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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
海底王国王選定編

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133/200

巨大生物注意報

Q:この世界の国内で有名になるには?

 いい気分だ。

 一番望みの薄い王候補擁立。

 相手はこの国の王候補全員。

 俺が地上で持つ権力のほとんどかここでは通用しない。

 やっぱ俺の立ち位置は最弱だよな。


「今からでも遅くはないよ? 君たちが他の候補につくなら僕は責めたりはしない。土壇場で裏切られるよりはずっと楽だ」


 今は俺たちと同じ空気のある区域にいるオークスが俺たちを突き放すように言った。

 この後に及んで俺たちの心配ならば、お人好しすぎる。自己保身と自分の利益のためならば、見直すというかとても俺好みなんだがな。うん、我ながら超偉そうだ。


「裏切る? どうしてそんなことしなきゃならないんだ。そもそも裏切るってのはお前が王になりたいがために俺たちを信頼するところから始めるんだろう? 逆だぞ? 俺たちはお前を王にすることで信頼されようとしているんだから」


 俺たちが負けても損はしない。

 勝ったら得になるのがこいつしかいなさそうだから、無理やり王に擁立してしまおうと言っているのに裏切られるとは何事か。

 むしろ俺たちがお前を利用しているっていうのにな。


「じゃあ、いつものように情報収集から、かしら?」

「レイル、暗殺の機会はないのか?」


 ロウは何を物騒なことを、と思ったけれど、こいつ陰陽師一家とは名ばかりの暗殺稼業だったか。昔の血が騒ぐのだろうか。

 でもなー。殺したいほど邪魔な奴って、それだけ能力が高いわけだし、殺さない方が便利なことも多いんだよな。


「で、どうする、オークスくん? 俺たちの描いた絵に乗る? 乗るなら君の城に招待してくれると嬉しいね。大丈夫。城ではちゃんと客人として振る舞うからさ」

「それにしてもこの水神の羽衣、だっけ? 便利だよね」

「周囲の圧力調整、濡れの防止って。泳ぐの下手な人必見だな。買い取れたりできねえの?」


「いや、それはここに来た客人への最初の贈り物という形になってるからもう君たちのだよ」

「そりゃあよかった」

「で。どうする?」

「…………決めたよ。僕は君たちを信頼はしない。だけど、その案に乗ってやる」


「ククッ。いいよ、まだ(・・)信頼なんかしなくて。無条件に信頼するのは自分の見る目と勘に頼れば簡単だけど、人に無条件で信頼されるのは気持ちが悪い。だって俺たちは不審者なんだから」


 笑顔でそう言うと、カグヤとロウが口を揃えて否定した。


「レイルだけだから」

「そうだよな」

「ちょっと待てよ、アイラもなんか言ってやってくれ」

「ごめん、私もそればっかりは擁護できない」


 希望は潰えた。ちくしょう。

 まあそういうノリなだけだろうけど。



 そんな時のこと。俺はざわりとした気配を背中に感じた。だがこれは近くじゃない。近くじゃないけど相当でかい。


「なあ、オークス。今ここに超巨大な魔物が来るって言ったら信じる?」


 カグヤもロウも、まだその気配を感じ取れる距離にはないらしい。

 しかし俺の言葉を聞いて疑う様子はない。カグヤは腰の刀に手をやり、あたりを警戒している。

 水の中では気配を察知しやすいだろうが、今俺たちがいるのは空気中。人間が水の中の魔物の気配までわかるはずがない。オークスが妙な顔をして信じないのも無理はない。


「魔物ぐらいならたまにくるが」

「そうじゃない。あれはここをまっすぐに狙っている。かなりでかい。ここを狙うってことは人の多さを感じとっているんだろう。お前らの自治はどれほどだ?」

「水中の戦闘力では対等とは言えないな。二十人以上で囲めば、普通の魚型の魔物なら倒せる。10m、またはそれ以上の大きさとなるとその五倍以上でも危ない。だが普通の魔物なら一人でも狩れるほどの実力者が軍に一人はいるから大丈夫だろう」

