炎の奥で
「勇の事、先ずは忘れよう。どうせ奴はここに来る。それより今優先するのは……どこからか紛れ込んだ鼠の駆除、だとは思わないか?」
突然、ゼファーの左手に炎が現れ、ゼファーはそれを払う様に後方に放り投げた。
ドンッ!!
まるでトラックが衝突したような轟音がすると、倉庫の中に爆炎が広がる。
ベルナデットを襲った時程ではないものの、人を殺すには十分な爆発を無詠唱でゼファーは放った。
「なっ、何しやがんだテメェ! せっかくの商品が!!」
「俺がそんな初歩的なミスを犯すと思うか? 黙ってみていろ」
突然の魔法の行使に慌てる周囲の男達。幾つも積まれた木の箱は、人が数人入って余りある大きさをしていた。事実、口と両手両手を縛り動けなくした子供達がその大きな箱に詰められていた。
その木の箱を燃やすと思われていた爆炎は、熱気をばらまくと直ぐに終息していった。
「クカカッ、今のを避けるか。……気配を断てる軽業師、づばり暗殺の類いだな?」
その問いに返って来たのは、飛来する何かだった。
トトッツトトトッ!!
「ほう、短刀か?」
一息で放たれた六つの刃物。勇ならばそれがクナイだと瞬時に判断できたろう。
ゼファーは飛来したクナイを手にした杖で防ぐと、クナイはそんな音とともに杖に食い込んだ。
「……ッ!」
そしてクナイに気を取られた一瞬を突いて、クオンはゼファーを真上から強襲する。
直刃の刀を逆手に持ったクオンは、手に札を持ちながらゼファーの首筋を落下しながら狙い短刀を振り抜いた。
が、
「……かはッ!?」
半身反らしたゼファーにその一太刀を避けられ、鳩尾を的確に狙われ蹴飛ばされた。
「クカカッ! 俺が近接戦闘を苦手だとでも言ったかぁ? 魔法使いだからと見誤ってんじゃあねぇぞ!」
鳩尾を蹴り飛ばされた衝撃と痛みでうずくまりながらも、クオンは視線をゼファーから逸らさない。
鋭い眼光に睨みつけられた当のゼファーは、人体の弱点の一つである鳩尾を強く蹴られながら意識を保ち、なおかつ自分を睨んでいられるクオンに興味を抱いていた。
「なるほどなるほど……あのヴォーダンの息子、か」
ゆっくりと近づき、クオンの口元のマスクを降ろしたゼファーは呆れたようにため息をついた。
「ぐっ……」
「何? ……おいおい、本当にヘレオットのガキじゃねぇか!」
ゼファーの言葉に反応したのは周りに居た誘拐犯の男達だ。
「ああ、間違いねぇ! この生意気そうな目つきはヴォーダンの息子、クオン・ヘレオットだ!」
「まさか自分から人質になりに来てくれるとはなぁ!」
周囲の笑い喜ぶ男達とは別に、ゼファーは冷めたようにクオンを見下ろす。
「己の力量を過信し、そして失敗した典型的な奴だな。……楽しめるかと思ったんだがなぁ。……煮るなり焼くなり好きにしろ、俺の興味は失せた」
単身乗り込んできた来たクオンを、過信と断じたゼファーは周囲の男達に告げると杖に突き刺さったクナイを抜き捨てながら近くの椅子に腰掛けた。
「言われるまでもねぇ! おい、ふん縛れ」
「おう!」
男達は痛みに耐えるのが精一杯で禄な抵抗もできないクオンの両手両足に縄を掛ける。
「……絶対に許さねぇっ、テメェら一人残らず、独房の糞不味い飯を食らわしてからイオ湾に沈めてやるからな!!」
縛られ身動きが出来なくなったクオンが、うつ伏せに抑えつけられながら叫ぶも、男達はほくそ笑むばかりだ。
「へっ! 今後そうなるのはテメェ自身だぜ、ヘレオットのガキィッ!」
「ヘレオット組を壊滅させた後はお前は奴隷行きだ!」
「お前くらいのガキを欲しがる奴等もいるからなぁ。ま、そう言う奴に限ってえげつない性癖の持ち主ばかりだが」
ゲラゲラと笑う男達。その内一人の男の腕に、クナイが深々と突き刺さった。
「ぎゃああああぁぁっ!!?」
男の絶叫が響く中、クナイを投げたクオンの右手が、リーダー格の男に踏みつけられる。
