死亡フラグとは
相変わらずまともには戦わないレイル
これからは三人称視点で進むかもしれません。
レイルが主人公であることは変わらないので、さほど印象も変わらないようになるとは思いますが……というかそのように書くつもりではありますが……
城の外に退却したレイルたち。六人?は城の前の広場で休憩していた。
その中にただ一人、激昂している人間がいた。
「どういうつもりなのか教えてもらえるか?」
激昂した少女――リーズはレイルの胸ぐらを掴んで問い詰める。
そんなリーズをレイルは嘲笑った。
「なあ、もう少し自分で考えてくれよ」
その瞳はリーズの中に一片の価値も見出してはいなかった。底冷えのするような諦観の声に、敵ではないはずのリーズが怯む。
「はあ……こいつが人道に反するのはいつものことだけど、今回は別に悪手を打ったわけではないわ」
カグヤがフォローしたことと、周りの視線を受けてリーズは黙ることを余儀無くされた。
もともとカグヤも、ミラもアークディアもレイル側であることを考えるとやや出来レースのようなものではあったが、どう見てもこの場で少数派はリーズであった。
「な、なんなのよ。私は間違ったことなんて言ってないわ。王が人質にとられているのにおめおめと逃げ帰るなんてどういうつもりか聞いているの。今もこうして王の命が危機にさらされているのよ? 即助けに行くべきではないの?」
「はあ……あんたもうちょい周り見た方がいいよ」
パニエは呆れたようにリーズをたしなめた。
「別に誰もこのまま諦めるなんて言ってねえだろ。退却してさらに戦力を増やして戻るとか考えねえのかよ。せっかく転移魔法もあるのにただ闇雲に突っ込むとか馬鹿じゃねえのか?」
顔を真っ赤に口をパクパクさせて何か言おうとするリーズだが、うまく言葉が出ない。
「はいよ。ありがとさん。俺の言いたいことはだいたいパニエが代弁してくれたからおいとくとして」
パンパンと手を叩いてお開きとばかりにレイルがその場をおさめた。
メンバーの一人を執拗に追い詰めて士気を下げるのはレイルの望むところではない。
「とりあえず王様は大丈夫だし、意図的に見捨てるつもりはない」
リーズを落ち着かせるためには、王様について話す必要があると思ったレイルが話の切り出しとして選んだのがその言葉であった。
「どうしてって……」
「説明するから。まあ現状を確認しよう。あの魔導士だか発明家だか知らない男は臆病で慎重な男だ」
レイルは彼の言動を一つ一つあげていった。
擬神という存在がいるにもかかわらず、結界まで張って自身の安全を気にしていたこと。
結界を張っているのに、レイルが空間接続で剣を転移させて襲おうとした時に悲鳴をあげたこと。
そこまでしておいて、王を人質にとっていることなどである。
聞き終えて、彼の人格を見るならばやはり非常に慎重な人物ということになるだろう、と締めた。
「そうね。それにしても厄介ね。彼を倒せば擬神は消えるのかしら」
「それはないじゃろうな。まあでも高度な知能はないようじゃから、指示を出す男がいなくなるだけでも楽になるのは確かじゃろう。それに男がいなければ結界がなくなるというのもな」
「本来は結界の外に連れ出したいんだけど、多分無理だろうな」
「どうしましょうか、何人分かの魂があれば、力ずくで壊すこともできるかと思いますが」
「なあ、この兄さん何者なんだよ」
パニエとリーズにはアークディアが悪魔だとは言っていない。
よって魂が──などと口走るアークディアに不審感を覚えているのだ。
「そんなことより。連れ出すのが無理なら結界の外からあいつを倒そうと思うわけだ」
「空間転移でさえ無理で、物理的に通過もできないんでしょう?」
「考えてもみろ、俺たちがあいつを目視できて、声も聞こえたってことは全てを遮断しているわけじゃないんだ。何か通過できなくなる条件があるはずだろ」
視える、ということは光が通り抜けるということであり、聞こえる、ということは振動が伝わるということである。
「じゃあ光魔法で撃ち抜いたら……」
「無理だろうな。おそらく魔力を使った現象や物質は通り抜けられない」
炎魔法も風魔法も通じはしないだろう。
「じゃあアイラに銃を借りに戻るのはどうかしら?」
カグヤの案は妥当とも言える。
しかし、通常の物体も通さなかったときの対処が怖いのでレイルはそれを断った。
「いや、いい。十分空間術……だけじゃねえな、魔法だけでも十分なんとかできる」
「もう思いついたの?」
あまりの回転の速さにリーズが「嘘でしょ?」と聞き返す。
「ただどの方法を使うか、だな。結局波だの光だの言わずとも、遮断できないものがあるのはわかるよな?」
「空気や液体、よね?」
「そうだ。魔力さえこもっていなければ確実に通る」
