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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
建国記念祭

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逆転

 楽しくやっていた晩餐会に水を差したおっさんはこの人であった。


「我が国の属国になりませんか? いや、ここの統治を我が国に移すという形になりましょうか」


 言葉こそ丁寧なものの、それはもはや命令であった。

 ユナイティアの住人、つまりは俺の部下的な扱いにはなるわけだけど、元奴隷の奴らから怒気が立ち昇る。

 カグヤとロウ、アイラたちも随分怒っている。

 ここでまさかの冷静さを保っていたのがシンヤとホームレスであった。

 俺の身内だけではない。各国にいる俺の友人たち、つまりは魔王だとかオークスだとか、エルフたちも苛立っているようだ。


「剣は鍛冶屋。レイル殿は冒険者です。統治を我らに任せることは悪いことばかりではないと思いますがね」

「それを言うなら私は貴族でもあるのですよ。グレイ家の名を持つ以上は、ね。そうでしょう、父上」


 ギャクラ国王に付き添ってやってきたジュリアス父上に目をやる。

 父上も頷くが、それを相手は一笑にふした。


「そなたが養子だとは知っているのでね。外交権と税、法律などを任せてもらえば良いのです」


 なるほど。俺の素性は調べあげてるってわけか。


「それで我が国を占領しようってわけですか? それは……随分な物言いですね。我が国はしっかりと自治権を持った国家です。それはギャクラの王が保証してくださっているはずですよ?」


 考えろ。この国の地理と、戦力と、相手の地形と、周りの国との関係を。

 考えろ。無限にある選択肢の中に必ずこいつらを打倒する方法があるはずだ。

 俺はある結論に辿り着く。そしてその相手の無様さに笑いを噛み殺す。

 その様子に気がついて、アイラとカグヤ、ロウは自分たちの出番はないのだと気づいたようだ。


「何をおっしゃる。素直に我が国に降伏して従えばこれまでのような生活は保証しますし、何も皆殺しにしようってわけでは。それに、ギャクラの王にも許可はとってあります」


 ここでまさかの裏切りか?

 とレオナがキッと自らの父、ギャクラ国王を睨むと、彼は誤解だと首を振った。


「以前、この場所の自治権や交渉権がほしいと持ちかけたそこの王に、ユナイティアは我が国の管轄ではないと言ったのだ。つまり我が国が保護に乗り出してもおかしいことではあるまい?」


 なるほど。我が国の管轄ではない=好きにしていい場所と捉えたわけだ。言質とさえ言えない曲解だな。


「もう一度尋ねます。貴国、はユナイティアに戦争を仕掛けた、ということでよろしいですね?」

「我が国が戦争? 冗談はほどほどになさったほうがよろしいですな」


 しかしこのおっさんも勝算もなく俺たちにそんなことを持ちかけたわけではないのだ。

 自信満々に答えた目の前のおっさんの名前はデリドール・モリアナ。モルデック王国の王である。

 そしてモルデック王国は兵の数だけで見るならば決して軍事大国とは呼べない。それどころかギャクラとさほど変わらないとさえ言える。

 兵の数は少ないが、この国に攻め込むのは実質上不可能とさえ言われる。歴史上攻め込んで成功したことがないと言われる鉄壁の国であるのだ。


「我が国には何人たりとも攻めいることはできず、そしてこの場所を見て確信した。魔道士で編成された軍はないのだろう?」


 いつの間にか敬語が取れている。

 そう、こいつの自信はモルデック王国の立地にこそある。

 モルデック王国の城は竜骨山脈の山の一つの頂上にあり、その周りをぐるりと城壁が取り囲む。そしてそのふもとにある町は山に囲まれている。

 確かに山にあるというのは軍事的には利点なのだが、それだけで「鉄壁」の名を冠することができるほど甘くはない。問題はその周りの山と谷にある。

 竜骨山脈の名の通り、周りの山々には飛竜の群れが住んでいる。そして谷には古代巨人族が眠るという巨人の谷(ギガントバレー)があるのだ。

 飛竜は優れた飛行能力を持ち、古代巨人は一人でもエルフの集団に匹敵したのだ。

 そんな場所を無闇に軍隊などで進もうとなどすれば、確実にモルデックに到達するその前に軍隊は壊滅するだろう。

 もちろん、空間転移や波魔法の気配完全隠蔽が使える俺たちだけなら行くことは可能だろう。だが俺たちの国は魔物に対する自衛的戦力こそあるものの、他国と戦争するほどの軍隊はまだない。ましてや。


「巨人族を起こさず北回りでなら我が国の天馬ペガサス部隊であれば、この国を支配することはたやすかろう?」


 そう、この国が自然の鉄壁要塞を誇る中、どうして他国に攻めいることができるのか。

 その答えがこの国だけが有する天馬ペガサス部隊、天翔る槍兵の軍隊である。その数は約五千である。

 これが他の国であれば、魔道士部隊を編成して戦術級の魔法で迎え撃てば互角にならやりあえる。しかしこの国で空中戦に挑めるのは僅かであり、それで数千もの天馬に乗った槍兵たちとやりあうのは無謀でしかない。


「二千で十分。今年の隊長格は、騎竜を飼いならすことに成功していてな。騎竜隊長率いる千の天馬を退ける力はないだろう?」


 心配そうに周りが見ている。シンヤも怒りこそ見せないものの、事態の不穏さは理解しており、苦々しく口を歪めている。

 しかしこの国が歴史上、防衛戦に負けたことはない。

 他の国の代表も迂闊に手を貸すなどとは言えないのだろう。少し擁護をすれば、天馬部隊が自分たちの国を襲うかもしれない。そんなリスクを負ってまで俺たちを助けるべきだと言うほどの信頼は得られていないのだろう。

 そして、ここで文句を言わなければ、モルデックの言い分を認めたということになり、俺たちはこの国と戦争を始めることになる。

 グランとグローサあたりが前に出ようとしたのを手で制した。

 こんなところで魔族と人間の敵対構造を作るわけにはいかない。


 ふむ。こちらの兵力はといえば、鎧と剣だけそろえた兵隊が二千に満たない。

 一方、向こうが同じ数だけ天馬部隊を出せば厳しい戦いになる。

 俺たち一人で全ての天馬に勝つことは不可能ではないかもしれない。しかし戦いが終わるころには甚大な被害を出すことになるだろう。攻め入るのも難しい。


 で、それがどうした?


