ、その占い師が気になる。

 いつでも逃げられるような術を持っていながら、わざわざこのギャクラの近く、しかも俺たちのお膝元といえば聞こえは悪いがようはそんなところにまでやってくる理由はあったのか。


「とりあえず洗いざらい吐いてもらおうか」


 盗賊たちの悲鳴が再度響いた。









 アイラに水を出してもらって真っ赤な手を洗う。


「で、どうするの?」


 カグヤが言った。疑問というよりは、すでに決まっているであろう俺の決断に対する確認であった。

 ロウはどちらにせよついていくつもりなのか、あまり気にした様子はない。


「じゃあ行ってみようか?」


 気になることがあったらいく。

 それができるほどに俺たちのフットワークは軽い。

 空間術でいつでも帰って来られるのならば、いける範囲に出かけるのもいささか気楽なものである。





 ◇


 そんなわけでやってきたのが、こちらデイム大平原の東にある国モライだ。

 近くに三つほど国があり、比較的国が密集している地域でもある。

 特にこの国は近くの国々と交流もあり、南の山を挟んで海岸側で取れる海産物も輸出品となっている。

 しかしながら、山を越えてくる風は夏場は乾燥しており、雨が少ないせいで稲作などはあまりできない。

 嘆かわしい。海産物はあるのに米がないとは。


 とはいえ、ギャクラでさえ米などマイナーな食事であった。

 たまに無性に食べたくはなるが、安定供給自体はユナイティアが安定してからでも遅くはないと半ば諦めている。

 ちなみに、俺たち四人の中で米を切望していないのはアイラだけだったりする。


「広いねー」


 国の領土が広いのではないが、短い草の草原が広がるその様はまさに大草原であった。風で揺れて、ざわざわと音を立てている。


 近くに国があるということは、魔物よりも人相手に対する警戒の方が強い。

 ひさびさの入国審査を受けた。勇者候補であると聞いた途端に急に態度が柔らかくなった。肩書きって便利だね。


「あああああの、レ、レイル様でしたか!」


 こんな風に。

 噛みまくっているのはどうしてだろうか。そして視線には怯えが混じりまくっている。

 ほっておいたら今にも土下座しだしそうだ。

 楽しそうなのでそのままにしてもいいけど、外聞が悪くなるだけで気持ち以外に利益がないので控えておこう。

 優しく声をかけ、肩にぽんと手を置くとビクリとその肩が跳ね上がった。


 そんな萎縮されるほどの偉業ではないと思うんだけどな。

 というよりは、もっと種族の橋渡し的な誰とも仲良くなれる親しみやすい勇者候補を目指しているというのに。

 ……まあ冗談のようなことは置いておいてだな、とりあえず入ることは何の問題もなかった。バカ正直に理由を話しても良かったが、ただの観光とだけ報告して入った。嘘はついていない。国を見にきたのだから。そういう意味では視察のようにも聞こえるが。


 今は土の下の盗賊たちに聞いた占い師の住所を訪ねる。住所、とは言うものの、実際は「ここあたりにいる可能性が高い」とか「こんな名前を名乗っているかもしれない」とかそんな話だ。

 だが、その特徴は聞けば忘れられないもので、俺たちはあっさりとその占い師を見つけた。

 小さな即席の館に、紫のローブをかぶってヴェールで半分顔を隠した女がいたのだ。そのヴェールの向こうに見えるのは、アイシャドウで蠱惑的な目を強調した鼻の高い顔だ。


「愛の占い術師、アモーレよ! あなた、稀に見る禍々しい運命の子ね! どう、お姉さんが見てあげるわよ!」


 人差し指でポーズを決めながら俺たちに向かってそんなことを言う残念系の女であった。






 ◇


 個人的に話がしたい、占い一回分の金は払う、そう言うと即席の館の奥にある小さな家に案内された。

 簡素な作りではあるが、部屋のあちらこちらに怪しげなものが置いてある。そして極めつけには、大きな鏡があった。それもまるで城に置いてあるような立派な一品。姿鏡と言われる、人の半分ぐらいの大きさのそれは淵が木でできていて、花が彫られていた。


