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正体不明の敵と

 ホームレスには強い敵と戦えるかもしれないと言えばいいし、アークディアは呼び出して命令するだけでいい。


「お前らの力が必要だ。いくぞ、お前ら」


 ロウにも、カグヤにも、珍しく来るかどうかは聞かない。相手が前例のない相手なら、少数精鋭でより多く連れていくべしである。三人には当然来てもらう。


 リューカには行ったことがある。ならば空間転移で行ける。


 俺は全員でリューカまで跳んだ。




 ◇


 あたりは既に夕方であった。

 リューカは酷い有り様であった。

 城は既に占拠されており、得体の知れない怪物が城に居座っているという。

 王都にはいられないが、国から全員退避するというわけにもいかず、元々王都に住んでいた大勢が王都から少し離れた村の付近に逃げてきていた。

 村の住人と軍の兵士が協力してできた仮設テントのような避難所に、貴族から平民までぞろぞろときている。

 さすがに貴族と平民を同じ場所に避難させておくことは困難だと踏んだのか、二種類の避難所があることに苛立ちはあった。


「早くこの状況をなんとかせんか! 他国からの援助はまだこんのか?」


 おっさんが喚いていて、それを兵士がなだめている。

 人々の表情は当然暗い。薄っぺらい布団にくるまり、寝ているものもいる。子供の中にも、騒ぐ子はいない。


「ええっと、応援の冒険者ですか?」


 俺を見かけた兵士が近寄り、こぎれいな身なりの俺たちを見てそう判断したらしい。

 十人にも満たない人数、しかもどいつも若く、魔族混じりで少女まで連れていたら不審な顔をされるのも仕方ないか。

 あまりに早すぎるのも一つの理由か。


「そうだ。他の国にも応援は頼んでいるが、間に合うとは思えない。俺たちだけ先に跳んできた」


 一応、勇者候補の証明だけ見せると、その兵士はほっとしたような声で礼を述べた。


「ありがとうございます。一般兵士が民衆の統率と防衛に、最前線に冒険者たちと門番や精鋭軍がまわるという形で防衛しています。いきなりですが、西での防衛戦に参加してもらえませんか。あ、魔法の使えない方は残っていただいても構いません」

