唐突なる提案
お待たせしました。えっ?待ってない?
元の更新速度が速いから、多少インターバルがあった方がいいかもなんて思ったことはありますが……
いえいえ。中間も模試も終わったので今日からまた遅れを取り戻していきますからね
カグヤさんかっけえ!と声を大にして叫びたい。
もうね、あれだよ。これこそまさに勇者っていうか、主人公みたいな熱い戦いだった。
魔法と剣を駆使して、相手の人格とか無関係に実力を認める。
俺は絶対にしない戦い方だけど、なんといってもかっこいい。
見ていて楽しい、エンターテイメント性のある戦いだった。
銃弾を生身の戦闘力だけで弾くとかとんでもない奴だな。俺なら空間把握なしだとできる気がしない。
というか無属性っているんだな。
属性があるなら属性のない人もいるかもとは言ったが、あの属性を極めれば俺の空間術やロウの時術にも匹敵するんじゃないだろうか。とはあくまでできることの幅についての問題だが。
確かにカグヤの指摘の通りなのだ。無属性であるがゆえに、支援や補助向きの魔法で、武器と組み合わせるならば威力や簡易さから考えて属性魔法の方が相性が良い。
巨人を拘束した地属性魔法、落とし穴にカグヤは改良を加えていた。
ただ穴をあけるだけだと回避されてしまうかもしれないからか、重力魔法で穴をあける場所に敵を縛り付けたのだ。
穴ができる直前に、相手が膝をついたのがその証拠である。
まあ一瞬だけだったからすぐに違う魔法で飛び出したけどな。
「カグヤちゃん、かっこよかったねー!」
「ま、カグヤだからな」
アイラは珍しく興奮気味にしかけてくる。横でロウが得意げだ。
「真面目に戦っても強いんじゃないか」
「まあな」
アイラの右隣に俺、そして俺の右隣にはアランがいた。
その名声上、他の冒険者と一括りに祭りに放り出すわけにもいかず、だからといってどこの国にも属しないアランを国の代表が集まる場所にノーマークにしておくのも嫌だ。
そんなわけで俺たちは渋々アランと観戦などということになっている。
アイラとこいつの間に割り込んだのはこいつをアイラの隣に置いておきたくなかったからだ。
アイラとロウが早々に立ち上がり、そのまま試合内容についての話をしていた。
アイラがロウに魔法を解説し、ロウが剣技についてアイラに解説していた。
アイラは魔力操作が得意ではないので魔法をほとんど使えないが、その知識に関してはしっかりと学んでいる。
一方カグヤと稽古し続けていて、高いロウの動体視力から見た戦いはアイラの視点より一段階上のものを見ていたのだろう。
そして二人に気を遣われたことを悟る。
アランと二人きりになったのだ。
男二人で石の座席に隣同士とか、片方がアランじゃなければむさ苦しくってかなわない。まあ俺はそこまでむさ苦しくないと信じてる。
アランが面白くなさそうに俺を見ていた。
「僕は君たちと戦って負けた。あれを負けと認めるのは癪だが、目的を達成できずに君の在り方を変えることもできなかったのだから負けといって差し支えないだろう」
これまで仏頂面でカグヤの戦いを睨んでいたアランがその重い口を開いた。
試合の熱気も冷めやらぬ中、ここだけがひんやりと乾燥していた。
「幼少期から剣を振り続けたさ。気がついたら周りに敵う者はいなかった。その強さで全てを救おうと勇者になった」
アランはもとより本音がダダ漏れだが、今はそのさらに奥底を披瀝していた。
「強さに溺れぬように、正しくあろうと、時には他の冒険者と組んで魔物討伐に挑んだこともある」
と、アランの過去が語られる。
要約するとこうだ。
アランはまさに典型的な勇者として頑張ったけど、強すぎたりペースが合わなくってついてこれる人がいなかったと。
一緒に組みたいといった人の半分ほどは打算目的で近づいてきて、それがわかるだけに嫌気がさしていた。
アイラと銃器はそういった力不足な部分を補ってくれるし、アイラは下心がなく危険を顧みず自分を助けてくれた。
そんな感じであった。
俺よりも強い肉体、剣技、イケメンスマイル。
どれもこれも、努力だけでも才能だけでも身につかない次元にある。
俺が魔法抜きに真正面から戦えば確実に負ける。いや、魔法ありでも苦戦するだろう。
搦め手、伏兵、奸計。策を張り巡らせてこそ戦いだ。文句を言われる筋合いはないが。
で、そんなアランが不平不満を俺に言ってくる。そう、愚痴というやつだ。酒場で絡むような下品さこそないものの、本質的にはあまり変わらない。
イケメンがすればそんな愚痴でも女を落とす武器になるのかと思うと、もう一度決闘をしかけてもっとボコボコにしておきたい。十字架にはりつけにしてパレードとかしよう。
いや、そうじゃなくってだな。
アランは俺に嫉妬というか、八つ当たりをしているのだろうか。
強いことで孤独だったと、自分みたいな人間こそアイラみたいな仲間がいるのだと。
「正しく、人に誇れる生き方を目指した僕よりも、邪悪に、卑怯に立ち回った君の方がずっと僕の憧れた位置に、僕よりもいろんなものを持っている。今日ここにきてそれを見て馬鹿馬鹿しくなったよ」
「言っておくが、アラン。俺はお前が嫌いだ。正しさがあると信じている部分も、強さで未来を切り開けると妄信してるところもな。それを考慮に入れて耳半分に聞いてくれればいいんだけどな」
アランが随分とアイラを勘違いし、頓珍漢な評価を下しているから言わせてもらおう。
アイラはこういう勘違い男に見込まれやすい。
一番にアイラを、アイラの才能を見つけたのは俺だ。
