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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
レイルの危機

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112/200

カグヤの安堵 ①

 かつて私が剣を使ったとき、四属性の魔法もちょっぴり使えることを付け加えると、人は誰もが「嘘だ」という。


 基本的に魔法は一つの属性を極めた方が強いとされる。どの魔法を極めてもいろんなことができるからだ。だから私のそれは単なる器用貧乏というやつであった。


 だけど、それを覆したのがレイルだった。


 本来、その人の半生をかけて魔法というものは研究されるもので、その研究と才能──この場合は想像力と魔力操作力にあたる──が融合して新魔法だの、新原理などというものが生まれる。

 私の魔力操作力は中級といったところだった。

 一属性に限れば、私と同じく武器を扱いながらの魔法戦士として魔法を使う人間も多数いる。

 もちろん、魔法を専門とする魔法使いになれば、二属性、三属性と使う者もいる。

 そんな中で私が私の独創性を保つためには、四属性を極める他ならなかった。

 いや、私は既に剣技が使えるのだからそれを極めても十分やっていけると思われた。

 だけど、剣技で勝てない相手が世の中にいる以上、剣技も魔法もできるにこしたことはない。


 レイルは根本的に思考が違った。


 魔法を一つの研究対象として見ていながら、さながら玩具のように、それでいて独自の道具として扱っていた。

 彼の口から語られるのは魔法の上達方法ではなく、魔法の真髄とそれで何ができるかということばかりであった。


 私の魔力操作は中級のまま、想像力も変わらずに、私は上級と言われる難易度の高い魔法と同じことができるようになった。


 彼曰く、全ての魔法は鍛えれば大抵のことができる。

 どの属性を極めても、雷が起こせるし、それを使えば水属性でさえも炎を起こすことができるという。

 風魔法で氷を作ることも、地属性で空を飛ぶこともできるという。

 それには世界の法則を理解する必要があるとはなんとも壮大な話だった。


 レイルは確かに知識が豊富だ。

 だが、私とてこの世界の知識においてさほど負けているわけではない。

 だって私もあいつと旅をして、各国の図書館に出入りしてきたのだ。

 本を読んでいれば嫌でも知識は身につくというものである。


 違う。

 レイルの異常は知識じゃない。

 レイルの異常は概念である。


 だけど、持っている概念、それ以上にレイル自身の考え方が一歩ずれている。


 あいつは勇者候補なんて生易しいもんじゃない。

 あれでもまだ猫を被っているが、戦慄したのは自分の命を自分の作戦の天秤にかけることだ。

 悪魔の時も、死神の時も、魔王の前でも。

 あいつは酷く臆病なくせに、作戦の実行に躊躇いがない。


 かつて反魔法団体に対峙した時、その目的が魔法の撲滅ではないことを見抜いた。

 私も、ロウもアイラだって、少し考えればわかることかもしれない。

 だが、その"少し"が大きい。


 その先を見てみたいと思った。

 でもロウが彼を気に入らなければ、きっと何も思わぬまま別れていたことだろう。


 私はレイルと他の二人よりも距離が遠い。

 レイルとはなんというか、旅の仲間ってだけで、信頼はしてもあまり踏み込もうとは思わない。

 私にはロウがいるからかもしれないけどね。

 でもロウが気にいったからといって、彼の人柄が酷くつまらないものであったら旅に行くことに賛成したりはしなかったでしょうけど。

 もっと前はお転婆だったような気もするんだけどな……まあ成長したってことで。


 レイルがそれを聞くと、「ビジネスパートナーだな」と言った。

 何よビジネスパートナーって、と尋ねると、仕事上の仲間ってことだよ、と返ってきた。

 そうかもしれないわ。


 確かに彼のおかげで、私の魔法は他の魔法使いにさえ負けないほどになっている。


 感謝はしているし、嫌いじゃない。

 信用もしているし、評価も高い。


