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サーシャの魂とリューカの復興

 周囲がざわめく中、レイルはサーシャの手を握った。


「ありがとう。周りは方法を聞かないでほしい。本人にはした後でちゃんと話すつもりだ」


 柄にもなく英雄然としたレイル。しかし今からやろうとしていることは魂と体を繋ぐ何かの修復である。

 サーシャを他の人のいない天幕の裏へと運んでいった。

 レイルは無防備に倒れたままのサーシャを見下ろした。倒れながらも竜玉の杖を離す様子はない。


「馬鹿な奴だ」


 レイルは誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

 敵が強かったのならば、無理して倒さなくてもよかった。逃げてしまえばよかったのに。

 そんな後ろ向きな提案をする者はきっといなかったのだろうという賞賛でもあった。

 レイルはこれからのことを思うと少しだけサーシャに同情した。

 敵の親玉らしき相手を倒したのだから、きっと自分が英雄として祭り上げられるに違いない。そしてそれは自分の望むところであり、計算の内であった。


 しかし本当の英雄とは彼女のような人間のことを言うのではないか。


 身を呈して国を、人を守り、それで今死に瀕している。

 このまま死ねば、彼女は国の英雄として語り継がれるに違いない。

 ある意味レイルは彼女が英雄になるのを邪魔しようとしていると言える。

 死して骨を敬われるよりも泥の中に尾を曳きたいとは誰の言葉であったか。

 レイルは名誉より何より生きることが一番の幸せだと信じて疑わない。だから彼女も救われたいだろうと思っているし、何より彼女をここで死なすには惜しいと感じていた。


「英雄なんて馬鹿馬鹿しいけど、人はそういうものに惹かれて動くんだろうな」


 レイルはこの国を滅ばないようにするつもりであった。

 それはまるで戦後のあの国のように、弱ったところに自治と復興を与えればきっとユナイティアに頭が上がらなくなって有利な関係を結べると思っていたからだ。

 サーシャはそこに必要な人間だとも思っていた。

 そしてそれら全てを言い訳だということも自覚していた。


 レイルは打算的な男でありながら、自分の感情を損得にいれる。

 あの日、出会った時からサーシャは既にレイルにとっての「身内側」に入っていたのだ。

 助けられるなら、助けることで少しでも得があるなら、助けることに問題がないのなら。条件さえあえば特にその後のことなど考えずに助けてもいいと思っていた。


「始めろ」

「仰せのままに」


 アークディアがその悪魔としての技術を振るった。




 ◇


 結果だけを言うならば、サーシャは助かった。

 サーシャにレイルとアークディアがしたことは、最初のレイルの口調ほど深刻なものではなかった。


「まさかアークディアさんが悪魔、だなんてね」


 アークディアがサーシャの肉体に憑依し、その内部で魂と肉体を繋ぎとめる役割をしているのだ。

 これは別に永遠にというわけではない。人の肉体に自己治癒力が備わっているように、人の魂と肉体を繋ぎとめる鎖のようなそれにも、自己治癒力というものはある。一、二ヶ月もすれば完全につながり、アークディアが体から離れることもできるだろうという。

 その代わり、サーシャはアークディアと肉体を共有するような形となった。

 アークディアの方が当然精神体が強いため、その気になればアークディアは受肉、つまりはサーシャの肉体を完全に奪えることを示している。


「こんな形でしか救えませんでしたが……」


 レイルは珍しく多少の罪悪感とともにサーシャに説明した。

 仮にも悪魔。レイルこそそれをどうでもいいと感じているが、一般的には忌避される存在だということぐらいは認識していた。

 そんな悪魔に体を明け渡すなどとはおぞましいと言うかもしれない。

 しかし助けてもらっておいてそれをどうこう言うほどにサーシャは恩知らずではなかった。


「いいわよ。十分。それに、前より魔法の扱いが良くなった気がするの。あなたもアークディアさんがいないと不便でしょうし、私もユナイティアにしばらく滞在させてもらってもいいかしら?」


 レイルとしてはしばらくアークディアを貸すぐらいのつもりであったため、その申し出を快く承諾した。


「助かってよかったわね」

「時術さえ効かないってなったら本当にどうしようかと思ったぜ」

「アークディアさんは凄いんだね」


 アークディアは悪魔である。本来人の魂を回収したり貯蓄して使う側にいる以上、ある程度の魂術は使えるのだ。


「契約者ならばもっと簡単だったのですがね。まあ彼女に私の望む対価を払えるとは思いませんが」


 アークディアはあくまでレイルに頼まれたからだという。珍しいものを見れて機嫌が良かったのもあるだろう。


「いいさ。助かったんなら理由も、過程も」


 レイルは他の犠牲者の話も聞いていたが、サーシャのみを救ったことにさほど思うところはなかった。

 死ぬ者は死ぬ。当たり前であって、全ては救えないなんて今更確認するまでもないことだからだ。

 今回救えれば良かったのは三人だ。

 結果として国も救えれば良かった。


 親玉を襲撃した時に限って偽天使の数が倍増したり、強い敵が増援されたことには不審な点もあるが、それも含めてレイルは完全に間違ったとは思えなかった。

 確かに相手への対応策が出来た以上、じっくり敵の戦力を消耗させてから挑むのもありだったのかもしれないが、逆にさっさと敵を殲滅していなければさらに強い敵が来たかもしれない。

 全ては「もしも」であり、結果論でもある。



 ◇


 それからレイルたちは後処理に追われた。

 さすがに壊れた建物などの修理などを手伝わされることはなかったが、城は取り戻せた。

 王からも、精神的な傷以外は無事に戻れたことを祝う言葉が送られた。

 レイルはその時の英雄として祭り上げられたりしたのだ。

 ロウやアイラにしきりにお礼を述べたり、肩を叩いて褒めたりしていく人もいた。


 ボロボロの王都であったが、兵士も多く生き残っており、人々の活気さえあれば復興はするだろうと思われた。

 本当は冒険者にも国の防衛や建物の修繕などを手伝ってもらいたかったようだが、そこまで彼らを縛ることはできなかったようだ。

 今回の戦いで心身どちらかに傷を負って、しばらくのんびり休みたいという冒険者も多く、他の国へといってしまう人もいた。

 特に魔法も剣も通じないという規格外の敵は、多くの冒険者の心に傷を残した。

 知っているか知らないか。それだけで多くの違いが出るということを知って、知識を蓄えようと決意した人もいたという。

 幾つかの国からは援助が決まった。レイルのあまりの早さに増援すら出せなかったことで復興に支援を渋るわけにはいかなかったのだ。

 仲が良いと言えるほどでもない国家群であるが、こういう時に支援をする姿勢を見せないと他国への弱みとなりうるからだ。


 レイルたちはまた一つ、輝かしい実績を残して国を後にした。

擬神編最後ってことでやや少なめでしょうか。

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