「このクソ餓鬼っ! おい、抑えろ!」
「っ……もう一発くらいやれるとおもったんだけどな」
不敵に笑いながら複数人の男達に抑え付けられたクオンだったが、
「おい、お前どっちも行けたよな? こいつ犯せ」
リーダー格の男が投げた言葉に表情が固まった。
「え? え、良いんで?」
クオンを抑え込んでいた内の一人、がたいの大きい男がどこか嬉しげな声を漏らす。
「ああ。反抗的な奴を調教したがる奴等もいるが、俺は今すぐに黙って欲しいんでな」
吐き捨てるように言ったリーダー格の言葉に、がたいの大きい男はクオンの服に手を伸ばす。
「さ、触んなぁ!! オレに触るんじゃあねぇー!! や、……やめろおおおぉぉぉっっ!!」
必死に抵抗しようとするも、両手両足を抑えられ、動く事もままならない。
やがて男が服を掴むと、ビリビリ、と布を裂く音とクオンの叫び声が倉庫内に響く。
「へへ、綺麗な肌してらぁ。こりゃ犯しがいが……ん? こいつ……」
服を引き裂いた男が下卑た笑みを見せるも、何かに気づき半裸となったクオンに手を伸ばしかけた時、それは鳴った。
ドォオン……ドォオン。
誘拐犯達一同が、突然鳴った音に驚く。
それは、倉庫のスライド式の開閉扉を叩くようにノックした音だった。
「お、おい……なんでこの場所が……」
「魔法で隠せてるんじゃなかったのか?」
狼狽える男達はみな、ゼファーに視線を向ける。
対するゼファーは口角を上げた。
「無音と気配隠蔽の結界は周囲に確実に張った……その上で、奴は嗅ぎつけたんだろう」
ゆっくりと立ち上がり、ゼファーはベルナデットをチラと見る。
「ここ数日で下着が無くなった事は?」
「……え?」
突然投げかけられたら言葉に意味が分からずベルナデットが呆けていると、また開閉扉をノックする音がした。
「文字通り奴は嗅ぎつけたんだ。……恐らく、お前の下着でな」
クククっ、と楽しげに笑ったゼファーは開閉扉の前まで歩いて行く。
ドォオン…ドォオン。
倉庫の開閉扉は大波に備え頑丈な分厚い鋼板で出来ている。
錆び対策としてハクナ草と言う薬草を煮汁を塗ったそれは人の腕以上の厚さを誇る。
「ちわー、三河屋ですー」
なんとも気の抜けた声が分厚い鋼板の扉の向こうから聞こえる。間違いなく、社勇の声だ。
「Explosion」
その分厚い鋼の扉が、一瞬にして吹き飛んだ。
熱気がベルナデットの頬を焦がす。
高熱により溶けて液体となった鋼がボタボタと地面に落ちる。
鋼の扉は見るも無惨に破壊され、倉庫の外は、もはや煉獄の地獄と化した。
「ヤシロ……さん?」
燃え盛る炎はごうごうと唸りを上げて、あらゆる生息を焼き尽くす。
当然とばかりに、彼女が呟いた名の人物は、その場には居なかった。
炎に燃え尽きたのか、爆風の余波で四散したのか、勇の姿は跡形もなく、ただ炎がごうごうと燃えていた。
「……そん…な……そんな……そんなっ……!」
瞳に涙が浮かび上がり、とめどなく溢れて行く。
「ヤシロさんっ! ヤシロさあああぁぁんっっ!!」
ベルナデットの叫び声がごうごうと燃える炎の中に消えて行く。
その声に呼応するように、燃えたぎる炎の奥、眩い光が零れ出す。
「『我が魂は願う』」
ソレは人の願いが形を成した姿。
絶望を斬り伏せ、闇を断つ剣なり。
「ゼェェェェファァァァァァァァァァーーッッ!!」
大気を揺るがすほどの咆哮と共に、ソレは炎の奥から現れた。
「随分な挨拶じゃねぇか……一度死んじまっただろうがっ!!」
極光の剣を片手に、女物の下着と褌をもう片手に現れた、光を纏う一人の男。
「お前、イオ湾に沈な!!」
社勇。先代の、勇者だ。
お待たせしました、最新話です。
ついに再登場、聖剣使用状態の勇です。
ではまた次回、お楽しみに!
……最後のあたりはテンションがおかしくなってシリアス(笑)になってしまった感が……w