「話って何かしら。はっ! もしかしてお姉さんをみんなで襲おうと……」

「してないから」


 アイラの絶対零度の眼差しに、冗談よ、とからからと笑った。


「あなたたちが来ることだけはお見通しだったわ。あなたが私の知り合いを殺したってこともね」


 前半だけなら単なるハッタリだと言えただろう。

 しかし後半は違う。こいつは確かに俺たちの過去を知った。

 もしも事前に知っていたならなんの躊躇いもなくこうして招き入れるのは非常に不自然だ。

 ならばこいつは俺たちが殺したことを今、占ったか、俺たちがこいつに危害を加えないことを未来視したか、だ。

 取り出した大きな水晶玉はゆらゆらと光をたたえている。


「……やはり時術か」

「あら、知ってたのね。そうよ。これは時術。私は特に目に特化していてね。未来や過去を見ることができるの。あまりに遠いのは無理だけどね」


 距離的にも時間的にも、と付け加えた。


「それにしても驚いたわ。彼を倒しちゃうなんて、ね。強かったでしょう。空間転移は無詠唱でしかも発動時間はなかったし」

「あんなのがか? 俺としてはあんたのほうが厄介だがな」


 ただ空間を転移できるならば、転移した先で殺せばいい。

 聖女の結界でも、対応できない速さでも構わない。

 だが未来視ができるということは、空間転移する先を読まれるということだし、何より情報不足の状態から策を読まれる可能性がある。

 俺ならこいつが率いる軍とだけは対峙したくない。

 きっとこの能力なら国からも引っ張りだこだっただろうに、どうして盗賊の手助けなどをしていたのか。


 なんとかして引き入れられないものか。

 とりあえず意思確認だけでも、と口を開いた瞬間に遮られた。


「大丈夫よ。恨んじゃいないわ」


 質問を先読みされたのだ。

 また未来を視たのか、というのが顔に出ていたのか、


「それぐらいは年の功よ。お姉さんもあなたよりは歳上だからね」


 と言われた。


「本題はそこじゃないわよ」


 カグヤが俺たちの腹の探り合いに嫌気がさしたのか、強引に話を進めた。

 盗賊を殺した時に吐かせたことを聞いてみると、沈鬱そうな面持ちで彼女は語り出した。


「あなたは、世界には三つの区分があることを知っているかしら」

「天界、冥界、現世か? 冥界は行ったことはないが、知り合いもいるんでな」


 アークディアとか、ミラとか。

 あいつらは管轄こそ違う毛色の悪魔と死神ではあるが、どちらも冥界の住人であることには変わりない。

 天界は二度しか行ったことはないが、知っているのは四人か。


「ええ。存在は真面目には信じられていることは少ないわね。それこそ神を信じるヒジリアの人とかぐらいしかね」

「それがどうした」

「ま、いいわ。ただ冥界からの存在が近くにくることになるかなって視えたから」


 もしかしてそれって俺の契約相手のアークディアのことじゃないのか。


「まー、ただ単に隣国二つがきな臭くって戦争に突入しそうだからってのもあるけどねー」

「そっちだろうが」


 おそらく盗賊としては厄介な戦争に巻き込まれたくはなかったのだろう。兵士が活発になり、冒険者が出入りするようになれば商隊を襲うメリットよりもリスクが上回るから。

 そこに来た「不穏な存在」の予言。これ幸いとまとめてもとの拠点に戻ってきたのだろう。

 きな臭いきな臭いとは言っていたが、そこまでか。


「戦争、ねえ」


 口の中で現状を整理した言葉を転がす。

 時々アイラは神妙な顔をして工房にこもっては出てくる時には晴れやかになっている。アイラはその時の神妙な顔と同じ顔をしていた。


 そしてその一週間後、二つの隣国アグリーと"戦争屋'ハイカーデンの全面戦争が勃発した。

ネタバレするならば、タイトルの大戦って別にこの戦争のことじゃないんですよね。

最終章、突入

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