悲劇SHOW ―『Mの噂』―
「じゃあじゃあ、私からでいいかな?!」
私は、とっておきの噂を持っていた。これなら愛乃も大満足だろう!
「お?自信ありげね!!どんな噂??」
愛乃の目は人並み以上に感情がこもっているので、長年一緒にいる私だけにはわかる。
目はいつも以上にキラキラ輝いている。愛乃の瞳の奥に溢れる感情は要にもわからないだろう。
「ふふふ…!!」
…しまった!!つい嬉しさが溢れてしまった。
「なんだよ気持ち悪い。口の両端がつり上がってるぞ」
よりによって要にじっとり見られた。不覚。
「? 水星、どうしたの??はぁーやぁーくぅー!!」
愛乃は駄々をこねるように両腕を振っている。いつもどおり子供っぽい。
でも愛乃は、今私達といるときとクラスメイト達といるときで態度が違うのは知っている。
―愛乃は昔虐められたことがあって、性格がグレてしまったことがあった。
そのせいで人と関わりをあまり持たないことで、クラスで浮いていた事があった。
だが、私がアドバイスしたことで、高校に入って本来の明るさを取り戻しクラスメイトと仲良く接して、学校中で人気者となった。正直妬ましい。
「…水星。水星?」
私がそんなこんな回想している内に、愛乃に声をかけられた。
「ボケが始まってるのか??」
要もいつもどおりうっさい。
「どうしたの?悩みでもあるの?」
…わかる。私が本当は考え事をしてたってことを見抜かれてる。心配してる目だ。
「ごめんごめん!大丈夫!…で、えっとね!!私のとっておきの噂はね…『目潰しの美術準備室!!』」
「目…目!?」
一気に愛乃の顔が青ざめる。愛乃は目に関係するグロテスクな話は苦手なのだ。
「ふふん、察しがいいね!!でもそれだけじゃないんだよ!!」
「…?」
「それがですねー。美術準備室には彫像があるでしょ??あれって、目までは作りこまれていないんだよ。しかも中に人骨を使っているんだって。だから呪われているの。それでね、美術準備室に丑三つ時に入ると目がない彫像が目を求めて、対象者を美術準備室に閉じ込めて目を刳り貫くんだって。実際、美術準備室で、壁一面に赤い液体がべっとりついてた事件があったんだ。でも、警察沙汰にすると学校の評判が悪くなるからって、教員で処理したそうだよ。悪戯の可能性もあるけどね…でもね?その事件以降、行方不明者がいるんだよ。どう?怖いでしょ?」
「や、やめよっか。ね?」
愛乃は目を手で覆いながら震えた声で言った
「あーれー?でも、企画者は愛乃だよー?」
愛乃がこうなることは分かっていたので非常に気分が良い。そして、我ながら酷い。
「うぅ。私絶対この検証しないから…!!」
と言いながら、愛乃はまだ震えている。流石に脅かし過ぎただろうか…。
「愛乃って、怖いもの好きな割には怖いものダメよね~」
愛乃はいつもそうだ。恐怖心より好奇心が勝る。例え、「怖い」と思っても、少しでも「気になる」「面白そう」という感情が芽生えると、必ず行動に移す。
…そして、後悔している。まったくのアホだ。
「お前の好奇心が強いことは知ってるけど、流石に丑三つ時に学校入って検証したりしな…そうだ、こうしようぜ。それぞれの噂の検証者はじゃんけんで決めよう。平等だろ?」
要は愛乃を嗤いを浮かべチラリとみながらそう言った。どうやら面白がっているらしい。そういうところが私とおなじで正直ムカ…いや。何でもない。
「じゃあそういうことにしよう。」
大介が賛成する。もちろん私も賛成だ。
―皆で『噂』について語り終えると、午前零時15分辺りに、屋上へ集合することに決まった。