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これまでのあらすじ、アイラ視点

アイラから見たレイルと、レイルの勘違いの幾つか。

そんな閑話

 私、アイラがこのように独白で自身の心情を暴露するのは珍しいことなのかもしれない。


 レイルくんは自分自身を要領が良いと思っているふしがあるけど、私から見ればちょっぴり損をしているような気がする。







 幼い頃はお転婆で父の手を焼かせていた。

 近所の子とイタチごっこの喧嘩を続け、そのたびに呼び出された。

 それでも毎回父が私を怒ってくれたのは、出来損ないと言われた私でも愛してくれていたんだと思う。

 だからこそ、私が出来損ない、刃物が作れないとわかったときには随分と落ち込んだものだった。

 それは生来の恐怖だろうか。

 それとも────実の母が刃物で死んだことを幼い私の記憶になくとも忘れることができないのかな?

 兄たちは私と違い、刃物も作ることができた。

 他ではまだまだ私に負けるけど、きっと頑張ればもっと上手になるはず。


 そんな私の人生を変えたのはレイルくんだった。

 私のことを出来損ないなんかじゃない、天才だ、と褒めてくれた。

 その言葉が嘘じゃあないように、私の出来ることを次々と教えてくれた。

 天気の見方、どうして物が落ちるのか、空の向こうはどうなっているのか……


 中でも拳銃という武器は革新的だった。レイルくんが構造を人にバラすなっていうのが今でこそわかるぐらいに。

 魔法は得意ではなく、魔力も人並みの私でさえも、火球魔法よりも速く、土の大砲より鋭い攻撃ができる。

 でもレイルくんはあまり得意そうではなかった。

 銃を一緒に発明したのはレイルくんだ。

 だけど、加工は私に任せていた。

 レイルくんは加工ができなかったのだ。

 それを知った時はレイルくんにもできないことがあるんだ、と驚いた。


 レイルくんはそれを聞くと、


「できないことばっかりだよ」


 と笑う。

 実際、そうなのかもしれない。

 レイルくんは魔法が使えなかった。

 それでも毎日、毎日魔法の練習を欠かさなかった。

 学校に入ってわかったことだけど、剣技もそんなに強くない。

 あんなに毎日素振りをしていても、同年代の子に負けたりすることもある。


 でも、レイルくんが本当の意味で負ける気は不思議としなかった。

 レイルくんといると、負けるということがなんなのかわからなくなる。

 レイルくんは勝利というものを手段として考えているみたい。


「俺は弱いからな」


 レイルくんはよくそう言う。

 嘘っぱちだ。あんなに賢いのになんでそこだけおバカさんなんだろ。

 私が支えてあげなくちゃ。

 レイルくんを尊敬することには変わりない。

 知らないことを知っていて、魔法が使えないのに魔法が使えるかのよう。

 だから、ずっと劣等感なようなものを覚えてもいた。

 守られているような気もしてた。


 そんなレイルくんが旅に出ると言い出した。

 理由を聞くと、


「神様に会いたい」


 と言っていた。


 ようやく、私が役に立てる。

 支えてあげられる、守られるだけでなく、お互いの背中を守りあえる。

 一も二もなくその提案に飛びついた。

 鍛冶屋なんてのは兄が経営して、 弟が作ればいい。

 私がいなくても全然構わない。

 だけどレイルくんは私が必要だと言った。

 私はその言葉を信じている。



 しかし旅先ではやはり私はあまり役に立てていないような気がする。

 私の武器が手加減できないというのもある。

 だけど、とても強い敵に出会った時は私の銃を使うよりも早くレイルくんの作戦によって相手が倒れちゃう。

 腕輪は便利だけど、レイル君が使えばもっと便利じゃないかな?

 ロウくんはカグヤちゃんより弱いし、私よりも持ち物が武器寄りだ。

 だけどレイルくんはロウくんに妙は信頼を寄せている。

 夜中に盗賊を倒したりしにいっているのに関係があるのかな?

 たまにロウくんだけ連れていくこともある。

 カグヤちゃんは凄い。

 レイルくんほどじゃないけれど、魔法も四属性使えるし、剣の腕もみんなの中で一番強い。

 そんな彼女が負けるところを見たことはないけれど、彼女曰く「私が剣の腕で勝てない相手を少なくとも一人は知っている」とのこと。

 きっとその人は人間をやめてるんだよ。

 レイルくんの頭の中身も時々人間をやめてるような気もするけど。


 クラーケンを仲間にしたり、悪魔と契約してみたり。


 幾つかの冒険を経て、レイルくんと私たちはレイルくんの約束を果たした。


 神様に会った。


 天界と呼ばれるあの場所は随分不思議な場所だった。

 そこではレイルくんが剣が下手であった理由も、魔法が使えなくなった理由も判明した。


 そうしてレイルくんは波属性と空間、そして鍛錬の結果が出た肉体を得た。



 じゃあレイルくんは最強で完全無敵となったのかな?

