先代勇者と病人さん
事件解決から丸一日、俺はベルナデットと言葉を交わしていない。
いや、別にそんな、無理してまで話したいって訳じゃないんだぜ?
でもなんと言うか……後味が悪い。
理由はあれど俺が勇者だってのは隠して、騙してたわけだし……でも俺は悪くねぇし。
あー、ホントどうしよう。面倒な事になったな……。
なんて事を考えていると、宿についてしまった。
ううむ、どうしたもんか。下着を隠し持ってた件についても追求されるだろうな、間違いなく。
いや、下着に関してはベルナデットを探し出すためって言えば……ダメだ。事件前に回収してた。
「どうしたもんか……お?」
言い訳を考えながら宿の俺が寝泊まりしてる個室の扉を開けると、ベットに腰掛け俯いてる女が居た。
この異世界では比較的珍しい黒髪に黒の修道服。
ベルナデットだ。
「あー……その……」
言葉に詰まる。
し、仕方ないだろう。めっちゃくちゃ暗い雰囲気なんだから。
思わず部屋を間違えたか? と思ったが脱ぎ散らかした洗濯物がベットの上に見えるので間違いなく俺が泊まってた部屋だ。
となるとやっぱり『勇者』の話か。……ううむ、先送りになんて出来ない雰囲気だし……。
とこの状況にテンパってる俺をよそに、ベルナデットは、ゆらり……と立ち上がる。
「べ、ベルナデットさん?」
銃口でも突きつけられるかと思い身構えたが、そんな様子は無く、ゆらりゆらりと身体を揺らしながら近づいてくる。
「……ベルナデット?」
流石に様子がおかしいと思い近づくと、グラッ……とベルナデットが体勢を崩し倒れかけた。
「ベルナデット!? 身体が熱い……風邪か? おい、本当に大丈夫かよお前!」
驚きつつも半ば反射的に腕を伸ばし抱きかかえると、その身体は普通とは思えない程熱くなっていた。
「あ、れ? ……ヤシロ……さん?」
それすら気づいてなかったのかよ!
「クソっ、運ぶのも面倒だ、俺の寝た布団だが我慢しろ」
俺にようやく気づいた様子のベルナデットをベットに横に寝かせようとするが、腕の中でベルナデットが抵抗するようにもがく。
「っ、必要あり、ません……それより、聞きたい、事が……」
「うるせぇ! ゴチャゴチャ言ってると舌入れてキスするぞ!」
「っ……!」
確かに抵抗を止めさせるための脅しで言ったんだがそんな下唇を噛みしめてまで黙らなくても良いと思うんだぼかぁ。
「……ってふざけてる場合じゃねぇ。少し待ってろよ」
ベットに寝かせて布団を被せると、俺は宿の一階まで降りて新聞を読んでいた亭主の新聞を奪い取る。
「なっ、何すんだてめぇ!」
「話は後だ! 桶一杯の水と手ぬぐいを貸してくれ。病人なんだ、急ぎで頼む」
まくしたてる様に俺が怒鳴り散らすと、亭主はコクコクと頷き亭主の奥さんを呼びに走り出した。
◇
「風邪って言うよりか体調を崩しただけみたいだねぇ。まあ汗がひどかったから服は変えておいたよ」
「何から何まですいません」
恰幅の良いおばさんが手にベルナデットの修道服を持って部屋から現れた。
あの後看病の手伝いを申し出てくれた宿屋の奥さんに、汗拭きや服の交換など、男の俺がしてやれない事を任せていたんだ。
「気にしなくて良いって。ヴォーダンの旦那から、ここに泊まってるアンタらが誘拐事件を解決してくれた張本人だって聞いていたからさぁ、何か役に立てる事はないかって考えてた所だったんだよ!」
「ヴォーダン氏が? ……そりゃ助かった」
正直一般人に言って良いことなのか?と思ったが、お陰で助かったから良しとしよう。
「ところで、「ヤシロさん」ってのは誰の事だい?」
「? 多分俺の事だけど……」
俺がそう答えると、おばさんはニマ~と表情を崩し微笑む。
「そうかいそうかい。ヤシロさんってのはアンタの事かい。ほら、お嬢ちゃんの側にいておやり」
何となくおばさんの言いたいことがなんとなくわかった俺は微妙な顔で頷いておいた。
「おーい、無事かー?」
ガチャ、とドアノブを回しながら部屋に入ると、額に濡れた手ぬぐいを置いたベルナデットが、肩まで布団を被ってベットで寝ていた。
「は、はい。……なんとか」
俺が入ってきたのに気づくと、顔を隠すように布団を被る。
ただ隠れてのは口元だけで、目は見えたままだ。
「そいつは良かった」
「……」
「……」
「……」
近くの椅子に座ると、ベルナデットは何も言わず俺をジッ、見てきた。
……ううむ、俺から話を切り出すべきか? と言うより今日はゆっくり寝かして、また明日にするべきか?
