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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
港町ベ・イオ編
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勇者の姿


 「クカカッ。……随分周りが見れるようになったじゃあねぇか、勇」


 血のように赤い瞳が、ギロリと俺に向けられる。

 口元をつり上げニタリと笑うゼファーは、ゾクリと背中を這うような戦慄を覚えさせる迫力がある。


 こいつは普段黙ってりゃなかなかなかのイケメンなのだが、こんな風に笑う姿を女の子が見れば百年の恋も冷めるだろう。と言うか身の危険を感じる筈だ。

 こう言うのを残念なイケメンと言うのだろう。


 「あ? ……どういう意味だ、コラ」


 今まさに殴りかかろうとした時に止められ、俺は代わりに額に入れる力を強くした。


 「言わないとわかんねぇか?」

 「けっ、テメェに誉められても全く嬉しく思えないんだが」


 俺が何故聖剣を使わずに、この至近距離での殴打を応酬を繰り広げているかと言うと、俺が聖剣を使えばゼファーも魔法をぶっ放すだろうからだ。

 こんな狭い場所で、しかも周囲には誘拐それた人達が閉じこめられているであろう大きな木箱が幾つも存在している。

 こんな場所で広範囲魔法でも使われたりしたら誘拐された人達が巻き添えを食ってしまう。

 だがこれは俺の攻撃を封じる代わりに奴の魔法も封じれる、今この時においては妙手なのだ


 俺のしたい事をこいつがわかる様に、こいつの言いたい事がわかってしまう辺り、俺とゼファーとの因縁深さがわかるだろう。

 悔しい事に、奴と知り合ってからの時間の長さはシルヴィア達と並ぶ。

 仲間だったし敵でもあった。


 互いに相手を知り尽くしてるのだ。


 「……俺は、お前を赦せない……出るとこ出て罪を清算して貰うぞ、ゼファー」


 そもそも俺は聖剣を使ってこいつを斬るつもりはない。俺は潜在的な部分で人を殺せないのだ。

 婆ちゃん曰く「勇者は人の想念。人を傷つけるために生まれた訳ではないから」だそうだ。

 人をこの手を掛けてしまった事は、俺にもある。


 だがそれも俺が意図して殺そうとしたのではなく、偶然……いや、ここで語るのはよそう。


 ともかく、俺は意図して人を殺せない。だから俺はこいつを限界まで叩きのめし、人の手で裁いてもらうくらいしか出来ないのだ。


 「おいおい、連れない事を言うなよ勇」


 そう言ってニタリと笑うゼファー。


 「殺し合おうぜ」


 奴は俺の腹に拳を叩きつけるのと同時に、自分の腕が傷つくのも恐れず、至近距離で爆裂魔法を放って来た。


 「しまっ、……!!」


 身を捩る様な痛みを感じるよりも、距離を置いてしまった事に俺は焦った。


 魔法の発動を瞬時に止められない距離。それは、奴の魔法が解禁されたと言うことだ。

奴の魔法が無差別に放たれると言うことだ。


 その瞬間、辺りは爆炎に包まれた。



 ゼファーは、己の口角がつり上がるのを自覚した。

 それを決して抑えられないだろうとも自覚した。


 自身が放出した筈の爆裂魔法。その衝撃と溢れ出す炎で周囲一帯を地獄と化す筈のそれは、極光の剣に断たれ、まるで元から無かったかのように、霧散した。


 「クカカッ……『古きアル・ト・フリューゲ』……!!」


 白亜の鎧に極光の剣。


 物語で語られる姿で、勇者はそこに立っていた。



 『古きアル・ト・フリューゲ

 勇の半身でもある聖剣の、所謂リミッターを一段階外した姿。

 リミッターを外した事で瀑布の如く溢れ出る魔力を、身を守る鎧へ変出した姿だ。

 そして、聖剣の加護が働き、『魔王』と対になる存在へと昇華された姿だった。


 「ようやく、本気で来てくれる気になったか、勇!」


 新しいおもちゃが与えられた子供のような目で勇を見るゼファー。


 「…………」


 それに対し、表情を強ばらせながら勇は聖剣を構えた。

 それが答えと受け取ったゼファーは、手にした杖を軽く振り回し、


 「行くぜオイッ!!」


 その杖を地面に突き立てた。

 

 「『――――――』!!」


 それは低く唸るような詠唱だった。勇がソレが竜言語(ドラゴロア)であると気付くのに、そう時間はいらなかった。

 何故使えるのか? と言う疑問も要らない。直感で知った。


 『強奪(スナッチ)』。他者の、そして周囲の魔力をその名の通り奪い己の物とする能力。


 瀑布の如く溢れ出る聖剣の魔力を吸い上げ、それをそのまま竜言語魔法の詠唱へと使用しているのだ。竜が使用する事を前提とされた竜言語は唱えるだけでも莫大な魔力を必要とするのだ。 


 だが勇は動かない。

 黒から段々と青く煌めいて行くその瞳は、ゼファーから離れない。決して見逃すまいと、獲物を狙う猛禽類のような目でゼファーを見据える。


 「勇ゥゥッ!!」


 詠唱を終えたゼファーに炎のようなオーラが纏う。竜の力をその身に宿す『竜装』系の魔法だろう。

 竜の力を宿したゼファーが、両腕を振り上げ勇に肉薄する。


 それを見て尚、勇は動く事はなかった。


 


 「なっ……!?」


 驚愕の声を漏らしたのはゼファーだった。


 宙に舞う己の両腕、そして、一瞬前となんら変わった様子の無い勇。


 だと言うのに、ゼファーには聖剣が己の腕を断ったその瞬間が見えたのだ。


 時間を操られた? 否。そんな事、勇が出来ないのはゼファーが良く知っている。では目にも留まらぬ速度で? それも否。聖剣が腕を絶つその瞬間を見たのだ。だと言うのに勇自身は身動き一つしていないのだ。


 わからない。


 ゼファーの知らない何かが、作用したのか。


 うつぶせに倒れこんだゼファーを、蒼い瞳が見下ろしていた。

お待たせしました、微妙な時間に最新話です。


やっと聖剣のチート能力が発現しました(笑)ちなみにアグニエラを撃退したのもこの形態です。

聖剣を覚醒させただけならまだアグニエラに歩がありますが、リミッター解除からは手も足も出ないです。

その詳細は次話で。


ではまた次回。お楽しみに~

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― 新着の感想 ―
にゃるほど。殺したいほど憎くても、殺した方が世のためになると分かりきってても『殺せない』のね あとは気持ち悪いダブスタだけど、それもゼファーによって明かされたな つまり、そもそも気持ち悪いキャラだった…
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