新素材
お久しぶりです、レイルです。
そんなことを意味もなく言えば、頭のおかしい人に認定されてしまうので言うことはない。
しかしまあ、久しぶりの俺視点である。
前回までのあらすじは実に簡単。トロルの里に招待されて、歩いていたら魔物に襲われた。そいつを返り討ちにしたらセルバさんが好きすぎる男に怒鳴りつけられた。今ここ。
パンパと名乗った彼は、俺たちを監視するという口実の元にセルバさんに付き従っている。俺を見る目はギラギラしていて、セルバさんを見る目はキラキラしている。所詮濁点の違いでしかない。
「アギトカゲの皮は上質だが、加工のあてはあるのか?」
セルバさんが何を言いたいのかわからないけど、もしも使い道がないなら買い取ろうとかそういうことかな。
「いや、どこで加工するとかは全然決めてない」
「じゃあ……私にアテがあるのだが、紹介しようか?」
「いいんですか?」
カグヤはこれからセルバさんの家に行くというのに、そんな寄り道をさせてしまってもよいのかと心配しているようだ。
それに対するセルバさんの回答は、結局行く場所は変わらない、とのこと。
その意味を知るのは、セルバさんの家という場所に到着した時のことだった。
「立派な家ですね」
「大きな窯ね」
セルバさんの家は鍛冶屋であった。
◇
最初はセルバさんの本職は鍛冶屋なのかと疑った。
実は鍛冶屋なのはセルバさんの父親で、彼はこの家を継ぐかもしれないがどちらかというと戦闘の才能に恵まれたがためにこうして戦士として生きているのだとか。
そもそもドワーフと交友のあるトロルで鍛冶屋を営むという者は少ないのだとか。
ちょっとした日常生活品などはいちいちドワーフにまで回すと大変なので、こうしたトロルの鍛冶屋の需要もあるのだが。
今回のようにトロルの客、ともなればドワーフに受け入れられるとも限らないし、彼ら自身で歓迎したいというのもあるという。
木で出来た屋根は俺たちの背よりも遥かに高く、さすがはトロルの家といったところか。
「父さん、私の友を連れてきた。アギトカゲの皮を持っているが、何か良い使い道はあるかな」
セルバさんがおっさんより手前のまだ若い男性と言うならば、その父親は初老より手前のおじさんとじいさんのおじさん寄りである。
ややシワがあって、セルバさんががっちりした体格なのに対して、ずんぐりむっくりといったところだ。
俺たちが家に入れてもらったときは、俺たちに背を向けて何かを作っていた。
鍛冶屋、とは名乗るものの、物の加工に関してはオールマイティーなマルチタイプであるようで、木から鉄まで幅広く扱えるのも売りだという。
父さん、と呼ばれたトロルは振り返って俺たちを見た。
そのままジロジロと眺めていたが、セルバさんとは違って目や動作を見るというよりは俺たちの格好を見ているといった感じだ。
「……嬢ちゃん、妙なものを付けているな」
俺の赤い耳飾りや、サーシャさんの杖よりもまず注目したのはアイラの腕輪であった。機械族からもらったそれは、機械族が門外不出にしているならば、一般にはこれ一つといっても差し支えないシロモノである。まあ道具に関わる者なら気になるのかもしれない。
「……ダメだな。わからない、ということは知らないもんで、俺にゃあどうしようもねえ。それより、お前らそんな貧相な装備で旅してんのか、新人か?」
「いや、父さん。彼らはそれぞれ、狼を単独で殺せるぐらいの実力はある。アギトカゲも簡単に倒した」
セルバさんが先ほどの事実を伝えた。
セルバさんの父親はそれを聞いて瞠目した。
「それほどの実力があるならもっといいものを身につけりゃいいのによ。ほれ、武器とかはどうだ?」
「俺は遠慮しておきます」
「言いにくいのだけど、これよりいい刀がここで手に入るとは思えないわ」
「私も、いらない、かな?」
「なんだかんだいってこの杖には愛着もあるしね」
「あ、じゃあ俺はお願いします」
結局ロウだけだった。
善意の申し出はありがたいのだが、俺たちが防具をまともにつけないのは機動力のためで、攻撃なんか食らわないことを前提にしている。
本当に強い相手に出会ったとき、防具で防げるとは思えない。そうした時に攻撃を避けなければならないのであれば、身軽なことにこしたことはない。
そして、防具が貧相だからといって、金がないわけでも武器が弱いわけでもない。
それを証明するために、俺たちはそれぞれの武器を差し出した。ただしアイラ以外だ。アイラの武器は信用できるからといってやすやすと見せるものではない。まともに見せたのはアイラの父親ぐらいで、それも目の前で使っただけだ。
聖剣、刀、竜玉の杖と目の前に並べられた武器を見て親父さんは納得してくれた。なるほど、これなら交換する必要はないな、と。
カグヤの刀の価値は知らなかったが、かなりの業物であったらしい。カグヤにどこで手に入れたのか聞くと、
「おじいさんの本命の刀を除いた愛着のある五本のうち一本をもらったの」
といった。つまりはこれと同じぐらいいい刀四本と、これよりもいい刀をカグヤのおじいさんは所持していたということになる。おじいさんぱねえっす。
結局、アギトカゲの皮は小手だとか、腕を守る防具だとかいった小物の防具に加工してもらうこととなった。鎧なんざ作られても、重くて着る気にはなれないしな。
五人分作って余った分は加工費としてもらってくれて構わないと言った。別に持ち運べないなんて事態は起こりようもないが、どうせ持っていてもただの皮だ。タンスの肥やしならぬ腕輪の肥やしになるぐらいなら良くしてくれた親父さんにあげてしまおうということで意見は一致した。セルバさんは恐縮というか、もらいすぎだとか言っていたけど、親父さんの「貰えるものはもらっておけ」の一言で解決。
そんな段取りが終わったところで、セルバさんは思い出したように言った。
「ああ、そうだ。こいつらにアギトカゲの討伐とかのお礼にアレをあげようと思うんだが」
「好きにしろ。あれは武器にするにはむいていない」
そういってセルバさんが出してきたものは巨大な金属の塊であった。
俺たちは目の前に置かれた金属をしげしげと眺めた。一部が虹色に反射していてとても綺麗だった。
サーシャさんが魔力とは別の気配がする、と言っている。
「魔力とは別の力の根源を知っているか?」
セルバさんが説明するには、魂の力はトロルたちの間でも認識されていて、妖精などは魂の力がないと触れられないという。
俺たちが精神生命体と呼ぶ相手のことだ。つまりは魔力とは別のエネルギー体系として魂があるということだ。
そして、この金属にはそういった魂が込められているのだという。
さしずめ生命鉱物といったところか。
この金属は加工しても決して刃物にはならないのだという。まるでアイラの鍛冶技術のようだ。
だから、武器にはできないし、普通に使えば単なるちょっと加工しにくくて硬いだけの金属だからあまり価値は見出されていないという。
しかし俺たちはこの話を聞いて、この金属の有用性に気づいてしまった。
今までの全て合わせてもお釣りが来るぐらいの待遇だ。
「私たちはこれを精霊の宿りし金属────精霊鉱と呼んでいる」