 いいや、そうじゃない。

 まだまだ不器用な人間だった。


 嘘がつけない。

 全くつかない、というのではなく、自分に嘘がつけない、というのかな。


 意図的に言わないことと言うことを選んではいるけれど、あからさまな嘘はつかない。





 確かに世間一般でいうところの性格が良いとはいえない。

 理由もなく人に意地悪をして笑ってる。

 自分に挑んできた敵の志を折ることばかり頑張る。

 魔物を倒すといつも何かの呪いのように酷い死体ができあがる。

 私たちは自分の意思でついていくことを決めたから、それでも楽しく旅を続けられる。

 だから最初リオちゃんが私たちに送られる、と聞いたときは大丈夫かな?と思ってた。


 そんな心配はいらなかったみたい。

 会った当初はレイルくんに有害かと思って警戒してたけど、旅を続けている間は弱音をはくことはあまりなかった。

 それに、レイルくん自身、自重していたのか魔物を倒しながら進むことはそれほどなかった。


 おそらく私たちは冒険者としては異質なんだって。


 レイルくんはよく、まるで先に起こることを知っているかのように動いたりする。

 どうして?と聞くと、こういう展開はよくあったんだよ、と言う。

 こういう展開、というのはどういうことなのかな。

 前はこういう本を読んだことがあったんだよ、というレイルくんの顔は前世を未だに忘れられず懐かしんでいるのかな。

 だとすれば、帰りたいとか思わないのかな?


 レイルくんは世界を知りたいように、私はもっとレイルくんのことを知りたいと思う。

 けど、レイルくんは言う。

 自分のことがわからないのに、人のことを知り尽くすのは無理だ、って。


 そんなレイルくんが笑うと、本人は紳士的な笑みだと勘違いしているそれは、どうやったって悪巧みしている顔だ。

 やっていることはとっても人助けなんだけど、それも信頼や信用を得るためだって言うから間違いじゃあない。

 そう、悪巧みなのだ。

 でも大多数の人には実害のないことだから非難されることはない。

 だけど挑んできた勇者を決闘で負かして部下にしたり、クラーケンや奴隷商を手下につけ、死神や魔族と旅をするその様子はどうにも怖いみたい。

 レイルくんは周りから見ると、敵も味方もなく、全てをコマのように思っているように思われているらしい。

 でもレイルくんは自分を慕う人間にはとことん甘い。

 絶対に仲間だけは裏切らない。

 それが何であっても、最初は無条件で信頼するのだ。

 そこには種族もなにも関係がない。

 無条件な信頼などいらないという彼こそが、誰よりも人の醜い部分ごと好きでいる。



 とても偽悪的な人間であるのに、どの言葉も彼の感情の真実を含んでる。

 獣人と仲良くしたい。

 世界を見て回りたい。

 神に会いに行きたい。

 いくつも、いくつも願いを口にしてきた。

 まるでそうすれば叶うというかのように。



 そう、レイルくんの願いはいつもとても平和だ。

 楽しく生きたい、仲良く暮らしたい。

 だからその願いを邪魔する人たちとぶつかることもある。

 これだけ聞くととても聖人君子みたいだけど、全然違う。

 彼が仲良くしたいのも、楽しく生きたいのも自分のためで、決して世界をより良くなんて考えてはいない。


 でも、だから、レイルくんは自分が正しいとは絶対に言わない。

 巨人を倒すことも、犯罪組織を壊滅させることも、魔族の貴族の軍と人間の貴族の軍をぶつけることも。

 全て自分の意思でやったという。

 仕方がなかったなんて言わない。他にも方法があって、集団の利益をとるならその方法の方が良かったかもしれないという。

 自分の利益のためにしたのだという。

 結果だけなら人助けだと皆が言う。

 彼だけがその諸々を表立って功績として、正しいとして誇ることはない。



 そのあり方を間違ってるとは言えない。

 みんなそれを自覚しているかしていないかの違いなのだから。

 わたしはわたしらしくレイルくんの側で生きているのだろうか。それはまだわからない。


 それでも私は今日も引き金を引く。

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