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事後処理

ううむ。いきなり1話あたりの文字数を増やそうとしても、3000文字ペースが染み付いてしまっているようです。結局、2割増しぐらいにしかなっておりません。

 空間転移という、前世ではあり得ないものに、水神の羽衣という反則的アイテムの組み合わせによって実現した惨状を見下ろす。


「こりゃーひでえな。どうしようか」


 四方八方とは言ったものの、跡形もなく飛び散ったわけではない。

 背骨だとか、鱗だとか、その骨格──────つまりはリヴァイアサンの強さの本質たる全ては傷一つつけられてはいない。

 そう、俺は勝ってなどはいないと言える。

 強さで圧倒的に負けていようが、命だけを刈り取るならばできる。

 実に人間らしく、実に俺らしい決着だった。

 いや、決着というにはいささかあっけないし短い時間でしかなかったか。


 俺はその尻尾であった場所を掴んで空間転移、それも今度も交換型で使う。

 それぞれにあった空間転移を使わないと大惨事を引き起こすので気をつけることが大事だ。

 例えば今回の策を使うにあたって、空間接続型の空間転移を使ったとすればどうなっただろうか。

 もしかすると、海水が俺たちのいた空気のある膜内に押し寄せてきたかもしれないのだ。

 膜というのがどういう構造かわからない以上、軽率な行動は控えるべきであった。


 人のいないところ、つまりは王国内から少し上に来たところに転移をしてきた。

 波魔法を使って下へと泳ぐ。ゴーグルなどつけなくとも目に海水が入ることさえないのが水神の羽衣の凄いところだ。

 すぐにクラーケンの奴が俺を察知して迎えに来てくれた。そして俺が引っ張ってきたリヴァイアサンを一緒に運ぶ手伝いを申し出てくれる。一人で運ぶのもめんどくさいと思っていたところなので、こういう気遣いは嬉しい。前世で人間だったら先輩に可愛がられるタイプの新人に違いない。


「あっ! レイルくんだ!」


 俺を見つけた仲間と、そしてアクエリウムの住人たちが騒ぎ出した。

 退避していた住人たちの頭上も通ったようで、兵士、そして一般人が過敏に反応した。

 軍が出動しても止められない怪物をたった一人で、しかも一瞬でボロボロにした冒険者の人間が、クラーケンを従えてくる様はなんとも信じられない光景であっただろう。自分でもなかなかにシュールだな、と。自分を客観的に見ることは難しいが、最低限どのように見られるかは自覚しておいた方がいいな。

 畏怖、恐怖と賞賛そして嫉妬と色んなものがぐちゃぐっちゃに入り混ざったよくわからない歓声と叫び声によって迎えられた。


 降りてきた俺はそのでかい奴を面倒くさくなってアイラにしまってもらった。

 もしかしたら軍に引き渡した方が良かっただろうか?

 いやいや。まさか自分たちが倒せなかった怪物を倒してくれたやつに向かって、「我々の獲物を横取りしないでもらいたい」とか言って横から押収したりはするまい。

 すでに大勢が俺が倒してきたところを見てしまっている。そんなことをすれば国民の反感を買うことは必至。この大事な時期にイメージダウンに突っ走る馬鹿はいないと信じよう。