「どういうことだ?」

「奴らに剣は届きません。魔法が使えないと一方的にやられますので」


 そういうことか。だから一般兵士が民衆の近くにしかいれないってことか。冒険者なら魔法使いもいるだろう。


「わかった。あっちだな。敵は見て確認する」


 空間把握を広げて、大勢の人がいる場所を探る。反応があった場所よりも少し離れた場所へと転移した。

 俺たちのメンバーに遠距離が攻撃できない仲間はいない。大丈夫だろう。






 衝突音のする場所には何十人もの冒険者がいて、数十体の敵とやりあっていた。


「なんっだよありゃあ……」


 俺たちが駆けつけた場所にいたのは、見たこともない敵であった。

 しかしその形状はひどくあるものに似ていた。全体的に白い体、薄っぺらい存在感の布をかけましたってだけの衣服、何より背中から生えた翼で空を飛び回っている。


「天使……なのか?」


 ホームレスがそんな呟きを漏らした。それは疑問というよりも、予想であった。

 しかし実際に二度も天使を見て、神にも会ったことのある俺たちにはその予想を否定する感情があった。


「違う。あんなのが天使のはずがないじゃない」


 冒険者を襲うそれは確かに天使に似てはいたが、決定的に違う部分があった。

 無機質で色のない虚ろな目、そして脆弱な存在感。

 もしかすると誰かに作られた存在かもしれない。

 隣でそれを見るアークディアも、面白くなさそうに頷いた。


「おいっ! 何お前らぼさっとしてやがる! 早く手伝ってくれ!」


 前線で天使もどきの攻撃を防ぎ続けている戦士の冒険者が言った。ごつい鎧に身を包み、剣でもどきの魔法の土弾丸や氷の刃を防いでいる。

 先ほどから見ていてわかったことがある。

 冒険者たちがしているのはひたすらに上からの攻撃を防ぎ続けることだけである。

 魔法同士は相殺すれど、魔法が奴らの体には通じていないのだ。

 なるほど、魔法で起きた現象は通じないという精神生命体特有の性質だけはしっかりと受け継いでいるわけだ。

 時折、地上付近まで近づいたもどきを武器で応対して一方的にやられているのがわかる。

 もどきはあまり地上にはいないようで、すぐに戻るためにまだ魔法合戦になっているのだ。


「あいつらは素手なら倒せますが……」


「できるか馬鹿野郎! あいつらは空を飛んでんだぞ。魔法で無理に飛んだら叩き落とされるのが関の山だよ!」


 そうか。飛べるやつはいないのか。

 一人、優秀な結界術の使い手がいるのが良かったのか、ここは未だ重傷者をだしていないようだ。

 もどきも、冒険者も魔法を使えるやつが交代で魔法を使って弾幕をはっている。

 精神生命体が通常の武器は通じないという事実がどれだけ常識なのかはわからないが、少なくともここにいる奴らは身をもって体験しているということだろう。


 するりと抜いた剣をぽんぽんと片手で跳ねさせる。


「多分お前らは攻撃ができないだろうから、身を守っていてくれ。アークディアはできるなら殺ってもいいぞ」


 そう言うと俺は試し斬りに飛び出した。


「おいっ! どうするつもりだ?」


 冒険者の叫びも無視して、相対座標固定で足元の空気を固定しては登り、いっきに天使もどきのいる上空まで駆け上がる。

 俺としては階段二段飛ばしぐらいのノリだが、周りの人からは自由自在に空を駆け巡るように見えているのかもしれない。

 どれぐらいの手応えかと、「空喰らい」を振るう。この剣は精神生命体でも斬ることができる聖剣だと聞いているので、無傷ということはあるまい、という程度だったのだが、俺は見事に裏切られることとなる。


「はあっ?」


 右手に何の感触もなかったのだ。

 どうやら、素手で空を飛ぶ天使もどきに攻撃を当てられる敵というものを想定していなかったらしい。

 非常に物理防御力が低いようだ。

 戦闘センスも出来の悪いAIのように数通りの行動にパターン化されている。


「なんっつー脆弱な」


 俺が剣を薙ぐ瞬間に剣の刀身は歪んで消える。

 その瞬間に空間接続であっちこっちに繋げられて転移した剣が天使もどきを襲った。

 一振りで何体もの天使もどきが壊れる。ガシャン、グシャンとガラクタと肉の間のような耳障りな儚い音をたてて消滅していく。

 飛んでくる魔法を転移と波魔法による移動で避け、距離をつめては首を刎ねる。仲間からの誤射が怖かったが……こないな。

 何十体いようと、学習も本能もないのであれば単なる的でしかない。

 ようは相性だったというわけだ。

 アイラは強力な弓にそこらへんから折ってきた木々を使って矢を作ってつがえて放つ。木にも魂はあるもんな。アークディアやカグヤは魔法で能力を強化しながら素手で殴りかかっている。ロウは時術ですっかり僧侶職に走った。


「倒してやがる……」


 聖剣と空間術という凶悪な組み合わせがこいつらには天敵といえるほどにハマった結果としての無双か。

 俺もどちらかがなければ倒すのは難しかっただろうな。


「なんだあいつ!」

「救世主か!」

「助かった!」


 俺が空中で今まで防戦しかできなかった存在を圧倒しているのを見て歓声があがった。

 いや、これ、方法さえ工夫すれば誰でも倒せるからね。

 そんな誤解を解くことはしなかった。めんどうくさかったから……ではない。士気が高まるなら嘘でもいいか!と諦めたのである。

 嘘でもてはやされるのは居心地が悪いので、後で全員にこいつらの倒し方を伝授しよう。

初めて相対するもの軍勢が得体の知れないものって……

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