先代勇者と大きな帆船
「うっ、うおおぉぉぉっ!! でっけー!!」
今、俺の目前には大きな輸送船が大海に浮かび揺れていた。
三本のマストが並び、広げられた帆にはヘレオット家の家紋らしき紋様がデカデカと編まれた船には、今まさに輸送する荷物が運び込まれていた。
「先生にでしたら、船一隻くらいご用意しても良いのに……本当によろしいので?」
ゴツい顔を不安そうにしてヴォーダン氏が申し訳なさげに言ってくる。
事件解決のお礼にと船一隻プレゼント! と言ってくれたヴォーダン氏だが、俺はそれを丁重に断っていた。
「あはは……、ガラリエに行ければ良いので……」
貰えるにしても船を動かすのに一人二人じゃあできないことくらい知っている。動かせなきゃ無用の長物になっちまうからな。
だから輸送中にガラリエに立ち寄る輸送船に乗せて貰うことにしたってわけだ。
事件解決から三日。……俺がベルナデットの前で恥ずかしくも泣いてしまった日から二日。
一日寝たら完全復活したベルナデットを連れてヴォーダン氏の邸宅にお邪魔した俺達は、ささやかなお礼と言う名の豪勢な歓待を受けた。
久方ぶりにフードバスターとして覚醒したベルナデットを放置し、俺はヴォーダン氏に船の手配をして貰ったんだ。
「おお、どうやら間に合ったようですね」
「お?」
知った声に振り返ると、貫禄ある風貌の中年男と、彼の隣で寄り添うように歩く女性。
ファルハット・エンハンスにメアリー・フィ・クレストリア姫だ。
「やぁ、ヤシロ君。すまないね、こちらの出立の準備が手間取ってね」
穏和な笑みを浮かべたファルハットの横で、メアリーが膨れっ面を見せる。
「女性の支度に時間が掛かるのは当然ですわ!」
まあ確かに。身だしなみとかetc、女の子は時間が掛かるからなぁ。
ならもっと早めの時間から行動すれば良いじゃん、とは言ってはイケない。
お兄さんとの約束だ。
「そっか、二人もベ・イオを発つのか。目的地とかは決まってるの?」
「ふふふ。ええ、南国の街、南ゲール諸島の『レンテナゴ』ですわ!」
オーホッホッホッ! とか今にも笑い出しそうなテンションでメアリーが言う。
「オーホッホッホッ! 私とファルハット卿……コホン。だ、旦那様との、愛のバカンスですの!」
あ、本当に言った。つか恥ずかしがるなら旦那様とか言わんでくれ。
そう言えば婚前旅行とか言ってたっけ。……そう言えばこの二人歳の差いくつだ?
リア充爆ぜろとかこのロリコンどもめだとか罵ってやりたいがその権利を全く持ってない気がするので突っ込めん……!
「はいはい、お幸せにー……っ!?」
恥ずかしがるメアリーさんとファルハットさんの二人に適当に返答していると、突然影が日を遮った。
弾かれるように空を見上げた俺の視界には、筋肉隆々の巨漢、ウルガンが腕を組んだまま落下してくるのが見えた。
「ふん!! ……組長殿、荷は全て運び終わりましたぞ」
ドンッ、と轟音を立てて地面に着地したウルガンは、腕を組んだままヴォーダン氏に軽く頭を下げる。
教会の神父が積み荷運びとか何やってんだよ。めちゃくちゃ似合ってるけど!
「おお、すまねぇ神父殿。助かったぜ」
ガハハと豪快に笑うヴォーダン氏。この二人が並ぶと途端に世紀末っぽい感じになるぜ。
「ユウ・ヤシロ。君を見送りに来たが少々早すぎたらしくてな。暇だったので運動代わりに積み込みをしてたと言うわけだ」
「説明ご苦労。って一々説明しなくても……」
「「何故神父が積立を?」と顔に書いてあったのでな」
シルヴィアとか知り合いに良く言われるんだが、そんなに顔に出るか?
