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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
レイルの危機

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閑話 レイルはお年頃?

冒険の合間に、レイルの容体を見てみましょう

 どうも。お久しぶりに登場のレイルです。無様にもやられて現在病床に臥して三日目になります。そろそろ精神的にもなかなかくるものがあります。頭が全然回りません。


 はあ……とまあ馬鹿な脳内一人劇場を繰り広げたところで、俺の症状が緩和されるわけでもない。

 ただ、これぐらいふざけて前向きにでもしていないと気を抜いたらミラのお迎えが来てしまいそうだ。

 大丈夫だとは思うけど心配なんだよなあ。特にアイラ。

 三人の中では一番天才かもしれないけど、一番実年齢が年下だからな。

 経験不足を知識で補えればいいんだけど。

 残りの二人はなんだかんだ言って要領の良い方だから危なくなれば退却も辞さない構えだろう。

 それさえ守ってくれればいいんだ。


 というかカグヤがあんな難しそうな場所に配置されたのにやたらと自信満々かつ嬉しそうだったのはなんだろうか。

 まさか強い敵であればあるほど燃える主人公気質バトルジャンキーとかじゃないよな?

 俺は寝返りをうち、隣の木製机を見た。


 まさかアイラがあんな風に俺の作戦に異を唱えるとは思わなかった。

 依存は良くないと思っている俺にとって、アイラはネックとなっていた。このまま俺の言うことを聞くだけの人形になるのは困る。いつか自身の判断で動ける優秀さを身につけてほしかった。アイラは天才だからいつかそのうちできるだろう。と呑気に構えてもいた。


 だがなんという怪我の功名。


 アイラが真っ向から反対してきたのだ。それさえも俺に関することなのが嬉しいやら危ういやら。焦りや過信でないといいのだが。

 俺にできることは信じることだけだ。そんなセリフを言うことになるとは思わなかった。

 あんなのに祈るのは不本意だし、どうせ祈ろうがあいつらは何も介入しないのだろうがあえて祈ろう。

 頼む、三人とも無事で帰ってきてくれ。


 ねえ、逆じゃね? これ、逆だよね?

 普通はヒロインが病気や呪いでぐったりしているのを必死で男の子の意地で取りにいくイベントだよな?

 どうしてリーダーの俺が寝てるんだよ。

 なんとも情けないリーダーだ。


「あんた、大丈夫かい?」


 ぼんやりと目を開け、虚ろに天井を眺めている俺に何かの危うさを感じとったのか、薬屋のお婆さんが声をかけてくれた。

 心配は俺の容体についてが九割、残りの一割が俺の頭についてのようだな。自殺でもしそうに見えたのだろうか。

 少々ぎこちなくではあるが、いつものように笑って返した。


「大丈夫ですよ、ご迷惑をおかけします。お礼は必ずしますので」


 俺は現在、薬屋の二階の寝室に寝かせてもらっていた。

 宿屋に泊まるという方法もあるのだが、お婆さんがここに寝ていいと申し出てくれたその厚意に甘えている。

 もちろん金がないだとかそういう理由ではない。安全面でだ。

 俺はどうやら最近、思ったよりも有名になっているらしい。その評判もおそらくとてつもなく強い英雄であったり、勇者の鑑としてではないだろう。

 そんな男が弱って宿屋で寝ているなどという情報が出回ってしまえば、どんな輩が俺を狙いに来るかわからない。ただでさえここはヒジリアの近く。かつての邪神の儀式に身を捧げた村人たちのように、いつどこで狂信者が現れるかもしれないのだ。

 安心して眠っていろという方が無理である。


「……はあ」


 お婆さんは呆れたようにため息をついた。

 その表情を直訳するならば、「あんた何言ってんの」といった感じだ。


「手紙で妙な子だとは聞いていたけど、その達観ぶりは異常だね」


 いきなり人を異常呼ばわりとは随分な言いようじゃないか。恩人とはいえ俺だって物申すぞ。

 いや、俺のことを思って言ってくれてるんだよな。


「まさか自分が倒れて今も苦しいってときに自分がかけた迷惑の心配とはねえ。あんたみたいな年頃なんてもっと単純に馬鹿なもんだよ」

「そうですかね?」


 はっはっは。そりゃあそうだよ。

 そんな青臭い時期はもう生まれる前に終わらせたんだ。

 多分俺は思春期早かった方だからね。小学校高学年ぐらいかな。

 と内心真逆のことを言っている。


「そうさね。もしくはあんたみたいな複雑な事情の子はもっとひねくれてるよ。人を助けるのがかっこわるいとか、逆に人は助けるべきもんだとか。青臭いか乳臭いか二分されるお年頃ってもんじゃないのかい?」


 この世界では十五だとある程度は一人前と認められるけど超子供扱いだな。人生経験生前含めて俺の二倍近くありそうなお婆さんからすれば、俺なんてまだまだ若造ってことだな。

 中身がちょっと成熟したぐらいではこの世界で何年も生きてきた人たちには勝てない。旅でわかっていたことだ。

 まあ俺のアドバンテージは幼少期から訓練した魔法と剣技だ。つい最近ようやく努力が実ったがな。

 老獪でなくともいい。


「ええ、だからかっこわるいと思いながら助けるべきだと思って助けてますよ」


 うわあ白々しい。

 かっこわるいのは助けることを義務として語る奴で、助けるべきなのは自分に得になるからだって()の中までしっかりと供述するべきだよな。

 俺が刑事さんなら「正直に話せ!」と机バンしているところだ。


「よくもまあ……そう息をするように嘘をつくもんだ」

「ははっ。冗談ですよ。俺がどんな人間かはしてきたことが表していて、それをどうとるかは人それぞれですよ」


 やはりこの人、観察眼が素晴らしいな。ぜひシンヤの右腕として自治区に引き抜けないだろうか。

 俺が敬語を使う、わかりにくいが明確な基準で、彼女は確かにその上にいる。

 ついつい無意識に敬語になってしまう。


「もうちょっと何も考えずに大人に甘えて、感情に任せて楽しく生きりゃあいいんだがねぇ」


 苦しいのも人と話していると少し楽だ。軽口を叩けるぐらいに回復したことを嬉しくも思いながら、冗談のような本心からの返事をした。


「もう超楽しいですよ。今でこそ苦しいですけど」


 俺はけっこうやりたい放題しているつもりなんだけどなあ。

 手段から結果に至るまで全部思い通りにしようと頑張ってるしな。

 なんだかお婆さんには俺が背伸びして仮面をつけて無理しているように見えるらしい。

 まあ、思いもよらないよな。

 目の前の青年が実は中身がおっさんです、なんて。


 お婆さんは柔らかく煮た野菜スープにパンを添えて出してくれた。

 トロトロのお野菜が甘く、なんとも優しい味がする。

 熱い体に熱いスープ。

 矛盾しているようだが、治療法としては十分正しい。

 これが毒なら意味はないし、アレルギーならもっと意味がない。

 だけどそんなことはどうでもいいぐらいには美味しい。


「ありがとうございます」

「いいのよ。遠慮なんてしないで」


 はあ、ここのところ打算的に接してきたせいか、こういう優しさに触れるとなんとも心地よい。

 仲間の信頼と安心感とはまた別の心地よさだ。

 やはり俺も弱っているんだな。

 あいつらが帰ってくるころには、薬を飲むだけですぐに回復できるようにしておきたい。


 しっかり休まねば。

弱気なレイルは珍しいです。

レオナが見ればここぞとばかりに看病にかこつけて、あれやこれやとしてくれるでしょうね

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