狐小僧、潜入開始
港町であるべ・イオには漁業用と、交易品などを主とした交易用の港湾が存在する。
「何がオレのため、だ。親父もジャンもオレを遠ざけるばっかじゃないか。挙句の果てにはアニキからも……絶対に、見返してやるんだ……っ!」
目的の違う船舶との衝突などの接触を防ぐためか距離を置いて作られた港湾。その、交易品側の港に、まるで忍者のような黒装束を纏ったクオンの姿があった。
姿があった……とは言っても道を堂々と歩いているわけではもちろんない。
建物の死角を物音を立てず、そして気配を殺しながら進んでいた。
「こっち側だと結果は出たけど…………もっと詳しく調べる必要があるな」
そう言うと、クオンは口を覆っていた布を下ろし口を開く。
「ふっ! ……頼むぞ、管狐」
懐から取り出した煙管を咥えながら息を吐くと、煙管の中から一匹の子狐が現れた。
遥か東の地より伝来した技術、『式神』だ。
式神とは物質や概念を媒体に精霊を召喚する、降霊術と呼ばれる魔術の一種で、簡単に言うならば使い魔だ。
クオンの式神である管狐は煙を媒体に召喚されたため、煙の特性を持つ。
煙の子狐は頷くと大きく広がり、視認できないほど薄くなった後に動き出した。
「さて、当たりなら良いんだが……占術は苦手だからなぁ」
苦笑しながら身を潜めていると、不意に煙管が引かれた。
「当たり! 流石オレぇ!」
気配を殺したままガッツポーズを取ったクオンは、まるで魚がかかった釣り糸のように己を引っ張る煙管に従うように動き出す。
「……ここか」
たどり着いた場所は、通関前の輸入品などが一時的に保管される倉庫で、魔王が現れ世界の流通が混乱していた三年ほど前までは良く利用されていたが、平和となった今では流通が安定したため利用されなくなった倉庫の一つだ。
数ヶ月に一度点検はするものの、殆ど利用することもなく、維持費がかかるばかりで取り壊しが考えられていたのだが……。
クオンは口布を上げ、口を覆い隠すと気配を殺しながら倉庫の裏側にある通気口から侵入する。
人一人が入る事がやっとな広さの通気口内をするすると進むと、倉庫内の通気口の出口であるカバーの前にたどり着いた。
「……!」
「当たりだぜ」
内容まではわからなかったが言い争っているような声が聞こえた。
人が居ないはずの倉庫で人の会話。間違いない、誘拐犯のグループだ。
シャッター状の通気口から倉庫の内部を見てみると、周囲は木でできた箱ばかり。
「よっと」
周囲には人が居ないと分かるやおもむろに通気口から出てすぐさま木箱の陰に隠れた。
「! ……!」
「おーおー、やってるやってる。仲たがいか?」
言い争いが酷くなり始めたのを聞き、思わずにやりと笑ったクオン。どんなことで言い争っているのか興味が出たクオンが近づこうとすると、一際大きな声が倉庫内に響いた。
「こんな事をして……貴方達は決して赦される事はないでしょう。……いいえ、神罰の代行者として、私がっ、決して赦しはしません!!」
(アレはまさか……アニキの連れ!?)
聞き覚えのある声に思わず身を乗り出して覗くと、そこには両手を縛られ天井から伸びた鎖に吊り下げられたベルナデットの姿があった。
◇
ベルナデットが目覚めて最初に目にしたのは、下卑た男達からの視線だった。
「ようやく目を覚ましたみたいだなぁ、シスターちゃん」
男達の中でリーダー格の一人が前に出て来た。
背は高いが周りの男達よりかはひ弱そうで、雇用主のようなものなのだろう。
両手両足を縛られ横たわっていたベルナデットはその男を睨むように見上げた
「……今だかつて経験したことの無い最悪の目覚めですよ」
「そりゃあよかった」
意地の悪い笑みを見せた男は手で何か合図を出す。
するとジャラジャラと音が鳴り、ゆっくりと腕を吊り上げられ、ベルナデットは宙吊りとなった。
「あまり良い趣味とは、言えませんね」
手に食い込む縄に苦悶の表情を浮かべるも、気丈に振る舞うベルナデットに数人の男達はにやにやと笑い始めた。
「っ……ケンタウルスの方々やこの街の人達を誘拐していたのは、貴方達ですね!?」
男達の視線に、背筋を虫が這いずるような嫌悪感が走る。一人の人間としてではなく、情欲のはけ口として女を見る、男のギラついた視線。何度も経験したことのあるその視線に晒され、ベルナデットは押し黙るのは下策と感じ、時間を稼ごうと男に問う。
「正解だ。獣人のガキは金になるからなぁ」
「!……無垢な子供を攫い、その理由が……お金? ……貴方達に、恥と言うものはないんですか!」
男の言葉に激昂したベルナデットは、眼光鋭く、咆哮するように叫んだ。
「こんな事をして……貴方達は決して赦される事はないでしょう。……いいえ、神罰の代行者として、私がっ、決して赦しはしません!!」
ベルナデットが放った糾弾の言葉。その言葉に男達の態度が変わる。にやにやと笑みを浮かべていた顔が固まり、次いで怒りが現れる。
当然だろう。手と足を縛られ、何もできない立場の低い奴にこうまで言われれば誰でも「調子に乗りやがって」と思うだろう。
今にも襲い掛かって来そうになった男達だが、
「カス共が……激昂するんじゃあない」
一人の男の言葉に押し黙った。
「この女は、俺の招待客だぞ」
頭から黒のローブを着た男、ベルナデットを打倒した魔法使いだ。
肌を刺すような殺気を放つこの男に、誘拐犯らしき男達は素直に従った。
「……私を攫った理由はなんなんですか?」
「クカカ……そういきり立つなよ。何もお前を取って食おうなんて考えちゃいねぇ。ちょっとした餌の役目をしてもらうだけさ」
魔法使いの男はローブの奥から身の丈程の大杖を取り出すと、それをベルナデットの下腹部に押し当て、ゆっくりと上に向かい動かしていく。
へそに、胸を押し上げ、たどり着いた場所は首。
「三年ぶりの再会なんだ。感動的な再会にしてぇじゃねぇか、なァ?」
ローブの奥、血の色よりもドス黒い真紅の双眸が、ベルナデットでは無い誰かを見つめていた。
お待たせしました、最新話です。
港の倉庫で男達に囲まれる美女。良いシュチュですよね(笑)
ではまた次回。お楽しみに