「……」
「……」
ふと会話が途切れ、互いに言葉に詰まった。
その次の瞬間、
ガッ!!
「……見事!」
「アンタこそ。ヒヤリとしたよ」
俺の顔を掠めて伸ばされた腕、そしてウルガンの眼前に突き出した俺の拳。
豪腕を振るったウルガンに、ウルガンのその拳を片手で逸らして踏み込んだ俺。
一瞬の交錯ながら互いの力量を確かめあった俺とウルガンは拳を軽く打ちつけあって握手をする。
「またいつか会おう」
「おう」
多くの言葉はいらないと、ウルガンは腕を組み直し離れる。
「うらやましいですなぁ。……ヤシロ君、私とも一戦、如何かな?」
「ファルハットきょ……コホン。旦那様が剣を交えるのなら是非私とも一戦お願いしたいですわ」
「勘弁してくれ」
なんで出発前に戦わにゃならんのだ。
いや、まあウルガンとはやったけどさぁ。
「随分と人気者だな、ユウ・ヤシロ」
「クーシェ! もう身体は大丈夫なのか?」
「ベルナデットのお陰様でな」
かっぽかっぽと音を鳴らして現れたのは下半身が馬の亜人、人馬族、ケンタウルスのクーシェだ。
実はクーシェ、他の誘拐されていた人達のように麻痺の魔法を掛けられていて、昨日まで頭は動かせるけど身体が麻痺状態で動かせられなかったんだ。
「ふふん! 教会に伝わる48の必治癒技の一つ、『マヒナオール』のお陰ですね!」
先ほどまで一緒に話していたのか、クーシェの隣に居たベルナデットが自慢気に喋る。
「普通に治癒魔法の解毒で良いんじゃないか?」
「あれは大ざっぱ過ぎるんですよ。麻痺毒にも幾つかパターンがありまして、解毒の魔法は応用は聞きますが効果が薄く、必治癒技は用途別に分けられるため数が多く修得が困難ですが、その分効力が高いのです」
ふむ、なるほどな。
「……ユウ・ヤシロ、族長リーシェから言伝を預かっている。聞いてくれるか?」
ベルナデットの説明が終わると、佇まいを直したクーシェ。
「勿論」
真面目な話らしく、ふざけちゃいかんと素直に頷く。
「「我ら『ケイロン』の民、貴殿に深き感謝と尊敬を。我ら『ケイロン』の民、貴殿の為ならば貴殿の敵に弓を引き、貴殿の為ならば馬となろう。英雄の旅行く道に最上の幸あれ」……だ」
驚いた。いや、何がって、社交辞令とは言え馬となろうって……。ケンタウルスは昔から人間との間に固執があったせいか、『馬』扱いされることを酷く嫌う。
それなのに部族一丸で馬にもなっても良いよ!と来たもんだ。
「……お前が三年前、多くの異種族と我らの同胞『イクシオ』民を救った事は有名だ。……勇者再びの降臨、そして同胞を再び助けてくれた事、手のひらを返すようですまないが……深く、深く礼をする。……ありがとう!」
クーシェは俺の前で座り込み、大きく頭を下げた。
三年前、……つまりは俺が勇者として活動してた時、教会から迫害を受けた多くの亜人を助けた事があった。
「別に良いさ。俺は自分のしたい事をしたまでだからさ」
チラと横を見ると、ベルナデットが軽く手を合わせ、「言っちゃいました」と仕草で謝る。
別に構わないんだが、あんまり言いふらされるのもあれかな。
後で釘をさしておこう。
お待たせいたしました。最新話です。
最近は間隔短く、良いペースで書けてるなぁと油断してたら丸々一話分消えてしまいショックから立ち直るのに時間が掛かってしまいました。申し訳ありません。
あと一、二話くらいでベ・イオ編は終わりとなります。ご期待いください。
ではまた次回。お楽しみに!




