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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
港町ベ・イオ編
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先代勇者と枢機卿


 「『時の魔女』の……確率魔導……運命操作、かっ!」


 両腕から溢れ出す鮮血に身体を濡らしながら、ゼファーは掠れた声で笑う。


 「俺の攻撃は、お前に届いていた……っ、その攻撃を受けて無傷なら、まだわかる……しかし、それがまるでなかったかのような……ク、カカッ……正に『神さえ討つか』……神敵と言うのも、あながち……」


 両腕を失った極限状態でありながらこんな思考が可能な人間は恐らくゼファーだけだろう。むしろ、その一線を越えているゼファーを人間と呼ぶのすら疑問に思えてくるくらいだ。


 だが、


 「惜しいな」


 ゼファーの推論を切り捨てる。


 「あの状況でゼファー、お前の攻撃を防ぐのは運命を操作した所で不可能だ。起きた事象は必ず収束する。……運命ってのは、いつも未来に存在するんだ」


 そして勇の言葉に、ゼファーは弾かれたように勇を見上げる。


 「過去……事象の原因、……因果を……ねじ曲げたのか……!?」


 因果律。その言葉をどれだけの人が認識して生きているのだろうか。

 そして強く認識すればして行くほど、因果の鎖に絡まれて行く。


 「いいや、それこそったのさ。……『アル』は何も物体を斬るための武器じゃない。時を、空間を切り裂いて、『魔王』を殺す為の武器だ」


 過去に起こった原因を破壊し、運命さえ支配してしまう力。


 そんなのは、もはや神と同じだ。


 「……お前が知らないのも仕方ないさゼファー。こんな力に目覚めちまったのは『アル』が魔王に触発されたせいなんだ。……おかげで、もう二度・・・・とオリヴィアを救えない……」


 聖剣を収め、白亜の鎧が光となって散っていく中、勇の瞳はゼファーではない誰かを見ていた。


 「……クカカッ。陛下を救う、か」


 身じろぎし仰向けになったゼファー。


 「過去への逆行……『時の魔女』の力でも借りるつもりだったのか?」


 ゼファーの言葉に首を横に振る勇。


 「この『力』の本質に気づいた時点で諦めたよ。俺は……もう過去へ戻れない」


 過去を振り切る事ができない。

 過去に振り返れない。


 勇は、過去に囚われて生きている。



 「ゼファーは三重の封印処理をされ、ルクセリアへ搬送されたよ。終止不気味な笑みを浮かべてたそうだ」


 「…………そっか」


 ゼファーとの戦いが終わった次の日、誘拐犯達が使っていた倉庫を始め、使用する目処の無い倉庫の解体作業が行われていた。昨日の今日だと言うのに凄い反応速度だ。

まあヴォーダン氏にとっては自分の息子が拉致られかけだ場所な訳で、その行動が間違っているわけじゃない。


 俺は解体作業の音を聞きつつ海を見て黄昏てたってわけだ。


 「誘拐犯達は?」


 「オルテーヌの方も含め、全員御用だそうだ」


 「オルテーヌ? そっちの方にまであったのか?」


 港街オルテーヌはケンタウルス族の長、イーリェさん達が向かった方だ。


 「ああ、どうやらオルテーヌの方は囮だったようだが……」


 「囮?」


 「ああ。規模も大きく、奴隷も多く居たそうだが、その殆どが労働力向きの奴隷で、……高く売れるような奴隷達は皆べ・イオに集められていたらしい」


 途中で言いにくそうに言葉を濁すジャン。元とは言え貴族で、そう言った事に疎くない筈のジャンは俺に気を使ってくれているらしい。


 「元々オルテーヌの方は捨てる気だったのか?」


 「あわ良くば両方、と言った所だろうな」


 どこからかリュートを取り出したジャンが鼻歌交じりに弾き始める。


 「……この展開だと、バックに大きな組織が絡んでそうなんだが?」

 「絡んでいるだろうねぇ」


 俺が半分ネタで言うと、さも当然とばかりにジャンが肯定する。


 「個人的な意見だが……最近、教会がなにやら裏で暗躍しているらしい。彼らの仕業だと言われれば私は素直に頷けるんだが」


 「おいおい、教会って……今はあの子、えーっと……クソ、名前忘れた。あの教皇ちゃんが頑張ってるんじゃねぇのか?」


 俺が問うと、ジャンは苦笑する。


 「いいや。グレニール枢機卿が復帰し、教会は再び彼の物となった」


 「グレニール……あの時の野郎か」

 

 グレニール枢機卿。三年前、まだ幼い教皇を傀儡にし教会を自分の思うままに操っていた枢機卿。

 人間至上主義とでも言うような奴で、亜人達を不当に弾圧してた奴だ。


 「そう。君が糾弾した彼だ。一度は失脚したものの、執念で這い上がって来たんだ」


 何でもない様に言ったものの、ジャンの口は自嘲するような笑みを見せていた。


 「シルヴィアは何もしなかったのか?」

 「したさ。しないわけが無いだろう」


 リュートを弾くのを止め、ジャンが俺を批難するように睨む。


 「だが奴は表舞台に這い上がると、すぐさま聖女の死、そして世界を救った筈の君を聖女を見殺しにした神敵(・・)扱いし君の所在を図々しくも陛下に問いただして来たんだ……」

 

 そこでジャンは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


 「神を貶めた勇者に、栄えある枢機卿の座をも貶められた。そう喚き散らすあの男にせめて抗うように僕は君と姫様の物語を書いている……なんてね」


 そこで話は終わりとばかりに、吟遊詩人らしくジャンは物語を歌い出す。


 それはどこにでもいるような少年が、一目惚れした少女の為に戦い抜く恋の物語だった。

お待たせしました、最新話です。


チート能力は因果律の操作でした(笑)


少し駆け足気味で申し訳ありませんが、また次回。 お楽しみに

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