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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
レイルの危機

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ロウの疾走 ⑤

弟が部屋に居座って執筆が進まない……


 俺が美しさにこだわる男であれば、一刻もここを逃げ出したいところだろう。いや、そんな頓珍漢なことを言うまでもなく、この状態は小心者には耐え難いものだな。


「ぎゃーっはっは、聞いたか? レイル・グレイだとよ!」


 何かをしてやったりとばかりに周りの手下に話しかける。

 まがりなりにも冒険者の一味にそんな言葉を使うのは、どうにもこいつらが盗賊団が何かに見えて仕方がないからだ。

 眉をひそめてそっと立ち去る老人とかを見なかったことにして、俺は再度交渉を持ちかける。


「相場の二倍でも構わねえ。とにかく売ってくれねえか?」


「ははっ。そうしたいのはやまやまなんだが、急遽これが欲しいと実家の婆さんが息も絶え絶えに言ってるのが俺にはわかる。だから無理だな」


 そんな超常現象があってたまるか。

 虫の知らせにするにしても、お前にはこない。


「前々から気に入らなかったんだ。何が最悪の勇者だよ。あんなのがちやほやされるのがわけわかんねえってんだよ!」


 なんだ、ただの嫉妬か。

 醜い奴らだ。見るに耐えない。

 とりあえず声量を下げてもらいたいもんだ。


「あーあー、お前らの気を変わらせてやるよ」


 棒読みでそう言う俺に、手下に目で合図しながらイモンドが言った。


「ここではなんだからちょっと表出ろよ」


 そう言って立ち上がった人数は七人ほどか。

 まあ後ろのこいつと俺ならなんとかなるか?

 まあ元から信用はしてないから、土壇場で敵に回っても大丈夫かな。


 ようやく歩く厄介事がぞろぞろとお外に出てくれて、酒場のおっさん達もホッとしている。

 どんだけこいつら恨まれてるんだよ。ガラ悪すぎんだろうがよ。


 人の少ない路地裏。

 時間は日が沈んでしばらくたち、うっすらと夕日も消えてきたころ。

 人通りがポツリと途絶えたそんな街で、粗野な男どもに囲まれているなんて知ったらカグヤが怒りそうだな。

 俺はかっこ良く薬草を採ってくるつもりだったのになー。

 どうしてこんなところでむさ苦しい目に合わなきゃならないというのだ。


「ははっ。こんなとこまで連れてきてなんのつもりだよ」


 軽薄にヘラヘラと笑う。

 青筋もあらわに男どもがカタカタと武器を指で鳴らしたりして威嚇してくる。

 いやーん、怖ーい。

 そんな女々しいことを言っている場合じゃねえな。


「で、どれだけ出せばいいんだよ」


「銀貨一枚とかどーだろーなー」


 すっごくいやらしい目でニヤニヤと笑いながら言ってきたから、もしかしたらふっかけているつもりなんだろうか?


「それぐらい出せば考えるかなー」


「こんな若造には無理だろ!」


「どうせ自演して名声を広めてんだもんなー」


「そもそもこいつがレイル・グレイの仲間だってのもハッタリかもしんねえぜ?」


「ちげえねえ」


 また笑いがおこる。

 なんかこいつらにはこいつらのツボがあるらしい。

 怒らない怒らない。

 こいつらはいい年したおっさんに見えるけど、実年齢俺とさほど変わらねえんだ。

 ぷらぷらと聞いたのと全く同じトマキラ草を見せびらかしているそいつらに、懐から金を出して笑いかける。


「ははっ、そんな安くでいいのか? あ、今ちょっと小銭の持ち合わせがなくってな。つりはいらねえからこれで売ってくれよ」


 俺が出したのは金貨だ。

 一枚あたり提示された金額の十倍だ。

 あらかじめ支度金として用意してあったものだ。まだもう一枚あるから、もしもこの薬草がセリで売りに出されていても十分買えるだけの金を持っている。

 そりゃあもう、簡単なお仕事だったよ。


「売らせていただきます!!」


 冒険者たちの声が揃った。


 そりゃそうか。

 銀貨一枚でも、薬草一株の値段としては倍以上ぼったくっている。

 この薬草は通常の冒険者が小遣い稼ぎに使えるぐらいには気軽な薬草なのだ。

 ただ、需要も供給も少ないから売れないけどな。


 金で友情は買えないが、信用も薬も買えるんだ。

 金のために過去の恨みやら嫉妬やらを水に流してもらう。

 うん、大人の対応だな。


 金の力は偉大だ。






 ◇

 薬草を得て、さあ帰ろうかというとき、後ろにまだ奴がついてきているのに気がついた。


「なあ、あんたどうするつもりなんだ?」


 元暗殺者。現在無職。

 いや、冒険者とか雇われの傭兵とか正規職もあるだろうから無職じゃないのか。

 でも依頼失敗したら帰れないんじゃ……ああ、ダメでもともとか。


「お前は随分危なっかしい奴だ」


「はあ?」


「あの時、俺が逆上して、襲いかかってくることを想定してなかったんだからな」


 なんか語りだしたぞ。


「お前は能力と打算でしか他人を推し量れないんだ。親しい人にはそうでもないのかもしれないけどな」


 髪を自分でぐしゃぐしゃとかき乱して何かを探るように続けた。


「さっきのもそうだ。あいつらが金に目がくらむぐらいの奴らでよかったが、殺して奪おうってなってたらどうするつもりだったんだ」


「その時は全員殺してたさ」


「はあ……とにかくな、お前を見ていて思ったんだよ。なんて空っぽなんだろうってな。でもお前自身には打算も欲もあまりねえ。面白いと思ったよ」


 そんな風に思われてたのか。


「とりあえず、依頼主の片を付ける。困ったことがあったら呼べ。というか俺から行く。お前に従うことにするよ」


「勝手にしやがれ」


 なんか便利な部下ができたみたいだ。


 こうして俺の、薬草採取が終わった。

 帰るときは行く時よりも簡単で、道を覚えている分早い。

 待ってろよ、レイル。

ようやくロウが終わりました。

次は……カグヤですかね

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