 けど、私の一番はロウで、私が旅をするのは私の為だ。





 そんな彼も完璧じゃない。

 いや、そもそも完璧などと思ったことはない。

 なんでも器用にこなすように見えて、結局のところその能力は二つか三つに絞られているのだから。


 観察眼。

 前世現世の知識、概念。

 発想と判断力。


 彼はさほど剣技が得意ではない。

 最近になってロウと並ぶか、それ以上になった。

 多分、同年代の中でも、天才と謳われる勇者候補たちにも負けないだろう。

 だが、剣に全てを捧げるような人間や、体格と環境と才能に恵まれて何年も剣をとった歴戦の戦士よりは技量が下だ。

 しかし彼と打ち合ったとき、身震いした。


 ずっとこっちを見ている。


 いや、打ち合っていれば、それが普通なのだが、それとはまた違うのだ。

 たまに何か違うものを見ているにもかかわらず、私の目の奥まで見透かすように見ているのだ。


 刀や剣で戦っている気がしない。


 それがレイルと戦うときの印象だ。

 きっとレイルにとって、剣は唯一の武器などではないのだろう。

 むしろ剣に目を向けさせておいて、別のもので倒す方が楽だと考えているふしがある。


 ああ、なんて戦闘脳。

 戦い方から仲間の人柄をはかってるとか。



 とにかく、そんなレイルが倒れた。

 体調管理は万全だぜ!

 とか叫んでいそうな彼が。

 普通に休んでいても治らないのだそうだ。

 薬の材料で三つほど足りないと言われた

 レイルは寝込みながらも、火照った顔で三つの材料を集める最短の道とその道程の注意点を説明しようとした。

 だがそれを遮ったのはアイラだった。

 アイラは事前に私たちにある提案をした。


 三つの場所にそれぞれ一人で向かう。


 確かに理論上は最速だ。

 だけど成功率が下がる。

 私とロウはアイラの目を見て、ただの無謀じゃないことを感じ、承諾した。


 一番移動距離が長いところをロウに。

 一番敵が強いところを私に。

 一番厄介で時間がかかりそうなところをアイラに。


 それぞれの適性を考えて、三人が納得した配置だ。

 二人は私の場所を懸念していたようだけど、私が笑って大丈夫、というと任せてくれた。


 ふふっ。レイルは怖がりだから。

 たまにはどうなるかわからないようなギリギリの冒険を乗り越えてみせて、実力への信用を勝ちとらなきゃ。



 だから、私もこれぐらいの敵、乗り越えなくちゃね。

 目の前に十二匹、鳥型、熊型、狼型に蛇型、大小さまざまな魔物が連携していても。

 それを後ろの方で命令しているようなぶくぶくの魔物がいても。

 これぐらいの敵は、倒せるはずだ。




 ◇

 レイルが避けていた、魔物の群れ。

 何があるかわからないから、経験値もないのに危険を冒すのは馬鹿らしい。

 よくわからないことを言っていた。

 経験なんて戦ってればいやでもたまるでしょうに。


 魔物たちの後ろで魔物が一匹。ぶくぶくと太った頭の下半分にちょぼちょぼした目が見える。その下からは触手のようなものが出ていて体を支えている。

 こいつの名前はフェロモニア。

 その頭の両側から誘惑物質を出し、周囲の魔物の攻撃性を高める。だがその誘惑物質には軽い中毒性があり、出している本体は攻撃させないようにする働きもある。


 周囲の、とは言ったが、普通はあの半分ぐらいの大きさで、あそこまで操れるとすれば二、三体が限界だ。

 それを十二匹。しかもどれも単なる雑魚じゃない。


「ふぉっふぉっ」


 ばふばふと音を出すフェロモニアに苛立ちまぎれにはきすてる。


「厄介ね」


 対処法は簡単だ。

 魔物を全て倒してもいいし、フェロモニア本体を殺してもいい。

 元は仲良く一緒に、なんてありえない魔物たち。正気を取り戻せば同士討ちを始める

 いや、言うのは簡単だ。実行するのが大変なのだ。


 脳内作戦会議は秒よりも短く。

 お互いが様子見で睨み合っているうちに考えろ。

 集団を相手にしたときの定石はなんだったか。


 ばふん、とフェロモニアによって大きな音がたてられた瞬間、戦いの火蓋が切られた。

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