この場でその会話を理解できるのは、アークディアとレイル、カグヤの三人であった。
この世界は魔法文明であるがゆえに、体系的に科学がない。
人間が呼吸しているそれを分子レベルで理解していない以上、気体や液体と言っても何もわかるはずがない。当然、その先にある知識の応用としての、人は気体を口から肺へ送って酸素を取り入れて活動している、なんてこともわかることはなかった。
通常の読み書き、計算でさえもこの世界では高等教育である。何年も研究してようやくわかる専門知識に近いそれをリーズやパニエが理解することはなかった。
「まさか……」
「そのまさかだ。城の内部を水で満たすか、火を焚いて煙に含まれる一酸化炭素で気絶させるか、だ」
玉座が上方にある以上、煙の方が効率がいいのは確かだ。
「はーあ、やっぱ煙か……油は大好きだけど、この戦法は前にも使ったからな……」
「あんなの使ったうちに入らないわよ。それに同じ戦法が嫌って贅沢じゃない」
レイルが嫌がったのはそういう問題でもないのだが、煙を使うのが手っ取り早いのは事実であるから、黙って全力でスルーした。
否定意見など出るはずもなく、玉座に煙を送る作戦に決まった。
◇
防衛戦の拠点から少し離れた、木材を加工していた場所に戻ってきた。
レイルが全員に不可視化の魔法をかけた。一定以上離れると見えなくなる魔法である。ここにいることがバレると、作戦が失敗したかのように見えるので気まずいということでコソコソとしているのだ。
カグヤ、リーズ、アークディアとミラ、パニエ、レイルに分かれた。
枯れ枝や木の武器を作るためにでた廃材を回収していく間、レイルはふとパニエに聞いた。
「パニエさんは良かったのか? つーかどうしてこっちに来たんだ?」
レイルはそれが不思議だった。
やる気はなさそうで、名誉や強敵との戦いも求めているようには見えない。さらには、民を守りたい、や人々を救いたいみたいな大層な大義名分があるようにも見えない。
そんなパニエがわざわざ危険な最先端に志願してきた理由がわからなかったのである。
「簡単だよ。死にたくねえからさ」
「えっ? こっちの方が危険じゃないか?」
「そりゃあ敵の強さ的には、だろ? 各地であんたの話を聞いたよ。強い敵にまともには挑まない、恐ろしく頭の回る勇者だ、ってな」
「そんな大層なもんじゃないかな。ちょっと他の勇者候補より弱くて慎重なだけでな」
「十分じゃねえか。俺は見ての通り魔法主体の魔法使いだ。ごろつきぐらいなら素手や剣でも勝てるだろうけど、魔物の大群に一人では突っ込めない。防衛戦は多数対多数だ。何が起こるかわからない乱戦ほど怖えもんはねえよ」
パニエは本気で言っていた。
「その点、『最低の勇者』のあんたなら──────逃げてくれるんだろう? さっきみたいに」
強敵の情報が、倒すための条件が揃わなければ退却の判断ができるのだろう?と聞いた。
防衛戦ならば後ろに守る民がいるのに退却できるはずがないからだ。
そういう意味では誰よりもレイルを信じている冒険者の一人と言えるだろう。
生き残りたい、死にたくない、純粋な生存本能でのみここについてきたという。
弱い敵でも大群を相手にするより、強い敵を前にレイルとともにいる方が生き残れると感じ取ったということなのだ。
「随分と過大評価……なのか? 過小評価なのかもしれないけどな。言っとくが俺はあんたらも戦力としてしか見ていないぜ。今回の王も救えなければあのまま力づくで王ごと殺しにいってたかもしれないしな」
パニエはその言葉にいっそう嬉しそうにした。
「俺が欲しいのはそういう感情以外の合理的な判断なんだよ。どいつもこいつも暑苦しい。もっと楽に生きればいいのによ。大事な時に誇りだのと叫んで間違った選択肢を突き進みやがる」
「はっ。あんたとはいい酒が飲めそうだ」
「それが俺より年下のガキが言うことかよ」
「ガキってもそんなに変わらないだろうがよ」
憎まれ口を叩きあいつつも、全員は焼き討ちに必要なだけの燃料を手に入れた。
リーズは最後までぶつくさと言っていたが、一度アークディアが本気で睨むと何も言わなくなった。
虚ろな目で淡々と木々を集めるリーズに、カグヤはアークディアが何かしたのではないかという疑いとリーズへの同情を深めた。
〜防衛戦〜
ロウ「へい、まだ戦える、いってこい!」
アイラ「治してすぐに送りだすなんて鬼畜だね」
ロウ「こういうのは、やられた恐怖が蘇る前に戦って忘れるのが一番なんだよ」
アイラ「あ、向こうでサーシャさんが活躍してる!」
ロウ「すげえな。木の塊を水魔法で撃ちだしてるじゃねえか」
アイラ「じゃあ向こうは大丈夫そうだね」
ロウ「ま、あのお姉さんは強いしな。放っておいても大丈夫だろ。それに傷つけばこっちくるだろうしよ」




