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入江の異形

昨日は花火大会にいっておりました。

 何もしていないのによく怖がられることがある。

 俺の顔って怖かったっけ?と鏡を見るも、そんなに迫力のある顔とは言えない。

 確かに俺が敵を倒す方法はなんとも褒められたような鮮やかさからは縁遠いかもしれないが、それらはできるだけ隠しているつもりである。

 剣を使うときも、魔法を使うときも大規模なものを使うことなく地味なものばかり使っているようにも思われる。


 ならばなぜ?


 それについてわかったことがある。

 それはアランたちに何も命令することなく放逐しようとした時のことだ。

 あいつらによると俺と戦ってると何をされているのかわからないのだそうだ。

 剣士ならば、その剣技に技術が使われていて、その強さも見て感嘆するなり驚愕するなりと感想を抱くこともできる。

 魔法ならば、その魔法が起こした現象から属性や種類を推し量ることもできる。

 俺だって普通に剣を空間転移と波魔法とかと組み合わせているだけじゃないか、と思うのだがどうやら違うらしい。

 現代知識のある俺やその仲間だからこそ、何をどうやっているのかを説明されればわかるし、その上で酷いだのなんだのと言える。

 だが何も知らない彼らからすれば、空間魔法は好きな場所に転移するという使い方しかできないし、波魔法は光でもなんでも攻撃手段として撃ちだすことしか想像がつかないようだ。

 なるほど、この世界の魔法は遅れている。





 ◇


 また自治区に戻ってきた。

 旅の拠点がここである以上、戻ってくるのが当たり前となっている。

 放置されてむくれたミラや、だいぶここの仕事に慣れてきたホームレス、そしてもう立派にここの実質的トップとなっているシンヤにレオナ。

 主に中心となるのはそんなメンバーだろうか。


「レイルー」


「あの人がレイル?」


「バカっ! 俺たちを解放してくださったんだぞ。何呼び捨てにしてんだよ」


「でもシンヤさんもレイルもいいって……」


 威圧感を与えないようにと親しみをもたれやすいように呼び捨てでも構わないと言ったのだが、俺より年上の方が恩とか義理を痛感しているのかなかなか気軽には接してくれない。

 年下の子は先ほどのように俺たちを見かけるたびに手をふってくれたりする。


 しかしあれからも奴隷を買い入れては教育して徐々にここの人数を増やしていっているので、ここを作り上げた人物としての俺は知っていても、俺個人を知らない子も増えている。

 この感覚が何かに似ているなーと思っていたら、あれだよ、仕事で忙しいお父さんだよ。

 家に不在のことが多く、たまに家に帰っても幼い我が子に覚えてもらっていないという悲しみだな。

 いや、あいつらは俺の子ではないし、ましてや仕事でここをあけているのでもない。

 俺が悲しむのはちょっと違うか。


 カグヤは人並みに愛想良く対応していて、アイラやロウはややぎこちなく応対している。

 歳下と接する機会が少なかったからかもしれない。

 いや、ちょっと待て。アイラはともかくロウは年齢が見た目より十歳以上も上なんだから学校にいたころは歳下とばかり過ごしてきたはずだろ。慣れてないってどういうことだ。まさか学校でほとんど人に話しかけなかったとかじゃああるまいな。


「レイル様のお帰りだぞー」


「何バカなことしてんだ」


 ちょっとばかし威張ってみた。

 うん、威張るのは苦手なようだ。

 それでも何人かの子はわーだのきゃーだの騒いでくれる。


「そうだ、レイルの旦那、船っつーもんの制作が軌道に乗ってきたんだ。竜骨つーのと舵ってのがなかなか大変だったけど、川や池用の奴を改造して合わせたらなんとかなりそうだ」


