いじめをしているあなたへ④
満が死んで、5ヶ月経った。
あの日、手首から血を流して倒れていた満を、今でも忘れられない。
結局、学校はいじめの存在を認めず、満をいじめていたと思われる奴らも、今も平然と学校に通い続けている。
真実は、闇に隠れたままだ。
母はあれ以来、まるで人が変わってしまった。必要最低限の言葉しか話さず、ほとんどの時間を自分の部屋で過ごしている。
父は、今も会社で必死に働いている。
部下に蔑まれ、上司から酷い仕打ちを受けても、毎日一生懸命頑張っている。俺が心配すると「大丈夫だから」と精一杯の笑顔を作ってごまかす。
だけど俺は見た。
ある晩、トイレがしたくなって下に降りると、父は満の遺影の前に座っていた。そして、・・・泣いていた。
「満…、ごめんよ…、父さん、お前を…守ってやれなかった…、本当にごめんな…!」
父は、満の遺影を撫でた。
中学に入学するときに撮った写真だった。
満面の笑みを浮かべ、笑っている満。
なんて可愛らしいんだろう。
思わず抱きしめたくなる。
だけど、満はもうどこにもいない。
どこを探しても、満は永遠に見つからない。
ガタッ・・・。
やばい。父さんがこっちを向いた。
「お前、…どうしたんだ、こんな夜中に」
涙をふきながら父が言う。バレているのに、何もなかったフリをする。
「あ、いや、トイレに」
「ああ、そうか、トイレか・・・アハハハ」父は乾いた声で笑った。
何が面白いのか分からなかったけど、俺も笑った
。
「・・父さんは、何してたの?」何気なく聞く。
「ああ」父は満の遺影を見た。
「何だか無性に、満の顔が見たくなってな」
父は、頭を掻いた。
「満、辛かっただろうな…。いじめの事、誰にも相談できなくて、独りで全部抱えこんで…。それなのに俺、満に毎日『ガンバレ!ガンバレ!』って…。満は十分頑張っていたのに…、俺、なんてことしちまったんだ…!」
父は涙を堪えきれず、大粒の涙を流した。俺はただ、それを見ているしかなかった。
俺も、父も、母も、満の異変に気付いてやれなかった。それほどまでに、満は俺たちに一切弱みを見せなかった。満が死んだ日も、あいつはいつも通りに振る舞っていた。満のポーカーフェイスを見抜けなかった自分を、今でも呪い続けている。
「父さんは、悪くないよ」
俺は呟いた。父はただ泣き続けていた。
「きっと、また、来るよ…、みんなで、笑える日が」俺は言った。父はゆっくり頷き、「ああ、くるさ…」と言った。そして、柔らかな笑顔を見せた。
俺は高まる気持ちを抑え、トイレのドアを開けた。
寝室へ向かう父の足音が聞こえた。
きっといつか、また家族みんなで笑える日がくる。そう信じていた。
大丈夫・・・。
しかし、それは叶わなかった。
その3日後、父は首を吊った。
この小説はフィクションであり、実際の人物・事件とは一切関係ありません。