「アイラの中には俺がいる。これは大事な者の中に、って意味じゃなくって人格的に、だ。アイラがお前を助けたのだって、お前を助けたいからじゃなくってその方が効率良く楽に巨大蠍を倒せるからだ」
ずっとそばにいた。
俺の中にアイラの要素は少ないかもしれないが、少なくともアイラは俺に毒されてしまっている。
アランが清濁併せ呑んで、利用価値だけでアイラを見るならばそれはそれで困るが、"正しさ"などを追い求めるアランからすれば我慢ならない性分なのではないだろうか。
少なくとも、意見が食い違ってそのうちにそのコンビは破綻する。その未来が見えるようだ。
「それにな。俺がアイラを必要としていて、アイラが俺を必要している。そこに人格や正しさ、能力が介入する余地なんてあるのか?」
お互いに嫌いなのだ。
わかりあう必要はないし、仲良くする理由もない。
俺は言いたいことをいっただけだが、アランはそこに違う意味を感じとったのか苦虫を噛み潰したようなしかめっ面だ。
◇
無属性の召喚者の鼻っ柱をカグヤが気持ち良くへし折ってくれたところで、そろそろ建国記念祭も本番に移行する。
そう、晩餐会こそが本番である。
慌ただしく料理が運ばれてきて机の上に並べられていく。
それまでの間、お客様の皆様方については各代表に割り当てた個室でくつろいでもらっている。
仕事をしている元奴隷のユナイティア国民たちを以前と比べて随分と様になっているな、と感慨深く眺めていた。
すると、両開きの扉を豪快に開け放って一人の女性が現れた。
「ちょっと! どういうことなの!?」
給仕係の少女の一人がオロオロと困っている。準備中のこの部屋には入ってほしくないが、他国の王侯貴族ともなると、強く出られないといったところか。
ならばここは俺が、と立ち上がると、女性は俺の方を見た。そして探し人を見つけたかのようにつかつかと歩み寄ってくる。何あれ怖い。
「あなたがレイル・グレイですの?!」
後ろから駆けつけた執事らしき男性が必死でたしなめている。
他国の建国記念パーティーにお呼ばれしてそこの代表者を呼び捨てにするとは礼儀知らずも甚だしいが、俺はそこまでそれを気にするわけでもない。むしろ、冒険者や勇者候補として活躍することの方が多かった分、全然呼び捨てでも構わないのだけど。一応国の威信にも関わるので、そんなことはおくびにも出さないが。
「どうしました? 何か不手際でもございましたか?」
丁寧語で返しておく。
この人は……ってまさかの宰相の一人かよ。名前は確か……ウト・ビロード。生粋の貴族だ。
「あなた、ここで働いている人間のほとんどが奴隷出身だそうね」
「ええ。数年前に購入して、奴隷の身分から解放してありますけど?」
「さっきからここを見ていたら、読み書きが可能な人がいたのよ。で、その子を褒めたら当たり前のように、『ありがとうございます。しかし私たちは皆、これぐらいはできますよ? 私が特別というわけではございません』って。計算もできるし、暇そうなのを呼び止めて会話したけど、普通に知識もある」
信じられないとばかりに眦を吊り上げて詰め寄ってくる。
「あなたは奴隷全員に教育をしたっていうのかしら?」
「そうですが? 最低限の知識と教養は与えましたが?」
「最低限ってねえ。あれは王侯貴族に近い水準の教育よ。あなたの国では農民や町人にもしていたのかもしれないけど、敬語から仕事の技術。そして知識まで奴隷に身につけさせるなんて……」
「奴隷ではなく、元奴隷です。そこのところ、お間違えなきよう。今の彼らを奴隷扱いするということは我が国への冒涜ですよ? それと、あれを最低限と言い張るということは、幹部、つまりシンヤにレオナ、ホームレスにアイラ、カグヤ、ロウに私たちは全てにおいて彼らを上回るということです。少なくとも彼らに教えた部分は私が知る知識で最低限と思った範囲ですからね」
失礼なお嬢様宰相に一言釘を刺す。
ウトさんが目に見えてたじろぐ。
執事は何故かこのタイミングでホッと胸を撫で下ろした。
「し、失礼したわ!」
彼女もおそらく有能なのだろう。
誤解されやすい口調と態度ではあるが、ああしてユナイティアを視察していたってところか。いや、それがバレてるなら有能ってわけじゃないのか?
肝心の技術や知識さえ盗まれなければ別に構わないので、元奴隷が彼女に答えたのもおそらく一般知識範囲内だろう。あの程度でやたらとびっくりされても困るんだがな。まあきっと元奴隷に、ってところが驚きのポイントだったのだろう。
それに、不審な動きは俺とロウだけで十分に監視できている。
◇
晩餐会での挨拶が本当の挨拶というところになろうか。
好き勝手に言ってくれたオークスにグラン、獣人族長陣も皆、礼儀正しく挨拶してくる。
魔導具のシャンデリアは前世の光とはやや違った情趣を醸し出している。
そんな中で、不穏な気配をまとって現れたのが、この王である。
「レイル・グレイどのの武功は遠き我が国にも聞こえております。いやはや、勇者候補の方の立ち上げた国とはなんとも珍しい。そしてこの種族の多さ。さすがは英雄といったところでしょうか」
「本日はこの若輩者の招待を受けていただきお礼申し上げます。ごゆるりとお楽しみください」
「そんなわけにもいかないのですよ。お耳にいれておきたいことがありましてな」
嫌な予感しかしない。
もしもここが王族の集まるような場所でなければ、ちょっと用事がとかいって転移で逃げ出したい。
「この場所を我が国に帰属させたいという提案ですよ」
はあ?このおっさん何言ってんの?