「じゃあ、あれはどうだ?」


 もう既に三人はその魔物に目を向けて離さなかった。

 周りの精霊、魚人、人魚に獣人が騒ぎ出した。


「もしかして……あれは……!」

「まさか! 俺だって昔聞かされた物語でしか聞いたことねえよ!」

「でもそうだとしか思えないわよ!」


 口には鋭く巨大な牙を持ち、体全体を鎧のような強固な鎧を思わせる鱗が覆っている。体長はクラーケンの何倍という物差しではからなければならない大きさ。


「ギシャァァァァァァ!!」


 海の中でさえ雄叫びが聞こえる。


 ねじれた、渦を巻くが語源とも言われる巨大な海の怪物、リヴァイアサン。海の竜とさえ言われる最強生物がそこにはいた。





 ◇

 人々が逃げ惑う中、俺たちはそこを一歩も動かずに立ち尽くしていた。

 恐怖で動けなかったのではないし、逃げられないわけでもない。

 逃げるだけならば簡単だ。空間転移でこの国を離れて陸に戻ればいいのだから。


「こんな……ことが……」


 見回りの兵士も無能ではない。

 すぐに連絡がなされ、ぞろぞろと救援が駆けつける。

 幾つかの家から私兵も出されているようだ。これを次の王に即位するための良い宣伝の機会と見たのもあるだろう。だがそれ以上に国の危機、こんなところで兵を出し渋るようであれば貴族などやってもいられないのだろう。様々な家紋を背負った即席の混成兵団が出来上がる。

 ただ、動かせる兵士の少ないオークスの兵はいないようだが。


 じきに一般人の誘導が終わった。

 戦うより先に守れ、か。一般人を守りながら戦うのは足手まといかつ危険だというのもあるだろう。

 俺たちは誘導を断った。断られた兵士はとても驚いていたようだが。

 オークスの顔を知らないなら、人間と一般人が断ったのだからだろうし、知っているなら人間といることにたいして、だろうな。

 どちらにせよ、ここでのオークスは不退転の意思を表明していた。


「正面に回るな! 囮部隊が引きつけて横から攻撃せよ!」


 ひときわ大きなサメの魚人が軍を指揮している。

 見事な連携だった。即席であそこまでやれるものなのか。

 それより驚くのは立体による連携だという部分だ。

 俺もやはり人である以上、戦いにおける連携というものをどこか平面で捉えているふしがある。

 もっと多角的な視点を持たなければ。


「いやー凄いな」

「大きいわね……ケヤキさんと同じぐらい……いや、そんなことはないかも」


 槍というかモリを使う人が多い。

 もちろん剣もいるのだが、ああいった相手には貫通力がないと太刀打ちもできないのだろうか。


「くそっ。ああしてみんな戦っているのに……僕は、何もできない」


 悔しそうに見上げるオークス。

 そんな間もずっと俺は黙って観察している。

 兵士たちは勝てそうにないな。

 まず傷さえつけられていない。

 かすり傷はあるのかもしれないが、先ほどから血が出ることがないし、リヴァイアサンも反応が鈍い。


 ん? もしかして……あいつ、魔法抵抗が低いのか?

