先代勇者の恋物語
さて……どこから話すべきかな。
出会いから旅中の逢瀬、そして別れまでをどっかのポエマーみたいに弾き語ってみるか?
いや、冗談だからちょっと嬉しげな目をするな。
たく、なんでこう女子って生き物は恋バナが好きかねぇ。
……オリヴィア・フィン・ルーテシア・リーゼリオン。クッソ長いから不敬だがオリヴィアと略すぞ?
先ず死んだと言ったが、正確にはオリヴィアはまだ死んでない。
肉体は朽ちたものの、その魂はこの世に残ってる。
何故わかるかって? ……オリヴィアが今まさに魔王を封じ込めているからさ。
魂ってのは目に見えないが確かに存在しているんだ。
俺自身が生きた証明さ。この世界に存在していた聖剣は、本来ただの器でしかない。
その器に、俺こと勇者が持って生まれた、聖剣の欠片とも言うべき魂が注がれる事によって聖剣は初めて本来の聖剣として姿を成す。
って、まあ聖剣の話も例の如くクッソ長いからまた今度にしよう。巻数で言うなら六巻目くらいがちょうど良いんじゃないか?
……さて、先ずはどうして魔王を倒さず封印なんてクッソ面倒臭い方法を執ったのか。
至極簡単な話だ。……倒せないからだよ。もちろん、魔王をだぞ?
それもその筈だ。喜怒哀楽、多種多様多種多彩、ありとあらゆる人間の感情がある限り俺達は死ねないんだ。
ああ。俺達だ。
正確に言えば魔王と聖剣、だな。
そう、魔王と聖剣は、人の感情が渦巻く限り滅する事は無い。
そして人間の感情なんてものは決して無くなるものじゃあない。
絶対と言っても良い。断言しよう、人間が居る限り俺達の戦いは終わらない。
正の感情、負の感情……なんて言うと負の感情が悪いもんだと思われると思うがあえてこのままで使わせて貰う。
正の感情の集合体である聖剣。
負の感情の集合体である魔王。
どちらが優れてるか否か、なんてのは明からだ。
どっちも同じだよ。
人間はそれこそ馬鹿みたいに感情に振り回される生き物だ。
喜びにも、怒りにも、等しく揺れ動く。
人間なんてのは馬鹿みたいに単純な生き物だ。
絶望の奥底に沈みながら、誰かが助けてくれるかもしれないと、ありもしない希望を胸に死んでいく。
幸せの絶頂に居ながら、誰かがその幸せを壊すかもしれないとありもしない敵を作り懐疑心に蝕まれて行く。
正の感情の裏には負の感情が、負の感情の裏には正の感情が同居してる。
どちらかを消す事はできない。表裏一体なのだから。
……どんなに倒そうとしても、聖剣があるからこそ魔王を倒せない。
魔王が居るからこそ俺は聖剣を振るうのに。
…………おうおう、いい感じにこんがらがって来てるな?
つか体調悪いんだったらちゃんと寝てろって。
ほれ、手ぬぐいも替えてやろう。
おほん。まあ……つまり結果だけを簡潔に言うならば、『聖剣と魔王はお互いの存在がある限り消える事はない』ってわけだ。
はいここでクエッション。
・本当に魔王は倒せないのか?
……理解したみたいだな。
そう、魔王を倒す……この世から一時的に末梢する方法はある。
ただ一つ、聖剣と魔王、表裏一体の存在を、同時に破壊する事で、魔王を破壊するが事出来る。
何故そんな事を知っているのかって?
解る《・・》んだよ。
理屈もへったくれも無い。理解しちまうんだ。
……後はもう解るだろ?
オリヴィアは、俺の身代わりになったんだよ。
俺の自惚れでなければ、オリヴィアは俺の事を好いていてくれてたと思う。
だからこそ、俺に対して最後まで罪悪感を持ってたんだろうな。
あ、そう言えば俺が異世界から来たってのは知ってる?
うん。そう、チキュウ。
そこからオリヴィアに召還されたんだ、俺。
どの道魔王とは決着つけなきゃいけないって運命なのに、オリヴィアは俺を召還した事を悔いてたんだ。
俺の人生をめちゃくちゃにしちゃったって。
オリヴィアはさ…………最後の最後に謝りやがったんだ。
オリヴィアに生きて貰いたかった俺やシルヴィア達の想いを無碍にしたことを、……俺を、呼んでしまったこと。
俺に生きていて欲しいって事を謝りやがったんだ。
…………違かった。違う言葉が欲しかった。
違う結末を夢見て、オリヴィアに生きて欲しくて、笑っていてほしくて……俺はっ、戦ったのに……っ!!
……さーって、こんな所かな?
結果的に、オリヴィアは俺のせいで死んだ。
だけど見捨てたってわけじゃあ無い。絶対に、だ。
言い訳みたいに聞こえちゃうかな? まぁ……実際そうなのかもなぁ……。
◇
「そんな訳……ないじゃないですか!」
自分を横にさせ、ベッドに腰掛けていた勇をベルナデットは起きあがって抱きしめた。
今にも泣きそうな横顔を勇にして欲しくなかったからだ。
「ヤシロさんが聖女様の事を大切に想ってたって、凄くわかりました。ヤシロさんが、悪くないって、ちゃんとわかりました! 今のを聞いて、まだ見捨てたなんて思えるほど、私はヤシロさんの事、嫌いじゃないです!」
抱きしめた勇の頭を、優しく、優しく撫でて、耳元で囁くように……自分は側に居ると主張するように、ベルナデットは続ける。
「……聖女様が大好きだったんですよね? 聖女様にありがとうって言われたかったんですよね? ごめんなさいだなんて、謝って欲しくなかったんですよね? ……一緒に、居たかったんですよね?」
自分の胸元に、熱い何かが広がるのを感じた。
震え始めた勇の肩を強く抱きしめ、同じく震えそうになる声を、必死に優しい声色にしながら、ベルナデットの目頭は熱くなる。
「もう、絶対に疑いません。ヤシロさんが聖女様を見殺しにしただなんて疑いません。だって、こんなに聖女様を愛してるんですから。辛かったでしょう……悔しかったでしょう。……偉かったですね。 ……頑張りましたね。もう、大丈夫ですよ」
子供のように泣きじゃくる勇を抱きしめながら、ベルナデットは苦しい程に痛む胸に、叫びたくなった。
だが勇が安心するように、勇を安心させるため、大丈夫、大丈夫と優しく囁く。
叶わぬ恋に、……頬を濡らしながら。




