我が復活の時がやってき(以下略)
再び熱で火照った頬に冷たいものが押し当てられているのを感じて目を覚ました。
冷たいものといっても、美少女の太ももとか思春期の男子が夢見るお約束展開にはない。
ここには美少女、と呼べる存在はおらず、いるのは前世現世合わせても俺より年上のお姉様しかいないのだ。
だがここにいて、そのお姉様は若い頃さぞかしモテていたことだろうというぐらいにはいい女である。
ただ、さすがに見た目からして歳上すぎるのだけがネックではあるが。
いや、もしかしたら年齢を重ねたことによっていい女になったのかもしれない。
「あんた、さっきから失礼なことを考えているじゃろ」
脳内のどうでもいい電波トークが漏れていたのだろうか。だとすれば恐ろしい。この人は思考電波を解読できるのだから。
「滅相もない」
思わず敬語になってしまった。いや、冗談だ。だがこの人に見捨てられても困るのだ。この人に放り出されては俺は生きてはいないのだから。よくもまあ、このようにほいほいと人に命を預けられるものだ。
俺はヒロインかっつーの。
「いや、本当助かってますよ。ご飯も美味しいです」
これは本当だ。この人の作るご飯は美味しい。胃に優しくって食べやすいしな。俺もよく知る美少女の誰かが食べさせてくれるなら豚のエサでも美味しく食べる自信もあるが。
「ふん……私もまあこれだけ人と話したのは久々だから楽しかったしおあいこだよ」
「どこのご隠居生活ですか」
「だまらっしゃい。年寄りというものは世話好きで話好きなんだよ」
とても納得できるな。
俺は後頭部にチリチリとした気配を感じて声をあげた。
「あっ」
病床の身とはいえ、空間把握を完全に解くほどユルユルではない。
家の周りぐらいは人がどこに何人いるかわかる程度には空間把握をオンにしている。
その空間把握に人の反応があった。だがこれは敵ではない。知らない人もいるが、少なくとも三人と一人は俺もよく知る形をしている。
その全員をじっくりと探る。大丈夫、どこも欠けていない。腕とかなかったら俺は悲しいぞ。
そう、仲間が無事に帰ってきたのだ。
◇
こういう再会って、寝ている人の元に一気に仲間が現れて、「お前ら、無事に帰ってきたのか!」と驚くところまでがお約束だと思う。
だが事前に全て知ってしまった俺としては、喜びはすれど驚きはしない。
アイラ、ロウ、カグヤの三人が同時に帰ってきた。
もしかしたらどこかで集合してから来たのだろうか。
「ただいまー!」
「ほらよ」
「お土産に龍と竜の血もあるわよ」
おい最後。聞き捨てならないことを聞いたがどうしてだ。
安全かつ迅速にとか言ってたわりには余裕じゃねえか。相手は龍じゃなかったのかよ、竜も混じってんじゃねえか。明らかに難易度が跳ね上がっているのはどうしてだ。
「レイルくん、私も不本意だけどお土産」
おいアイラ。まさかその後ろにいるキラキラ系イケメンが俺へのお土産とか言うんじゃねえだろうな。
まさか俺をそういう趣味だとか思ってるのか?
「レイル、マタ会ッタナ」
アイラの隣にキノがいた。キノは機械なので代わり映えするはずもないが、懐かしい姿だった。忘れられるはずもない。
「久しぶりだな、キノ」
キノのことは尊敬とかしているけれど、どうも対等に話してしまう。
友達という感覚の方が強いのだろうか。
「早く材料をよこしな。薬を作ってやるからさ」
お婆さんに促され、三人がそれぞれの材料を出した。
月人の水、知恵の実、トマキラ草、龍のヒゲ。トマキラ草はともかく、残りの三つは売れば一財産になるシロモノばかり。よくもまあ、この短期間で集めてきてくれたものだ。
お婆さんが作ってくれた薬を飲めば、心なしか熱もひいた気がする。
落ち着いたところで今回の旅であったことを聞いた。
ロウが倒した蝶の話は実に残念だ。美味しいのに毒があるとは。
カグヤはまさに大冒険!といったロマン溢れるものだったな。龍や竜にもまた会ってみたいものだ。
アイラは迷宮探索、か。巨大蠍を倒すアイラは見たかったな。かっこよかっただろうに。
「そうか……天使に龍か……」
ロウが単独行動すると毎回何人か殺してくるのはお約束となってしまっている。
「そいつらにも会ってみたかったな」
「レイルくんのためにも連れてきたかったけど無理だったんだ。今回は急いでたし、ここの場所とレイルくんの名前は教えておいたから、またいつか会えるかもね」
そうか。ならいいか。
まだ病み上がりでテンションアゲアゲにはなれない俺がそいつらに会ったとしても、あまり楽しそうには見られないかもしれない。
「でだ」
俺はロウの後ろにいる目つきの悪い男性と、アイラの後ろで俺を睨んでくるイケメンに目をやった。
「その人たちは?」
まずはロウが答えた。
「こいつは俺を殺せと依頼されていた傭兵みたいだな。俺が返り討ちにした後、トマキラ草の探索を手伝ってもらってたんだ。なんか俺の部下になる的なことを言ってたし、役に立ちそうだから連れてきた。悪いやつじゃねえよ」
「あんたがレイルさんか。俺はナルサスだ。なるほど、ロウさんが組むわけだ。目を見りゃわかる。ロウさんもあんたも、いったいその歳でどんな修羅場をくぐり抜けてきたってんだ」
修羅場?
