表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/200

王城に呼ばれて

ほのぼの学園編、終了です

 王城では将棋が流行りはじめた。

 当然のその仕掛け人はレオンである。

 みんなで遊びたいと思ったが、売りたくはなかった。俺が作ったゲームで儲けるのが気にくわない。レオンの主張を要約するとそんなところだった。


 二人とはすっかり友達になった。


 子供とは切り替えが早いのである。 見た目は子供、中身は大人、とどこかの名探偵のようなキャッチコピーのつく俺も例に漏れず、多少の失礼なんかすっかりと水に流してしまっていた。

 

「でさ、レイルには友達として家にきてほしいんだ」


 と、いうわけでレオンに家に呼ばれた。

 何の問題も無い。小学生だもの。友達に呼ばれて、家に遊びにいくこともあるよね。普通普通。相手が王子様でなければ。


 レオンは美形である。王子様なのが特に嫌味にならないぐらいには。そして性格も少し不器用なところもあるが、適当に熱くて……いいやつである。女子には当然モテる。

 何が言いたいのかというと、そんな王子とお姫様に話しかけられる評判の悪い男の立場というものを想像してみてほしい。


「素晴らしい提案ですわ。お兄様など構わず、私の部屋に来ませんこと?」


 やめてください。あえて周りに聞かせるように言うのは。心の中でだけ窘めておく。火に油ではなく、キャンプファイヤーに向かって消防車のホースで油を注ぐような暴挙である。今まではお嬢様の嫉妬や、なんでお前なんかが? 程度の場違い感を投げつけられたにすぎない。しかしレオナの発言によって、周りの男子ファンたちに一気に殺気がほとばしり、騒がしくなった。


「あいつ……どうにかして殺れないかな」

「用心深いから、本気で殺りにかかると返り討ちなのがわかっているのが腹立たしいな」

「でもアイラちゃんもだろ」

「どうなってんだよ。剣も中途半端、魔法はからっきしの頭でっかちのくせに」

「勉強だけはなあ……あの才媛もシリカ様も、王子レオン様も抑えて一位の座を譲ったことがないとか」

「それでいて勉強している姿は見た事がないんだぜ? 家庭教師もいないっていうし」

「はいはーい。アイラちゃんやカグヤさん、あと誰か地味な男に勉強教えているときなら見たことあるぜ」

「ああ、あの殺気がヤバくて近寄れない幻の勉強会?」

「地味な男って誰だよ。えっ? カグヤさんってあの? 農民科魔法、剣、学問一位の?」

「ああ。それにアイラちゃんも剣は普通だけど、学問は一位だってよ」

「じゃああの勉強会って一位の集まり?」

「地味な男が気になるな」


 途中から勉強会の話題になっていたが、レイルに向けての殺気は絶やさない。

 ひそひそ声で内容が聞き取れなくても、居心地が悪いことこの上なかった。

 俺は話を強引に変えることにした。


「ああ、行く行く。ところで将棋はどうなった?」

「実は……家に来てほしい理由の一つに、その将棋が絡んでいてな」


 話を変えたつもりであったが、どうやら変わっていなかったらしい。

 レオンの父親、つまりは王様が将棋を作った人をレオンに尋ねたらしい。

 口止めしておかなかった俺も悪いが、そこでレオンはバカ正直に同じクラスの友達ですなんて言ってしまったものだから、今度家に遊びにきてもらおうか、となったらしい。

 うむ、息子に友達ができたので家に呼んだ。

 何の問題もない。


 お金儲けの匂いもするので、レオンには悪いが打算込み込みでその案にのろうと思う。

 まさか息子の級友をいきなり危険人物扱いして捕らえたりはするまい。






 ◇


 お城についた。

 カグヤとロウも誘ったが、なんだかそわそわと目線をそらして辞退した。

 遠慮しているというよりは、何かまずいことがあって行きたくないような様子だったので、無理には連れてこなかった。


 アイラはついてきている。


 最近思うのはアイラはなかなか大物だということである。

 レイルくんがいくなら、の一言で城についてこようと思うだろうか?