「戦争を仕掛けたってことは、あんたの国、滅ぶ覚悟はあるんだよなあ?」


 どう出ていいかわからず止まっていた代表たちと、ニヤリと笑う仲間たちの前でもう一度凄んだ。

 きっと今の俺は実に楽しそうな顔をしているに違いない。


「こ、この弱小国が! どうやって我が国の軍に勝つというのだ!」


 完全に予想外の応答に、アドリブに弱いモルデック国王は唾を飛ばしながら俺をなじる。


「周りに飛竜と巨人の堅牢な鎧、ねえ。鎧って意思がないから鎧なんだぜ?」

「何を……」

「俺があんたの国の周りに住む巨人と飛竜を片っ端から攻撃してモルデック王国を襲わせるとしたら」


 その言葉を聞いてその場のほとんどが絶句した。何人かは額に手を当てて、「またか」と目を瞑っている。

 リオは何やらはしゃいでいる。レオナが「さすがレイル様ですわ!」と褒めているのを聞いて、お前化けの皮剥がれてんぞ、と注意してやりたい。

 完全に形勢逆転である。


「そんなことができるはずが……!」


 どうやらギャクラにいたころの俺の情報しか知らないらしい。まあ俺が空間転移を使う、などとは明言したこともほとんどないし、ましてや正式に空間転移を使ったのなんて擬神の時ぐらいだ。

 空間転移と相対座標固定を利用すれば、空を飛んで飛竜と巨人にちょっかいをかけて国まで誘導し、そのまま転移で逃げ出すことぐらいは簡単なのだ。少なくとも千の天馬部隊相手に無双するよりはずっと現実的だ。

 俺は空間を接続して10mほどの距離を一瞬で詰めた。

 護衛の騎士達が剣を抜いた瞬間、後ろに回り込んで笑う。


「俺たちならそれができる。それも安全にな。確かに俺たちを無視すれば、飛竜巨人関係なく俺たちの国を占領できるだろうよ。だけどさ、それって帰る場所が潰れていても意味ってあるのか?」


 背中合わせに尋ねた後、空間転移で一気に離れてとどめをさす。


「で、おたくの軍隊は祖国が巨人と飛竜に蹂躙される中、それを背後に俺たちの国に攻め入ることができるほど情を捨ててんの?」


 万が一、天馬部隊が祖国を守るために!などと奮起して戻ってくれるならば一番美味しい。

 だって巨人と飛竜にいくら天馬部隊といえど敵うはずもないのだから。

 そして周りの国々はそこに応援を送ることなどできるはずもない。それをこそ歴史が証明している。

 圧倒的な数の竜と巨人が城壁も山も天馬も関係なく打ち砕き、そこにあるのはただの破壊工作である。


「そんなこと、許されると……」

「あーはいはい。聞き飽きた。で、戦争する相手に手段を選んでくださいってか? あんた、俺が天馬部隊は反則だからやめてーって言ったらやめてくれんの?」

「ふふっ。出番はないか」


 グランが笑った。

 ダラダラと顔面に滝のような汗をかきながら必死に今の打開策をひねり出そうとするモルデック国王。


「そうだよ。俺はあんたの国の何の罪もない人々全員を人質にとっている」


 勝たなくていい。

 戦わなくてもいい。


「ま、敵対さえしなければ仲良くやれると思うんだよね」


 モルデック相手の交渉権はこちらが握ったと言えるだろうか。

<世界の生けるものたち>

『人に近い種族・古代巨人』の項目より抜粋


現在僅かに残る巨人族とは違い、古代の巨人族はその性質を魔物に近いものとして扱われます。

巨人族の多くはモルデック北の山、その極寒の地にて冬眠状態に入っています。

しかしその巨躯とは裏腹に敏感な聴覚を持っており、一体も起こさずに横を通ることは不可能と言えるでしょう。

持久戦に持ち込めば、数時間で再び冬眠に入りますが、それをすれば他の巨人も起こしてしまうので現実的ではありません。

たとえ自信があったとしても、決して挑んではなりません。


『竜族・中位』

飛竜……竜族の中では中位。個体での脅威度は下位に属し、コドモドラゴンにさえ負けるとはいえ、その脅威は群れでこそ真価を発揮する。口から軽い火炎を吐くが、直接浴びてもさほど脅威ではない。だが周りに燃え移ったり、継続的に使われることでじわじわと削っていく。

知能が高く、多い場合には数千の群れを作るとさえ言われる。卵のころから育てると稀に懐き、人を乗せて飛ぶこともできる。竜骨山脈には縄張りの問題で一つの群れにつき数百の飛竜がいると言われる。


しかしこの飛竜でさえ中位というのは、上位の竜種の前には数百の飛竜でさえ無力ということになる。

生物としての格の違いは大きく、飛竜は上位竜種に傷一つつけることさえ敵わないという。



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