せいぜいロウと俺の共通点なんて実の親がいないことぐらいか?
どっちも直接間接の差はあれど、自分が親を殺してるからな。
ロウの場合はロウは悪くないけど、俺の場合は俺が悪かったってのはでかいか。
「へー、よろしくな」
ロウは人一倍殺気に敏感だ。
そのロウが大丈夫と判断したなら、こいつは多分俺たちを殺そうとはしないのだろう。
敵とか味方とか、悪とか正義とかで仲良くするかを決めるのは馬鹿らしい。
あまりに世間一般でいうところの道徳に反する人間と仲良くしてれば、俺らの評判がなし崩し的に悪くなる。それさえ気をつければ、こいつは十分仲良くやっていける部類だ。
「じゃあロウの件についてはそれでいいや」
そう言うと、気を利かせましたとばかりにロウとカグヤ、キノにナルサスが部屋から出ていった。
「で、次はアイラか」
「えーっと……この人はアランさん。神殿で巨大蠍に襲われていたところを横から爆撃して助けたって形になるのかな?」
「君がレイルっていうのか。僕はアイラに惚れた。彼女と共に旅がしたい。アイラに僕と旅をしてくれないかと誘ったが、君たちと旅をしているから無理だと言われた」
アイラが言い出しづらくて言葉を濁した部分を全部言いやがった。
それぐらい空気を読んで黙るとかはないのかよ。
そもそもパーティーリーダーである俺を目の前にしてメンバーの引き抜きを提案しました、なんてよく暴露できるな。
「僕は諦めきれず、せめて君の仲間に会わせてくれと頼み込んでついてこさせてもらった」
アランという男はそう言うが、よこのアイラはどうせ断ってもついてきたでしょ?とジト目で睨んでいる。
俺はアイラもこいつが気に食わないのだとその表情から読み取った。
ならばなぜ連れてきたのか、とアランに聞こえないように聞くと、
「私が嫌いでもレイルくんがどう思うかはわからないし、レイルくんは嫌いでも使うでしょ? 強いなら仲間に入れるかもしれないじゃん」
と苦虫を噛み潰したような顔で答えてくれた。
アイラは偉い。感情に惑わされず、利用価値で判断できるんだな。でもこの場合はもっと違う答えでよかった。
「馬鹿だな。俺は確かに人助けから何まで自分の利益で考えているけど、その利益の中には俺やアイラの気持ちも入ってるんだぜ?」
仲間にする条件は幾つもあって、その中に強さは含まれていない。旅をできる程度の体は欲しいところだが、強さなんて求めていたら初期の俺なんて速攻クビだ。
俺たちと合うかどうか──まあつまりは仲の良さだが、それが一番大きい。
その中には精神の強さも含まれていて、俺たちの行うことをどれだけ受け入れられるか、による。
アイラとの出会いの場面を聞くだけでも十分仲間にはできない。
それに、アイラが嫌いな人間を仲間にして、四人の関係がギクシャクするのも避けたいところだ。
今までの臨時パーティーも、ホームレスにアークディア、ミラなど基本的に俺たちと仲の良い奴らばかりだったはずだ。
「だから、アイラはもう少しワガママを言っていいんだ。嫌なやつと冒険することほど馬鹿なことはない」
「うん……ごめん」
「謝らなくてもいい」
ここでそろそろアランが怒った。
「さっきから聞いていれば随分と言ってくれるじゃないか。初対面で君にどうしてそこまで言われなければならない。僕のことをどれだけ知っているというんだ」
はあ……なんで同じイケメンでもこうも印象が違うのか。
レオンはなんていうか、もっと……可愛かったな。
そうか、ツンデレが原因だ。
一周回ってもはや素直とさえ言えるツンデレは見ていて飽きなかったし、気に食わないとつっかかってきながら将棋で懐柔されてみたり、悪いと思えばしぶしぶながらも謝ったりととても魅力溢れる人間だった。
それに比べてこいつは……いや、比べてやるのもレオンに失礼だ。土俵がまず違う。
「知らないというだけで拒否する理由にはならないけど、俺たちがお前を仲間にしなければならない義理もないだろ?」
「君はもしかしてレイル・グレイか?」
「そうだと言ったら?」
「そうか……アイラは君に騙されているんだな。今日のところは病み上がりの人間に何を言ってもしょうがない。また後日伺わせてもらう。それまで逃げないでくれよ」
「ああ、頭冷やしてこい。できれば二度と来ないでほしい」
怒髪天を衝く、とはこのことか。
怒鳴りこそしなかったものの、あれは相当怒っているな。
うわぁ……毛嫌いしてますね。
アランさんも涙目