 その点、カグヤとロウの方が小市民的一般感覚と言えるだろう。

 ジュリアス様に、


「王城に招待されました」


 と報告したら、


「そうか、よかったな」


 と薄く微笑んでおっしゃった。

 軽っ、そんな反応でいいのか。

 もしかして城に招待ってたいしたことじゃないんじゃ……

 うん、気負うのはやめよう。

 俺だけが緊張するのも馬鹿らしい。

 いや最初から緊張なんてしてはいない。

 友達の家にいくだけなのだから。


「よく来たな」


 玉座は赤い絨毯と質のいい調度品で飾られていて、その中央の椅子には四十ほどのおじさんが座っていた。

 この男性こそがギャクラ国の王様だった。


「グレイ家のレイルだったか。それにアイラか。この将棋というものを作ったのはお主というのは本当か?」

「その通りでございます」

「にわかには信じられんな……そのことなのだが、将棋は現在、無断で王城内でのみ使われておる。その権利を私に譲ってはくれんか? もちろんそれに応じた謝礼は出そう」


 む……謝礼か……

 魅力的な提案であることには変わりない。

 しかしこれはなあ。あげても問題はなさそうに見えるが、ダメだな。


「将棋の権利は全てレオン王子に差し上げましたのでそれは不可能でございます。言わせていただけるならば、王子様の名前で王族の遊びとしてしまうのはどうでしょう」

「いや……それがな……偶然見ていた貴族が尋ねてきおってな……」


 そういうことか。


「では似て非なる遊びをご紹介しましょう」


 そう言って提案したのはチェスだ。見た目が受け入れられやすく、ルールも将棋のように取ったコマが使えない分覚えやすいので、広まりやすいとも言える。


「ほう」

「こちらを貴族の遊びとして浸透させるのです。例えば台座に大理石を用いたり、コマを金属やガラス、水晶など高級感のでるもので一流の細工師に作らせれば一つの飾りとしても機能します。綺麗なので贈り物にもなるでしょう」


 オセロと違い、上流階級にしか流行らないだろう。それを見越して付加価値を増大させる。

 役職の名前自体はドラゴンや魔法使いなど、こちらにあわせてもいいと言った。


「どうでしょうか」

「ふむ……確かに似ておる」

「ですが別物ですよ。やってみればわかります」

「レオンが言っておったときは半信半疑だったが、今この場であっさりと新たな物とその用途まで説明されれば信じざるをえないな。礼を言おう。将棋は息子のものなのだな」

「はい。ちなみに今巷ではやりのオセロ、あれも私の作品でございます」

「なんだと……どうしてチェスも売り込まなかったのだ?」

「オセロは作りが簡単で、ルールを教えるだけでも庶民に広まりますからね。すぐに売れなくなるものです。逆にチェスは売らなければはやりません。貴族を狙えるこちらの方が都合が良かったのですよ」


 嘘である。単に思いついて言っただけで、そんな深い意図があったわけではない。


「ではこちらも相応の礼をもって返そう。というよりは、チェスの権利を国に売ってもらえるか」

「喜んでお売りしましょう」


 値段も聞かずに売るなんて商売ではありえないことだ。

 どうしてこうもあっさりと売ったのかというと、グレイ家の名前を売るためと、国に恩を売っておくことで今後楽にするためである。

 王様が太っ腹なのか、それともチェスの価値は思ったよりも高かったのか王様はあっさりと大金を出した。


「金貨五百枚でどうだろうか」

「いいですよ」


 恭しく後ろの人が金貨のつまった箱を差し出し、開けて中を見せてくる。

 この量のお金なんて胸が躍る。

 いや、守銭奴ってわけじゃあないんだけどな。

 前のオセロよりも高いとか。

 儲け的にはあまりないと思うのだがな。

 貴族同士の見栄とかもあるだろうしか?


 うまくいけば豊臣秀吉の茶器のように、貴族や騎士への報酬に土地とかを使わなくてすむな。

 そうすれば遠い目で見ると国の利益にもなるのかもしれない。

 そんな予想をぽろっと漏らした。


「お前さ……」


 レオンはドン引きしていた。

 

 

 ◇

 

 

 これで俺の借金返済は終了することとなる。

 それどころか、お金が余ったので様々なことに使うことができる。


 俺の学園生活の前半にあった主なことはこれぐらいだろうか。

 後半にもいろいろなことがあった。


 小さなこととしては、将棋の件のすぐ後ぐらいにレオン兄とやらが学校に来たこととか。

 国が管理しているもう一つの学校に通っているらしい。


 最近のレオンはヘタレている、アホだ。そんな学校にいるからだ。だからこちらの学校に来い。

 そんな言い分であった。


 王族ってブラコンやシスコンが多いのか?


 勝負方法に将棋を提示してきたことに笑うのを堪えるのに必死だった。

 どうやら将棋の製作者が俺で、城に持ち込んだのがレオンだと知らなかったらしい。

 レオンはどうやら王様とも対戦するが、俺より弱いらしく、あっさり勝ったそうだ。

 王様は息子に負けて、しかもその息子に勝つやつが製作者であるなんてことは積極的には言いたくなかったのだろう。

 レオンの兄がドヤ顔で


「お前はよく将棋で遊ぶそうじゃないか。年上だしハンデをあげてもいいぞ。さすがに父上には負け越しだが、最近はだんだん勝てるようになっているんだ。降参なら今のうちだぜ」