「……ヤシロさんは……本当に、勇者、なんですか?」
悩んでいる俺を見かねてか、ベルナデットが切り出して来た。
「…………まぁ。一応、昔はそう名乗ってました」
咎めるような言い様ではなかったが、それが責められているように思えて、俺は姿勢を正して頷く。
「……」
目を閉じて、大きく息を吸ったベルナデットの瞳から零れたのは、涙だった。
「あ……い、いや、そのっ、なんつーか……だ、騙してて、悪かった! 騙すつもりは……いや、騙す気だった。……けど、お前と戦いたくなかったっつーか……」
突然ながれた涙に軽くテンパりながら答える。
我ながら見事な慌てっぷりだ。
「……悪ぃ。お前と居るのが、楽しかったんだ。この関係が崩れるのが、嫌だった」
多分、これが俺の本心なのだろう。俺を狙う殺し屋と旅だなんてバカみたいな真似が出来たのは、そのリスクに見合うだけ、こいつと居るのが楽しかったからだ。(最悪、敵対しても俺は死ねない身体だからなんとかなるとも思ってた)
涙で潤んだ目で俺を見るベルナデットに、俺は目を合わせられなかった。
「ずっと、考えてたんです……。ヤシロさんが、もし勇者だったとして……なんで、聖女様が死んでしまったのか。……なんで、聖女様を愛していた筈の勇者が、聖女様を見捨ててしまったのか」
その時俺は、まるで頭をハンマーで叩かれたような衝撃を覚えた。
「私にとっての勇者は、……極端な話ですけど、愛していた女性を見捨ててまで生き残った酷い人でした。しかもその女性は、神の使徒とも言われる聖女様。……本来、あらゆる加護、祝福をされるべき尊き存在……。だから、私はずっと勇者を恨んでいました」
……だろうな。実際オリヴィアの人気は凄かった。
神の代わりに地上に降臨した清き者、それがウルキオラ教徒の掲げる聖女像だ。
「でも……私には、ヤシロさんがそんな風な人には、思えないんです」
ゆっくりと起きあがったベルナデットが、俺を見る。
「教えてくださいっ……本当にっ、本当に聖女様を、見殺しにしたんですか!?」
半分嗚咽しながら、ベルナデットは叫ぶ。
恐らくベルナデットが聞きたい事の核心は、ここだろう。
「……聖女……聖女ね。……聖女の名前は、知ってるよな?」
「オリヴィア・フィン・ルーテシア・リーゼリオン……ですよね?」
コクン、とベルナデットが頷き、答える。
「そう、……オリヴィアだ。お前が知りたいのは、オリヴィアが死んだ理由、で良いんだよな?」
無言で頷くベルナデットに、思わずため息を漏らす。
正直話したくない。三年前に体感した無力感を思い出すからだ。
「それにしても見捨てた……か。傷つくぜ、むしろ邪魔されたくらいなんだがな。……ただ、俺のせいでオリヴィアが死んだのだけは、事実だ」
お待たせしました、最新話です。
ちなみにベルナデットが体調を崩した理由は知恵熱です。
ではまた次回。お楽しみに!