 俺に任せる、と言ったクイドさんにオークスも時間稼ぎぐらいにはなるかと思っていたのか、俺を見て愕然としている。信じられない。そんな声が聞こえてきそうだった。

 どう声をかけていいかわからずに立ち尽くしているオークスにグッと親指を立てて言ってやった。


「よかったな!」


 親指を立てるというこのジェスチャーがこの国でどんな表現にあたるかまではわからないが、意味と心意気だけは伝わったようだ。


「何がだ……?」

「そりゃあもう、いろいろだよ。例えばお前に私兵がいなくて、この討伐に力を貸せないという弱みとか、な」


 オークスの力が弱いというのは見事な悪循環を引き起こしていたのだ。

 財力や権力が低いから、国のために回せる私兵が少ない。だから緊急事態に反応が遅れ、手柄がたてられない。手柄がたてられないから、いつまでたっても下克上が起こせない。

 どんな争いでも、アドバンテージを取るというのは基本だ。いつまでたっても先を越されたままだと、負けっぱなしなのは当然だ。


 ここに集まった王候補はオークス、クイド、そして妖精王ケアノの三人らしい。


「だから私のところで来ると出たと言ったというのに……」

「そうは言ってもよ! 不確定な予言で住民全員を避難させるわけにもいかねえだろ!」


 現在の王はまだ引退していないため、王候補は国の役職の一つを務めている者も多い。クイドはその中でも警備隊の隊長をしている。

 王候補同士は顔見知りであるらしく、こうして仲良く話しているのを見るのは面白い。

 もしかしたらクイドという男の気質なのかもしれないが。


「人間の旅人よ。今回は礼を言っておこう。オークス……そいつらは……」


 ケアノさんがこちらを向いておっしゃった。と思わず敬語になってしまった。ああ、あいつめっちゃ王っぽい。あれじゃないのが今の王様なのかよ。もっと凄いんだろうか。長いものに巻かれっぱなしではないが、少しぐらいは巻かれるのが俺だ。


 オークスが少し困ってこちらを見るので、ただの客人ではなく部下とか、食客でいいと言っておいた。

 これで今回の手柄はオークスによるものとなる。

 国の一大事を救ったとして、軽んじられることもないだろうし、リヴァイアサンを倒すほどの冒険者がいるなら暗殺者などや反乱などの心配も減る。

 俺自身はさほど強くはないが、反乱と暗殺者に対しては他の冒険者より得意な自信がある。


 良くも悪くも、大衆というのはその場の栄光などに流されやすい。

 強い客人を召し抱えているからと言って、その人がよい王になるとも限らないのだが、やはりそういう奴も王としては人気があるのも確かだ。


 これでグッと楽になった。周りが危機に曝されたというのに不謹慎ではあるが、リヴァイアサンが来てくれたことは非常に都合が良かった。


「そうか……もしもただの客人であれば、じっくりと呼んで話でもしたかったのだが……」

「ところで、先ほど予言、とおっしゃいましたか?」


「その歳で完璧な言葉遣い、人間の冒険者とは粗野な者が多いと聞いていたが認識を改めなくてはな。予言?そうだな。私の部下には予言の得意な時の精霊がいる。国でも1、2を争う予言者だからな。そいつが、近々巨大な怪物がこの国を襲うという予言をしたもので、警戒態勢にあたっていたのだ」


 もう一人の有名な予言者は人魚族にいるという。オークスが耳打ちしてくれた。


「それにしても凄まじいものだな……リヴァイアサンを無傷で単独討伐、か。オークス、どこで見つけてきたのだ?」

「酒場ですね」

「はははっ。面白い冗談を言うようになったじゃないか。まあいい。隠し玉や切り札ならできるだけ情報も隠しておきたいのだろう。聞かないでおいてやる。それに」


 いや、ケアノさん、オークスくんは全く嘘ついてませんよ、マジで。実際出会ったのは酒場以外の何物でもないしな。


「強いだけの人間が、今回どうにかなるとは思わないことだな」


 言うことが違うね。さすが有力候補。と思っていたら、アイラが勝ち誇った笑顔で返事した。別名、ドヤ顔。


「強いだけ? そう思っているならそう思ったままでいてくださいね。レイルくんは強いんじゃないから。凄いけど」


 なあアイラ、それ褒めてないよな。

 それじゃあ俺が器用貧乏みたいじゃないか。







 ◇


 後片付けというのも随分と楽であった。と参加しなかった俺が言うのも失礼なことなのかもしれないが、死体処理がなくなったのは俺のおかげなので脳内で文句を言うありがたい奴は存在しない。

 傷ついた兵はいれど、死んだ者はいないらしい。


 それを良かったと手放しで言えるほど俺も厚顔無恥でもないが。


 だって俺は兵士たちが奮戦しているのをいいことに、自分がアレを倒す策を練る、観察するための時間稼ぎとして兵士を使っていたのだから。

 もちろんあれが最善だったという自負はある。

 あそこで無策に四人揃って立ち向かったとして、いったい何人が生き残っただろうか。おそらくはほとんどが死んでいたのではないかと言える。


 どれだけ気分がよかろうが、手放しで喜んではいけない。

 いつになくネガティブだとは思うが、そうやってせめて事実を客観的に見れないと弱い俺はぽっくりと死んでしまいそうだといつも怯えている。


 だから、いつも内心だけでも強がっていないとやってられない。


 自信なんて微塵もない。

 だから成功するか、ではない。できることの中でしたいことをしよう。もしかしたらできないかもしれないがしたいことを。


 いつも言い聞かせ続けよう。

 自分は最低で、最弱で、最悪だ。




濃厚な政争ファンタジーにさっさと突入したいです。今度こそ2倍ぐらい……と意気込むからダメなのでしょうか

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