 いや、アークディアやミラ、バシリスクとかを基準にするのが間違っている。普通はあんなもんか。


 でも、水属性の魔法は時々使っているようだが、あれなら魔法が効かないってことはなさそうだ。

 もちろん兵士側の魔法は傷をつけるたびに回復していくが。


「せめて僕は見届けていく。別に付き合わなくてもいいぞ」

「大丈夫、大丈夫。どうせいざとなれば一緒に逃げてあげるから」


 なるほど、持ち前の回復力も高いらしい。

 あれだけの肉体があれば、よほどの魔法攻撃でないと痛くも痒くもないのだろう。

 脅威がいないのに、魔法耐性が上がるわけもなく。

 ひたすらにあの鱗の防御力に特化して進化しているようだな。


「なあ、ここの国の人ってここに来る時どうしてるの? 水属性の魔法とか使ってるのか?」

「あ、ああ。よくわかったな。あまり詳しくは言えんが」

「いいよ。もうわかったし、大丈夫だ」

「何がだ? 今も兵士たちが前線で戦っているのだぞ?」

「なあ、あれ、俺が倒してきてもいいか? いきなり勝手な行動を取られてもこまるだろうからできれば軍の指揮している人に話つけてくれればいいんだけど」


「へえ、もう考えついたんだ」

「なあ。倒せる前提で話するのやめてくれる? 今は偶然条件が揃っただけだから。普段ならあんなの倒せねえからな?」

「レイル……本気か? ……本気のようだな。嘘だったらその時点でこの国から追放してやる。いいだろう」


 オークスはすぅっと息を吸い込んだ。

 こいつ……肺呼吸もできるのか、なんつう両生類だよ。両生類って大人と子供で肺とエラが変わるやつじゃねえのかよ。確かにさっきからずっと空気中にいたけどさ。


「クイド!」


 オークスが叫ぶと、今まさに出陣しようかというサメの魚人が動きを止めた。

 つーか、あいつ王候補かよ。あー、あいつに手の内がバレるのか。まあいいか、脅し程度に思ってくれれば。どうせ何したかわからないんだろうし。


「なんだ? オークスじゃねえか! ギャハハハ! そんなところで兵もいねえのにどうしたんだ? 悪いことは言わねえ、帰ってろよ!」

「軍を引かせろ!」

「それはできねえ相談だなあ! 見てればわかんだろ。あいつを止めなきゃヤベェだろうがよぉ!」


「大丈夫だ。ここにいる奴が倒す!」


 その言葉に周りの兵士たちが騒ぎ出した。信じられない、無謀だといった反応がほとんどだ。


「いいだろう! お前に賭けてやる! そこのちんちくりんにじゃねえ、人間を信じたお前に、なあ!」


 豪胆で豪快で、兄貴肌や親分肌とでも言うのだろうか。

 なるほど。ありゃあカリスマで負けるのも無理はないな。かっこいいわ。あれで強けりゃついていきたがるやつも多いのだろう。


「ちゃんと帰ってきなさいよー」

「後始末どうするんだ?」

「頑張って〜」


 おいおい。随分気楽なもんだ。

 まあここで、危険だからとか言って止められても面倒くさいだけだ。

 素直に声援を受けとっておこう。

 俺が飄々としているのも悪いのだ。もっとシリアスな顔して言えばよかったか?


「おう。すぐに戻ってくるから」


 クイドと呼ばれる王候補が全ての兵士に距離をとらせた。

 時間は稼ぐが攻撃はやめたといったところか。

 無理に倒そうとしなくなったことで余裕ができたようだがそれでも早く行かなければ。


 俺は座標書き換えによる空間転移でリヴァイアサンの背後に跳んだ。

 兵士たちが血迷ったのかと俺を見る。危険だと忠告してくれている人もいる。人間が一対一でリヴァイアサンに挑むのは自殺行為に見えるのだろう。


 リヴァイアサンが暴れようとするが、俺はそれを無視してその背中に触れ、空間術を発動する。

 今度は空間交換型で、リヴァイアサンと俺をはるか上空に向かって転移させた。

 魔力抵抗がほとんどないので、とても簡単にいく。

 空間術が距離と体積に比例するとはいえ、魔力を俺自身からだけではなく亜空間からも借りているようでさほど苦にはならない。

 ぐらっと視界が反転し、そして俺とリヴァイアサンは海面の上空に放り出された。


 リヴァイアサンはなおも抵抗しようと体を捻り、俺に攻撃を仕掛けようとした。

 しかしそれが叶うことはない。


 直後、その動きが止まった。

 苦しそうに身をよじり、のたうち回ったのも一瞬、その長い肉体が風船のように膨らんだ。

 文字通りのけたたましい破裂音とともにリヴァイアサンはその肉体を爆発させ、臓物を四方八方に飛び散らせた。


 海面と俺が紅く染まった。

A:強いことを示すこと


 まあそんなわけでまさかの瞬殺でございました。

 軍功よりも民の安全をとれるクイド様マジイケメン。

 いや、単にレイルが倒せるとは思っていなかっただけかもしれません。


 次の更新は8月7日です。

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