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アイラの激怒 ②

 キノさんは二人で空間転移ができない。光魔法が得意だというのは本当のようで、空間転移はレイルくんの方が上手なのだろう。いや、そもそもキノさんは自分一人が移動できればいいのだ。だって機械族マシンナーズは個にして全なる種族。機械であるからこそ、空間転移も同族同士でしか行わないし、集団行動をとることもあまりないのだろう。逆にそこまでしてもらうと私の価値がなくなりそうだ。


「じゃあキノさんは援護っていうか前衛お願い」


 キノさんに空間把握でどれほどの範囲が把握できるか聞いたところ、どうやら半径10mほどらしい。

 それでも目で見ているのとあまり変わらない知覚が周囲全体に広がっただけなので、感知機能と組み合わせてようやく周囲の情報を正確に把握しているのだとか。

 やっぱりレイルくんの空間把握はすごかったんだ。レイルくんの世界では機械の方が人間より一点に優れたことが多いって言ってたけど、キノさん達、機械族マシンナーズの方がもっと凄いって言ってたし。レイルくんは自分を低く見積もりすぎているのかもしれない。


「任サレタ」


 周囲の警戒は主にキノさんにしてもらう。

 遠くの敵が近づく前に私が撃ち抜く。

 もしかして結構相性はいいのかもしれない。

 いつもの三人には負けるけどね。


 無言でキノさんが指し示し、その魔物を確認した瞬間私は銃口をそちらに向けていた。

 連射速度は落ちるが、やや一撃の重い銃を使っている。

 魔物にはこれぐらいの方が一撃で仕留められて楽なのだ。

 引き金を引くと、ズガンと音が鳴り、腕に衝撃がくる。

 銃口が火をふくと、弾丸は脳天を貫通して何かにまみれながら向こうへと突き抜けていく。


 そんな動作の繰り返し。


 一つ一つは語るまでもない、単純作業だ。

 ただ、油断しないようにだけお互いに気を向ける。


 だがそんな中にも嫌な魔物が一匹だけいた。


 草木の茂る獣道のような場所で、その細い道を塞ぐ生物がいた。

 大きさは確かに通常に比べれば大きいが、高さは私の身長の半分とちょっとぐらいしかないのでたいしたことはない。

 毒液だとか、牙だとか厄介な要素があるわけでもない。倒すのは簡単だろう。

 何が嫌かって、見た目だ。


 ヌメヌメと表面を粘膜に覆われテカらせている。ノソノソと這いずった後にも、その粘膜が道を作っている。頭からはピコンと二つのツノのようなものが出ていて、背中には斑点がある。


 そう、巨大ナメクジだった。


「アイラ、焼キ殺ソウカ?」

「いや、いい。簡単な方法があるから」


 簡単も簡単。直接触れるのがいやな貴方もさあお試しあれ。ナメクジの駆除方法。

 ゴソゴソとカバンの中を探るように、腕輪の機能で持ち物からあるものを探す。

 塩だ。袋詰めの一抱えもある塩を取り出した。ずっしりと重い。やや不純物の多い安物を買ってある。これは私たちにとっては食用ではない。塩は便利だからとレイルくんの言いつけで、食用以外に安いのを大量に購入してある。茶色がかったそれは食べられないこともないが、ジャリジャリする。