 と言ってきたところでふきだした。

 貴族取り巻き達にも教えて、ここのところ訓練させていたらしい。というのは後で知った話だ。

 結果、俺が直々に教えているレオン、レオナに俺とアイラを加えて、あと一人誰がいいかレオンに聞かれてロウを勧めた。

 五人対五人、三勝した側の勝利という剣道みたいな方式で戦った。

 結果は圧勝。俺が大将としてでたときに


「なるほど、知恵がまわるじゃないか。一番強くて勝てないだろう僕には弱そうな男を当ててくるとは。別にいいぞ? それでも勝つからな」


 と言っていた。そのくせして途中でロウとレオナに二人抜きされた時点で慌てて


「俺が出る!」


 と途中で順番変更するという暴挙に出た。

 だから途中で総当たり戦でも代理戦でも構わないと言ってあげた。

 それでも全敗してわめきちらしていた。

 特に平民が二人も入っているのに負けたのが悔しかったのだろう。

 俺の見た限りでは、俺の次に強いのがレオナだった。


「勝てなくても恥ずかしくはありませんよ。これを作ったのは僕ですし、遊び方から効率のいい戦い方まで教えていますからね」


 とにっこり笑って心をへし折ったところでレオンにいたく感激された。

 今までお兄さんには言いくるめられっぱなして、今回なんかは絶対に向こうに行きたくなかったのだそうだ。

 レオンは兄弟姉妹の中でも、光るものがあると言われるレオナと双子だったことで、よく比べられていたらしい。

 レオンは男子であったこともあって、レオナより悪い扱いは受けることがなかったし、それでレオナも特に不満を言わなかったのがレオンを救っていた。

 そのことを聞いてなにやら腹のたった俺はトドメにもう一言。


「年下に頭を使う遊びで完全敗北。えーっとどんな学校にいるからレオンがアホになるんでしたっけ? もう一度お聞かせねがいませんか?」


 体こそ年上だが、中身は十以上年上だ。

 あまりに大人気ない仕打ちと邪悪な笑みに周りの子供達は


「やっぱりグレイ家の子だ……っ!」


 と騒然としたが、レオナとアイラだけはいつもの通りで少しこそばゆいような。まあ勝ったんだから褒めてくれるのは構わない。





 他にもいろいろあったが、概ね平和であった。

 そんな学校生活の傍ら、とりあえずの目標である「神」という存在との再会に向けて調べ物をしていた。

 学校の図書館に残っていた資料によると、俺を転生させた奴の名前はおそらくヘルメス【マーキュリー】ではないかと思われる。

 ヘルメス。もしくはマーキュリー。

 それは盗み、商売、旅人への加護を持ち、そして異界に導く役を司る神だ。

 生まれてからすぐに牛を盗んだ挙句、口先三寸で牛と楽器を交換することで有耶無耶にしてしまった酷い神だという。

 盗むときに証拠隠滅はしっかりしていたくせに、ゼウスによる占いという反則じみた手段であっさりばれている。なんなんだ。神って未来や過去を見れるのか? 制限ついてそうな能力だな。

 ヘルメスとやらは詰めが甘いんだな。ロクでもなさそうだ。と責めるのは早計か。神として生まれたばかりの時のことである。それに占いで、とはまた予想しづらいものを。

 まあ神話なんてものはどこまで本当かわからないものだ。


 会う手段はいくつかある。

 一つは教会につとめて、信心を何年も捧げて高位職にまで登りつめれば声ぐらいは聞けるとか。


 遅い。遅すぎる。


 それだけのために教会に缶詰めになる趣味はない。

 しかもそれだけの時間を、労力をかけておいて声が聞けるだけって。

 それは単なる天啓とかお告げとかのあれだよ。

 常時発動型やピンチのときに来てくれないと、単なるプチ預言者にしかなれないよ。

 確かに俺は信じているよ。この目で見たんだもの。

 ならば最初から会わせてほしいものだ。


 もう一つは死ぬこと。

 これは却下だ。あの神が言っていたからもしかしたら、とは思っていたけど、本当に死ねば会えるんだな。

 そのためには神への謁見を許可される程度には善行を積まねばならないとか条件がありそうだ。

 なんにせよ、生まれ変わったり生き返る保証なんてどこにもないのに。あったとしても二度目の死は勘弁願いたい。それならなるべく長生きしてからがいい。


 最後は直接神のいる天界まで会いにいくことだ。

 この世界は天界、地上、冥界の三世界に区分されているようで。俺の元いた世界でもあるのかもしれない。一つの世界の中に三つ世界があるというか。違和感は拭えないがそういうものなのだろう。

 神のいる天界にいくには特別なものが必要で、それが何かまでは図書館ごときではわからなかった。

 やはりこの国の外に出なければわからないのだろうか。


 

 教会には漠然としたことしか書いておらず、それ以上は何も手がかりのないままだ。

 魔族国家のノーマや魔導国家ウィザリアとかならもしくは……それとも教会本部にして宗教国家の聖法皇国家ヒジリアの方がよいのか?

 竜や龍を祀る国リューカもありかもしれないが。


 相変わらず俺は魔法を微塵も使えないし、剣も上の下で止まっている。

 上の下、というと一般兵士には勝てる程度。

 俺は弱い。誰よりも、とは言わないが、少なくとも冒険を志す者の中では強くはない。

 そのことを言うたびに、妙な顔をする者はいるが。

 まともに戦えば王国筆頭騎士だとか、軍団長に、救国の英雄なんかにはあっさりと負けるというのに。



 だが、そんな化け物みたいなやつらがあっさりと負けてしまうような奴らがひしめく世界で、もうすぐ十二年が経つ。


 俺が十二歳、学校卒業の歳だ。

 

 今は目の前のことに集中しよう。






次は卒業編

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