「クラーケンに航路を頼むのももうすぐかもな」


 そうすればこの場所は、世界最大というか唯一の貿易港のある国として認められるだろう。

 もしかしたらどこぞの国が取り込もうと画策するかもしれないが、農業を先に発展させてきたのだから下手をうたなければそうそうマズいことにもなるまい。


「そのことで頼みたいんだがな。ある程度の深さがある港の作りやすい場所を探してほしい。いや、どうせ誰もが初の試みだから気楽にいってくれればいいからな」


「えーっと。じゃあ海岸に向かえばいいかな。ちょっと行ってくるわ」


「悪いな。ある程度の判断力と、自衛できるだけの腕がある奴が少なくてな。そういうやつは俺の側を離れさせるわけにもいかないんでな」


「まあまあ。名前だけのここの王様なんだからよ。こういう時に機動力のある偵察部隊として使ってくれてもいいんだぜ?」


「畏んなって。気楽にいこうぜ、気楽に」


 ロウも俺に賛同する。


「海かー久しぶりだね」


「サバンに行った前のとき以来かしら」


「そう頻繁にいくものでもないからな」


「クラーケン、ちゃんとしてるかしら」


 各自思いを抱えながら向かうこととなった。





 ◇

 海に近づくたびに潮の匂いが強くなる。空間転移を使ってもよかったのだが、さほど遠い距離でもないので歩いていくことにしたのは、久々にゆっくりと海の景色を楽しみたかったのかもしれない。磯臭い風を受けながら、海岸沿いにクラーケンのいる場所まで向かう。


「海か……そういえば海のことって全然知らないんだよね」


 アイラがそう言うのも無理はない。

 というのも、船を作って海を渡ることが難しいこの世界では、海に関する情報というのはおとぎ話や英雄物語でしか見ることがないからだ。仮に海をまたにかける海賊の話があったとしても、それは前世におけるSFの宇宙旅行物とさほど変わらない夢物語ということになる。

 正確な情報など、出回っているはずもないのだ。


「俺の知る海は、中の魔物よりもむしろ天候の荒れや方角がわからないこと、長い旅における食料や水の保存の問題の方が大きかったからな」


「ふーん。じゃあ私のこれがあれば困らないんじゃん」


「まあな」


「まあ、船ができて海の旅ができるようになれば一番に参加できそうだからいいよな」


「どんな気分なのかしら」


 前世のフェリーというと、風が気持ち良かったことと甲板から見える海のクラゲの数を数えていたことぐらいしか覚えていない。いや、一度だけトビウオを見たこともあったか。なかなか面白いものだった。


「せいぜい酔わねえようにな」


 楽しみというものはとっておくものだ。

 ましてやここは魔法と魔物のいる世界。どんな障害が待ち受けているかもわからないのに楽しいと決めつけるのも早計だ。


 いつもの場所にくるも、クラーケンの姿はない。


「今日はいないんだね」


「気配もないわ」


 残念、とぼやきながら入江の方まで行った。


「クラーケンでも呼ぼうか?」


 冗談交じりにそんなことを言ってみる。

 ここは比較的浅いのでクラーケンが来ることはできないけれど、人がちょっと海を覗く分にはちょうどいい。

 さっきから波が岩にぶち当たって水飛沫をあげる。足元が少し濡れていて、俺もよく知る細かい有象無象が岩肌を駆け抜けていく。

 フナムシはどことなく茶色の悪魔を彷彿とさせるため、あまり気持ちの良いものではない。多分動きが似ているのだろう、ご丁寧にもカサカサという効果音付きだ。さらにはそれが大量に動き回る。

 初めて見たアイラは顔を引きつらせていた。

 あまり怖いもの知らずなアイラがそんな顔をするのは珍しいのでついまじまじと見ていた。


「ねえ、何かがいそうなんだけど」


 ロウとは違い、殺気よりも気配に敏感はカグヤが言うのだから敵というよりは何か大きな魚とかだろう。

 呑気に構えて海をじっと観察していた。


 すると、ビシャッビシャッと音をたてて何かが波の狭間にいるのが見えた。


「なにあれ」


 フナムシにも慣れたのか、ザワザワと避けていくそのさなかに足をおいてアイラもそれを見据えた。


 それはゆっくりと俺たちの方に近づいてきて、そして波打ち際、つまりは俺たちの元へと姿を現した。


「赤、黒、白のお仲間にその出で立ち。レイル様とお見受けしますが間違いないでしょうか?」


 それは人の姿をしていた。

 俺たちはその全貌を見てもなお、目の前にいる存在を把握することはできなかった。

 どこかのネズミの会社で想像されるような貝殻のみのブラジャーとまでメルヘンなものではなく、ちゃんと布や紐を駆使してしっかりと危なげなく胸元を覆った女性が俺たちに話しかけてきた。

 だがその下半身は滑らかな鱗がびっしりと張り付いており、足があるはずのそこには尻尾がついていた。


 そう、人魚族であった。

次回から海の王国編開始です

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