 もちろん旅人にとっての生命線である塩は本来こんなところで使うのはもったいない。

 こんなことをしたと知られたら、水で洗えばいいのだから、剣で倒せよ、と多くの冒険者に言われることだろう。


 なんのために腕輪を持ってると思ってるの。

 こういうときに躊躇いなく消費物資を使うためでしょ。

 頭の中でレイルくんも、「そうだな、やってしまえ!」も言ってくれている。うん、やってしまおう。


 蝸牛の歩みとは言うけどこいつには殻がない。

 まあ這う速度は変わらないので、別に警戒することもないけど、私はそわそわとにじり寄った。


「嫌だなー」


 私にも苦手なものがある。

 これがもっと凶暴で、殺らなきゃやられる、ぐらいの危機感を煽る生物であれば私も躊躇いなく撃ち抜くんだけど、できればこいつの体液がぶちまけられるところを見たくない。

 それが許されるぐらいにこいつが弱いのが悪い。

 でも放ってここを抜けようとするのはダメだ。


「駆除方法ナラ他ニモアルゾ?」


「いや、いい。自分で倒す」


 なんだかここで頼っては負けな気がする。

 無駄な意地を張って塩を上からぶちまけた。

 のたうちまわる前にバッと後ろに下がって息絶えるまでそいつに近寄らなかった。

 塩分に水を吸われたのか、それとも体の構造に理由があるのか、こいつらには塩がよくきく。

 レイルくんは細胞の浸透圧がーとか言ってた気がする。


 まあとにかくこいつが萎んだからいいや。







 ◇

 道中は二人だったけど、無限収納のおかげでご飯には困らないし、睡眠の必要がないキノさんが見張っていてくれるので安心だった。


 辿り着いた神殿。パルテナ神殿。

 ここは神が人間に試練を課すために作ったと言われている。

 ここの中にある聖女の祭壇に供え物をしてくることができればその人は信心深い教徒として神の寵愛を受けられると言う。

 だが実際に神を見た身としては、こう言わざるを得ない。


 これは人間が作ったものだ。


 確かにあの世界で見た神の居場所に似ていなくもない。

 だが考えてもみてほしい。

 自分の家に似た建物を、自分のための試練の場として地上に作るだろうか?

 これはあの世界の建物を見た人が作ったのかもしれないが、きっとそれは人間だ。

 あの神たちは介入して楽しむ側ではない。


「イクノカ?」


 短い言葉に最大の心配をのせてキノさんが聞いてくれる。


「いかなきゃいけないの」


 そう、レイルくんを助けるためにはここを踏破しなければならない。


 この神殿は試練の場というだけあって、ある仕掛けがあちこちに施されている。

 それは強力な時術であった。

 ここに入った人はこの中でどれだけ過ごしても一週間しか経たないという。だが、そこでいくら過ごしても体は老いることがない。それだけではない。部屋によっては時間の流れが変わっており、体感にして十倍の部屋もあるそうだ。

 この中で肉体の時間が経たないといっても、中で死ねば死亡には違いない。

 一度入れば出ることができないこの神殿には毎年多くの冒険者や教徒が挑戦し、出ること叶わず発狂したりしている。


 たった二つ、出る方法があるらしい。


 一つはこの神殿を踏破すること。

 もう一つはこの神殿のどこかにある真実の盾を砕くことだそうだ。


 真実の盾というのはこの神殿にかかっている空間隔絶型結界の媒体となる盾で、それを壊せば術が解けて出ることができるらしい。

 それを見つけるぐらいならば踏破した方が簡単だともいう。


 まあ私にはどうでもいいことだ。

 私はそこにもう一つ、出られる可能性を見つけ、レイルくんにあるものを借りてきた。


 それはエルフ族の耳飾りだ。


 最も魔法の才能に溢れるエルフ、その技術の結晶である耳飾りには里にかかった術に邪魔されず里までたどり着くことができるという特殊な機能がある。

 だがその機能の真髄はそこにはない。


 隠し機能とさえ言える特性がこの耳飾りにはあった。


 里に着くまで、ありとあらゆるものに(・・・・・・・・・・)邪魔されない(・・・・・・)という狂った機能があるのだ。

 そう、それまでの道筋を示す赤い光が魔力を込めると一直線にエルフの里まで通じる。

 そしてそれを辿れば、たとえ神殿にかけられた術であっても無視して出ることができるかもしれない。


 だがそれさえも私にとっては保険にさえならない。


 どうせ私はこの神殿を踏破するまでは帰るつもりなどはないのだから。

 この耳飾りも、やり直しがきくという程度の価値しかないのだ。


 挑もう。

 紛い物の神の居場所に。

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